新製品レビュー

ライカM10-R

4,000万画素でもピント精度良好 M10シリーズの違いをおさらい

M型ライカの最新機種として、ライカM10-Rが7月24日に発売された。その名称から想像できるとおり、ライカM10の派生機種である。ライカM10にはM10-PとかM10-DとかM10モノクロームといったように様々な派生機種がすでにラインナップされているけれど、ライカマニアでない限りそれぞれの違いを把握していない方も多いと思う。そこで、ライカM10-Rについて説明する前に、今発売されているM10シリーズ各機種の特徴を簡単におさらいしておこう。「そんなこと知ってるわい!」と言う方は読み飛ばしてください。

ライカM10

2017年2月発売、価格は96万8,000円(税込)。

それまでのライカM(Typ240)に比べボディ厚が3.5mm薄型化され、フィルムのM型ライカにあと0.5mm差まで迫るスリムボディを実現。またフィルム巻き戻しノブ状のISOダイヤルを装備しているのも従来機と異なるところ。

撮像素子は有効2,400万画素CMOSで、画素数こそライカM(Typ240)と同等だが、世代が新しくなり高感度性能は大幅に向上している。ライブビューが可能で、ライカがビゾフレックスと呼ぶ外付けEVFの使用も可能だが、静止画専用というコンセプトのため動画機能は実装されていない。それもあり、動画機能を持つライカM(Typ240)も継続販売されている。

ライカM10-P

2018年8月発売、価格は107万8,000円(税込)。

ライカM10をベースに、シャッター機構の静音化と、液晶パネルをタッチパネル化したモデル。フィルムのM型ライカは動作音の静寂さでは定評があるが、ライカM10-Pのシャッターはそれを上回る静かさで、シャッター音量は歴代M型ライカで最小。撮像系はライカM10と同じ。

外観はライカM10から小変更され、ボディ正面の赤丸Leicaバッジが廃される一方、トップカバー上面には筆記体のライカクラシックロゴが刻印されている。細かいところではライカM(Typ240)にはあったのにライカM10で廃止されたライブビュー中の電子水準器表示が復活している。

ライカM10-D

2018年11月発売、価格は110万円(税込)。

ライカM10-Pをベースに、背面の液晶モニターをなくしたモデル。モニターはないが、外付けEVFのビゾフレックスを装着すればライブビュー撮影が可能な他、スマートフォンアプリの「Leica FOTOS」を用いればスマホの画面で撮影画像の確認が行える。

なお液晶モニターが無いので、画質やホワイトバランス等の設定もスマートフォンの「Leica FOTOS」アプリから行う仕組み。シャッターはライカM10-Pと同じ静音タイプ。外観もボディ正面の赤丸バッジがなく、上面に筆記体ロゴがあるのはライカM10-Pと同じだが、ライカM10-Dでは巻き上げレバー風のサムレストを装備。液晶モニターがなくなった背面には丸形の露出補正ダイヤルを搭載したことも相まって、かなりフィルムカメラライクな外観になっている。

ライカM10モノクローム

2020年1月発売、価格は115万5,000円(税込)。

ライカM10-Pをベースにモノクロ専用機としたモデル。ここまでずっと同じ撮像素子を搭載してきたM10シリーズだが、ライカM10モノクロームでは完全に新規となる4,000万画素のCMOSを搭載。カラーフィルターのないモノクロ専用機なので、カラーモデルのような色補間工程の解像落ちが生じず、理論的にはボディそのものの解像性能は8,000万画素のカラー機を上回る。

ボディ外観はほとんどライカM10-Pと同じだが、シャッターダイヤルやISO感度ダイヤルの「A」ポジションがライカM10-Pの赤ではなくグレーに変更されている他、レンズ着脱ボタンがシルバーからブラックに変わるなど、モノクロ専用機らしい細かい演出が施されている。

4,000万画素化されたライカM10-R登場

外観はライカM10とほぼ同一。唯一の違いはアクセサリーシューに記された機種名だ。発売は7月24日、価格は税込115万5,000円。

というわけでM10シリーズのラインナップを俯瞰してきたわけだが、今回登場したライカM10-Rをごく簡単に説明すると「ライカM10-Pの撮像素子を2,400万画素から4,000万画素へ高画素化したモデル」ということになる。

ライカM10モノクロームが登場したときに、それまでの2,400万画素CMOSではなく新しい4,000万画素CMOSを搭載したことから、その4,000万画素CMOSにカラーフィルターを組み合わせたカラーモデルが近い将来に登場するのでは? と予想した人も多いが、それがまさしくライカM10-Rというわけだ。その意味では「ライカM10モノクロームをカラー化したのがライカM10-R」とも言える。

撮像系以外の機能において、静音シャッターやタッチパネル式液晶モニターを備えていることもライカM10-PやライカM10モノクロームと同じだ。ただし、外観はボディ正面に赤丸バッジがあり、逆にボディ上面の筆記体ロゴは省略されているなど、デザイン的にはライカM10-Pよりも明らかにライカM10に近い。ライカM10-Rの外観をライカM10-Pではなく、あえてM10シリーズのオリジナルモデルでありスタンダードモデルでもあるライカM10と同じ外観にした意図が気になるが、もしかするとライカM10-Rは次世代のスタンダードモデルという位置づけになるのかもしれないというのは筆者の完全な妄想である。

外観はライカM10-PではなくライカM10と同じなので、赤丸バッジが付く一方で、上面の筆記体ロゴは省略されている。ファインダー倍率は0.73倍。距離計の有効基線長は50.6mmだ。
フィルム巻き戻しノブを模したISO感度ダイヤルは1段引き上げて操作する。引き上げたままでも数値はアサインされるので、1カットだけ感度を上げて撮りたいなんていうときはいちいち下げる必要はない。
ライカM10で一新された操作系を継承。それまでのライカM(Typ240)の操作系に比べてボタン数が減ってシンプル化されたが、使い勝手は向上している。
アルミ削り出しによる各種操作部材の高品位な仕上げはさすがライカ。シャッターダイヤルのローレット形状も美しい。ボディ塗装はブラッククローム。メインボディはマグネシウムだが、上下カバーは真鍮製だ。

実際にライカM10-Rで撮影してみた印象はなかなか好印象だった。自分を含めて多くのライカファンはM型ライカに過度な解像性能を求めているのか? という「そもそも論」や、これだけ高解像度になるとレンジファインダーによるピント合わせが精度的にどうなのか? という疑問も撮る前には正直あったが、いざ使ってみると解像性能については高い分にはまあ困らないし、ライカによると、ダイナミックレンジや高感度時のノイズ特性については2,400万画素モデルよりむしろ向上しているそうだ。設定可能な感度もISO 100〜50000で2,400万画素モデルと変わらない。

ISO6400のJPEG撮って出し。ノイズ量は決して少なくはないが、それゆえディテール喪失も少なく、ちゃんとエッジの残った高感度描写だ。
ライカM10-R / ズミルックスM F1.4/35mm ASPH. / F8 / 1/15秒 / ISO6400 / WBオート
意図的にハイキー気味の露出で撮影したのだが、RAW現像時にノーマル露出へ戻してみたら、驚くほどちゃんとした階調になった。ハイライト側のダイナミックレンジは充分にある。
ライカM10-R / ズミルックスM F1.4/35mm ASPH. / F8 / 1/250秒 / ISO1600 / WBオート
輝度差が大きい夜景のため、RAW現像時にシャドー部を少し起こしたが、ノイズの浮きもなく、ちゃんとディテールが出てくれる。シャドー側のダイナミックレンジも満足できる。
ライカM10-R / ズミルックスM F1.4/35mm ASPH. / F8 / 6秒 / ISO100 / WBオート

レンジファインダーによるピント合わせも実用上、ほぼ問題を感じなかった。実はM型のファインダー周りはライカM10から改良された新型になっており、ライカM10以前のモデルよりも微妙な距離差を見極めやすく改良されている。恐らくライカM10開発時に将来の高解像度化を見越した改良だと思われるが、これにより4,000万画素でもピント精度はとても良好だ。

絞り開放F1.4で最短撮影距離の70cmで撮影する場合などは今までの2,400万画素機以上に慎重にピント合わせ作業を行う必要があるのは確かだが、油断さえしなければ意外と合うという印象を持った。

絞りF1.4開放、最短距離で撮影。高画素化されたので、より慎重にピント合わせを行う必要はあるが、とりあえず狙った部分にちゃんとピントは来る。
ライカM10-R / ズミルックスM F1.4/35mm ASPH. / F1.4 / 1/125秒 / ISO100 / WBオート

もちろん、レンジファインダーは基本的に画面中央でしかピント合わせが行えないため、絞りを開けたときにモチーフを中央以外に置くとコサイン誤差による後ピンは避けられず、それによる影響が4,000万画素化でさらに顕著化するのは確かだ。これを回避するためには手動で段階ピントを行うか、後ピンを見込んだ仮想ピント位置に合わせるというレンジファインダー機の昔ながらの手法の他、悪あがきをせずにライブビューに切り換えるという現代的な手法? まで解決策はある。

一方、現行のM型用レンズが4,000万画素でもちゃんと解像するのかという点だが、今回使ったズミルックスM F1.4/35mm ASPH.のように比較的設計の新しいレンズを使う限りは、レンズが解像負けしている印象はなく、これまでの2,400万画素機と同じ感覚で使えると思う。この辺りは撮像素子前面のマイクロレンズの特性をMレンズ用に合わせ込んでいることも効いているのだろう。

M型ライカはレンズ側の絞り値をボディ側へ伝える術がないため、Exifに記録される絞り値は推定値になる。このカットも実際はF8で撮っているが、ExifにはF5.6と記録されている
ライカM10-R / ズミルックスM F1.4/35mm ASPH. / F8 / 1/180秒 / ISO100 / WB4000K
引いた構図だが、あえて絞り開放で周辺光量落ちを見てみた。2,400万画素モデルよりも周辺光量落ちは若干多くなった気もするけど、個人的にはより雰囲気のある写真が撮れるようになったと思う。
ライカM10-R / ズミルックスM F1.4/35mm ASPH. / F1.4 / 1/1,000秒 / ISO800 / WBオート
これはJPEG撮りっぱなし。ハイライト部に接する輪郭に多少の偽色が出ているが、RAWなら現像時に簡単に消せる程度。
ライカM10-R / ズミルックスM F1.4/35mm ASPH. / F2.8 / 1/125秒 / ISO800 / WBオート

というわけで、ざっと使ってみた感じでは4,000万画素化によるネガティブな要素は特に感じられなかった。ライカらしく無駄をそぎ落とした操作系の使いやすさはもちろん健在だし、レンジファインダーというクラシックなピント合わせのメカニズムが4,000万画素にも通用するのはちょっと痛快でもある。個人的にはデジタル化されたM型ライカは「これこそスチームパンクだよなぁ」と常々考えていたが、より現代的に高解像度化されたM10-Rはさらにスチームパンク感がアップしたと思う。

撮像素子は新しくなったが、ライカらしく彩度が抑えめでコクのある発色はそのまま引き継がれている。
ライカM10-R / ズミルックスM F1.4/35mm ASPH. / F11 / 1/180秒 / ISO100 / WBオート
RAWで撮影し、水面部分の濃度だけ少し調整している。こうした中距離〜遠景撮影では高画素化の恩恵が大きく、2,400万画素モデルより克明な細部描写を実感できる。
ライカM10-R / ズミルックスM F1.4/35mm ASPH. / F5.6 / 1/250秒 / ISO100 / WBオート

河田一規

(かわだ かずのり)1961年、神奈川県横浜市生まれ。結婚式場のスタッフカメラマン、写真家助手を経て1997年よりフリー。雑誌等での人物撮影の他、写真雑誌にハウツー記事、カメラ・レンズのレビュー記事を執筆中。クラカメからデジタルまでカメラなら何でも好き。ライカは80年代後半から愛用し、現在も銀塩・デジタルを問わず撮影に持ち出している。