新製品レビュー
SONY FE 20mm F1.8 G
α7シリーズとの好バランス設計 逆光耐性の高さも光る
2020年4月8日 06:00
ソニーの35mm判フルサイズミラーレスカメラ用の交換レンズとして3月に発売されたばかりの大口径広角単焦点レンズ「FE 20mm F1.8 G」のレビューをお届けする。本レンズはソニー製のEマウント単焦点レンズの中で、もっとも広い画角を持つ超広角レンズだ。高度非球面AAレンズ2枚とEDガラス3枚を配置した最新光学設計により開放F値F1.8から画面全域での高解像の実現と美しく自然なボケの両立を謳う1本となっている。
コンパクトな鏡筒に絞りリングを搭載
本レンズは、Gレンズとして初めて絞りリングが搭載された。絞りリングは右手側に配された「絞りリングクリック切り換えスイッチ」によりクリックとデクリックの切り替えが可能となっており、動画と音声を同時記録したいシーンでクリック音を抑制した撮影が可能となっている。
また絞り値をオートにするA位置はロックボタンは設けられていないものの、固くクリックして止まるので、リング操作で絞り値を調整するポジションからの移行が感覚的にわかりやすくなっている。
絞りは1/3段での調整が可能となっている。
レンズ筐体左側面にはGレンズのエンブレムが配されている。下側に向けてカスタマイズ可能なフォーカスフォールドボタン、AF/MFのフォーカス切り替えスイッチが備わっている。
67mm径のフィルターが装着でき、前玉が回転しないインターナルフォーカシングを採用している。円偏光フィルターやNDフィルターの使用も可能だ。静止画だけでなく動画などの撮影でも使いやすいデザインとなっている。
また最短撮影距離は19cmとなっており、ワイドな画角をいかした準マクロ的な近接撮影も可能だ。
レンズ自体は73.5×84.7mmで、重量は373gと軽量コンパクトな設計となっている。これにより、ボディに取りつけた状態を見てもわかるとおり、とても小ぶりなレンズとなっていることがわかる。防塵防滴にも対応した設計となっている点もポイントだ。
花型のレンズフード「ALC-SH162」が付属する。
作例
本レンズの最短撮影距離は19cm。被写体にはレンズフードがぶつかりそうになるくらい寄ることができる。ここではグッと小さな椿の花に寄ってみた。広角ならではの遠近感がありながら、柔らかで美しい背景のボケが得られた。ボケのグラデーションもなだらかで自然な味わいを演出してくれる。
太陽光が直に入るアングルで撮影した。厳しい条件での撮影だが、フレアやゴーストは僅かで、完璧な光条が描きだされている。本レンズはナノARコーティングが施されているが、「フレア・ゴーストを抑え高い耐逆光性能を実現」したとソニー自身が訴求しているような、逆光耐性の高さが実感できた。
同じく太陽光が画面中央付近にくる構図で撮影。枝垂れ桜と若い芝を太陽が美しく立体的に照らし出す。ゴーストの発生がみられるが、派手な印象はなくコントラストの低下もごく僅かだ。
絞りをF3.5まで絞っただけで画質は格段に向上する。コンクリートやタイルのリアルな質感を描き出すことができた。広角レンズながら歪みは気にならない程度に抑えられているため、建造物内でのアオリ撮影でも違和感のない写りが得られる。
歴史的な建造物の壁面を構成する美しい焼き物も、おそらく美術的な価値が高いのだろうと思われる。
F5まで絞り込むと解像感もいっそう増してくる。使用しているボディα7R IVの描写性能もあるだろうが、被写体の持っている雰囲気を充分に引き出してくれるレンズだ。
足元の素敵な絨毯にピントを合わせた。絞りをF2にして奥行き感を引き出した。広間に並ぶライトスタンドが自然な玉ボケとなっており、アウトフォーカスにかけてのボケ具合も文句なしだ。
後ボケと前ボケの描写をみた。被写体はマーガレットの群生だ。ピントは画面中央左手の花に合わせている。ボケの出方はとても自然で、後方の玉ボケと手前ボケともに柔らかさを感じさせる描写。
横浜港のシンボルでもある氷川丸を背景に、晴天の青空のもとでジャンプする中学生たちを撮影させてもらった。開放F値F1.8での撮影だと周辺光量が若干落ちていることがわかる。しかし、合焦部の解像感は十分に高い。
奥の建物にフォーカスして、手前の壁をボカした。前ボケはフワッとしたボケ味で描写されている。
モルタル吹きつけの壁やガラス窓、ブリキ、錆びた金属、ビニール製の雨よけ、木製椅子、デニム生地などなど、それぞれの質感や特徴の再現性は良好だ。
日没後の残照と灯りが灯り始めた時間帯のミックスカット。手持ちでの高感度撮影だが、低照度でも充分なグラデーションと克明な描写が得られた。
地面に直置きしての撮影。完全な水平はとれていないが、両端を除けば広角レンズ特有の歪みがとても小さいことが確認できる。
歩きながらでもサクッと夜景を撮れるのも、大口径レンズならではの強みだ。夜の横浜の街には、やっぱり“YOKOHAMA”という文字の方がよく似合う。
何本もの線路から成る直線を斜め俯瞰から見下ろすようにして撮影。ココでも気になるような歪みは感じられない。
7〜8段、もしくはそれ以上はありそうな輝度差の高い条件でも、暗部のディティール再現には目をみはるものがある。背景が暗い天井ライトの周辺にフレアの発生が確認できるが、開放に近いF2での撮影結果としては、十分に許容範囲に収まっていると思える。
久しぶりに立ち寄った、ある路線の乗り換え駅。古いままの木造の屋根がかわいい。3mくらいの距離から手前の柱にフォーカスして撮影したが、後方は自然にボケていくのが開放F1.8の醍醐味だ。
公園のフェンスの一部に斜めからフォーカスして、絞りを開放にした際の前後のボケ味をチェックした。合焦面から徐々にボケていく感じは実に自然だ。
漁師の奥さんたちがちょうど海藻を干している風景に出会った。絞り込んだ状態での逆光耐性をみるために、太陽が画面に入る構図で絞りF5.6で撮影した。ご本人の顔出しNGなので主役は海藻で(笑)。ゴーストの発生が一部にみられるが、海辺の強い光の中ながらコントラストの低下はごく僅かだ。
ビーチを散策する人々にピントを合わせて、防風柵の隙間から撮影。開放F値がF1.8と明るく、前ボケも自然な描写となるため、ちょっとした工夫で色々な表現が楽しめる。このように絞り値を変えて表現に変化をつけることができるところも、大口径レンズならでの楽しみだろう。
灯りが点った外灯の丸いライトにピントを合わせた。アクセントになる被写体を待っていると、ひと組のカップルがやって来た。暮れていく空を背景にアンダー目で半分シルエットにして描き出した。
日没が近づいてきた頃、海岸線を歩く女性たちが目にとまった。フォーカスを奥の女性に合わせて撮影。絞りはF1.8にあわせた。被写界深度が浅いので手前の女性も向こう岸の風景もボケている。
至近距離からクルマのテールランプを捉える。メタリックな質感を残しながらも、なめらかにボケる感じが自然で良い。
パンフォーカスに近い描写をみるために、手持ちで縦位置撮影をしてみた。絞りはF22まで絞り込んでいる。コンパクトなレンズとボディの重量バランスが良いからか、安定したホールディングが得られる。1/10秒のスローシャッターでもストレスなく撮影できる。α7R IVのボディ内手ブレ補正もしっかりとその役割を果たしてくれた。
撮って出しの画像だが、気になるような歪みはほとんど感じられない。何度もふれていることだが、違和感のない描写が得られるため、構造物や自然物など様々な被写体でしっかり使っていける。
奥の建物のマネキンにフォーカスして遠近感を強調してみる。絞りは開放のF1.8。広角表現に大口径が加わり、視覚的に楽しい世界が広がる。
まとめ
事前にスペックを見て大きさや重量などはある程度わかっていたのだけれど、実際にカメラに装着してみての第一印象は「とにかく軽くてフィットする!」だった。筆者自身、ミラーレスカメラを使用するようになって久しいが、ミラーレスカメラになっても35mm判フルサイズ用のレンズは、イメージサークルの問題もあって、画質性能がいくら良くてもレンズが大きかったり、ヘビー級な重さだったりするケースが多かった。
こうしたレンズは確かに良いのだが、せっかくコンパクト化したボディの利点がいきていないように感じていた。ミラーレスカメラは小型軽量化がシステムとしての大きなアドバンテージのひとつでもある。こうした恩恵を感じられないので、やはりレンズもそれに見合った大きさであったり、重量バランスであることが望ましい。と、そうした思いを抱えていたところに登場した本レンズは、まさにそんなワガママな要望に応えてくれるかのようだった。
今回、作例写真は太陽を画面内に入れた完全な逆光線下でのカットも多数交えて紹介している。夜景や接写撮影など、今回も相変わらず“レンズいじめ”ともいえるような条件を含めて撮影してみたのだが、いかがだったろうか。
結論から言えば、個人的には全般的に期待以上に素晴らしかった、というのが素直な感想である。メーカーのアナウンスにあるように、非球面レンズとEDレンズを使った最新設計によって滲みの少ない高い解像を実現していることや、ナノARコーティングの採用による高い耐逆光性能の獲得など、相当に高い画質性能を誇るレンズとなっている。
歪曲収差に関しては、広角レンズ特有のディストーションがわずかに認められるものの、超広角20mmという焦点距離としては、目視ではまったく気にならない程度に抑えられていると感じる。
AFの動作も静粛俊敏だ。それというのも、Gマスターレンズなどで採用実績のあるXDリニアモーターを搭載していることもあり、AF動作は速さもさることながら、精度面でも瞬時に正確な合焦をする。また、マニュアルフォーカス時のフォーカス操作もスムーズにできた点もポイント。
F1.8の単焦点レンズシリーズとしても、Gを冠するレンズとなっていることや、絞りリングの搭載などトピックとなる点も多い。クリックON/OFF切替スイッチが搭載されている点も動画撮影時に作動音を出さないで操作できるため、昨今の傾向ともなっているスチル撮影に加え、動画撮影の機会が増えてきていることの証しだろう。
開放F値をF1.8に抑えたことで、小型軽量化の実現にも繋がっている。レンズ重量は373gで、数値自体は特別に軽いわけではないのだが、レンズ内での重量配分が良いからなのか、ボディ装着時のホールディングバランスが優れているので実際の重さよりも軽く感じられたのかもしれない。実際に試用してみた結果として、画質、操作感、サイズや使い回しの良さなど、フルサイズαとの組み合わせで、トータルバランスがとても良く取れた優秀なレンズとなっていた。