新製品レビュー
Panasonic LUMIX S1R(実写編)
同時発売レンズ3本を実写 被写体認識AFで撮りやすい高画素機
2019年4月9日 07:00
パナソニックLUMIX初の35mmフルサイズミラーレス機として、有効4,730万画素のLUMIX S1R(以下S1R)と2,420万画素のLUMIX S1(以下S1)がラインナップされた。今回は製品発売前に試作機で撮影したS1Rの実写レポートをお届けする。
LUMIX S1R/S1はAI技術のディープラーニングを応用した被写体自動認識AFを始め、576万ドットの高精細を誇るEVFや、XQDとSDのダブルスロット、堅牢性に優れたボディや4K60P動画など、プロをターゲットにしたハイエンド機だ。
気になる画質だが、実際に撮影してみるとこれが素晴らしい。撮像素子やヴィーナスエンジンの力はもちろん、レンズの描写力も非常に高い。S1R/S1と同時に登場した「LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S.」、「LUMIX S PRO 70-200mm F4 O.I.S.」、「LUMIX S PRO 50mm F1.4」の3本を使用したが、どれも絞り開放から高解像力を持ち、周辺部でも画質の低下が少ない。そしてボケも綺麗だ。
顔・瞳認識AF/動物認識AF
50mmレンズを装着し、絞りは開放のF1.4。被写界深度は浅く、4,730万画素という高解像では少しピントが外れただけで大きく目立ってしまう。しかしS1Rの被写体認識AFは、構図を決めてシャッターボタンを押しただけで目にしっかりピントが合っている。ピントを合わせることに神経質にならず、表情を見ながらチャンスに集中できるため、ポートレートがとても撮りやすい。
木の箱の中にいたネコ。隙間から顔が見えた。S1Rを構えると、ちょうどネコの顔の部分にだけ枠が表示され、動物を認識しているのがわかった。ネコの顔が完全に見えている状態ではなくても認識されるのに驚いた。
ユリカモメも認識し、目にピントが合っている。左側からもう1羽が飛んでくるタイミングを見ながらシャッターを切ることができた。ただ飛んでいる鳥は、認識するまでにやや時間がかかり、思ったように撮れないことが多かった。使用したS1Rは発売前のベータ機だったせいかもしれない。
新フォトスタイルの「フラット」は、その名の通りコントラストや彩度を抑えたフラットな仕上がりになる。スタンダードと比べるとその違いがよくわかる。特に白い服のトーンやシャドーの再現、背景の緑の彩度が大きく異なっている。柔らかい雰囲気で表現したい場合や、RAWから調整する際のベースにする場合に有効だ。
感度
設定可能なISO感度は100〜25600。高感度は主観にもよるが、ISO 3200までは常用できる。極端に拡大しなければISO 6400も実用的だ。画素数が増えると高感度に弱くなるイメージがあるかもしれないが、これだけ強ければ、ボディ内手ブレ補正やDual I.S. 2との併用で、通常の撮影で不満に感じことは少ないだろう。ISO 12800以上は高感度らしさが目立ってしまう。
※サムネイルをクリックするとリサイズなしの等倍データを表示します。
ハイレゾモード
ボディ内手ブレ補正のセンサーシフト機構を応用して、撮像素子を動かしながら8回撮影し、それを合成することで1億8,700万画素という超高解像度が得られるハイレゾモード。MODE1では動いている被写体がスローシャッターのようにブレて表現される。ここでも水面や、左奥で進む船がブレている。しかしよく見ると、ブレた像は細かく多重露光されたようで決して自然ではない。また拡大すると、全体的にわずかだがシャープさに欠ける。手前に浮かんでいる船の微妙な揺れや、カメラそのものも風や地面の振動で微妙に動いたのかもしれない。1億8,700万画素は、それだけシビアなのだ。MODE1は、屋内でガッチリした三脚に固定して撮影するのに向いたモードだと感じた。
なお、ハイレゾモードの撮影データは対応ソフトでRAW現像する必要がある。以下の2点は「SILKYPIX Developer Studio 8 SE」で現像した。
いっぽうMODE2は、動いている被写体に対し、その部分だけ合成処理を行わない。そのためブレずに止まって写る。ここでも奥の船はMODE1のようにブレず、自然な写りだ。拡大すると、細かい部分まで驚くほど緻密に再現されている。オーバー1億画素の高精細さを実感した。またその1億画素に耐えられるレンズの性能にも驚いた。
LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S.
彫刻の細かい部分まで解像しており、S1Rの解像力の高さがよくわかる。またレンズの解像力も高く、画面四隅でも甘さが少ない。
フォトスタイルはフラット。これまでのミラーレスカメラのイメージからするとS1Rは大柄でずっしりした重さがあるものの、バランスや操作性は良く、屋外のポートレートも軽快に撮れる。
シャッタースピード1/30秒で手持ち撮影。4,730万画素もあると、わずかなブレでも目立ってくる。しかし6段分の効果が得られるDual I.S. 2のおかげで手ブレしていない。
LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S.は、1/2倍までのマクロ撮影が可能。常用域をカバーする焦点距離と本格的なマクロ撮影も楽しめるのはとても便利だ。しかもDual I.S. 2の助けにより、手持ちでクローズアップ撮影ができる。
LUMIX S PRO 70-200mm F4 O.I.S.
開放F4に抑えていることもあり、比較的コンパクトな望遠ズーム。S1Rとのバランスも良好だ。ライカ基準で開発されただけあって、絞り開放から解像力が高く、ボケ味も綺麗だ。被写体認識AFで撮影。フォトスタイルは「フラット」。
フルサイズ対応の望遠ズームとしては取り回しやすく、街中でも軽快に撮影できる。テレ端200mmでシャッタースピードは1/80秒の手持ち撮影。手ブレ補正効果の高さがわかる。
ジョイスティックは大柄なグリップを握った状態でも使いやすい位置にあり、スムーズに測距点を変更できる。またファインダーを覗いた状態で、右手の親指で背面モニターをタッチして測距点を移動させるタッチパッドAFもあり、撮影者の好みに応じた操作が可能だ。ハトの動きを見ながらシャッターを切ることに集中できた。
LUMIX S PRO 50mm F1.4
S1Rの顔・瞳認識AFは、画面の中央からこれだけ瞳が離れていても認識する。LUMIX S PRO 50mm F1.4は絞り開放から高い解像力が得られ、ボケも美しい。50mmとしては大柄で重いが、ポートレートを撮る人には注目の組み合わせだ。フォトスタイル「フラット」に設定。
絞り開放でも甘さがなく、ピントが合った部分はとてもシャープだ。S1Rの高解像度にしっかり対応できており、AF精度の高さも感じられる。しかも周辺光量低下も少なく、画面全域で安定した描写だ。ボケも崩れていない。
背面モニターで構図を決めて撮影。LUMIX初の3軸チルトモニターは、横位置でも縦位置でもほぼレンズ光軸上で構図が決められる。モニターを横に開くフリーアングル式には馴染めなかったという人も、これなら違和感なく扱えるだろう。
L.モノクロームD
フォトスタイルを「L.モノクロームD」に設定。柔らかすぎず、硬すぎず、適度なコントラストだ。髪の階調もよく再現されている。肌の質感を意識して、粒状機能はオフにした。
L.モノクロームDで撮影。粒状を「中」に設定し、フィルム的な仕上がりにした。高解像力を誇るS1RとLUMIX Sレンズは、モノクロのファインアートにも使ってみたい。
4K60Pに対応する動画機能
35mmフルサイズのミラーレスカメラで4K60P記録が可能なのは、現在のところLUMIX S1RとS1の2機種だけだ。動画撮影向けの有償ファームアップはS1のみで、このS1Rには対応していない。S1の方が動画向けという位置付けなのだろう。もしくは、S1Rは来年の東京オリンピックに向けて、8Kを意識しているのかもしれない。
高い本気度を感じるフルサイズミラーレス機
LUMIX初の35mmフルサイズミラーレス機は、大柄で重量級のシステムだった。しかし、S1RとS1はプロをターゲットにしたハイエンド機だ。プロ仕様機は、機能はもちろんだが精度や信頼性、拡張性も重要になってくる。
パナソニックによると、高精度のシャッターユニットにこだわったとのこと。さらにフォーカルプレーンシャッターのシンクロ同調速度では35mmフルサイズで最も速い1/320秒を実現しているのも、ボディが大きくなるひとつの理由らしい。
他にも高精細で大きな視野を持つEVFや、シャッター速度5.5段の効果が得られるボディ内手ブレ補正、XQDとSDのダブルスロット、HDMI Type Aの採用、といった装備を充実させると、どうしても大柄になってしまうのだろう。
ただLUMIXでは、マイクロフォーサーズシステムも継続される。小型軽量で機動力を求める人はマイクロフォーサーズ、高画質を追求したい人はフルサイズ、と選べるわけだ。そのためS1R/S1ではミラーレスカメラのイメージである小型軽量にこだわらず、ハイエンド機としての機能を重視していることがうかがえる。
今回そのS1Rを使ってみて、パナソニックのフルサイズミラーレス機への本気度の高さが感じられた。ライカ、シグマとのLマウントアライアンスも含めた、これからの発展が楽しみだ。
モデル:深沢さえ