My Favorite Leica

LEICA M10-D(河田一規)

これぞ光学ファインダー機の正しいスタイル

現状、ライカM10シリーズはベーシックな「ライカM10」、タッチパネル&静音シャッターの「ライカM10-P」、そして液晶モニターがない「ライカM10-D」の3機種がラインナップされている。この中で筆者的にもっとも惚れ込んでいるのがライカM10-Dだ。

たいていの人は「撮ってすぐ液晶モニターで確認できるのがデジカメの大きなメリットなのに、それができないライカM10-Dがどうしていいのか?」という反応だと思うけど、だからこそいいのだ。

背面中央にあるのは露出補正ダイヤルと電源スイッチ。電源オンのままでスリープ機能を使って運用すれば、シャッター半押しで起動し、フィルムのM型ライカのような使い心地。背面に操作ボタンがある機種だと不用意にボタンが押されてカメラがスリープしないこともあるが、背面にボタンがないライカM10-Dだとその心配はない。

光学ファインダー式のカメラ(レンジファインダーカメラや一眼レフカメラ)を使って撮影するときの手順は、一般的に「撮影する」→「すぐにモニターで確認」→「必要に応じて露出や構図、タイミング等を修正してもう1回撮るか、何も問題なければ完了」という流れになることが多い。もちろん再撮することが不可能な偶然性要素のあるスナップなんかではこの限りじゃないけど、何回も撮れる対象の場合はこういう撮影フローになりがちで、かく言う筆者自身もそうやって撮ることが多い。

しかし、このような「光学ファインダーで撮影してすぐにモニターで確認」という間違い探しのような撮り方をするのであれば、最初から撮影結果にきわめて近い画像をファインダー等でモニタリングできるミラーレス機を使った方がムダが無く、よっぽど合理的であり、わざわざ光学ファインダー機を使う意義は大幅に薄れてしまう。

イメージセンサーは35mmフルサイズの24メガCMOS。ローパスレスなのでキレのいい描写を得られる。
ライカM10-D ELMAR-M 50mm F2.8 ISO 200 F8 1/350秒 WBオート
光学ファインダーでモニターレスの場合、一番不安になるのは露出の具合だと思うが、ライカM10-Dの露出計はクセがなく使いやすい。
ライカM10-D ELMAR-M 50mm F2.8 ISO 200 F5.6 1/125秒 WBオート
シャッターユニットはライカM10-Pと同じ静音タイプなので作動音はきわめて小さく、静寂なシーンを撮影しても場の空気感がかき乱されることはない。
ライカM10-D ELMAR-M 50mm F2.8 ISO 200 F5.6 1/90秒 WBオート

また、撮影したあとすぐに液晶モニターを確認する、いわゆるチンピングが撮影所作としてまったく美しくないなぁと個人的に強く感じていて(そうは言っても、やってますけど)、その意味でもモニターレスなライカM10-Dというのは、ある意味「これこそ光学ファインダー機の正しいスタイル」ではないかと。

巻き上げレバー風サムレストはフィルムM型の予備角より大きく開く。位置的にボディ背面側のサムレストと連携するため、指掛かりは良好。手巻き上げのカメラを使っていた人なら、構えると同時に無意識にレバーを引き出して指に掛けてしまうはず。

光学ファインダーのメリットはタイムラグが無いとか、ダイレクト感がいいとか色々あるけれど、デジタル時代の今、その一番の長所は「想像力を刺激してくれる」ことだと思う。しかし、すぐにモニターを確認してしまうと想像力が働く暇も無い。

実際にライカM10-Dを使ってみると、モニターがない=チンピング不可というのは想像以上に撮影のペースに大きく影響するもので、被写体に対する視線や集中力がまったく途切れないことは大きな効用だと思う。あと、撮った後に画像を確認しなくていい(そう、確認できないのではなく、確認しなくていいのだ)のは本当に自由で楽しく、撮っていてすごく解放感がある。

ピント合わせはレンジファインダーによるマニュアルフォーカス。ファインダーをのぞく前に、目測で大体の距離を合わせておくと素早くフォーカシングできるし、目測の勘も良くなる。
ライカM10-D ELMAR-M 50mm F2.8 ISO 4000 F2.8 1/90秒 WBオート
背面ダイヤルで露出補正も可能だが、シャッターボタンの半押しで掛かるAEロックの方がスピーディに撮影できる。
ライカM10-D ELMAR-M 50mm F2.8 ISO 1250 F5.6 1/90秒 WBオート

この感覚はフィルムカメラにも通じるところがあって、ある程度フィルム写真をやってきた人なら、きっと「好ましい懐かしさ」を感じるだろうし、デジタルしか知らない人の場合は新たな感性が覚醒するかもしれない。何を大げさなことをと思うかも知れないが、この清々しい使用感はちょっと他のカメラでは味わえないものだ。

このようにモニターレスを礼賛すると、「だったら普通のデジカメでもモニターを使わなければいいだけで、わざわざモニターレスにこだわらなくてもいいじゃないか」と考える方が多数だろうが、あるのに使わないのと、最初から付いていないのは意味合いが天と地ほど違うんです。

モニターのある光学ファインダー機の場合、とりあえず1枚撮って様子を見がち。でもモニターレスだとファーストカットを撮る時点でいろいろ考える。
ライカM10-D ELMAR-M 50mm F2.8 ISO 320 F2.8 1/90秒 WBオート

あまり深掘りすると思想的な話になっちゃうからここでは追わないが、少なくとも元来シンプルなことが大いなる美点であるM型ライカにとって、モニターレスというのは実に相性がよく、だからこそライカカメラ社も「ライカM Edition 60」(2014年発売、600台限定)や「ライカM-D」(2016年)、そして現行のライカM10-Dと繰り返しモニターレス機を企画しているわけだ。

従来のライカM-Dは液晶モニターが無いことで設定がほとんど行えず、例えば画質モードもRAWだけだったが、ライカM10-DではWi-Fi機能を搭載したことでスマホ上の「Leica FOTOS」アプリから詳細設定が行える。もちろん撮影画像の確認もできる。

それらのモニターレスなM型ライカがどれだけ売れているかは知らないけど、おそらく大きな数ではないだろう。それでも作り続けるライカカメラ社にはお世辞でも何でもなく、リスペクトしかない。だって、こういうカメラを実現しているのはライカだけですから。

レンジファインダーカメラなので、アウトフォーカスの様子は想像するしかない。どういうボケ方になるのか考えながら撮るのもけっこう楽しい。
ライカM10-D ELMAR-M 50mm F2.8 ISO 320 F2.8 1/125秒 WBオート
同じモニターレスでも1世代前のライカM(Typ 240)がベースだったライカM-Dより薄型化されているため、フィルム時代のM型と同等サイズを実現。携帯性は良好だ。
ライカM10-D ELMAR-M 50mm F2.8 ISO 250 F2.8 1/90秒 WBオート

協力:ライカカメラジャパン株式会社

河田一規

(かわだ かずのり)1961年、神奈川県横浜市生まれ。結婚式場のスタッフカメラマン、写真家助手を経て1997年よりフリー。雑誌等での人物撮影の他、写真雑誌にハウツー記事、カメラ・レンズのレビュー記事を執筆中。クラカメからデジタルまでカメラなら何でも好き。ライカは80年代後半から愛用し、現在も銀塩・デジタルを問わず撮影に持ち出している。