新製品レビュー

FUJIFILM X-T4

X-H1を超える手ブレ補正能力 連写追従もチェック

富士フイルムから、APS-Cサイズセンサー搭載のミラーレスカメラ「X-T4」が4月28日に発売される(ブラック。シルバーは5月の予定)。2018年9月に発売されたX-T3の後継機にあたるモデルだが、これまでモデルチェンジに要していた2年を待たないタイミングでの新機種登場は、それだけこの機種がXシリーズのメインストリームとなっていることのあらわれだといえるだろう。

Xシリーズで2機目となる手ブレ補正の搭載

富士フイルムのAPS-CミラーレスカメラXシリーズで、同社独自のセンサー配列技術が用いられているX-Trans CMOSセンサーを搭載する機種では、X-ProやX-Eといったレンジファインダースタイルの機種と、本モデルのようなファインダーを中央位置に配したデザイン(富士フイルムではこれを“センターファインダースタイル”と呼称している)のX-TシリーズとX-H1がラインアップしている。

X-ProシリーズとX-T一桁シリーズは、“ダブルフラッグシップ”として同社APS-Cミラーレスシステムの核となる役割を担ってきている。こうした状況の中、大型イメージセンサーを搭載するGFXシリーズの意匠を一部デザインに取り入れたX-H1が2018年に登場した。右肩部に情報スクリーンを搭載するなど、UIにそうした特徴があらわれていた機種だが、中でも話題を呼んだのが、ボディ内手ブレ補正の搭載だった。

X-H1

そして、その事実がユーザーに機種選択の新しい悩みどころをもたらした。X-H1はボディサイズや手ブレ補正といった機能を含め、Xシリーズにおける上位機ともいえる立ち位置で存在している。撮像センサーと映像エンジンの世代こそ、X-T3より前(X-Pro2やX-T2と同等)であるものの、いま触れたように、Xシリーズで唯一の5軸手ブレ補正機構をボディ内に搭載していることをアドバンテージとしている。ところが、X-T4は、このX-H1を上回る性能の手ブレ補正機構を搭載してきたのである。

Xシリーズの王座はX-T4に譲られるということだろうか? 今回のX-T4のレビューでは、X-T3からX-T4への進化点を見ながら、X-H1との比較を交えて進めていくことにしよう。

外観と操作性(主にX-T3との違い)

まずはX-T3(右)とX-T4(左)を並べて比べてみた。ぱっと見で外観に大幅な変更はないことが分かる。

前面から見ても大きな違いを感じることはできないが、正確には幅が2.1mm大きくなっているという。厚さも5mmほど増え、手ブレ補正ユニットの搭載に伴い、重量は68g増している。だが、実際にカメラを持ってみても、サイズや重さにそれほどの違いを感じることはない。

ただ、ボディ中央にあるファインダーのカバー(一眼レフカメラでいうところのペンタ部)は、比較的大きく形状が変わっている。液晶パネルと接眼光学系は同じとのことなので、単純なデザイン変更と思われるが、エッジが立ち丸みが抑えられたことで、X-T3より精悍さが増したように感じられる。

QボタンやAEロックボタンなどで機能の入れ替えこそあるものの、背面のボタン類の配列も基本的に大きく変わっていない。リアコマンドダイヤルの張り出しが大きくなっているが、これはボディの厚みが5mm大きくなったことへの対応であろう。

左がX-T4、右がX-T3

背面で最も目を引く違いは、液晶モニターが3方向チルト式からバリアングル式に変更されたことである。3方向チルト式は富士フイルムが早くに採用した機構で、横位置だけでなく縦位置でも光軸からモニターが外れないというメリットがある反面、引き出すのにやや手間がかかるというデメリットがある。一方のバリアングル式は引き出しの操作は容易ながらも、縦位置時に光軸からモニターが外れて撮りづらさを感じてしまうデメリットがある。

あくまで好みの問題で、操作のしやすさをとるか、撮影のしやすさをとるか、という二者択一になるが、これはなかなか賛否両論となるところだろう。ちなみに筆者は光軸のずれないチルト式が好みで、さらにX-H1はX-T3と同じ3方向チルト式を採用している。

しかし、バリアングル式だとモニター画面を反転させることができるため、静止画・動画を問わず自撮りをする場合に非常に便利なことも確かである。というより自撮りではほぼ必須といえるだろう。自慢の3方向チルト式からバリアングル式への思い切った変更は、そうした時代のニーズに合わせた結果なのかもしれない。

カメラ上面右側の違い。X-T3ではシャッタースピードダイヤルと同軸に測光ダイヤルが備えられていたが、X-T4では静止画と動画の切り替えスイッチに変更された。よりスピーディーに静止画と動画の撮影モードを変更できるようになったということである。

また、ファンクション(Fn)ボタンが、X-T4ではシャッターボタン横に移動している。ファインダーを覗いたままボタンを探したい場合など、この位置の方が分かりやすく適していると思う。

左がX-T4、右がX-T3

シャッタースピードダイヤルと同軸にあった測光ダイヤルはなくなってしまったが、測光モードの変更は従来通りメニュー画面で行うことができる。そもそも、撮影結果を直ぐに確認できるデジタルカメラになって、測光モードを変更する機会はめっきり減っているので、一等地に専用の切り替えレバーが置かれていたことの方が不自然というものだろう。

カメラ上面左側に搭載された感度ダイヤルは、従来あったH(高感度側の拡張感度)とL(低感度側の拡張感度)の表示がなくなった。とはいっても、ダイヤルをCポジションにしてコマンドダイヤルを回すことで設定可能だから慌てることはない。これもそもそもの話になるが、拡張感度はあくまで非常用のためなので、今までのように設定しやすい位置にある必要はないだろう。すっきりシンプルになってむしろ確認しやすい。

左がX-T4、右がX-T3

バッテリーは、X-T3などで採用されてきたNP-W126Sから、新しくNP-W235に変更され、大容量化した。ノーマルモード時の撮影可能枚数は、X-T3が390枚だったところ、500枚と約1.3倍に。正直なところ「なんと2倍に!」みたいな大幅な大容量化を期待したが、ボディサイズをほとんど変えずに、手ブレ補正ユニットを搭載したわけだから、これでも喜ばなければいけない。ボディサイズがもっと大きいX-H1ですらX-T3などと同じNP-W126Sなのだから。

左は従来のNP-W126S、右が新型のNP-W235

バッテリーの大容量具合はともかくとして、X-T4で一番残念だったのが、バッテリーチャージャーが非同梱になってしまったことだ(チャージャーの非同梱はX-Pro3やX-T30でも同様。X-T3は付属する)。もちろんUSB給電はできるが、バッテリーチャージャーがないと予備のバッテリーを充電しながらの撮影ができなくなる。モバイルバッテリーを使用してUSB Type-C経由で給電しながら撮影できる点が救いといえば救いではあるが……。

センサー&シャッターユニット

X-T4の撮像センサーは、有効2,610万画素のAPS-Cサイズ「X-Trans CMOS 4」だ。映像エンジンと併せ、Xシリーズカメラの第4世代と呼ばれる最新のものが搭載されているが、これについては前モデルのX-T3と同等である。逆をいえば、撮像センサーと映像エンジンは、現段階で変更の余地がないほど進化しきっているということになる。

したがって、X-T4の画質は、同じ条件で撮影したならば、X-T3の画質とまったく同じということだ。ちなみに、X-H1の撮像センサーと映像エンジンの組み合わせは第3世代(X-Trans CMOS III+X-Processor Pro)である。

X-T3との最大の違いは、同じ撮像センサーに手ブレ補正ユニットを搭載したこと。これはX-T4のために新しく開発されたもので、X-H1の最大5.5段分を上回る、最大6.5段分の補正効果があるという。写真では、撮像センサーの周りにある可動式の手ブレ補正機構の存在を確認することができる。

さらに、シャッターユニットも新規に開発されたものが採用されており、モーターや構造、材質を見直すことで従来の2倍となるシャッター動作耐久30万回を確保した。シャッターの開閉による衝撃を吸収する構造によって、いわゆる機構ブレが緩和されており、これも手ブレ補正効果の向上を支えている。

実際に手ブレ補正の効果を確認

X-Tシリーズとして初めてボディ内手ブレ補正機構を手に入れたX-T4であるが、実際のところその効果はどれほどのものか? 気になるところなので実写で試してみた。比較対象は、ボディ内手ブレ補正機構をもたない前モデルX-T3と、X-T4登場以前は唯一のボディ内手ブレ補正機構搭載機であったX-H1である。

使用したレンズは「XF35mmF1.4 R」。というのも、富士フイルムのボディ内手ブレ補正機構は使うレンズによって補正効果の段数が変わるため、最も効果の高い段数(6.5段分)が得られるレンズにする必要があったからだ。6.5段分の補正効果が得られるレンズは他にもあるが、ここではXシリーズのカメラユーザーの多くが所有しているであろう、このレンズにて試用してみた。

X-Tシリーズにベストマッチするレンズとして人気の「XF16-80mmF4 R OIS WR」は、レンズ側がもつ手ブレ補正機構の段数である6段に抑えられてしまう。レンズ側の手ブレ補正が働くとなると、ボディ内手ブレ補正の有無に関わらず、X-T3でもX-H1でも効果が同じになってしまい、比較の意味をなさなくなるのである。

撮影はシャッター速度を変えながら、同じ速度で5枚ずつ(慎重に手ブレを起こさないよう)撮影するという方法を採った。その結果、X-T4+XF35mmF1.4 Rでは、1.3秒のシャッター速度で何とか手ブレを抑えたカットを撮ることができた。X-T4の最大補正効果段数である6.5段に近い数字である。

X-T4(XF35mmF1.4 R使用、シャッター速度1.3秒)

ところが、X-H1+XF35mmF1.4 Rではどうやっても1.3秒で画像のブレを止めることができなかった。自分で決めた撮影回数の5回を超えて頑張ってみたが、何度やっても画像はブレてしまった。

X-H1(XF35mmF1.4 R使用、シャッター速度1.3秒)

しかし、シャッター速度を1秒にすると手ブレは収まり、手持ちでもシャープで鮮明なカットが撮れるようになった。X-T4の6.5段分に対する、X-H1の5.5段分の補正効果を実感した瞬間である。

X-H1(XF35mmF1.4 R使用、シャッター速度1.0秒)

白状すれば、筆者はX-H1のユーザーである。正直、ボディサイズの大きなX-H1の手ブレ補正効果が、いくら後発とはいえX-T4に負けるはずがない、いや負けないでほしい、と思っていた。それだけに、今回の結果には軽くショックを受けてしまったが、少なくとも手ブレ補正効果にかんして、X-T4はX-H1を上回ることが確認できたわけだ。画質にかんしても世代的に負けてるけど。

ところで、手ブレ補正機構をもたないX-T3ではどうなったかというと、これが当たり前のごとく1.3秒ではまったくブレを止めることができなかった。

X-T3(XF35mmF1.4 R使用、シャッター速度1.3秒)

0.5秒でもブレが収まる気配は全くない。

X-T3(XF35mmF1.4 R使用、シャッター速度0.5秒)

ようやく何とか手ブレが収まったのは1/15秒だった。X-T4やX-H1ならブレる方がどうかしてるレベルのシャッター速度だ。手ブレ補正機構って本当にありがたいんだな、と思った。

X-T3(XF35mmF1.4 R使用、シャッター速度1/15秒)

「X-H1のボディ内手ブレ補正機構の効果は高い」。「それよりも新型のX-T4のボディ内手ブレ補正機構は、さすが一枚上手の性能をもつ」。「ボディ内手ブレ補正機構のないX-T3との間には超えられない壁を作っている」。そんなことが明らかとなった実写結果だった。

進化した動体撮影性能

X-T4のメカシャッターでの連写速度は最高約15コマ/秒。これはバッテリーグリップを必要としない、カメラ単体での性能である。APS-Cサイズであることを考慮したとしても、これは凄まじいスピード性能といえるだろう。

Xシリーズで最初にメカシャッター10コマ/秒の壁を破ったのはX-H1だったが、それはパワーブースターグリップ(X-T3から、バッテリーグリップの有無に関わらず最大コマ速を達成できるようになったため、名称が変わっている。これ以前の機種ではコマ速アップの意味を含む“ブースター”が製品名称に含まれている)を装着してのこと。X-T3は単体で可能となったが、それでもX-H1と同じ11コマ/秒が限界だった。もちろん、15コマ/秒の高速連写はAF・AE追従である。

メカシャッター連写
X-T4+XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR(400mm=600mm相当)
シャッター優先AE(1/1,600秒・F6.4+0.7EV) / ISO 1000

また、X-T3で実現した、電子シャッター利用による20コマ/秒の高速連写機能は、X-T4にも引き継がれている。こちらもAF・AE追従で、さらにはブラックアウトフリーでの連続撮影が可能となっている。

ただ、撮像センサーの読み出し速度が速くなり、高速で動く被写体が歪んで写る(いわゆるこんにゃく現象の)程度は良くなっているものの、やはり歪むものは歪む。それは、作例で鳥の背後に写った棒が斜めになっていることからもよく分かる。どの程度まで歪みを許容できるか判断しながらシャッター方式を選択することになるが、そうなると、メカシャッターの連写速度が向上したことに、なおさらありがたみを感じるのである。

電子シャッター連写
X-T4+XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR(400mm=600mm相当)
シャッター優先AE(1/2,000秒・F5.6+0.3EV) / ISO 800

撮像センサーと映像エンジンこそX-T3と同じ第4世代であるが、X-T4ではAFのアルゴリズムも改善され、AFの合焦速度や追従性能も大きくアップしている。

X-T3では苦手とされていた遠ざかる被写体への合焦率も格段によくなっているため安心感が高い。

AF追従テスト
X-T4+XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR(400mm=600mm相当)
シャッター優先AE(1/2,000秒・F7.1・+0.3EV) / ISO 800

さすがに、速く複雑に動く被写体を、全コマで完璧に合焦させるなどということは難しいが、それでもX-T4の並外れた連写性能とヒット率の高い捕捉性能があれば、連続したコマの中から1枚のベストショットを見つけ出すことは比較的容易なはずだ。通常考えられる動体撮影であれば、十分以上の性能をもっていると考えてよいだろう。

X-T4+XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR(400mm=600mm相当) / シャッター優先AE(1/2,000秒・F5.6・+0.3EV) / ISO 800

ますます充実したフィルムシミュレーション

富士フイルムのデジタルカメラを使う醍醐味ともいえるフィルムシミュレーションも進化している。

X-T4では新しく「ETERNA ブリーチバイパス」が搭載された。ETERNAという名前ではあるものの、あまり「ETERNA」との類似性は感じられない。しかし、映画のフィルム現像時に行われる「銀残し」の処理を再現したものなので、フィルムメーカーである富士フイルムらしいといえば富士フイルムらしい。

X-T4+XF35mmF1.4 R(53mm相当) / 絞り優先AE(F1.4・1/280秒・+0.7EV) / ISO 160 / フィルムシミュレーション:ETERNA ブリーチバイパス

参考までに、同じ画像を「ETERNA」でRAW現像したもの。

X-T4+XF35mmF1.4 R(53mm相当) / 絞り優先AE(F1.4・1/280秒・+0.7EV) / ISO 160 / フィルムシミュレーション:ETERNA

同じく「PROVIA」でRAW現像したもの。

X-T4+XF35mmF1.4 R(53mm相当) / 絞り優先AE(F1.4・1/280秒・+0.7EV) / ISO 160 / フィルムシミュレーション:PROVIA

「クラシックネガ」はX-Pro3で初搭載されたフィルムシミュレーションで、「SUPERIA」というフィルムを再現したものだ。X-T3にはなかったが、X-T4には順当に搭載された。

X-T4+XF16-80mmF4 R OIS WR(80mm=120mm相当) / 絞り優先AE(F4・1/50秒・-0.3EV) / ISO 160 / フィルムシミュレーション:クラシックネガ

この画像も「PROVIA スタンダード」でRAW現像したものを参考に出しておくので、フィルムシミュレーションの選択によって、同じ被写体でもまったく異なる表現になることを見てもらいたい。

X-T4+XF16-80mmF4 R OIS WR(80mm=120mm相当) / 絞り優先AE(F4・1/50秒・-0.3EV) / ISO 160 / フィルムシミュレーション:PROVIA

まとめ

本文内でもカミングアウトしたが筆者はX-H1ユーザーである。どうしてもレンズ内手ブレ補正機構のない「XF16-55mmF2.8 R LM WR」を手ブレ補正機能ありで使いたかったので、X-T3を売却したうえで購入したものだ。

撮り比べてみたら、手ブレ補正の性能はX-T4の方がX-H1より上であることが明らかになってしまった。手ブレ補正機構をもたないX-T3との差はいうまでもない。AF性能と連写速度の大幅な向上にも目を見張るものがあり、撮像センサーと映像エンジンが同じでもX-T4のアドバンテージは圧倒的なものと認めざるを得ない。

もうハッキリ言おう。いまXシリーズの頂点に立っているのは間違いなくX-T4だ。

ただし、今後、大きなボディサイズを活かした高性能なX-H2が登場しないとも限らず、そうなるとまた話は違ってくる。それでも、多くの人がミラーレスカメラに求める「コンパクトで高性能」を具現化しているのはX-T4で間違いのない事実。やはり当面の間、Xシリーズの王座にはX-T4が君臨することになりそうだ。

本記事中で掲載している作例および実写テストの内容は「緊急事態宣言」以前に実施・撮影したものです。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。