新製品レビュー

SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN|Art

絞り開放から実用的な周辺描写 長期使用からみえてきたこと

SIGMAの超広角ズームレンズ「SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN|Art」のレビューをお届けする。本レンズは、その名に“DG DN”とあるとおり、35mm判フルサイズミラーレスカメラに最適化して設計された製品で、2019年8月に発売された。発売から間があいてしまっているが、LUMIX S1Rとの組み合わせで導入した筆者の感想とあわせて、風景撮影の分野から、製品の特徴や使い勝手、描写をお伝えしていきたい。

デザイン

本レンズは、スタイルの良いレンズである。ソニーEマウント版も出ているが、筆者は個人的には一眼レフカメラと同等の大きさがあるLUMIX Sシリーズにつけたときのバランスが気に入っている。レンズ重量は795g。同社には同じ焦点距離のレンズとして一眼レフ機用の「14-24mm F2.8 DG HSM|Art」もラインアップしているが、本レンズはこれよりも約350gも軽くなっているにもかかわらず、MTFや解像が改善されているのだ。個人的にはもっと重くてもいいかなとは思うが、軽量なことは、Eマウント版ユーザーにとっても歓迎すべきポイントだと言えるだろう。

LUMIX S1Rに装着した状態。マッチングはかなりいい印象だ。試みに販売店でSIGMA fpにつけてみたが、リグの装着が前提になる印象を抱いた

個人的には、レンズマウント基部にむけて絞られていくダイナミックなカーブが好きだ。この部分は金属製となっているので、剛性面でも安心感の高いつくりとなっている。ただし、マウント基部はなめらかな光沢仕上げとなっており、凹凸のないデザインとなっている。そのため、暗い現場などで持つときには必ずレンズ中央付近をしっかりとつかむようにしたい。重量がそこそこあるので、最初のころは滑って落下させそうになるシーンがあった。

また、本レンズはフード一体型の設計となっており、ネジ込み式のフィルターは装着できない。フード部分はプラスチック製となっている。筆者は本レンズと近い焦点距離の同社製ズームレンズ「SIGMA 12-24mm F4.5-5.6 II DG HSM」も使用しているが、こちらのフードは金属製だった。プラスチック素材になったからデメリットがあるかというと決してそうではなく、フィールドでテストした際には先端部分が軽いことでかえって重量バランスが良くなり、地面に置いたときのショックを多少なりとも吸収してくれるので使いやすく感じる場面があった。フィールドではストラップを掴んでカメラごと地面にとりあえず置かなくてはならない場面も多くあるため、金属製でないことが筆者の場合は、かえって安心感をもたらしてくれた。

右がSIGMA 12-24mm F4.5-5.6 II DG HSM(EFマウント用)。形状は似ているが、マウント部に向かって絞られたデザインがいい
後部フィルター装着部。スライドレバーはクリック感のあるものとなっている
レンズキャップはプラ製

操作性・AFなど

鏡筒側面の操作部にはAF・MF切り替えレバーと、任意の機能を割りあてることができるAFLボタンを搭載している。切り替えレバーは大きく快適な操作が可能だ。AFで合わせたあとにMFで微調整することも多いので、ここのつくりがスムーズなのはありがたい。

細かいところだが、ピントリングのローレットは細かく、ズームリングは粗めの刻みパターンになっている。LUMIX Sシリーズの他のレンズに近い形状パターンとなっているため、共通の感触で操作することができるところもポイントだ。

ただし、MF時のフォーカス回転方向はLUMIX Sシリーズとは逆であったり、距離指標がないといった点でメーカー純正レンズシリーズとの違いは存在する。筆者個人の考えでは、やはり距離指標があったほうが使いやすいと感じる。が、このレンズはAFがかなり優秀だ。そのため、距離指標がなくてもさほど困らないと考えることもできる。LUMIX S1/S1Rはボディ側で距離指標を出せるので、それで代用してもいいだろう。

防塵防滴性・耐久性

今回のレビューで掲載している作例を撮影した日は、晴れのち雨の天候であった。速写性に留意して、筆者はカメラをカメラバッグに収納せずに行動することがある。

筆者は沖縄を主な撮影フィールドとしているが、結露については悩まされている。沖縄では、雨中の林でカメラバッグに濡れたカメラを入れると、レンズもファインダーも曇ってしまうことが多い。そのため刻々と変わる温度や湿度にカメラをリアルタイムでさらしておかないと、撮りたいときにシャッターが切れないことがある。ホルスタータイプのカメラケースを含めいろいろと試してきたが、現時点での結論として、裸でぶら下げておくのが一番いい、ということになったのだ。もちろん、撮影フィールドによって機材携行の仕方は変わってくるが、このスタイルの場合、防塵防滴への対応が大きな問題となってくる。

本レンズを雨中でLUMIX S1Rとともに雨ざらしに近い状態で使い続けてきているが、マウント部、鏡筒部、先端部の各所から浸水が発生したことはない。また、前玉には撥水と汚れ防止のコーティングが施されているため、ブロアーで吹くだけで水滴を除ける点もありがたい。

作例

それでは早速作例をご覧いただきたい。筆者は自身でも本レンズを購入しているのだが、購入にあたっては「絞り開放から四隅が使える(かも)」という点に期待を抱いていた。このあたりも含めて使用感を確かめていった。

照葉樹の森に雨が降る。年に一度の大切な新緑の季節。霧のグラデーションも滑らかに描写している。

Panasonic LUMIX S1R / SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN|Art(22mm) / マニュアル露出(F9・1/320秒) / ISO 640 / 手持ち

大径木に会いに行くのが好きだ。そこにその樹がある、というだけで気持ちが落ち着く。それは自然というものの持つ大いなる力のひとつだろう。

Panasonic LUMIX S1R / SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN|Art(24mm) / マニュアル露出(F13・1/8秒) / ISO 2000 / 手持ち

標高500mほどしかない「やんばる」だが、霧に覆われる森がピンポイントで存在する。そんな場所を自分で見つけて、小さなものたちと会話する時間は楽しい。

Panasonic LUMIX S1R / SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN|Art(20mm) / マニュアル露出(F2.8・1/200秒) / ISO 1250 / 手持ち

沢筋を歩いていく。というより、這いずっていく。倒木や藪ばかりだからだ。でもその倒木が森の営みを支えている。三脚の使えない泥地ではボディ内手ブレ補正を活用しながら構図を追い込んでいく。

Panasonic LUMIX S1R/SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN|Art(20mm) / マニュアル露出(F9・1/20秒) / ISO 2000 / 手持ち

緑の中に赤い色。心を少しざわつかせる。本レンズの最短撮影距離は28cm。ここまで被写体に近づけると色々な状況に対応できる。周囲のボケに不安定感はない。積極的に使っていけそうだ。

Panasonic LUMIX S1R / SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN|Art(24mm) / マニュアル露出(F2.8・1/30秒) / ISO 2000 / 手持ち

紅葉や黄葉の季節のない沖縄。けれども時々ハッとするような色に出会うことがある。普段は目立たない地味なアカギの葉が、流れの中で静かに時を物語る。

Panasonic LUMIX S1R / SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN|Art(24mm) / マニュアル露出(F14・1秒) / ISO 2000 / 三脚使用

ありふれたシリケンイモリだが、ゆったりとした動きはなんとも雄弁だ。撮影した頃は恋の季節であった。無言でもう1時間余り寄り添って動かない。う~ん、妻に会いたくなってくる。

Panasonic LUMIX S1R / SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN|Art(24mm) / マニュアル露出(F2.8・1/100秒) / ISO 1600 / 手持ち

LUMIX S1Rの画づくりのひとつ「モノクロームD」は高い質感と階調性を持つ。イタジイの新緑の、色よりも艶やかさを浮かび上がらせたくて、カラーモードをモノクロに変更。光を邪魔しない本レンズの素性の良さが感じていただけることだろう。

Panasonic LUMIX S1R / SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN|Art(24mm) / マニュアル露出(F9・1/1,250秒) / ISO 1000 / 手持ち

その斜面だけにスジヒトツバの群落があった。どう見ても他の斜面との環境の違いがわからない。長らくかんがえていると、一筋の風が抜けてきた。

Panasonic LUMIX S1R / SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN|Art(20mm) / マニュアル露出(F5・1/30秒) / ISO 1600 / 手持ち

暗い森の底で天井の光を受け止める。海の底でみる風景と同じだ。風景は底辺からみるほど深みをもつ。EVFの場合、光学ファインダーと違って暗くても補正してくれるため、周囲が真っ暗になった状況でも撮影が続けやすい。

Panasonic LUMIX S1R / SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN|Art(18mm) / マニュアル露出(F11・8秒) / ISO 1250 / 三脚使用

樹々が密生して台風に備えているような気がした。後ろに下がれない場所ではやはりズームレンズが力を発揮する。本レンズの広角端は14mm。迫力を出したいわけではないので、あおりすぎないように注意して構図を決めていった。1/8秒の手持ちだが、ボディ内手ブレ補正の確かな助けもあり、しっかりと目の前の景色を写しとめることができた。

Panasonic LUMIX S1R / SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN|Art(14mm) / マニュアル露出(F11・1/8秒) / ISO 3200 / 手持ち

森では時間がすべてのものを繋いでいる。樹々、霧、コケ、光、大気など、あらゆる要素が関わりあっているのだ。そうしたあえかな光をもしっかりと受け止めてくれる。

Panasonic LUMIX S1R / SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN|Art(17mm) / マニュアル露出(F11・10秒) / ISO 2000 / 三脚使用

雨霧が去り、森にまた新たな時間が訪れる。空も暗部も情報がしっかりと残っていて、微妙な空気感を引き出せた。不自然さが出そうだったのでハーフNDフィルターなどは使っていない。

Panasonic LUMIX S1R / SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN|Art(14mm) / マニュアル露出(F9・1/3,200秒) / ISO 1000 / 手持ち

強い逆光となる条件であっても、ごく小さなゴーストが確認できる程度だった。ナノポーラスコーティングのおかげか、逆光時にもヌケがよく、フレアやゴーストがよく抑えられている印象だ。

Panasonic LUMIX S1R / SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN|Art(14mm) / マニュアル露出(F5.6・1/1,600秒) / ISO 500

絞り込んだ時の描写の変化

さいごに、絞りを変えていった時に描写がどのように変化していくかをご覧いただきたい。ボケ味についてはどこまで求めるかで評価は変わってくる。筆者の見方では、四隅の解像性能を重視しているので、ボケ味は求めない考えでいるが、どうだろうか。本レンズの絞り羽根の枚数は11枚となっており、円形絞りも採用している。

まずは14mm側。F2.8開放とF5での画質を比較した。画面右下を拡大してみよう。絞り解放F2.8から画面四隅が流れることなく解像していることがわかる。変化はごく小さなもので、一見して違いを判別することが難しいくらいだ。

Panasonic LUMIX S1R / SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN|Art(14mm) / マニュアル露出(F2.8・1/1,300秒) / ISO 500
F2.8
1/1,250秒 / ISO 500
F5
1/500秒 / ISO 500

次に24mm側。絞り開放となるF2.8では14mm側よりほんの少し甘いようだ。EVFで拡大表示して厳密にピントを合わせた。星景にターゲットを絞り14mm時に性能を最高にするよう設計されているのだろうか。だが、その差はごく小さいもので、見事な解像感が得られる。

Panasonic LUMIX S1R / SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN|Art(24mm) / マニュアル露出(F2.8・1/1,300秒) / ISO 500
F2.8
1/1,250秒 / ISO 500
F5
1/400秒 / ISO 500

近接時の描写変化についてもみてみよう。24mm側でF2.8とF5の描写を比較してみた。絞り開放時のボケには輪郭がついていることがわかる。背景によっては少し絞ったほうが素直なボケになるだろう。円形絞りなのでF5の時のボケは悪くない印象だ。

F2.8
1/100秒 / ISO 1600
F5
1/40秒 / ISO 1600

まとめ

シグマのレンズには、実は苦い思い出がある。駆け出しのカメラマンだった頃、先輩から紹介されたブツ撮りでのこと、現像からあがってきたフィルムがすべてのカットで露出オーバーになってしまっていたのだ。原因はレンズ内部の絞りリング連動部分が壊れていたこと。この故障に気づかずに撮影していたことで、露出バランスが狂っていたのだ。

そんな過去があったため、本レンズについても正直なところ、構えていた部分があった。だが、筆者の厳しい使い方にも本レンズはしっかりと応えてくれた。森の中は血を吸うブユやヌカカが常にまとわりついてくるし、ハブも生息しているのでそちらに気を配る必要もある。機材にまで気を遣うことは難しいので、自然と機材には耐久性を求めていくことになるわけだが、本レンズは故障知らずで、厳しい使用を経てもなお、操作部等に問題は発生していない。

さて、筆者は本レンズのリアルユーザーで、今回のレビュー自体もふだんの実使用をふまえた視点からお伝えしている。本レンズを購入した際の判断基準は「14mm~20mm域で絞りを開放にした状態で3m以上離れた風景を撮ったときに、解像感が優れていること」としていた。同社では「星景撮影の決定版」と銘打っているが、星の撮影だけに使うのはもったいない。筆者自身、最初は本レンズは「星専用なのかな」と思い、購入の選択肢に入れていなかったのだが、結論はご覧のとおりだ。

AFはとても静かでピントも瞬時に合う。森で使った感覚では、かなり暗い宵の時間になっても合焦に迷いはみられなかった。低照度に強いボディを選ぶ前提はあるものの、このAFには満足だ。AF-SもAF-Cもスピードと精度は見事。スピードと粘りのあるAF-Cにも対応しており、揺れる草を捉えたい場面でもしっかりと撮影を助けてくれた。

【2020年8月12日追記・修正】記事初出時にカメラの電源をオフにした際にピント位置が記憶されないとしていましたが、テスト実施時に「レンズ位置メモリー」をオフにしていたことが原因だったことが判明し、該当箇所を修正しました。また同機能をオンにすることでピント位置が正常に記憶されることを確認しました。お詫びして訂正いたします。

ただ、問題が全くないわけではなかった。困らされたのは、電源を切るたびにピント位置が遠方に戻ってしまうことだった。ミラーレスカメラは一眼レフカメラに比べて消費電力が大きい。筆者はソニーα7シリーズも使用しているが、電源をこまめに切る習慣が身につき始めている。そうした習慣から電源をオフにしがちなのだが、電源をカットする度にピント位置が戻ってしまうので、地味にストレスだったのだ。LUMIX Sシリーズのレンズではちゃんと記憶してくれているので、このあたりの使い勝手はファームアップによる改善を望みたいところだ。

テスト時は位置メモリーをOFFにしていたが、この機能をオンにしたところ
正常にピント位置を記憶していることが確認できた。

シグマのレンズと付き合って30年。今、シグマはライカとパナソニックとLマウントアライアンスで協業し、SIGMA fpのような注目すべきカメラ製品も世に送り出している。その終わりなきチャレンジを僕はこれからも楽しみにしている。

今泉真也

写真家。高校から登山と素潜りを始め、沖縄国際大学で沖縄戦聞き取り調査などを専攻後、撮影活動を始める。シーカヤックから冬山登山までアウトドア全般をこなし、一貫して琉球弧から人と自然のいのちについて発信を続ける。映画・映像分野でも作品を発表、短編映画「Mother」は海外13カ国の映画祭で上映されている。写真集に『ジュゴンに会った日』(高文研)などがある。日本風景写真家協会会員。