新製品レビュー

SONY FE 24mm F1.4 GM

小型軽量なGマスターレンズ 星景写真を始めたい人にも

24mmのレンズは、はっきりと広角レンズらしさを感じる描写と広めの画角が様々なシーンで使いやすい定番レンズであるが、長らくソニーのEマウントには、大口径・単焦点の24mmが存在しなかった。それゆえ、「FE 24mm F1.4 GM」(SEL24F14GM)は、大きな期待がかかるレンズなのである。前述の広角らしい描写に加え、大口径によるボケの効果をふんだんに使うことができ、画面の構成、被写体の整理を自由に行うことができるからだ。

様々なシーンで使いやすい画角

画面の構成や被写体の整理を自由に操作できるということは、すなわち広い画角で主題の置かれた状況を説明しつつ、背景をボカし主題を浮き立たせることで、画面内の情報を整理しより自分の意図に沿った描写ができるということだ。

もちろん、しっかりと絞り込んで緻密な描写を行いたい風景写真においても日常的に使う画角であるし、地上の風景と星空を同じ視野に取り込む星景写真においては、風景と星座を適度に写しこめるゆえ、標準レンズと考えても良いくらいだ。24mmは、様々なシーンにおいて重要な画角であり、使用頻度の高いものであるがゆえ、その性能に寄せる期待は大きくなるのである。

メーカーHPのMTF曲線によれば、絞りF1.4の開放であっても高い解像力を写野中心から最終辺まで維持している。

もちろん最終辺に向かってコントラストは減少しているが、その落ち込みは極めて穏やかだ。特に注目すべき点は放射方向と同心円方向のグラフが高周波、低周波ともに揃っていることだ。これらの特徴は開口効率の良さとサジタルコマの少なさを表しているとみてとれる。

レンズ筐体自体は、大口径レンズとしては格段に小さく、α7R IIIとの組み合わせでは非常にバランスがいい。それほど小さな筐体の中に高性能が詰め込まれているレンズである。

シンプルながら使いやすさに配慮したデザイン

最近のレンズは各社とも申し合わせたようにシンプルなデザインになりつつある。しかし、それが時代感と感じるし、新しい製品であるとイメージできる。

本レンズのデザインもシンプルなラインで構成されており、表面処理と素材の違いで変化が作られている。そのシンプルな中にGマスターを示す、赤い銘板や赤い指標をあしらうことで熱情と変化を加えている。それでもシンプルで上品なデザインにまとまっていることは流石だ。

Gマスター銘板の下にはフォーカスホールドボタン、AF/MF切り替えスイッチが配置される。コンベンショナルな配置であるが、適度にボディから離れた位置であるので、操作のしやすいものだ。

近年は電磁絞りが採用されるため、絞り環は省略される傾向にある。本レンズももちろん電磁絞りであるが、絞り環を残し、絞り値をしっかりと刻印している。

絞り環の刻印とクリックは1/3段刻みであるが、回転角が大きいため、表示は見やすく、回転操作も行いやすい。赤い「A」の指標はボディ側から絞りをコントロールする際のポジションである。

実用面から見れば、絞り環がなくても構わないし、クリックがなくても差し支えない。しかし、絞り環を指先で操作するというフィジカルな行為は、カメラを操作する楽しさや所有する喜びに直結しているものだ。実利面から見れば演出のための装置であるが、我々の脳は常に身体感覚と結びつき、意識を作っているということを忘れてはならないのだ。

右手側にはCLICKスイッチが配置されている。前述の絞り環のクリックを解除するものだ。

ソニーユーザーにはすでに馴染み深いものだろう。この機能は実利面から捉えられる。静止画撮影においては、絞り環を操作するときにクリック感があった方が操作しやすいが、動画撮影時は、そのクリックの振動が画面を揺らしたり、音として記録されてしまう。クリックを解除することで動画記録時にも絞り値、つまりボケの効果を自由に扱えるのだ。

ソニーEマウントの口径は46mmである。各社フルサイズミラーレスが出揃った現在では、そのマウント口径は小さい方だ。

マウント口径が大きい方が開口効率において有利である。開口効率は開放時の周辺光量落ち、周辺解像力、ボケの欠けなどにつながる。しかしながら、本レンズの開口効率や実写からすると、マウント口径はあまり不利な条件とはなっていないように思える。開口効率もレンズ自体の設計の高度化によって、高効率とすることが可能だからだ。

レンズ正面は花形フードを取り付けるためのバヨネットも含めて、極めてコンベンショナルだ。本レンズにはフレアやゴーストを抑えるナノARコーティングが採用されているほか、第一面には撥水コートが施されている。こうしたコーティングは、高性能レンズでは一般的なものとなったが、撥水コートは雪や雨を弾くほか、汚れも付きにくく実用上ありがたい装備である。

レンズを覗き込むと素晴らしく黒いという印象だ。レンズコバ塗り(レンズの縁を黒く塗ること)が施されているかどうかは定かではないが、コバが見えることもなく、丁寧な作り込みがなされたレンズであることがわかる。

点像の描写をみる

本レンズは画面周辺まで、星が点像として写る。多くのレンズではF4程度まで絞りこむと星が点像に映るのだが、本レンズではF1.4開放でほぼ点像を得ることができるため、星景写真も短い露光で済ますことができる。

この作例では赤道儀を使用して、星の動きを追尾したが、感度を上げて4秒程度の露光にすれば三脚のみで十分だ。一方、木々は星を追尾した分、ブレている。画面中心にうっすら雲のように見えているのは天の川である。

ソニーα7R III / FE 24mm F1.4 GM / 24mm / マニュアル露出(F1.4・15秒) / ISO 800 / 赤道儀(ケンコー スカイメモS)使用

画面左隅を100%に拡大した。ほんの少しサジタルコマが残っているが、実用上は点であり素晴らしい。撮影したままではみえにくいので、拡大画像のみ明るく補正した。

後ろボケ

ボケの状態も注目すべき点だ。菜の花を懐中電灯で照明し、背景に遠くの街灯を入れボケを活かした。本レンズの後ろボケは縁が明るいリング状傾向はごく弱く、綺麗な円盤となっている。ボケがリング状(輪線ボケ)になってしまうと一般的な被写体ではボケのざわつきや二線ボケにつながってしまうのである。

ソニーα7R III / FE 24mm F1.4 GM / 24mm / マニュアル露出(F1.4・1/10秒) / ISO 800

画面左端を100%拡大した。本レンズは開口率も良好だ。開放ではボケは若干レモン型だが、F2に絞るとほぼ円形となる。

F1.4
F2

絞りによるボケ描写の変化

輝点のボケがリング状になっていない本レンズでは、一般被写体においてもボケがざわつくことなく、自然なボケ味となる。自然なボケ味とは、ピント面の後ろから急激にボケることがなく、距離に応じてボケが大きくなってゆく状態だ。ピントを合わせた位置はおよそ3m先であるが、広い風景の中でボケによって自然な距離感を得ることができた。

画面中央を100%拡大した。ピント面からボケへの移行はスムーズで突然ボケる印象はない。そのため、距離感が自然なのだ。

ソニーα7R III / FE 24mm F1.4 GM / 24mm / 絞り優先AE(F1.4・1/2,000秒・±0EV) / ISO 100

ピント位置までおよそ1.5mであるが、少し絞って見た。絞ってもボケは柔らかいボケ感を維持したまま、ディテールが見えてくる。ボケを生かすことは画面の情報整理を積極的に行うことであるが、絞りによって大きく描写が変わることはなく、意図通りの作画ができる。

画面中央を100%拡大した。F1.4では背景のボケは大きすぎる印象。また、若干の逆光でもあるので、ボケにパープルフリンジが乗ってしまう。少し絞ることで背景の描写を落ち着かせることができる。

ソニーα7R III / FE 24mm F1.4 GM / 24mm / 絞り優先AE(F2.8・1/2,500秒・±0EV) / ISO 200
F1.4
F2.8

最短撮影距離

夜露に濡れた雑草を最短撮影距離で撮影した。大口径広角レンズとは思えない解像力の高さだ。作例は開放での撮影だが、中心部においては目を見張るような解像力だ。また、最短撮影距離であってもボケは前後共柔らかく美しい。

ソニーα7R III / FE 24mm F1.4 GM / 24mm / 絞り優先AE(F1.4・1/8秒・±0EV) / ISO 800

光の性質から遠い被写体と近い被写体では、レンズの設計が違う。本レンズも含め、通常は遠い被写体に合わせ、近い被写体ではマクロレンズとするのだ。本レンズはレンズ群の一部でフォーカスするが、その際に近距離にも最適な補正をしているのである。

画面中央を100%拡大し、仔細に見ると、合焦近傍の前ボケはリング状である。これは夜露に反射した光源があるからで、被写体次第と言える。気になる場合は、絞りこむとボケが収束して落ち着いて見える。ここでは絞り値F4の画像と比較した。

F1.4
F4

逆光

逆光はドラマチックな演出に欠かせない光の状態だが、レンズにとってはゴーストやフレアの原因となり、描写において好ましい状態ではない。その点、本レンズでも抜かりはなく、逆光でも描写に対する影響はない。作例は灯台であるが、夜空に対して灯台の光は輝度差が大きく、ゴーストやフレアがはっきりと出てもおかしくない厳しい条件である。

ゴーストは光源に対して画像中心の反対側に現れる。その位置を拡大して見たが、ほぼわからない。なお、拡大部中心の輝点は星であって、ゴーストではない。画像として成立しない程度までコントラストや明瞭度を上げる処理を行うとやっとゴーストの存在を確認できるという程度だ。

ソニーα7R III / FE 24mm F1.4 GM / 24mm / マニュアル露出(F1.4・4秒) / ISO 800

解像力

他の作例でも解像力の高さが見て取れるが、ここでは開放とF2.8を比較した。

中心部においては、甲乙つけがたく桜の花びらの柔らかなディテールと石畳に散らばった砂つぶのディテールもよく描写されている。本レンズでは開放から最良に近い解像力が出ており、おそらくF2.8で最良近くになるように見て取れた。絞りによって違いが出てくるのは周辺部だけと考えても実用上問題ないだろう。

画面左端を100%拡大した。被写界深度に違いがあるので、合焦面にのみ注目する。最も左端となる部分では、石畳の面や砂つぶのディテールに違いがある。右端は画面中心に近い部分だが、解像力の差はとても小さい。

ソニーα7R III / FE 24mm F1.4 GM / 24mm / 絞り優先AE(F2.8・1/200秒) / ISO 200
F1.4
F2.8

まとめ

Eマウントシリーズはシステムとして後発であったが、この近年のレンズの拡充は目をみはるほどだ。FE24mm F1.4の登場によって、常用域と言える24mmから85mmまでの大口径系レンズのラインアップが完成したといえよう。

どの大口径レンズも素晴らしい性能を持っているが、中でも、今回の24mm F1.4は特別だ。様々なシーンにおいて文句のつけようのない高度な結像性能を小さな筐体に収めているためだ。大口径レンズで高い開口効率を確保するためには通常はレンズ口径・レンズ筐体ともに大きくなるが、設計の工夫なのだろう、筐体を大きくせずに高い開口効率を保っている。高い開口効率は開放時のボケの美しさ、写野周辺の解像力にとって大事な要素なのだ。

本レンズの小ささは、コンパクトなα7シリーズとのバランスがよく、常用レンズとして持ち歩くユーザーも増えることだろう。どのようなシーンでも最高の描写と言えるが、特にこれから星景写真を始めるユーザーにオススメしたい。開放で周辺まで満足できる点像を生むので、3〜4秒の露光でも感度を抑えて撮影できるからだ。そうすると撮影時に必要な機材は三脚のみとなり、他に機材を必要としなくなる。これから夏に向けて、天の川の撮影に挑戦してみてはどうだろうか。

茂手木秀行

茂手木秀行(もてぎひでゆき):1962年東京生まれ。日本大学芸術学部卒業後、マガジンハウス入社。24年間フォトグラファーとして雑誌「クロワッサン」「ターザン」「ポパイ」「ブルータス」を経て2010年フリーランス。