特別企画
カメラグランプリ2019レンズ賞 ソニー「FE 24mm F1.4 GM」と「俺のお勧めG Master」を写真家3名が語る!
G Masterとは結局何なのか…それぞれの考える魅力
2019年6月7日 12:00
「カメラグランプリ2019」の各賞が発表になり、レンズ賞にソニーの「FE 24mm F1.4 GM」が選ばれた。ソニーα用のレンズのうち、最上位ラインとなる「G Master」シリーズのひとつだ。
今回、写真家の河田一規さん、落合憲弘さん、吉森信哉さんの3人に集まってもらい、交換レンズに関する座談会を開催。改めて「FE 24mm F1.4 GM」の魅力を聞き出すとともに、ソニーの高級レンズシリーズ「G Master」全体について思いの丈を語ってもらおうという企画だ。
3名ともカメラ雑誌のレビュアーであり、カメラグランプリ2019の外部選考委員でもある。仕事柄、あらゆるレンズを試しているこの3名は、「FE 24mm F1.4 GM」について、そして「G Master」について、どのような感想を披露してくれるのだろうか。(編集:中村僚、司会:デジカメ Watch 折本幸治)
小さく軽い、でも高画質な「FE 24mm F1.4 GM」
——カメラグランプリ2019レンズ賞にFE 24mm F1.4 GMが輝きました。このレンズをお使いになった印象はいかがですか?
吉森:使用する前から小型で軽量と聞いていましたが、実際に手にとってみて、「ここまで小さいのか」と感じました。大口径レンズはどうしても大きくて重いレンズが多いのですが、その常識から考えると24mm F1.4というスペックでこのサイズ、この重さには驚きましたね。
吉森:それでいて写りも良い。大きく伸ばした星の写真のプリントを見せてもらったのですが、画面の端の星が点光源としてきっちりと写っている。さすがにこれは少し絞って撮影しているのかと思いきや、絞り開放での撮影でした。
フルサイズならではのボケも魅力的です。私は普段、APS-Cセンサーを搭載したカメラやマイクロフォーサーズ機を使うことが多いのですが、その感覚からすると、24mmの広角でこれだけボケるのはフルサイズならではといったところです。
広角レンズのボケはあまり目立ちませんが、逆に良し悪しが目立ちやすいのです。その意味でいうと、このFE 24mm F1.4 GMで撮影した写真は、クセのないなめらかなボケが表現できています。
河田:必ずしも大きいことが悪であると思わないですし、大きい機材には大きいなりの理由があります。が、やはり同じ性能なら小さい方がありがたいです。FE 24mm F1.4 GMの撮影はすべて自転車移動でしたが、これだけ小さいと本当に助かりますね。このレンズはとにかく機動性が高い。
河田:フルサイズのカメラを使う理由のひとつに、広角レンズでもぼかせる、ということがあります。ただ、大口径の大きなレンズでないとフルサイズの良さ(ボケ味の魅力)を味わえないとなると、ユーザーは限られてしまうし、そもそも持っていく気になれません。「軽く・小さい」は正義です。
そして小さくても画質はほかの最高級レンズと遜色ありません。絞り開放からシャープネスははっきりしていますし、ボケ味もなめらかです。
落合:僕も基本的には機材は小さくて軽い方がいいです。「よく写るレンズ」=「大きく重い」というのは昔からの方程式ではありますが、FE24mmF1.4GMを使うと「やっぱり軽い方がいい」と改めて思わされますね。
落合:従来のこの手のレンズは、開放F値で撮るときには、描写面でそれなりの覚悟みたいなものが必要だった。画面四隅に近いところの再現であるとか、全体のコントラストであるとか、どうしても妥協せざるを得ないところがありがちでした。でもこのレンズは違う。どんな用途でも躊躇なく開放F値が使えます。ソニーが大口径超広角単焦点レンズの領域に堂々この性能をひっさげて踏み込んできた心意気には敬意を表したいです。他のメーカーは戦々恐々ではないでしょうか。
僕のこの写真は最短撮影距離で撮ったものなのですが、ピントが合っているピンポイントのシャープさはもちろんのこと、なにより背景のボケがここまで安定していることに驚きました。超広角レンズの開放F1.4の最短撮影で、これほど素直なボケの得られるレンズはそうそうないと思いますよ。
——個人的には、このタイミングで24mm F1.4の登場は少し意外でした。メーカーが単焦点レンズのラインナップを揃える上で、24mm F1.4は後回しになりがちではないでしょうか。思ったより早い印象です。
吉森:私は昔から24mmを使ってきたのでありがたかったです。単焦点の広角レンズユーザーは、21mm、24mm、28mm、35mmなど、それぞれの焦点距離にこだわりを持っていますね。
河田:このタイミングで24mmをリリースしたのは、α6400などのAPS-C機との互換性を考えた結果だと想像します。フルサイズ用レンズは大きくなりがちで、そのレンズをAPS-C機に装着した時のアンバランスさはかなり抵抗がありますが、このFE 24mm F1.4 GMならあまり気になりません。35mm判換算でも36mm相当なので使いやすいと思います。
落合:それと動画への対応でしょうか。クリックフリーにもできる絞りリングは、まずは動画撮影を意識した装備であると想像しました。レンズ一体型のビデオカメラでは得ることの難しい画角ですので、その辺のニーズも考えているような気がします。
一方、開放F値を安心して使うためには、ボディとの良好なコンビネーションが不可欠です。AFは速さのみならず精度も重要。そして、画角内に広く分布する測距点もあるに越したことはない。つまり、撮影者の要求に余裕を持って応えうるボディ性能があってこそのレンズ性能なんです。その点、このFE24mmF1.4 GMとαボディのコンビには隙がない。非常にバランスのよい使い心地と結果が得られます。
他のG Masterで「特におすすめの1本」は?
——他のG Masterはどうなんでしょうか? みなさんが特に紹介したいものはありますか?
落合:僕は「FE100-400mmF4.5-5.6 GM OSS」を推したいです。このレンズが登場したことで、Eマウントフルサイズαの存在意義が完璧に引き出されたと考えています。近い焦点距離域の「FE 70-300mmF4.5-5.6 G OSS」もよいレンズなのですが、もう少し望遠域が欲しくて迷っているなら、ちょっとお金を貯めてこちらを入手した方がいいでしょう。
落合:開放F4.5-5.6は暗いとの見方もあるかと思いますが、手ブレ補正機能の性能アップや超高感度画質の飛躍的な向上を鑑みるならば、もはやネガティブな要素はほぼ皆無との判断も十分に可能です。決して安くはないレンズなので、けっこうムリをして手に入れたのですけれど、いやぁ、買ってよかったですよ、ホントに。もう1本「FE24-105mmF4 G OSS」を持っていれば、たったの2本で24mmから400mmまでカバーできちゃいます。実際、αボディを持ち出して行う撮影の9割5分はこの2本だけでこなしています。
河田:私もα9が出た時に「FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS」を使いました。スポーツの撮影のときはカメラを持っている時間が長いので、ボディとトータルで軽いのが本当に助かります。ずっと持ち続けていても楽なんです。ピントもバッチリ合いますし、電子シャッターでもローリングシャッター歪みが起きません。流し撮りもやりやすいですね。画質もまったく不満はありません。
ウォークマンの歴史からも分かりますが、ソニーは小型化に重点を置いているメーカーだと思います。その経験もあって、小さくすることのメリットを理解しており、小さく仕上げる技術が高いです。ボディもレンズも小さくなって、システムとして完成しています。それができるのも、ソニーがセンサーメーカーで、ボディとレンズのバランスの取り方がわかっているからでしょう。そこもソニーの強みなのかもしれません。あとは「FE 16-35mm F2.8 GM」が好きですね。
吉森:僕は「FE 16-35mm F2.8 GM」と「FE 100mm F2.8 STF GM OSS」です。
「FE 16-35mm F2.8 GM」ですが、このクラスとしては非常にコンパクトにまとまっています。逆光でも気になるゴーストはあまり出ず、全体的にクリアな描写になります。フルサイズのF2.8は、APS-Cやマイクロフォーサーズと比べても大きなボケが得られるので、フルサイズの良さが活きてくるレンズですね。ワイド端でもいやな収差があまりありません。
「FE 100mm F2.8 STF GM OSS」は、愛用していたミノルタの「STF 135mm F2.8 [T.45]」からの流れで気に入っています。他のレンズとは段違いにボケが滑らかで、それがデジタルになって帰ってきた印象です。あまり大きくぼかしていない被写体でも、非常に滑らかなボケになる。少しでも絞ってしまうとSTFの良さがなくなりますが、期待通り絞り開放でもしっかり使える点が素晴らしいです。ミノルタ時代と違ってAFレンズになりましたし。
G Masterの存在意義とは
——なるほど。みなさんそれぞれにメリットを見出して使われているんですね。ところで、みなさんがお考えの「G Masterらしさ」「G Masterのキャラクター」とはなんでしょう。
吉森:G Masterは、最もソニーらしさを出そうとしているレンズだと思います。そのひとつが高い解像性能と自然できれいなボケの両立でしょう。G Master全体で共通したコンセプトだと感じます。
落合:ソニーは、プロユースを意識した写真撮影用カメラのメーカーとして、先行する他社に追いつけ追い越せでここまで突っ走ってきたので、他社製品の良いところも悪いところも知り尽くしているはずです。だから、よいモノができてくるのはある意味、必然でしょう。そして、もちろんそこには写真文化に対する真摯な姿勢も反映されている。それらがわかりやすく形になった製品がG Masterの名を冠したレンズなのではないでしょうか。
卓越した描写力だけではありません。例えば、写りには関係なくても、レンズって外観のデザインも重要だと個人的には思っています。G Masterは、そのあたりも抜け目なく作り込まれちゃんと格好いいレンズになっている。全方位に隙のないレンズって感じですかね。
——他のメーカーだと、レンズのラインナップは最高級なラインとやや安価なラインの2種類に大別されますが、ソニーの場合はG Master、G、カールツァイス、無印の複数のラインを揃えています。
河田:製品を作る時にはコストが必ずかかりますが、ある程度コストに目をつぶった時にどんな製品ができるか、と生まれるのが、各社の最高級ラインナップのレンズやボディだと思います。ソニーにとってはそれがG Masterなのでしょう。これにG、カールツァイスという複数のラインが加わる。値段が高い方が優れているのは間違いないですが、ソニーのように高級ラインを複数作るのは新しい試みですよね。
吉森:ボディにエントリー機、ハイエンド機、フラッグシップ機があると、初めはエントリー機から入るかもしれませんが、フラッグシップ機はすぐには買えなくとも「いつかはあの1台を」とユーザーの憧れになるものです。そのレンズ版がG Masterということではないでしょうか。正直にいっておいそれと買えるレンズではありませんが、その性能は間違いない。
これからのG Master
落合:ミラーレスのフルサイズαが立ち上がったとき、Eマウントの高級ズームレンズのラインアップは、ボディの卓越した高感度性能を後ろ盾に開放F値F4で揃えるというこれまでにはなかった新しい試みを見せてくるんじゃないかと僕は勝手に想像していたんです。当初のレンズラインアップがそう思わせた最大の要因だったのですが、ご存じの通りその妄想は見事に大ハズレと相成りまして、ズームレンズは開放F2.8シリーズがちゃんと揃いました。
河田:ただ、まだまだG Masterのラインナップは少ないと思います。スポーツ撮影には望遠レンズが足りませんし、特に単焦点レンズがまだ揃っていません。この後どんな展開になるのか楽しみですね。
落合:はい。最先端αの性能を余すところなく引き出すことのできるレンズがもっともっと出てほしいです。そして、細かい使い勝手に配意する設計は今後も継続をお願いしたいですね。例えば、「FE100-400mmF4.5-5.6 GM OSS」はズームリングの重さがワンタッチで変えられるのですが、タイトな設定にしておくとレンズを下に向けても自重で延びることがなく携帯性に優れ、スムーズ設定にすれば撮影中の画角調整がボディのホールディングに影響を与えることなく思い通りにできます。この2つの要素の両立は、当たり前のようでいて実は実現するのが難しい。ボディの良さを引き出すことのできるレンズというのは、そういう何気ない「扱いやすさ」も身につけているべき。レンズとボディがお互いの性能を引き出し合うことのできる濃密な関係性に、これまで以上に期待したいです。
河田:僕はやはり望遠レンズのラインナップを揃えてほしいかなと。それがないとスポーツ撮影にはなかなか取り入れづらい。それと、現状のラインナップはズームレンズが多いので、個性のある焦点距離の単焦点レンズが欲しいかもしれないですね。AF対応したミラーレンズのような。
吉森:G Masterにも少しチャレンジ精神に富んだレンズはあってもいいですよね。究極の通好みのレンズとか。
落合:この先、そういう「味のある」レンズが出てくる可能性は十分あると思いますよ。ソニーは今、まだ土台固めの段階。まずは定番レンズのラインアップを固めているところなんです。そこから一歩外れるステキなレンズはこれからに期待でしょう。収差をバリバリに残すようなレンズを出す“余裕”がどの段階で生まれるのか定かではありませんが、逆にそういう癖のあるレンズをソニーが出せたら、さらに誰にも追いつけないカメラメーカーになってしまいそうですね。土台が固まった先に何が待っているのか想像するだけで寝られなくなりそう(笑)。
吉森:フルサイズのミラーレスに関して言えば、レンズのラインナップも含めてソニーが圧倒していると思います。さらに土台を固めて盤石な体制を敷いた上で、遊び心のあるレンズを作れば、ユーザーからすると非常に心強いですよね。この先が楽しみです。
制作協力:ソニーマーケティング株式会社