COSINA NOKTON WORLD
髙桑正義×NOKTON 40mm F1.2 Aspherical E-mount
街中ポートレートで小粋に使いこなす
2018年2月20日 07:00
インプレスの月刊誌「デジタルカメラマガジン」と連動した本特集では、コシナ・フォクトレンダーのソニーEマウント用NOKTONシリーズ2本の個性を検証していく。クラシカルな描写が持ち味の「NOKTON classic 35mm F1.4 E-mount」を取り上げた前回に続き、今回は解像力とコンパクトさのバランスを追求した「NOKTON 40mm F1.2 Aspherical E-mount」に注目した。(編集部)
新登場したNOKTON 40mm F1.2 Asphericalは、開放F1.2という明るさでありがならコンパクトなので、ふらっと散歩感覚でレンズの特性や雰囲気を活かした撮影にしたかった。そのため、今回はレフ板や照明を一切使わないで撮影した。筆者はVMマウント版の「NOKTON classic 40mm F1.4」をもともと使っていたため、クラシカルな描写やハレーションなどの性格が似通っているのかと考えていた。しかし本レンズは撮影を開始してすぐに、"classic"とは全くキャラクターの違うものだと気づかされた。
具体的には、NOKTONならではの空気感を残しながらも、開放のF1.2からしっかり描写し、逆光にも強く、開放撮影時の周辺光量落ちもしっかり抑えられているモダンレンズだった。やはりピントが薄いため撮影はシビアになるかと思われたが、Eマウント版のレンズならではの機能が助けてくれた。フォーカスリングを回すと自動でα7R IIの電子ファインダーが拡大表示に切り替わり、ピントを捉えやすい。MFレンズらしくフォーカスリングの操作性がいいので、実際のピント合わせはかなりやりやすかった。そして本レンズのEマウント版はα7R IIのボディ内5軸手ブレ補正機能にも対応しているので、低照度のシチュエーションでもブレなく撮影できた。
緑背景をバックにセンター構図で撮影!開放F1.2で撮影しているが、モデルから距離を取ることにより写真の雰囲気を変えることができる。寄りと引きではまったく違った魅せ方ができるのもこのレンズの魅力だ。
青空が綺麗だったので、モデルを座らせてチルト式モニターを見下ろしつつローアングルから撮影している。被写体から背景へとナチュラルにボケていき、青空の色のりも良いので、自然な写真に仕上がっている。
モデルにしゃがんでもらい、光の当たった草木を前ボケに撮影している。左手で軽く葉っぱをホールドしたい時にも、レンズがコンパクトなので片手でカメラを扱え、細かな調整がやりやすかった。
光の入らない空間で、その場の明かりを利用した。開放F1.2の明るさが活躍するシーンで、ISO感度を上げすぎずに撮影できた。人物の後ろから光が入る位置にモデルを立たせることにより、ドラマチックな雰囲気を作り出せる。
写真の雰囲気を変えたかったので、赤の背景を探して撮影した。光量が少ない場所では補助光が欲しくなるところだが、明るいレンズはシチュエーションを選ばないのが強い。本レンズはボディ内5軸手ブレ補正に対応しているため、手ブレの心配もなく撮影できた。
丸1日のロケーションポートレートでは、写真に様々なバリエーションが欲しい。レンズの特性を活かした撮影はもちろんのこと、光質、光の向き、身近な小物などを使い、写真の"画変わり"を狙っている。
NOKTON 40mm F1.2 Asphericalとα7R IIとの組み合わせでは、写りの良さは当然として、チルト式モニターを活かしたローアングル撮影などが可能なハンドリングの良さと、機材のコンパクトさでフットワークが軽くなる点が嬉しい。こうした点はロケーションポートレートやスナップなどにおいて強力な武器になるのは言わずもがなだ。
このレンズの特性は、絞り開放時に被写体との距離によって変化があり、厳しい逆光時にもフレアの出方が"ゆわっ"とした、やわらかな雰囲気を演出できる。また、光線の写り方が絞り値によって大きく変わる。カメラが軽量であるため、片手で透過性のある小物(ペットボトル、眼鏡、ブレスレット、プリズム、CD-R……)などをレンズ前に入れることで不思議な効果を得ることができ、写真のバリエーションが増やせるので、試してみてほしい。
引きのスナップポートレートでは、シャープに状況や環境を写すためにF11まで絞り込んで撮影している。パンフォーカスになるわけではなく、ディティールを残しつつ背景に至るナチュラルなボケ方は、その場の空気感をそのまま写しているようだ。振り返るモデルの衣装がフワッと広がり、動きを感じさせている。
厳しい逆光のシーンも、このレンズにとってはバリエーションのひとつになる。絞り込むことで光線がくっきりと被写体に被ってくることで、いい味が出ている。絞り開放時の光線もふんわりといい塩梅になるため、どちらも作画に活かせるのが魅力だ。
背景に柔らかな光が透過する状況で撮影。黄色いクリアフレームの眼鏡をレンズ前に置いて、夕景のような黄色い光を演出している。さらにレンズ前で眼鏡を動かすことにより、モデルに黄色い光が被っているような演出も可能だ。
くしゃくしゃに握った透明のビニールをレンズ前に入れることで、不規則なハレやにじみ、ぼかし効果を演出している。くしゃくしゃの度合いによっても雰囲気が変わるので面白いだろう。背景が同じでも、このテクニックを使うことでバリエーションが増える。
日が落ちはじめたころ、夕景の中でふっと抜けた表情を切り取っている。歩道にある看板の裏側を銀レフ代わりに、右から光が当たったイメージを演出した。白い壁やちょうど良い高さにある道路標識などもレフ代わりにできるので、試してほしい。
日没のころ、街路灯の明かりを活かして撮影。街路灯や行き交うクルマのテールランプなどの玉ボケも綺麗な夜景ポートレートだ。NOKTONが活きるのはやはり夜。開放F1.2という明るさはISO感度を抑えて撮れるため、ノイズもほぼなく撮影できた。
今回こうしてNOKTON 40mm F1.2 Aspherical E-mountの1本だけで1日通して撮影してみたが、いつものロケ場所で、いつもと違った雰囲気で撮影できた、というのが一番の感想だ。普段は中判デジタルカメラを使っているためフットワークが悪く、1人では荷物を持てずスタッフが多くなってしまうので、否応なしに人目を引いてしまう。そのため撮影場所も時間も決めきって撮影に臨んでいる。
しかし、こうした小型カメラ+小型レンズのコンパクト装備だと、モデルと気軽に撮影できるうえ、周囲にも威圧感を与えない。そのためリラックスした雰囲気の撮影になり、あそこで撮ろう、ここで撮ろうとフットワークも軽く、歩きながら、撮りたいと思った場所でどんどん撮影ができた。
レンズの印象としては、鏡筒の持ち心地がよく、フォーカスリングや絞りリングの操作もしやすいので、撮影していてストレスをまったく感じなかった。このレンズは"絞り開放からしっかりした描写"と"なめらかなボケ味"が素敵で、今回の撮影では昼も夜も問わず、ほとんどが絞り開放での撮影になった。それぐらい気持ちがいい。スナップでもポートレートでも常用したくなる1本だと感じた。
モデル:川辺優紀子(ベンヌ)
協力:株式会社コシナ