特別企画

ライブビューなら簡単?「高濃度NDフィルター」を使った表現方法

日中なのにスローシャッター……日差しの下で動体のブレ感を出す

カメラがデジタルになるより以前は、NDフィルターといえば、ND2、ND4、ND8のほかには、日食などの撮影に使われるND400ぐらいしかなかったものだが、近年ではND16やND32、ND64といった高濃度タイプや、濃度を連続的に変えられるバリアブルタイプなどが手に入るようになった。

ちなみにNDとは「Neutral Density」(中性濃度)の略のことで、ND64ともなると、絞りに換算して6段分だ。開放F1.4のレンズがF11になるようなもので、一眼レフなら当然ファインダーが真っ暗になる。

これが明るい日中ならまだしも、日陰や室内では被写体も満足に見えない。ピントもフレーミングもよくわかりません状態になってしまう。そのため、かつてはフィルターを外した状態でピントやフレーミングを決めて、それからフィルターを着け直してシャッターを切る、という面倒な手順を踏まないといけなかった。

しかし今や、時代はデジタルである。ライブビューで撮影するのも当たり前となった。モニターに表示されるのは、レンズの明るさ(開放F値)や光量にかかわらず、実際の写りに近い映像だ。つまり、光学ファインダーと違って暗くならないのである。

ライブビューのおかげで以前より敷居が低くなった高濃度NDフィルター。それを使った表現の数々を紹介したい。

今回使ってみたのがこちらのマルミ「DHG ND64フィルター」。オリンパスのM.ZUIKO ED 12-100mm F4 IS PROに合う72mm径だと税別7,000円。税込みの実売価格は5,000円ほどだ。

ND64ということは光量を64分の1にするのだから、透過するのは約1.56%しかない。ほぼ真っ黒である。

ND64がどれぐらい暗いのかをカメラの背面モニターでごらんいただこう。といってもこちらはまだフィルターをつける前の状態である。マニュアル露出で標準露出に設定した状態だ。

レンズの前半分ほどをND64で覆った状態。青く表示されているのは黒つぶれ警告だ。

ND64を装着した状態。ハイライト部分がほんのり見えるぐらい。一眼レフカメラの光学ファインダーもこんな感じの真っ暗になる。

こちらがシャッター速度を6段遅くした状態。ライブビューだと普通の明るさで像が見られるし、AFも普通に動く。つまり、高濃度のNDフィルターを使っても快適に撮れるというわけだ。

もっとも、光量が乏しい条件になると、カメラがどんなに頑張ってもノイズで画面はざらついてしまうし、そもそも明るさ自体が足りなくなる(モニター上の像の明るさと実際の仕上がりとで明るさに差が生じる)。

また、AFの精度が怪しくなる場合もある。ピントが迷いやすくなったり、合焦マークが出ているのにちょっと甘い、などというケースも出てくる。

ただし、十分に明るい日中の野外であれば、そんなに大きな問題はない。ちゃんと明るい画面で見られるし、普通にAFでピントが合う。要するに、高濃度なNDフィルターを着けっぱなしの状態でも、それを気にすることなく撮影できるということだ。これは常時ライブビューを行なうミラーレスカメラでも同様だ。

撮影する感覚としては、ISO感度がうんと低く設定されているようなもので、ベース感度がISO100のカメラであれば、そこから6段低いISO1.6相当で撮るのと同じになる。と言われてイメージできる人はあまりいないだろうから具体的な数字をあげてみよう。

通常、天気の良い日中であれば、絞りがF8、シャッター速度は1/250ぐらい(ISO100の場合)で適正露出が得られるが、これが絞りF8のままならシャッター速度が1/4秒ぐらいで適正露出となる。そういう低さの感度だと思えばいい。必然的に、動いている被写体はほぼ間違いなくブレる。もちろん、手ブレも起きやすくなるので三脚は必需品となるが、手ブレ補正が強力な機材を使う分には手持ち撮影も不可能ではない。

歩いている人を撮ると……

これで歩いている人を撮ると、1/8秒ではまだブレた人として認識できるレベルなのが、1/4秒ぐらいになると輪郭がぼやけて背景が透けるようになったり、地面についている足だけが写っているというような状態になる。今回はあまり絞りすぎにならないように絞り優先AEにしたが、欲しいブレ感が決まっているならシャッター優先AEなりマニュアル露出なりを使うのが良いだろう。

シャッター速度は1/8秒。これぐらいだと歩く人物はちょっとブレる程度。ガラスの反射と地面に落ちた影のおかげで晴れた日中なのがわかるだけに、ブレ感との差も大きい。

こちらは1/5秒。歩く人物の輪郭が不明瞭になって背景が透けて見えるようになってくる。

1/2.5秒。それなりにはっきり写っているのは足だけで、人としての存在感はとてもあやふやになってしまっている。E-M1 Mark IIだとこういうのまで手持ちで撮れてしまう。

自動車や路面電車を撮ると……

自動車なども良い被写体になってくれる。動く軌跡、移動するスピードとシャッター速度の関係でブレ方は様々に変わるため、狙い通りに撮るのはぐっと難しくなるが、たくさん撮ることでだいたいの傾向がつかめるのではないかと思う。

とはいえ、仕上がりが予想できないからこその面白さもあるので、行き当たりばったり的にいろいろ撮ってみるのが良いような気もしている。

バスターミナルの出口。ぐいっと回り込んで出てくるバスのノーズ部分を狙った。これも手持ち。5軸シンクロ手ブレ補正のおかげである。

黄色いのは路面電車を撮ろうと待っていたところに通り過ぎた保線関係の車両。

カーブを曲がる動きがブレになるとこんな感じ。まっすぐに近づいてくるときとは違った動感になる。

風でなびく旗を撮ると……

北海道庁の赤レンガ庁舎。晴れて日が当たっているのに旗はブレている。風次第でブレ具合が変わってしまうので、好みの表現にするには、たくさん撮って、その中から選ぶことになりそうだ。

まとめ

低速シャッターを使って動くものをブラして撮るテクニックは古くからあるものだが、明るいシーンではNDフィルターを何枚も重ねて使わないといけないし、三脚も欠かせない。一眼レフだとファインダーが暗くなるので、フレーミングを変えたりピントを合わせなおしたりするたびに、いちいちフィルターを外してまたつけなおすという手間もあった。

それがライブビュー機能を使えば明るい画面のまま撮れる。常時ライブビューのミラーレスカメラなら、高濃度のNDフィルターでも気にならない。最近のカメラのAFは低輝度にも強いので、NDフィルターで光量を落としても苦もなくピントを合わせてくれるし、手ブレ補正も強力だから三脚なしで撮れるシーンも多かった。

今回は動くものをブラして撮る手法だけに絞ったが、流し撮りや露光間ズーム、露光間ピントずらしなども面白いだろう。最近は口径の大きなレンズが増えているだけに、フィルター1枚でもちょっとした出費になってしまうが、試してみる価値は十分にあると思う。

北村智史

北村智史(きたむら さとし)1962年、滋賀県生まれ。国立某大学中退後、上京。某カメラ量販店に勤めるもバブル崩壊でリストラ。道端で途方に暮れているところを某カメラ誌の編集長に拾われ、編集業と並行してメカ記事等の執筆に携わる。1997年からはライター専業。2011年、東京の夏の暑さに負けて涼しい地方に移住。地味に再開したブログはこちら