新製品レビュー
Panasonic LUMIX S PRO 16-35mm F4
Sシリーズレンズ中で最も小型軽量 逆光耐性の高さも魅力
2020年2月17日 17:00
パナソニックは、カメラブランドとしてLUMIXシリーズを展開、オリンパスなどとともにマイクロフォーサーズ・システムを牽引してきているが、2018年にライカ、シグマとともにLマウントアライアンスで協業することを発表。2019年3月に35mm判フルサイズセンサーを搭載したLUMIX S1 / S1Rを発売した。今回レビューする「LUMIX S PRO 16-35mm F4」は、同カメラが採用したLマウント用の、Sシリーズ初の広角ズームレンズとして、2019年12月末に発売された。直後の2020年1月に発売されたLUMIX S PRO 70-200 mm F2.8 O.I.S.とあわせると、これでSシリーズレンズのラインアップも7本を数えるまでになった。
外観・機能
機能的な特徴点を見てみると、フォーカスクラッチ機能の搭載があげられる。また、防塵・防滴構造への対応、480fpsを実現する高速・高精度なAF性能なども同様。絞り開放F値F4でありながらも滑らかなボケ味と卓越した描写性能を併せ持ち、Sシリーズとしては最も小型軽量なレンズに仕上げられている。
“S PRO”を冠するレンズの特徴のひとつとも言えるフォーカスクラッチ機構では、フォーカスリングを前後にスライドすることでAF/MFを瞬時に切り替えてピント合わせができる。そのため直感的な動作でピント合わせをしたい場合や、AFでの合焦が難しいケースなどで重宝する機能となっている。
最短撮影距離25cmまで寄れるので、広角レンズの特徴を使った近接撮影表現も可能である。
レンズにはライカの評価基準をクリアしていることを示す「Certified by LEICA」の文字が入っている。
焦点距離によるレンズ繰り出し量は、最大でもわずか1cmくらいに収まっている。左が望遠端の35mm、右が広角端の16mm。レンズ全体が一番短くなる焦点距離は28mmである。
付属の花型レンズフードを装着した状態。
LUMIXのSシリーズLマウントレンズは重くて大きな製品が多い中、本レンズは長さ99.6mm、重量も500gともっとも小型軽量な設計だ。
作例
逆光線の中、青空に広がっている雲と、引き潮で浅瀬になっているおかげで空と海が合わせ鏡のように見えて美しかった。気になるフレアは見られず、色のりの良い好きな描写である。撮影地はウユニ湖と言いたいところだが、東京から電車で1時間半ほどで行ける場所だ。
砂浜に落ちていた3〜4cmくらいの小石に思いっきり寄ってクローズアップ。背景のボケもグラデーションに。
近所の裏通りで見つけた奇妙に彩色されたオブジェ。午後の斜光線に浮かび上がるオブジェの立体感や、強烈な日射しから出来たシャドー部も再現されている。
ハワイに行く予算が無かったので東京湾の夕暮れだけど、夕方の時間帯の空のグレデーションも美しい。美しい写真が撮れさえすれば何処だって素敵に思えると強がりをささやいてみる(笑)。
夜景を撮っていたら飛行機が飛んでくる場所だったので、慣れない長時間露光をやってみた。画面正面のライトから直接レンズに光線が入ってくる状況だったが、フレアやゴーストが見られない高い画質が保たれていた。
昭和の時代から東京のど真ん中にある大きな公団住宅。新しく建てられた高層棟から太陽が覗いている。正面からの強い光線であるため、若干フレア、ゴーストがみられるけれども、この程度に収まっているのは、素晴らしいコーティングが備わっているからこそだと思う。
都心にある公団住宅が再開発で建て替えられていくのは、昔から見てきた人間としては何だか淋しくも感じてしまうが、実際に生活されている方々にとっては悲喜交々なのだろう……。
三重県にある伊賀上田という町を初めて訪れた。伊賀忍者で有名な小さなお城がある、こじんまりとした城下町の景観を保存努力している素敵な地域だ。
街のあちこちに歴史的な建物が残っている。特に商店や蔵が多いので、かつては商業でもかなり栄えていたのだろうと想像しつつ、被写体を探しながら歩くのも楽しい時間だ。絞りを開放から1段絞ってF5.6にした。このあたりからすぐに解像力がグッと増してくる。
ビルの谷間から差し込んだ光線が壁に反射しているのが美しかった。同じく蔵のような建物に見えるが、コチラは東京の路地裏にあるお店の外観で、目を引く造りがユニーク。
表参道の裏路地に植えられたチューリップ。真冬の街でも華やかな色味が春っぽく感じられて嬉しい。ワイド端16mmで思いっきり寄り、F4の開放絞りにして背景にこの街の象徴的な建物を入れてみた。
東京湾岸地帯をクルマで走っていると、大きく口を開いたマッコウクジラみたいな巨大な雲に出会った。雲はすぐに形を変えてしまうから、16mm〜35mmまで、焦点距離を変えながら何枚もシャッターを切った。ウチへ帰ってパソコンの大きな画面を見てセレクトしたのは28mmのカットだった。その場で判断が難しい場合にはズームレンズが強い味方になってくれる。
神戸のホテルにて。朝の光線とシルエットが不思議な絵柄を創った瞬間の1枚。シルエットの人物は先輩写真家だが正解を当てた人はエライっ(笑)。
西陽を浴びている円形立体駐車場が生き物の住み処のように思えた。コントラストの強い被写体でもトーン再現に優れた描写だ。
仕事ではじめて神戸を訪れたのは、大きな地震に襲われる数カ月前の1994年だった。この場所にある新しいFMラジオ局からスタートして神戸のあちこちで関西在住のタレントさんをたくさん撮影した想い出がある。“波止場町”という名前がとても似合う場所だ。
これだけ派手な色とインパクトある可愛い壁画が描かれていれば、落書きされる心配もない(笑)。ポップなイラストに光が反射してさらに素敵なアートになっていた。引きがない路地には16mmの広い画角がないと撮れない場面がある。これもそうしたカットのひとつだ。
デコレーションされた古いシトロエン2CVのヘッドライトをクローズアップ。古いクルマなのに近未来的にも見える。
上京したばかりの30数年前。当時の日本を代表する著名な写真家やデザイナー、スタイリストなどクリエイティブな職業の人たちが事務所を構えていたビルが数年前に建て替えられ、今では販売する側の商業ビルへと生まれ変わった。変化もまた街が活きている証しである。
ガラス容器に入ったコーヒー豆を35mm側で撮影。近接撮影にも使えるので、広角だけではない表現も可能である。
最近の青山や原宿あたりの大通りから1本入った裏道にある飲食店や雑貨店などの造りや色の使い方などは、ロンドンやパリの裏通りの雰囲気とも似ている感じがする。
ワイド端16mmでも周辺光量の低下は少ない。冒頭カットと同じビーチだが、時間と共に雲が流れて空の色が変われば、また別の表情を見せてくれる。そんな風景が好きだ。利便性だけではなく焦点距離を変えることで違った表現が出来るのも、ズームレンズの魅力のひとつだ。
まとめ
LUMIX Sシリーズ用のレンズは、単焦点50mmのLUMIX S PRO 50mm F1.4のほか、LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S.、LUMIX S PRO 70-200mm F4 O.I.S.がラインアップ。さらにLUMIX S PRO 24-70mm F2.8、LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S.と、ズームレンズの拡充が進められている。本レンズは、これらレンズラインアップの中で初めて登場した広角ズームレンズである。開放F値がF4の24-105mmや70-200mmと併せることで、いわゆる“小三元”と呼ばれる3本セットが出揃ったことになる。フィルター径も、これら3本のレンズはいずれも77mmに統一されており、ユーザーにとって利便性が高いシステムとなっている。
本レンズでは最短撮影距離が25cmと短いため、被写体にぐっと寄ることで準マクロ的な表現も可能だ。またフォーカスクラッチ機構の搭載により、オートフォーカスでは難しい撮影状況や被写体へのスピーディーな合焦など、瞬時にAF/MFを切り替えて使えるのは嬉しい。
今回はボディにLUMIX S1Rを組み合わせて試用した。ファームウェアはCFexpressに対応した最新のバージョンを適用した状態だ。新しい規格のメモリーカードがどのように撮影を変えるのかもあわせてみていった。
メモリーカードはサンディスクの「Extreme Pro」。容量は512GBのタイプを使用した。感想はというと、撮影時の書き込みスピードもPCへの取り込み時間も圧倒的に速い。CFexpressの威力には感嘆した。このスピードを知ってしまったら、今後発売されるカメラには是非ともCFexpress対応スロットの搭載を願わずにはいられないほどだ。
話をレンズに戻そう。“Certified by LEICA”と記されているとおり、本レンズはライカのいうなればお墨付きを得ている。それもあってか、Sシリーズの多くのレンズは“使う道具=ギア“としての造りそのものの完成度が高い。レンズ筐体自体の高級感溢れる造りやズームリングやフォーカスクラッチ機構を兼ねるフォーカスリング、さらにマウント部分に至るまで、動作構造的にも仕上げの美しさとしても、ひとつクラスが上のラグジュアリーな質感をまとっている。
絞り開放値はF4ではあるが、F値を抑え気味としたことで、小型化も実現されている。Sシリーズとしては最も小型軽量なレンズと謳っているとおりに重量500gに収められているので、携帯性にも富んでいて、機動力を活かしたシャッターチャンスを逃さない撮影ができる。
それと同時に、滑らかなボケ味と卓越した描写性能も実現。卓越した画質と美しい筐体仕上げと引き換えとなるようなかたちで、現在のラインアップでは比較的重量級のレンズが多いSシリーズだが、これくらいコンパクトなレンズのラインアップへの追加も、今後ぜひとも望みたいところである。