My Favorite Leica
LEICA M10-D(河田一規)
これぞ光学ファインダー機の正しいスタイル
2019年7月31日 16:00
現状、ライカM10シリーズはベーシックな「ライカM10」、タッチパネル&静音シャッターの「ライカM10-P」、そして液晶モニターがない「ライカM10-D」の3機種がラインナップされている。この中で筆者的にもっとも惚れ込んでいるのがライカM10-Dだ。
たいていの人は「撮ってすぐ液晶モニターで確認できるのがデジカメの大きなメリットなのに、それができないライカM10-Dがどうしていいのか?」という反応だと思うけど、だからこそいいのだ。
光学ファインダー式のカメラ(レンジファインダーカメラや一眼レフカメラ)を使って撮影するときの手順は、一般的に「撮影する」→「すぐにモニターで確認」→「必要に応じて露出や構図、タイミング等を修正してもう1回撮るか、何も問題なければ完了」という流れになることが多い。もちろん再撮することが不可能な偶然性要素のあるスナップなんかではこの限りじゃないけど、何回も撮れる対象の場合はこういう撮影フローになりがちで、かく言う筆者自身もそうやって撮ることが多い。
しかし、このような「光学ファインダーで撮影してすぐにモニターで確認」という間違い探しのような撮り方をするのであれば、最初から撮影結果にきわめて近い画像をファインダー等でモニタリングできるミラーレス機を使った方がムダが無く、よっぽど合理的であり、わざわざ光学ファインダー機を使う意義は大幅に薄れてしまう。
また、撮影したあとすぐに液晶モニターを確認する、いわゆるチンピングが撮影所作としてまったく美しくないなぁと個人的に強く感じていて(そうは言っても、やってますけど)、その意味でもモニターレスなライカM10-Dというのは、ある意味「これこそ光学ファインダー機の正しいスタイル」ではないかと。
光学ファインダーのメリットはタイムラグが無いとか、ダイレクト感がいいとか色々あるけれど、デジタル時代の今、その一番の長所は「想像力を刺激してくれる」ことだと思う。しかし、すぐにモニターを確認してしまうと想像力が働く暇も無い。
実際にライカM10-Dを使ってみると、モニターがない=チンピング不可というのは想像以上に撮影のペースに大きく影響するもので、被写体に対する視線や集中力がまったく途切れないことは大きな効用だと思う。あと、撮った後に画像を確認しなくていい(そう、確認できないのではなく、確認しなくていいのだ)のは本当に自由で楽しく、撮っていてすごく解放感がある。
この感覚はフィルムカメラにも通じるところがあって、ある程度フィルム写真をやってきた人なら、きっと「好ましい懐かしさ」を感じるだろうし、デジタルしか知らない人の場合は新たな感性が覚醒するかもしれない。何を大げさなことをと思うかも知れないが、この清々しい使用感はちょっと他のカメラでは味わえないものだ。
このようにモニターレスを礼賛すると、「だったら普通のデジカメでもモニターを使わなければいいだけで、わざわざモニターレスにこだわらなくてもいいじゃないか」と考える方が多数だろうが、あるのに使わないのと、最初から付いていないのは意味合いが天と地ほど違うんです。
あまり深掘りすると思想的な話になっちゃうからここでは追わないが、少なくとも元来シンプルなことが大いなる美点であるM型ライカにとって、モニターレスというのは実に相性がよく、だからこそライカカメラ社も「ライカM Edition 60」(2014年発売、600台限定)や「ライカM-D」(2016年)、そして現行のライカM10-Dと繰り返しモニターレス機を企画しているわけだ。
それらのモニターレスなM型ライカがどれだけ売れているかは知らないけど、おそらく大きな数ではないだろう。それでも作り続けるライカカメラ社にはお世辞でも何でもなく、リスペクトしかない。だって、こういうカメラを実現しているのはライカだけですから。
協力:ライカカメラジャパン株式会社