COSINA NOKTON WORLD

安達ロベルト×NOKTON classic 35mm F1.4 E-mount

クラシカルな味わいのレンズと伊豆を旅する

デジタルカメラマガジン2018年2月号には、同じ場所から絞りF8で撮影したものを掲載している。ぜひ見比べて、このレンズの魅力の1つであるF値の違いによる描写の違いを実感してみてほしい。α7R II / ISO100 / F1.4 / 1/2,500秒

インプレスの月刊誌「デジタルカメラマガジン」と連動した本特集は、コシナ・フォクトレンダーのソニーEマウント用NOKTONシリーズ2本について、それぞれの個性を見ていく。今回は、クラシックレンズの味わいと現代的な扱いやすさを兼ね備えた「NOKTON classic 35mm F1.4 E-mount」を取り上げる。(編集部)

ラテン語で夜を表わすnoct(nokt)が名前につくレンズにワクワクしないフォトグラファーはいないのではないだろうか。NOKTON classicのEマウント仕様が出ると聞いてその写りを想像したとき、昨年IZU PHOTO MUSEUMで見たテリ・ワイフェンバックの作品が頭に浮かんだ。Eマウントアダプターでライカの大口径レンズをつけて撮った彼女の伊豆は、世界を肯定する力に満ちあふれていた。ならば私はNOKTONで伊豆を撮ろうと思った。

コシナ・フォクトレンダーのレンズで最初に手に入れたのは、ライカスクリューマウント互換のVLマウントであるSUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5。その後一眼レフ用も含めいくつか所有したが、NOKTONを使ったことはなかった。それは愛用レンズとスペック的に重なるところがあったから。しかし、世界には多くのNOKTONファンがいる。はたしてどのような描写をするのか。

6時〜9時50分:東名高速〜駿河平自然公園

朝6時に東京を発ち、テリ・ワイフェンバックが撮ったであろう駿河平自然公園にまずは向かった。過去に何度か訪れたことがあるが、冬は初めて。車の後部座席で撮影のイメージを膨らませた。

空が明るくなってきたころ、この日の撮影の成功を予め知らせてくれるかのように、朝陽を受けた富士山が道路の向こうに姿を現した。

α7R II / ISO100 / F1.4 / 1/500秒

現代では少数派の、F値による描写の違いがはっきりあるレンズだ。F2.8前後の描写にはふわりとした立体感があって、冬の朝の空気感を出すのに適していた。

α7R II / ISO100 / F2.8 / 1/250秒

テリ・ワイフェンバックへのオマージュ的な1枚。彼女は縦位置がトレードマークだがここは横位置で。Eマウント版は、レンジファインダーカメラ用のVMマウント版より近接に強くなった。

α7R II / ISO100 / F1.4 / 1/500秒

12時40分〜13時30分:田牛海水浴場

山の次は海。デートの名所だけあって、やはり周りはカップルばかりだったが、それでも冬の平日だからか空いていて、男3人で気兼ねせず撮影できた。

α7R II / ISO100 / F2.8 / 1/8,000秒

冬の伊豆の海は青く透き通っていて、グラデーションが美しかった。近づいてそれをNOKTONで捕まえたいと、波に駆け寄り、何度もシャッターを切った。

α7R II / ISO50 / F8 / 1/100秒

名物の岩場の向こうに傾きかけた陽の光。ド逆光でどこまで描写できるか、レンズに難題を課すのに絶好なシチュエーション。

α7R II / ISO50 / F1.4 / 1/4,000秒

前ボケはNOKTONの個性の1つ。近接のみならず、中〜遠距離域に焦点を合わせても、F1.4の被写界深度はけっこう浅い。

15時10分〜16時50分:奥石廊崎展望所〜あいあい岬

美味しい地元料理を食べた後、海沿いに走って夕陽を撮るスポットを探した。直感でここだと思ったところで車を停めると、真っ暗になるまでほぼ我々だけで美しい風景を独占することができた。

α7R II / ISO50 / F1.4 / 1/2,500秒

F値によって描写傾向が違うので、同じ風景を絞りを変えて撮ってみたくなる。ここでもF1.4、F4、F8などで撮って、それぞれの描写を楽しんだ。

α7R II / ISO100 / F4 / 1/500秒

絞りF4くらいでは、シャドー部のディテールがほどよく残る。絞り込んでF値が大きくなるにつれ、シャープネスと彩度が高くなる印象。

α7R II / ISO100 / F8 / 1/200秒

絞り開放付近の描写ばかりが話題になりがちなNOKTONだが、絞っても優しい描写をする点がもっと高く評価されていいと思う。

これほどまでにドラマティックな夕陽を見たのはいつ以来だろう。20代でアートを志したとき、夕陽のように人の心を動かす作品をつくりたいと願ったことを思い出した。

α7R II / ISO100 / F8 / 1/60秒

明るいのにコンパクト。しかも35mmは、寄れば標準、引けば広角の万能な画角だ。愛用するライカ ズミルックス35mm F1.4、カールツァイス ディスタゴン35mm F1.4とも違う個性があって、私ならこれ1本で旅に行ける。

デジタルカメラマガジンの武間さん、デジカメ Watchの鈴木さんの長時間に渡る温かいサポートのおかげで、忘れられない「旅」になった。ありがとうございます。気付くと取材の合間にお2人も私といっしょに乗り出すように撮影している場面が何度かあって、それはこの旅が充実していた証拠。世界を優しく肯定するようなNOKTON classicの描写を通して、読者の皆さまにもそれが伝わっていることだろう。

協力:株式会社コシナ

安達ロベルト

(Robert Adachi)上智大学国際関係法学科卒業。アナログ白黒作品を写真制作の核に据え、国内外で写真展を多数開催し評価される。エディトリアル、ポートレート等の分野でも活躍。主な出版に写真集「Clarity and Precipitation」(arD)がある。ファインアートの分野で国内外での受賞多数。作曲家としてのキャリアも長く、動画、舞台演出も手がけ、メディアの枠を超えた活動が注目されている。