新製品レビュー
ライカM10-R
4,000万画素でもピント精度良好 M10シリーズの違いをおさらい
2020年7月28日 09:00
M型ライカの最新機種として、ライカM10-Rが7月24日に発売された。その名称から想像できるとおり、ライカM10の派生機種である。ライカM10にはM10-PとかM10-DとかM10モノクロームといったように様々な派生機種がすでにラインナップされているけれど、ライカマニアでない限りそれぞれの違いを把握していない方も多いと思う。そこで、ライカM10-Rについて説明する前に、今発売されているM10シリーズ各機種の特徴を簡単におさらいしておこう。「そんなこと知ってるわい!」と言う方は読み飛ばしてください。
ライカM10
それまでのライカM(Typ240)に比べボディ厚が3.5mm薄型化され、フィルムのM型ライカにあと0.5mm差まで迫るスリムボディを実現。またフィルム巻き戻しノブ状のISOダイヤルを装備しているのも従来機と異なるところ。
撮像素子は有効2,400万画素CMOSで、画素数こそライカM(Typ240)と同等だが、世代が新しくなり高感度性能は大幅に向上している。ライブビューが可能で、ライカがビゾフレックスと呼ぶ外付けEVFの使用も可能だが、静止画専用というコンセプトのため動画機能は実装されていない。それもあり、動画機能を持つライカM(Typ240)も継続販売されている。
ライカM10-P
ライカM10をベースに、シャッター機構の静音化と、液晶パネルをタッチパネル化したモデル。フィルムのM型ライカは動作音の静寂さでは定評があるが、ライカM10-Pのシャッターはそれを上回る静かさで、シャッター音量は歴代M型ライカで最小。撮像系はライカM10と同じ。
外観はライカM10から小変更され、ボディ正面の赤丸Leicaバッジが廃される一方、トップカバー上面には筆記体のライカクラシックロゴが刻印されている。細かいところではライカM(Typ240)にはあったのにライカM10で廃止されたライブビュー中の電子水準器表示が復活している。
ライカM10-D
ライカM10-Pをベースに、背面の液晶モニターをなくしたモデル。モニターはないが、外付けEVFのビゾフレックスを装着すればライブビュー撮影が可能な他、スマートフォンアプリの「Leica FOTOS」を用いればスマホの画面で撮影画像の確認が行える。
なお液晶モニターが無いので、画質やホワイトバランス等の設定もスマートフォンの「Leica FOTOS」アプリから行う仕組み。シャッターはライカM10-Pと同じ静音タイプ。外観もボディ正面の赤丸バッジがなく、上面に筆記体ロゴがあるのはライカM10-Pと同じだが、ライカM10-Dでは巻き上げレバー風のサムレストを装備。液晶モニターがなくなった背面には丸形の露出補正ダイヤルを搭載したことも相まって、かなりフィルムカメラライクな外観になっている。
ライカM10モノクローム
ライカM10-Pをベースにモノクロ専用機としたモデル。ここまでずっと同じ撮像素子を搭載してきたM10シリーズだが、ライカM10モノクロームでは完全に新規となる4,000万画素のCMOSを搭載。カラーフィルターのないモノクロ専用機なので、カラーモデルのような色補間工程の解像落ちが生じず、理論的にはボディそのものの解像性能は8,000万画素のカラー機を上回る。
ボディ外観はほとんどライカM10-Pと同じだが、シャッターダイヤルやISO感度ダイヤルの「A」ポジションがライカM10-Pの赤ではなくグレーに変更されている他、レンズ着脱ボタンがシルバーからブラックに変わるなど、モノクロ専用機らしい細かい演出が施されている。
ライカM10モノクローム関連記事
・ニュース:4,000万画素になった「ライカM10モノクローム」
・新製品レビュー:ライカM10モノクローム
4,000万画素化されたライカM10-R登場
というわけでM10シリーズのラインナップを俯瞰してきたわけだが、今回登場したライカM10-Rをごく簡単に説明すると「ライカM10-Pの撮像素子を2,400万画素から4,000万画素へ高画素化したモデル」ということになる。
ライカM10モノクロームが登場したときに、それまでの2,400万画素CMOSではなく新しい4,000万画素CMOSを搭載したことから、その4,000万画素CMOSにカラーフィルターを組み合わせたカラーモデルが近い将来に登場するのでは? と予想した人も多いが、それがまさしくライカM10-Rというわけだ。その意味では「ライカM10モノクロームをカラー化したのがライカM10-R」とも言える。
撮像系以外の機能において、静音シャッターやタッチパネル式液晶モニターを備えていることもライカM10-PやライカM10モノクロームと同じだ。ただし、外観はボディ正面に赤丸バッジがあり、逆にボディ上面の筆記体ロゴは省略されているなど、デザイン的にはライカM10-Pよりも明らかにライカM10に近い。ライカM10-Rの外観をライカM10-Pではなく、あえてM10シリーズのオリジナルモデルでありスタンダードモデルでもあるライカM10と同じ外観にした意図が気になるが、もしかするとライカM10-Rは次世代のスタンダードモデルという位置づけになるのかもしれないというのは筆者の完全な妄想である。
実際にライカM10-Rで撮影してみた印象はなかなか好印象だった。自分を含めて多くのライカファンはM型ライカに過度な解像性能を求めているのか? という「そもそも論」や、これだけ高解像度になるとレンジファインダーによるピント合わせが精度的にどうなのか? という疑問も撮る前には正直あったが、いざ使ってみると解像性能については高い分にはまあ困らないし、ライカによると、ダイナミックレンジや高感度時のノイズ特性については2,400万画素モデルよりむしろ向上しているそうだ。設定可能な感度もISO 100〜50000で2,400万画素モデルと変わらない。
レンジファインダーによるピント合わせも実用上、ほぼ問題を感じなかった。実はM型のファインダー周りはライカM10から改良された新型になっており、ライカM10以前のモデルよりも微妙な距離差を見極めやすく改良されている。恐らくライカM10開発時に将来の高解像度化を見越した改良だと思われるが、これにより4,000万画素でもピント精度はとても良好だ。
絞り開放F1.4で最短撮影距離の70cmで撮影する場合などは今までの2,400万画素機以上に慎重にピント合わせ作業を行う必要があるのは確かだが、油断さえしなければ意外と合うという印象を持った。
もちろん、レンジファインダーは基本的に画面中央でしかピント合わせが行えないため、絞りを開けたときにモチーフを中央以外に置くとコサイン誤差による後ピンは避けられず、それによる影響が4,000万画素化でさらに顕著化するのは確かだ。これを回避するためには手動で段階ピントを行うか、後ピンを見込んだ仮想ピント位置に合わせるというレンジファインダー機の昔ながらの手法の他、悪あがきをせずにライブビューに切り換えるという現代的な手法? まで解決策はある。
一方、現行のM型用レンズが4,000万画素でもちゃんと解像するのかという点だが、今回使ったズミルックスM F1.4/35mm ASPH.のように比較的設計の新しいレンズを使う限りは、レンズが解像負けしている印象はなく、これまでの2,400万画素機と同じ感覚で使えると思う。この辺りは撮像素子前面のマイクロレンズの特性をMレンズ用に合わせ込んでいることも効いているのだろう。
というわけで、ざっと使ってみた感じでは4,000万画素化によるネガティブな要素は特に感じられなかった。ライカらしく無駄をそぎ落とした操作系の使いやすさはもちろん健在だし、レンジファインダーというクラシックなピント合わせのメカニズムが4,000万画素にも通用するのはちょっと痛快でもある。個人的にはデジタル化されたM型ライカは「これこそスチームパンクだよなぁ」と常々考えていたが、より現代的に高解像度化されたM10-Rはさらにスチームパンク感がアップしたと思う。