新製品レビュー

Canon EOS R(実写編)

5Dシリーズ並の性能と自由度の高い撮影操作

キヤノン EOS Rは、3,030万画素の35mm判フルサイズ(以下単にフルサイズと表記)CMOSセンサーを搭載したミラーレスカメラ。ミラーレスカメラとしてはAPS-Cサイズのセンサーを搭載したEOS Mシリーズを展開してきたキヤノンであるが、10月25日、満を持して発売した初のフルサイズミラーレスカメラである。

ミラーレスカメラは、同じフォーマットのカメラでもシステムとして小さく機動性が高い。カメラ設定がEVFやモニターに反映されるので撮る前から結果を確認できるなど、一眼レフカメラにはない利点を数多く備えているものだが、従来の一眼レフEOSユーザーとしては「小さくなった分、画質や使い勝手は落ちてしまわないのか?」と心配になってしまうことも多いのが本当のところではないだろうか。

結論からいえば、そのような不安は全て杞憂に過ぎないといっていい。「実写編」となる今回は、そうしたところを重点的に見ていこう。ミラーレスカメラが画質の向上に対して大きなメリットをもっていることがきっと分かるはずだ。

高感度

常用ISO感度はISO 100〜40000。上限のISO 40000は、フルサイズセンサー搭載機として十分に優れた常用最高感度である。

他社製の最新2,400万画素クラスのフルサイズセンサー搭載機は常用最高感度をISO 51200まで上げているため、あるいは数字的に劣っていると感じてしまうかもしれない。しかし、EOS Rは約3,030万画素と、同クラスよりやや画素数が多いので、実質的には同等の高感度性能を有していると考えてよいだろう。ISO 40000とISO 51200というのは、数字的に見てもわずか1/3段の違いでしかない。

問題はどの程度までのISO感度が実用になるかだ。実写結果を確認した限りではISO 3200やISO 6400程度ではPCで画像を拡大しない限り、感度を上げたことによって発生するノイズの弊害はほぼ見られず、実用上はISO 12800、場合によってはISO 25600でも問題なく写真として成立するレベルにあると感じた。常用最高のISO 40000でも、スマートフォンで表示する程度なら、まったく問題なく使用することができるのではないだろうか。

キヤノンはもともと高感度時のノイズ処理に定評があるメーカーで、推奨された常用ISO感度は本当に“常用”できる傾向が強いのであるが、その傾向が今回のEOS Rでもよく現れていると思える。いずれにしても、約3,030万画素で常用最高ISO 40000は立派なスペックである。

EOS R / RF24-105mm F4 L IS USM / 26mm / 絞り優先AE(2.0秒・F5.6・±0.0EV) / ISO 100
ISO 200
ISO 400
ISO 800
ISO 1600
ISO 3200
ISO 6400
ISO 12800
ISO 25600
ISO 40000

解像感

EOS Rが搭載する撮像センサーは約3,030万画素の35mmフルサイズセンサーであり、すでに高い評価を受けているEOS 5D Mark IVとほぼ同じスペックである。その意味ではEOS Rはいまさら語ることもない約束された画質をもっているといえる。

実際のところ、EOS Rで撮影した画像の解像力は非常に高く、あわせて現代のフルサイズカメラに要求される豊かで滑らかな階調性、幅広いダイナミックレンジなどの性能はすべて満たした高画質機であることが確認できた。

専用のRFレンズとの組み合わせであれば、ショートフランジバックを活かした最適な光学設計によって、従来より一段高く隙のなくなった高画質を画面全体で味わうことができるだろう。

EOS R / RF24-105mm F4 L IS USM / 40mm / 絞り優先AE(1/80秒・F11・±0.0EV) / ISO 100

レンズ光学補正

解像感に大きく影響する収差をデジタル的に補正して、さらに高画質にしてくれるのがデジタルカメラのよいところ。EOS Rはボディ内で撮影と同時に、周辺光量補正、歪曲収差補正、デジタルレンズオプティマイザ(色収差・回折補正)などの「レンズ光学補正」を実行できる。

同じ被写体をF22にまで絞り込んでみると分かりやすいと思う。レンズ光学補正を「OFF」にした画像では、絞り込むほどに影響の大きくなる回折現象のために像が滲んでしまっているが、「ON」の画像ではデジタルレンズオプティマイザの回折補正のおかげで、鮮鋭性が復活していることが見て取れるだろう。

EOS R / RF24-105mm F4 L IS USM / 53mm / 絞り優先AE(1/5秒・F22・+0.7EV) / ISO 100
レンズ光学補正OFF
レンズ光学補正ON

デジタルレンズオプティマイザがRAW現像時だけでなく、ボディ内でも適用できるようになったEOSはこれまでにもある。しかし、RFレンズとの組み合わせによる大容量・高速通信によって瞬時に実行できるのは、いまのところEOS Rのみだ。もちろん、連写時であっても連続撮影枚数に影響を与えることはない。

連写性能

「RF24-105mm F4 L IS USM」のテレ端(焦点距離105mm)を使い、ドライブモードを「高速連続撮影」、AF動作を「サーボAF」にして連続撮影を行った。結果は、全てのコマで問題なく猫の目が被写界深度内に収まったので、まずまず及第点といったところだろう。

ただし、以上はAF動作をサーボAFとした約5コマ/秒での結果である。EOS Rは連続撮影の最高速度を約8コマ/秒としているが、これはAF動作を「ワンショットAF」とした場合の速さ。ワンショットAFではAFが初めの1コマで固定されてしまうので、動きものには不便を感じてしまうのが正直なところだ。

そうはいっても、一度補足した被写体の追従性能は明らかに高いので、よほどの本格的な動態撮影以外、一般的な動体撮影であれば問題のない撮影能力はもっている。そもそもEOS Rは本格的な動体撮影を狙ったカメラというよりは、安定した画質と操作性を特徴とした汎用性の高いモデルなので、極端に高度な動体撮影能力を要求するのはお門違いなのかもしれない。

動画

動画撮影機能も試してみた。EOS Rは、フルフレームでの4K・UHD(3,840×2,160ピクセル/ 29.97p/24.00p/23.98p)での内部記録が可能。

4K動画の1フレームを静止画として切り出すこともできる。

作例

EOS Rのフルサイズミラーレスカメラとしての良さを見てみようと思った。ファインダー(EVF)を覗いて構図を決め、太陽の光芒が表現できるよう露出補正を調整、オートでは面白くないホワイトバランスを変更しドラマチックになる白色蛍光灯を選んでみた。カメラ設定を撮る前から違和感なく詳細に確認できること、それがEOS Rの特長であることが分かった。

EOS R / RF24-105mm F4 L IS USM / 28mm / 絞り優先AE(1/250秒・F16・-0.7EV) / ISO 200

冬らしく枯れて水面に浮かぶ水草とカモとで構図をアレンジしてみた。半逆光状態であったが、ダイナミックレンジが広く細かいところまでよく階調を表現してくれるので、眼で見た印象をそのまま写真にしてくれる。さすがは最新のフルサイズ撮像センサーを搭載したカメラだけのことはある。

EOS R / RF35mm F1.8 MACRO IS STM / 35mm / 絞り優先AE(1/250秒・F4・-0.3EV) / ISO 100

「RF35mm F1.8 MACRO IS STM」を装着し、絞り開放で撮影。主要被写体(猫)を比較的小さめに配置したが、フルサイズセンサーの浅い被写界深度のおかげで。ピント面が画面に浮き上がるようにシャープに表現できた。ハーフマクロながら、通常の撮影でもレンズ性能には素晴らしいものがあるので、最初のRFレンズをどれにしようか迷っている人がいるなら「初めの1本」としてオススメしたいと思う。

EOS R / RF35mm F1.8 MACRO IS STM / 35mm / 絞り優先AE(1/80秒・F1.8・-0.7EV) / ISO 100

こちらは「RF24-105mm F4 L IS USM」を1段絞ったF5.6で撮影。それでも大きく背景がボケてくれるのは、やはりフルサイズの表現力の幅広さによるものである。バリアングルモニターを使ったローアングルでの縦位置という、なかなか不安定な姿勢での撮影になってしまったが、軽量なボディと強力な手ブレ補正能力に助けられシャープに撮ることができた。

EOS R / RF35mm F1.8 MACRO IS STM / 35mm / 絞り優先AE(1/80秒・F5.6・+0.7EV) / ISO 400

茶色い枯葉のなかに1枚だけ落ちていた真っ赤なクスノキの葉が印象的だった。何ということもない写真であるが、気軽な撮影の中にも、EOSの長い歴史を凝縮した高画質と、小型軽量ながらも確実なホールディング性のあるグリップの良さを、しっかりと感じることができた。

EOS R / RF35mm F1.8 MACRO IS STM / 35mm / 絞り優先AE(1/125秒・F4・±0EV) / ISO 400

まとめ

発売からしばらくたち、周りでEOS Rを使っている人たちから「EOS 5Dシリーズと同等クラスで使える」という感想をよく聞く。実際に今回の実写を通してEOS Rを使ってみた感想は、まさにその通りであった。

ミラーレスとなった分、当然のようにボディは薄く小さく軽くなった。それでいてボディの堅牢性やグリップの握りやすさはEOS 5Dシリーズに勝るとも劣らない性能が確保されているのだから、重い機材を背負って撮影地まで赴いていた人にとって何よりもの朗報であるに違いない。視認性の高い内蔵EVFや大きなバリアングルモニターは、機動性の高いミラーレスカメラと相性がよく、これまで以上に自由度の高い撮影を約束してくれるだろう。

そして、肝心の画質についても期待を裏切るようなことは絶対になく、本文でも書いた通りEOSの歴史を凝縮した約束の高画質となっている。これは専用RFレンズと組み合わせて使うことで、よりよく体感することができるはずだ。

システムが登場したばかりでRFレンズのラインナップが限られるのは仕方がないだろう。しかし、EOS Rの価格は本稿執筆時点で20万円台の前半と、決して安くはないが、EOS 5D最新機種よりずっとお手頃であることは事実である。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。