新製品レビュー
RICOH GR IV HDF
通常モデルと異なる世界にいざなう、ソフトで優しい独自の描写
2026年3月4日 07:00
GR IVの派生モデルといわれる「RICOH GR IV HDF」(以下、GR IV HDF)は、光を拡散するフィルターである「Highlight Diffusion Filter(HDF)」を搭載しています。
画像全体のシャープネスの硬さを取り、ハイライト部を拡散させる効果を持つことで、光を強調し、よりソフトな表現に。フィルム写真や映画のような情緒的な表現が可能です。
スナップシューティングの名手であるGRの速写性を損なわずに、日常のさまざまなシーンを捉えることができ、描写表現を広げるために生まれたGR IV HDF。実際に撮影し、その風合いに触れてみました。
外観上の変更点と操作系
見た目からも分かる通り、GR IV HDFは通常モデルの基本性能と外観デザインをそのまま受け継いでいます。変わったところというとシャッターレリーズボタンをグレイッシュシルバーに変更したのみで、操作系はGR IVと全く同じです。
通常モデルのGR IVではシャッターユニット(レンズ鏡胴内)にNDフィルターが入っていますが、そのNDフィルターの代わりにHDFが搭載されています。つまりは専用構造です。
これによって、レンズ前に専用アダプターやフィルターを装着する手間もなく、1台のカメラで2つの表現を使い分けられるメリットがあります。
HDFはボディ背面のFnボタンに「HDF」のON/OFF機能が登録されており、ワンタッチで素早く切り替えられます。
HDF(Highlight Diffusion Filter)とは?
そもそも「HDFって何?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。カメラのレンズ前に装着する、いわゆるブラックミストフィルターやホワイトミストフィルターと言われる、光の拡散効果を得られるソフト系レンズフィルターと同様です。
このフィルター自体、GRのコンセプトを踏まえ、日常のさまざまなシーンを捉えることができるよう、リコーの光学技術とIJ(インクジェットプリント)プリンティング技術とを用いて作られたオリジナルのフィルターなのだそう。
一般的にデジタルカメラでは、光が強く、輝度の高い部分(ハイライト)がくっきりと写りすぎて、硬い印象になることがありますが、HDFをONにすると、レンズの中で光が柔らかく拡散し、明るい部分がふんわりとにじみます。
カメラ内で画像を後からエフェクト加工する機能ではなく、レンズを通して受ける光そのものをコントロールする技術であり、その結果として、映画のワンシーンのような柔らかい雰囲気の写真を撮ることができます。
派手な演出はありませんが、新たなレンズを装着したような雰囲気を感じられ、明るい時間帯なら逆光や反射するほどの強い光を狙い、夜は光源の大きさと面積により、光の拡散がより強調されます。
HDFのON・OFF比較
光のにじみ方がより自然で大げさにならず、画質の劣化や不要なフレアも最小限に抑えられています。硬くなりがちなデジタル特有の質感が減り、温かみと空気感のある写真になり、暗い場所でもクリアで柔らかい写真が撮れるのが特徴です。
明るさとF値の関係
HDFは光を拡散させるため、露出補正を活用してプラス補正で明るめにハイキーに撮ると、ふわっと感が増し、夜間などは少し暗めに撮ると光源の芯が強調されます。
HDFの効果は絞りを開放に近づけるほど顕著に出る傾向があります。逆に絞り込むとにじみが控えめになるので、光の強弱を絞りでコントロールできるということです。
HDFとイメージコントロールで作る世界観
HDFのフィルター効果とイメージコントロールを掛け合わせることで、色合いを活かしつつ、デジタル写真の硬さを和らげた情緒的な写真が撮れます。
それぞれのイメージコントロール内の詳細設定で、コントラストを少し下げ、明瞭度も控えめに-1程下げ、全体的に柔らかい設定にすると、HDFと相まってさらに幻想的になり、レンズの解像感よりも空気感が際立ちます。
「そんなに柔らかめに設定していいのか?」と思うかもしれませんが、元々がしっかりとした画作りを考えられているイメージコントロールなので、「このくらいでも問題ないかも」という許容範囲をあらためて発見できました。GRの色表現は懐がかなり幅広く、深い。というわけです。
HDF × ビビッド
キャンディカラーで元気なイメージです。ポップ、かわいい、元気さ、を感じる被写体などにピッタリ。このイメージは、GRの意外な一面といってもいいかもしれません。
HDF × ネガフィルム調
色合いが落ち着いているネガフィルム調は彩度に+2を足しています。派手さのない中にも、物語性や哀愁を感じられ、日本らしい雰囲気に似合います。
HDF × シネマ調(Y)
ハイライトに黄色みがあり、全体的にくすんだ色合いのシネマ調(Y)。横位置の写真をアスペクト比16:9で見せることで、映画のスクリーンと似た雰囲気に。
渋色との相性の良さもあり、どこかで見た映画のワンシーンのようなタイミングを探してみたくなります。
HDF × モノトーン
モノトーンで撮影することで光に意識が集中します。また、その光にはHDFの効果がわかりやすく見られるため、撮影しやすい印象を受けました。モノクロ写真撮影が苦手な人はHDFを使うことによって光の見分けができるようになりそう。活用してみることをおすすめします。
ソフトモノトーンでは、詳細設定のカスタマイズで、キー(Key)を少しマイナスにして画面全体を暗めにしています。その上で、HDF効果を使うことで、光の拡散が強調されるようになります。
HDF × レトロ
そもそも柔らかい色調のレトロにHDFフィルターを入れるのには抵抗があるかもしれませんが、郷愁の雰囲気が増してノスタルジーな感覚を引き出します。これは非常に相性の良さを感じました。
HDF×イメージコントロールの使い方として、撮影モードダイヤル「U1, U2, U3」や、イメージコントロール「C1~3」に登録しておくと一瞬で切り替えられて便利です。
以下は、その例です。
- U1:スナップ用(HDFなし+好みのイメージコントロール)
- U2:日常用(HDF ON + ネガフィルム調)
- U3:シネマティック用(HDF ON + シネマ調Y)など
「NDフィルター」か「HDF」かという選択
通常モデルの「NDフィルター」か、それとも「HDF」か。使用頻度が多い方を選ぶというのが選択肢になると思いますが、正直なところ、常にHDFを入れたままにしていてもボタン1つでON/OFFの切り替えは簡単にできるので、撮影していて気になったらOFFにするというのも億劫ではないでしょう。
NDフィルターが使えない(搭載されていない)という点が気になるかもしれませんが、晴天の日中、絞り開放で露出オーバーになる撮影条件でなければ、NDフィルターの必要性はあまり感じないため、個人的には無くても問題ない範囲ではないかと感じます。
どちらかの選択を考えるとき、自身がGRで1番撮りたいシーンや、好きな写真家の作風などを想像すると選びやすいのではないでしょうか。
HDFは派手な演出ではなく、長く愛用できるフィルター効果になるよう調整されたオールドレンズのような優しい表現。好んで使いたい人もいるのではないかと思いますし、むしろ、高解像度時代のデジタル写真において、望まれているのだろうと思います。
GRで撮る作品をストリートスナップに限定する必要もなく、手段が1つ増えることで、日常的に撮りたいものがもっと増える。それだけで表現の幅と楽しみが広がります。
――かくいう私も、フィルターワークが好きな1人です。




















