新製品レビュー

ライカM10モノクローム

豊かな階調再現に、4,000万画素の描写力をプラス

ライカのアイコニックなシステムである、レンジファインダーのライカMシステム(通称、M型ライカ)から、モノクロ専用機の3代目、ライカM10モノクロームが登場した。初代のライカMモノクロームはライカM9-Pをベースに2012年に登場。2代目のライカMモノクローム(Typ246)はライカM-Pをベースに2015年に発売。そして約5年ぶりのモデルチェンジとなる今回のライカM10モノクロームは、ライカM10-Pがベースになっている。

外観はライカM10-Pのブラック同様のブラッククローム仕上げだ。初代や先代と同じく赤丸のライカバッジがないどころか、上面の「Leica」ロゴすらない。背面も通常なら「LEICA CAMERA WETZLAR MADE IN GERMANY」の部分は白で入るが、これも黒。ブランドもカメラ名なども目立たない真っ黒なボディだ。

3代目のモノクロ専用機、ライカM10モノクロームの正面は真っ黒。街中で提げていても目立たない。

しかもライカM10-Pのブラックではレンズ着脱ボタンはシルバーだが、ライカM10モノクロームはそれも黒。シャッターボタンまで黒だ。そしてシャッターダイヤルとISO感度ダイヤルのAポジションは赤ではなくグレー。ここまで徹底的にモノクロ化した外観を持つのは、ライカM10モノクロームが初だ。

向かって左がライカM10モノクローム、右が先代となるライカMモノクローム(Typ246)。Typ246はレンズ着脱ボタンやフォーカスボタンがシルバーだが、ライカM10モノクロームはすべてブラックで統一されている。
背面はTyp246よりボタンが少なく、モニターの横に3つとセレクターボタン(十字ボタン)があるだけ。ライカSL2やライカQ2などと同じスタイルだ。メニュー画面の日本語フォントも異なる。
前方がライカM10モノクローム。後方のTyp246はシャッターボタンがシルバーだがライカM10モノクロームはブラック。シャッターダイヤルのAやシンクロ速度のマークも赤に対してグレーだ。またライカM10モノクロームは動画機能がないため動画(M)ボタンがない。電源スイッチ周りも文字はなくシンプルだ。
初代、先代と同様に、トップカバーには「Leica」のクラシックロゴは入らない。またISO感度ダイヤルの「A」もグレーだ。Typ246は動画用のマイクを備える。
先代まではホットシューに「MONOCHROM」の文字が入っていたが、ライカM10モノクロームはホットシューに製造番号と「LEICA M10」が入り、トップカバーに「MONOCHROM」と刻印されている。ボディと同色なのでこれも目立たない。
底面のキーを回してベースプレートを外すのはライカの伝統だ。ここからバッテリーやSDカードを出し入れする。

ボディの厚さはライカM10からフィルムのライカMシステムと同じになり、ライカM10モノクロームでも踏襲している。フィルムのライカMボディを使ったことがある人なら馴染みやすい感触だ。フルサイズのデジタルカメラとしてはコンパクトだが、トップカバーやベースプレートは真鍮のため、手にすると見た目よりずっしりしている。とはいえ無垢の真鍮からの削り出しは質感が非常に高く、ライカならではの高級感が味わえる。

左のライカM10モノクロームと右のTyp246は、ボディの厚さが4mm異なる。わずか4mmだが、ライカM10モノクロームを見慣れてしまうと、Typ246が分厚く感じる。
正面に設けられたフォーカスボタンは、ライブビュー画面の拡大や、AE撮影時の露出補正操作に使用する。
電源スイッチに「ON」「OFF」の文字はなく、オフのときは指標が現れる。この指標もグレー。
ISO感度ダイヤルはISOオートの他に、ISO 160からISO 12500まで1段ずつ設定できる。1/3段刻みで設定したい場合やISO 12500以上を選ぶ場合は、ダイヤルをMにしてメニューから設定する。
背面のボタンは、LV(ライブビュー)、PLAY(画像再生)、MENU(お気に入り/設定メニュー)の3つだけ。できるだけ操作をシンプルにするのは、多数のボタンを備える日本メーカーのカメラとは思想が異なるのを感じる。

ライカM10-Pベースなので、背面モニターはタッチパネルだ。再生画像の拡大や縮小、画像を送る、戻す、などの操作がタッチで行える。クラシカルなスタイルを持つライカMシステムの場合、どうしてもタッチ操作が無ければ使いにくい、ということはないが、あればやはり便利だ。伝統的な操作性と最新の操作性がバランスよく融合されている。

タッチパネル式の背面モニター。ピンチで拡大、縮小のほか、ダブルタップで100%拡大も行える。スマートフォン感覚でスムーズに扱える。
セレクターボタン中央のセンターボタンを押すとインフォ画面が表示され、カメラの設定状態がわかる。記録モードや測光、ドライブモードなどは、このままタッチ操作で変更が可能だ。
メニューボタンを一度押すと、お気に入りの画面が表示される。ここによく使う機能を登録することで、スピーディーな設定変更が行える。
お気に入りの画面からもう一度メニューボタンを押す、もしくはお気に入りの「メインメニュー」を選ぶと、通常のメニュー画面が表示される。

またライカM10-PはライカM10よりシャッター音が小さくなったのも特徴だ。ライカM10モノクロームも同様のシャッター音。ライカM10も決してシャッター音は大きくはなかったが、ライカM10-PとライカM10モノクロームの“コトッ”と囁くような音を聞くと、明らかに差がある。住宅地のような静かな場所でもシャッター音を気にせず撮影できるのは大きなメリットだ。しかも電子シャッターの無音撮影とは異なり、シャッターを切っている実感があるのもポイントだ。

ライカMモノクロームシリーズは、撮像素子のカラーフィルターを外してモノクロ専用機にしている。初代はライカM9-Pの1,800万画素CCD、先代はライカM-Pの2,400万画素CMOSをベースにしていて、画素数もそれぞれ同じだ。しかしライカM10モノクロームは、ライカM10-Pの2,400万画素CMOSではなく、全く新しい4,000万画素CMOSを搭載した。ついにライカMシステムも4,000万画素に突入だ。

画素数が多くなれば、その分ピントやブレにシビアになる。ライカMシステムにそこまでの解像度が必要なのか、気になる部分だ。レンズは高解像力を誇るライカ アポ・ズミクロンM F2.0/50mm ASPH.を装着して撮影した。ライカM10モノクロームはライブビューも可能だが、ここではすべてレンジファインダーカメラらしく二重像合致式の距離計でピントを合わせている。

木の枝やビルの窓、左側に見える東京スカイツリーがしっかり解像されている。さすがカラーフィルターを持たないCMOSセンサーの4,000万画素と、ライカ アポ・ズミクロンM F2.0/50mm ASPH.だ。ハイライトからシャドーまでの階調も滑らかだ。
ライカM10モノクローム アポ・ズミクロンM F2.0/50mm ASPH. ISO 160 F5.6 1/750秒

以前、初代ライカMモノクロームを使用したときに驚いたのが解像力の高さだった。カラーフィルターを外したCCDは、1,800万画素とは思えないほど。4,000万画素になった3代目モノクロームは、やはり非常に高い解像力だ。階調再現も申し分ない。試しに先代と比較してみたが、ダイナミックレンジはほとんど差がなかった。また画素数が増えると高感度が弱くなるのでは、と思ったが、こちらも優秀。ISO 3200や6400は常用できるほど。ISO 12500でも実用的だ。しかも高感度ノイズはフィルムの粒子を思わせて違和感がなく、細かい部分のディテール再現性も高い。ハイライトやシャドーの階調が豊かなのも好感が持てた。

そして距離計は、4,000万画素でも高い精度でピント合わせが行えた。これはさすがライカと感心するところだ。さらにシャッターショックが小さいせいか、思いのほかブレにくい。とはいえ50mmレンズで1/60秒だと簡単にブレてしまう。高感度に強いので、積極的にISO感度を上げて速いシャッタースピードを得るのが使いこなしのキーになるだろう。

ISO感度の最高はISO 100000。ライカの高感度表記はなぜかISO 12800ではなくISO 12500。そのためISO 102400ではなくISO 100000になる。

高解像度のボディと解像力の高いレンズを組み合わせれば、被写体との距離が遠くてもトリミングで構図が調整できる。ライカカメラ社のレンズ開発責任者、ピーター・カルベ氏は「高解像度ではシャッターチャンスを優先した撮り方ができる」と語っている。良いチャンスに出会ったら、まずシャッターを切って、後でトリミングして整えるという、ひとつの考えだ。レンジファインダーカメラは構造的に望遠撮影を得意としない部分もあり、レンジファインダーカメラと4,000万画素のセンサーは、実は相性が良いと感じた。ライカM10の後継機は、この4,000万画素CMOSにカラーフィルターを搭載してくるかもしれない。

JPEGは4,000万画素のLサイズ以外に、2,000万画素のMと600万画素のSが選択できる。
JPEG設定は記録画素数のほかに、コントラストやシャープネスの調整、またトーニングで調色効果を加えることができる。

モノクロならではの階調表現と高解像力を持つライカM10モノクロームは、モノクロ好きには見逃せないカメラに仕上がっている。特にストリートスナップを撮っている人は注目だ。高価なカメラだが、実際に使うとカメラの感触から画質に至るまで、写真の本質を追求するライカらしさを感じることができる。

Leica FOTOSをオンにするとスマートフォンにインストールしたLeica FOTOSアプリと接続でき、撮影した写真の転送などが行える。

検証:JPEG設定「トーニング」

古い木の扉を見つけ、セピア(強)に設定。レトロな雰囲気が表現できた。
ライカM10モノクローム アポ・ズミクロンM F2.0/50mm ASPH. ISO 400 F2.8 1/360秒
バイクのメカニカルな雰囲気を強調するためにブルー(強)を選択。雪景色にも似合いそうだ。
ライカM10モノクローム アポ・ズミクロンM F2.0/50mm ASPH. ISO 400 F5.6 1/125秒
銀塩プリントのセレン調色は、紫がかった仕上がりになる。ライカM10モノクロームのセレンもよく再現されている。強に設定。
ライカM10モノクローム アポ・ズミクロンM F2.0/50mm ASPH. ISO 160 F2 1/180秒
トーニングはセピア、ブルー、セレンの3色。それぞれ弱と強が選べる。
なお多くのデジタルカメラのモノクロモードに搭載されている、赤や黄色などのフィルター機能は持たない。これは撮像素子自体にカラーフィルターがないため、フィルター効果を再現するための色情報がないから。コントラスト効果を得るための別売アクセサリーとして、ライカMモノクローム専用設計というカラーフィルター(黄、緑、オレンジ)が販売されている。

検証:新機能「シャドウ部補正」

シャドー部を明るくするシャドウ部補正。コントラストが高くなる状況での使用に適している。

シャドウ部補正のオフとオンを比べると、画面左下がわずかに明るくなった。ただその差はわずか。他に撮影した比較カットでも差がほとんどわからなかった。今回試用したのは発売前の個体だったため、製品版では変わっているかもしれない。

共通データ:ライカM10モノクローム アポ・ズミクロンM F2.0/50mm ASPH. ISO 160 F8 1/90秒

シャドウ部補正:オフ
シャドウ部補正:オン

比較:ライカMモノクローム(Typ246)と撮り比べ

ライカM10モノクロームとライカMモノクローム(Typ246)の比較。階調再現はほぼ同じだ。一見すると見分けられないほどだが、100%に拡大すると4,000万画素を持つライカM10モノクロームの解像力の高さを実感する。

ライカMモノクローム(Typ246) アポ・ズミクロンM F2.0/50mm ASPH. ISO 320
ライカM10モノクローム アポ・ズミクロンM F2.0/50mm ASPH. ISO 160

比較:カメラ内JPEGとRAWストレート現像

RAWはAdobeのDNG形式を採用。ここではAdobe Lightroom Classicを使ってストレート現像した。JPEGはカメラ内での絵作りが反映され、引き締まった印象。解像感はカメラ内JPEGでも十分に高い。

共通データ:ライカM10モノクローム アポ・ズミクロンM F2.0/50mm ASPH. ISO 160 F2 1/500秒

カメラ内JPEG
DNGをストレート現像

作品

草履の質感や鼻緒が細かく描写されている。これがモノクロ専用の4,000万画素の威力。ライカM10モノクロームだけが持つ世界だ。
ライカM10モノクローム アポ・ズミクロンM F2.0/50mm ASPH. ISO160 F2.8 1/180秒
初代ライカMモノクロームで自転車を撮ったとき、質感再現の高さに驚いたことがあった。ライカM10モノクロームも、やはりフレームなど金属の質感再現が素晴らしい。リアリティのある描写だ。
ライカM10モノクローム アポ・ズミクロンM F2.0/50mm ASPH. ISO 160 F8 1/360秒
停まっていたユリカモメにそっと近づいた。絞りは開放。距離計の精度は高く、目にしっかりピントが合っている。
ライカM10モノクローム アポ・ズミクロンM F2.0/50mm ASPH. ISO 160 F2 1/1500秒
強い光だがハイライトは飛び過ぎず、シャドーも潰れていない。それでいて適度なコントラスト。ライカM10モノクロームは特別な設定をせずに本格的なモノクロ写真が楽しめる。
ライカM10モノクローム アポ・ズミクロンM F2.0/50mm ASPH. ISO 160 F5.6 1/750秒
歴史を感じさせる建物。モノクロに向いたシーンだ。すでに日が傾いて暗かったため、ISO 1600に設定した。拡大してもノイズは少なく、建物の雰囲気をよく再現している。
ライカM10モノクローム アポ・ズミクロンM F2.0/50mm ASPH. ISO 1600 F5.6 1/360秒
ISO 6400で夜の街をスナップ。拡大するとノイズがフィルムの粒子のようで、不自然さを感じない仕上がりだ。また高感度でもダイナミックレンジが狭くならず、階調が豊かなのも特筆したい。
ライカM10モノクローム アポ・ズミクロンM F2.0/50mm ASPH. ISO 6400 F2 1/250秒
絞りを開放にして露店で売られていたスプーンの束にピントを合わせた。ライカM10モノクロームとライカ アポ・ズミクロンM F2.0/50mm ASPH.の組み合わせは立体感のある仕上がりが得られる。
ライカM10モノクローム アポ・ズミクロンM F2.0/50mm ASPH. ISO  F2 1/180秒
葉の階調や暗い背景の階調を意識した。色ではなく階調で見せるところにモノクロ写真の楽しさと奥深さがある。それが高解像力で味わえるのがライカM10モノクロームだ。
ライカM10モノクローム アポ・ズミクロンM F2.0/50mm ASPH. ISO 160 F2 1/125秒

藤井智弘

(ふじいともひろ)1968年、東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1996年、コニカプラザで写真展「PEOPLE」を開催後フリー写真家になり、カメラ専門誌を中心に活動。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。