COSINA NOKTON WORLD

コムロミホ×SUPER NOKTON 29mm F0.8 Aspherical

大口径レンズの二面性で楽しむ東京スナップ

OM-D E-M1 Mark III SUPER NOKTON 29mm F0.8 Aspherical ISO 200 F0.8 1/640秒

月刊誌「デジタルカメラマガジン」と連動した本記事は、コシナ・フォクトレンダーのマイクロフォーサーズ大口径レンズ「SUPER NOKTON 29mm F0.8 Aspherical」を、コムロミホさんの作品とインプレッションで紹介します。(編集部)

開放F0.8という驚きのスペックを実現したSUPER NOKTON 29mm F0.8 Asphericalが登場した。フォクトレンダーのマイクロフォーサーズマウントには、マニュアルフォーカスの単焦点レンズが広角から中望遠まで揃っている。どのレンズも金属外装で、クラシカルな高級感のある仕上がりが特徴となっている。

マイクロフォーサーズ用のノクトンはF0.95の明るさを持つ個性的なレンズシリーズとして人気だが、今回新たに登場した"スーパーノクトン"は、それを上回るF0.8を実現した特別なレンズとなる。そんなF0.8の表現力を探るために、下北沢、原宿、神楽坂、月島、銀座といった都内をぐるっとまわりながら、さまざまな被写体を切り取った。私なりに感じたSUPER NOKTON 29mm F0.8 Asphericalの描写力と使いこなしをご紹介していきたい。

このレンズは35mm判換算58mm相当とスナップにも使い勝手のよい画角で、標準域といいつつも、25mm(35mm判換算50mm相当)と比べて写る範囲が狭くなるため、街で見つけた被写体を明確に切り取ることができる。そのため、街のどこに目を向けて、何を主被写体とするかを考えながらスナップすると写真にまとまりが出てくる。このシーンではランタンにピントを合わせて、手前にある植物を前ボケになるように構図を決めた。F0.8のやわらかなボケにより、ランタンの暖かみのある光が印象的な一枚に仕上がった。

OM-D E-M1 Mark III SUPER NOKTON 29mm F0.8 Aspherical ISO 200 F0.8 1/160秒
GA(研削非球面)レンズをはじめとする特殊レンズによりF0.8の明るさを実現しているが、重さは703gに抑えられている。とはいえ同じ標準域のマイクロフォーサーズレンズと比較すればやや重さはあるため、今回使用したOM-D E-M1 Mark IIIのように、グリップがしっかりとしたカメラとの組み合わせがベストマッチだろう。

レンズの最短撮影距離(37cm)付近で撮影。F0.8で被写体にぐっと近づくと被写界深度が浅くなり、ピント合わせも難しくなるが、適度なトルク感ち滑らかさのあるフォーカスリングで、微妙なピント合わせも行いやすい。

OM-D E-M1 Mark III SUPER NOKTON 29mm F0.8 Aspherical ISO 200 F0.8 1/80秒

大口径レンズのボケを生かした撮影は、写真に立体感を与える。ピント面から大きなボケへのグラデーションも滑らかで、とろけるような美しさが印象的だ。センサーサイズの小さなマイクロフォーサーズでも、このレンズならボケを最大限に活かした作画を堪能できるだろう。やはりF0.8という明るさは驚異的だ。

OM-D E-M1 Mark III SUPER NOKTON 29mm F0.8 Aspherical ISO 200 F0.8 1/1,000秒

F0.8の良さはボケ感だけではない。夜スナップや暗所での撮影にも便利だ。かなり暗い場所だったが、カメラの最低ISO感度であるISO 200で撮影できた。そのため、ノイズレスで高精細な夜スナップを楽しめる。

OM-D E-M1 Mark III SUPER NOKTON 29mm F0.8 Aspherical ISO 200 F0.8 1/25秒

開放のF0.8で撮影すると、ピント面は柔らかい印象を受ける。最短撮影距離の近くで撮影すると、さらに柔らかさが増す。これを表現に取り入れ、お花や子供、女性ポートレートなどを柔らかく撮影したい方にはお勧めだ。

OM-D E-M1 Mark III SUPER NOKTON 29mm F0.8 Aspherical ISO 200 F0.8 1/500秒

絞り値による変化

マネキンを人物に見立て、バストアップの距離感から撮影してみた。被写体との距離がある程度あっても、F0.8で撮影すると圧倒的なボケを得ることができる。しかし、ピント面はやや柔らかい印象。女性ポートレートであれば適度といえるだろう。F1.4から徐々にシャープになっていき、F2.8では被写体の洋服のディテールを緻密に描写していることがわかる。

今回はこれを踏まえ、ボケを生かして立体感を出したり、雰囲気のある写真を撮りたい時は開放のF0.8に設定し、被写体のディテールを表現したい時や風景などの遠景ではF2.8に絞って撮影した。

F0.8
F1.4
F2.8
F4

木と影のバランスが面白かったので、露出をアンダーにし、影を際立てた。F2.8に絞り込むと、F0.8の描写とはがらりと変わり、地面のタイルや手前の葉っぱなどのディテールを細かく描写してくれる。

OM-D E-M1 Mark III SUPER NOKTON 29mm F0.8 Aspherical ISO 200 F2.8 1/4,000秒

銭湯の裏に干された足拭きマットがカラフルできれいだったので、手前にあった洗濯バサミにピントを合わせて、背景を大きくぼかした。下の状況写真からもわかるように、背景がごちゃごちゃとしたシーンでも、ボケを活かすことで背景が整理され、洗濯バサミとバイク、カラフルな足拭きマットが際立つ一枚となった。

OM-D E-M1 Mark III SUPER NOKTON 29mm F0.8 Aspherical ISO 200 F0.8 1/640秒
背景が近くても、ボケがうるさくならず滑らかなことがわかる。主被写体をどう切り取るかだけでなく、ぼけていく背景をどう表現したいかを考えるのもスナップには大切だと感じる。

滑らかなのは前ボケも同様だ。素直な前ボケのおかげで、自然と奥の情景に視線が誘導される。奥行きを表現したい時は手前に何かをフレーミングし、奥にピントを合わせて前ボケを作るようにしている。そうすることで、より立体感のある写真に仕上がりやすくなる。

OM-D E-M1 Mark III SUPER NOKTON 29mm F0.8 Aspherical ISO 200 F0.8 1/50秒

全体的にシャープに表現したいと思い、F2.8で撮影。絞り込むことで街灯などが光条となり、街の輝きがキラリと印象的な写真に仕上がった。このレンズは絞り羽根が12枚のため、光の筋が12本になる。絞るとシャッター速度は遅くなってしまうが、カメラ側の手ブレ補正機能を利用すれば、手持ちでも簡単にシャープな夜景を撮れる。

OM-D E-M1 Mark III SUPER NOKTON 29mm F0.8 Aspherical ISO 200 F2.8 1/6秒

トワイライトの空が素敵だったので撮ろうと思ったが、そのままでは普通なので、橋の手すりを画面いっぱいに配置して、放射線構図で奥行きが伝わる一枚に仕上げた。スナップをする時は周りにあるものをよく観察し、ポイントとして取り入れられる要素を常に探している。

私にとって単焦点レンズは、焦点距離という制約がある分、どこか発想が自由になり、いろんなアイディアが浮かびやすくなってくる。

OM-D E-M1 Mark III SUPER NOKTON 29mm F0.8 Aspherical ISO 200 F0.8 1/13秒

"F0.8"で広がるマイクロフォーサーズの可能性

今回は新登場のスーパーノクトンを手に、都内のいろんなところを巡りながら撮影したが、F0.8という大口径によって、マイクロフォーサーズ機の表現の可能性に新たな広がりを感じた。

マイクロフォーサーズは、APS-Cや35mmフルサイズといった大きなセンサーサイズのカメラと比較すればボケ量は少なくなりがちだが、F0.8の本レンズなら被写体と距離があっても背景をぼかせるため、写真に立体感が生まれる。F値による描写の変化も理解すれば、さまざまな使い方を楽しめる1本となるだろう。

パナソニックやオリンパスといったカメラメーカーのレンズラインナップにもない、驚異的な明るさを実現したスーパーノクトン。35mm判換算58mm相当の画角は、スナップだけでなくポートレートや風景にも使い勝手が良い。ぜひ多くの方に、このF0.8の世界を味わっていただきたい。

協力:株式会社コシナ

コムロミホ

文化服装学院でファッションを学び、ファッションの道へ。傍らモデルとしても活動。撮影現場でカメラに触れるうちにフォトグラファーを志すことを決意。現在、人物を中心として広告や雑誌等で撮影をする一方、カメラ専門誌等で海外、国内で街スナップを撮り歩いている。