My Favorite Leica
LEICA M10-P(安達ロベルト)
その人、その土地へのリスペクトが生まれるカメラ
2019年10月31日 12:00
9月末から10月初旬にかけてタイに撮影に行った。思えば、最初にライカを持って行った海外もタイとラオスで、そのときはライカM6、ズミルックス35mm、白黒フィルムの組み合わせだった。タイは大好きで、それ以前にも何度も行っていたにもかかわらず、ライカのファインダーを通して見ると、全てが違って見えた。
出発にあたり、そのときに似た新鮮なワクワク感を今得られる道具は何だろうと考えた。選んだのは、ライカM10-PとAPO-SUMMICRON-M F2/50mm ASPH.。現行のライカのラインナップのなかで、私が考えうる最高のボディ&レンズのコンビネーションだ。
現代的な都市へと成長したバンコクと、変わらないバンコク。そこに私なりの「美」を見出し、ライカM10-Pの光学ファインダーでフレーミングしたいと思った。加えて、APO-SUMMICRON-M F2/50mm ASPH.は絞り開放の描写がとりわけ豊潤だ。積極的にF2で撮りたく、行きの飛行機のなかで繰り返しそれをイメージした。
また、今回は多くの人に声をかけ、ポートレートを撮らせてもらうことも決めていた。その成果の一部は後半に。
ライカM10-Pの光学ファインダーとライブビュー撮影は、場面に応じて使い分けた。軽快にスナップ撮影したいときはレンジファインダー、じっくり構図や露出を決めたいときはライブビュー。とくに、被写体と正対するとき(光学ファインダーでは建築物等とぴったり90度に対峙するのがむずかしい)、コントラストが強い場面などでは、ライブビューを使った。
対して、一瞬の表情などを捉えたい場面では光学ファインダーで撮った。APO-SUMMICRON-M F2/50mm ASPH.の絞り開放は、F2とは思えないほど被写界深度が浅い印象なので、レンジファインダーではピント合わせがシビアな場面も多い。しかし、長年信頼して使ってきたライカの光学ファインダーで撮ることは、私にとって特別な意味を持つ。大切な場面ほど光学ファインダーを使った。私の場合、ライブビューよりも素早く撮れるというのもある。
先代のライカM(Typ240)シリーズと比較して、ライカM10シリーズは旅先での電池持ちを心配する声もあるが、毎回しっかり充電してから出かけたので、ライブビューを使いながらも、予備バッテリーが必要な場面はゼロだった。
ライカM10-Pのシャッターを切った感覚は本当に気持ちがいい。歴代のMシリーズのなかで最も静かというだけでなく、押したときにわずかに伝わるテンションに、質のよさがある。
シャッターの感触などを口にすると、オタクっぽいとバカにされるかもしれない。しかし、たとえばよく研がれた包丁のように、長時間使っていて気持ちのいい道具というのは、そこから生み出される結果に対してもプラスに働くはずだ。
人に声をかけて写真を撮らせてもらうときも、ライカだと特別な安心感がある。
「こんにちは。写真撮らせてもらえますか?」とタイ語で話しかけると、ほぼ100%オッケーをもらえた。しかも、笑顔を向けてくれたり、ポーズを取ってくれたりと、撮っているこちらが逆にポジティヴなエネルギーをもらった。
ライカM10-Pは、重厚ながらも相手を威嚇することのない、品のあるカメラだ。撮る側が信頼できるカメラであることはもちろん、撮られる側にも信頼してもらえるカメラだと思う。
このカメラを手にして撮影していると、その人、その土地への敬意が自然と心に生まれる。スナップをしていても、覗き見、盗み撮りでなく、去り行く姿のあはれを撮らせてもらっているんだという気持ちになる。
スマートフォンのカメラと単体カメラを比較して、よりチャンスを逃さないとか、きれいに撮れるとか、機能の優劣でカメラを選ぶ時代は終わったと思う。これからは、使うとワクワクするとか、人とつながることができるとか、そういう「体験」にフォーカスした理由でカメラを買う人が増えるだろう。その意味でも、ライカM10-Pは特別なカメラだ。
協力:ライカカメラジャパン株式会社