新製品レビュー
LUMIX S PRO 24-70mm F2.8
撮り手のイメージで硬軟描き分けられる柔軟性ある1本
2019年10月24日 07:00
2019年9月にパナソニックより発売された「LUMIX S PRO 24-70mm F2.8」(S-E2470)は、一般的な撮影用途で最も使用頻度の高い画角帯をおさえた標準ズームレンズだ。
35mm判フルサイズのLUMIX SシリーズをはじめLマウントを採用したカメラに対応した1本で、パナソニックのSシリーズレンズでは4本目、シリーズ初の大三元レンズの登場となった。
大三元レンズとは一般的に、広角・標準・望遠ズームレンズで、ズーム全域がF2.8となっているレンズを指す呼称だ。本レンズは、ズーム全域でF2.8を実現しているだけでなく、ライカカメラ社の厳しい品質基準をクリアしたレンズとして、LUMIX S PROラインに位置づけられている。
デザイン・操作性
本レンズは非球面レンズを3枚、EDレンズを4枚、UHRレンズを1枚採用した16群18枚で構成されている。画質は画面中心から周辺まで均一な描写で、ズーム全域において高解像度を実現している。
サイズは最大径90.9mm・長さ140mmで質量は935gでフィルター径は82mmを採用している。
外装は強度と耐久性が高い金属製となっており、防塵・防滴構造でマイナス10度の耐低温設計など堅牢性の高い仕様となっている。さらに妥協のない画質の証である「S」のレッドエンブレムを博しており、デザインにも品や美しさを感じる。
オートフォカスは制御速度480fpsのAF制御とコントラスト検出方式で高速化と高精度化を両立し、さらにダブルフォーカスを採用することで高い描写性能とオートフォーカスの高速化も実現している。
今回のポートレート撮影でもAFの精度が高く、速度もモデルの動きに完全に追従しており、ストレスは全く感じなかった。
ズーミングはレンズ鏡胴が繰り出すタイプだが、適切なトルク量で不用意に動くことはない。操作時のバランスも大きな変化はなくワイド端から望遠端まで違和感は感じなかった。
また、S PROレンズの標準仕様になりつつある「フォーカスクラッチ機構」の採用は、AF撮影時にピントリングを前後のスライドさせることで即座にマニュアルフォーカスに切り替えられる。
この機能は今回のポートレート撮影でも重宝した。例えばAF設定を瞳認識にして、撮影中に唇など瞳以外の場所にフォーカスを合わせたい時などで、AF設定を切り替える為に撮影を中断せずに撮影を進めることができる。その他、微調整を必要とする撮影にはとても便利な機能だ。
作例
ポートレートによるレビューなので撮影シチュエーションによく使われるグリーンを背景とした公園や、午後の港町などで撮影をおこなった。天候は概ね晴れで雲も少ない状況だった。なお、撮影はすべてポートレートモードでおこなっている。
24mmの広角レンズ特有の歪みを感じさせない自然な遠近感で画面奥に向かう軟らかなボケは大口径レンズの恩恵ともいえる。解像感も非常に高く24mmもポートレートでは積極的に活用できそうだ。
28mmは寄りでなければモデルの立ち位置をそこまで気にせずに撮影できる焦点距離だ。画面端にモデルを配置したが違和感のない自然な描写が得られた。絞り開放F2.8での撮影だが、背景の船のボケ方も素晴らしく、スナップ撮影にも適しているのは一目瞭然だ。
35mmで撮影した。人物に焦点を絞ったような印象が強まる焦点距離だ。絞りをF5.6まで絞ると背景のディテールも見えてくるが、うるさく暴れる印象はない。
50mmは僕にとって最も使用頻度が高い焦点距離だ。その写りは極めてニュートラルな印象だった。もちろん、単焦点の50mmと比較すればボケの大きさなどはどうしても敵わないところはあるが、ズームレンズでこの写りは、きわめて高いレベルのレンズだと断言できる。ヌケも良くポートレートにも好適だと感じた。
テレ端となる70mmでの描写をみた。この焦点距離も、他の焦点距離同様、解像感が高い。とくに髪の毛などの細かい線を観察すると、その解像力の高さを実感していただけることだろう。動きながらの撮影だったが、AFの速度も十分だった。
日中の逆光ではなく、より光源の角度がレンズに近くなる夕方の条件で撮影した。水面の反射も加わっており撮影条件としてはかなり厳しいが、フレアを強力に抑えてモデルのディテールを保っている。
陰影入り混る古い壁面で撮影したが画面全体の安定感は高い。衣装に使用されたオーガンジー素材の細かな質感も忠実に描写されている。
LUMIX S1Rとの組み合わせで撮影しているが、その肌色の再現性はパナソニックのマイクロフォーサーズ機でハイエンドに位置づけられているLUMIX G9 Proに印象が似ていて、美しい肌描写だ。
また、高い解像力を有することはここまでの写真で確認できたと思うが、ちょっと“硬い”という印象を持つ方もいるのではないだろうか。しかし、このカットを見て安心してほしい。ただカリカリと硬いだけでなく光に応じて素直に反応した優しい写りをしている。ここから分かることは、選ぶ光や、その光質などに撮り手のイメージを反映できる柔軟性も併せ持っているレンズだということなのだ。
焦点距離50mmのボケを意識して撮影した。もちろん背景との距離において微妙に変わるが、ズームレンズではボケの大きな部類に入る使いやすいレンズだ。ポートレート撮影ではモデルを引き立てるのにボケの要素は欠かせない。
間もなく日が落ちる時間帯で撮影した。このように明暗差が激しい状況での撮影ではカメラの性能も大きく影響してくると思うが、本レンズは思い描いた通りの空気感で描きだしてくれた。シャドー部のディテールやフォーカスを合わせたモデルの写りなども良好で、描写バランスの仕上がりの高さがうかがえる。
まとめ
LUMIX Sシリーズは、それ自体が35mm判フルサイズのハイエンド機らしいやや大きめなサイズ感なので、そのイメージから、本レンズについても“大きく重量があるのでは”と想像しがちだが、大口径である点やこの描写性能を勘案しても、さほど大きくも重くもないというのが僕の印象だ。
実際、ほぼ一日中このレンズを振り回してモデルと一緒に岩に登り、這いながら撮影したが、重量感や疲れを感じることはなかった。バランスの悪いレンズだと違和感や変な疲労感を感じるものだが、疲れしらずで撮影を続けられたのは、装着時のバランスがよく考えられているからではないか、と分析している。
僕のズームレンズの使い方は、あらかじめ焦点距離を決めた上で撮影する「単焦点」に近い感覚のスタイルを基本としている。が、ズーミングによる画面や画角の微調整ができる点は大きな武器だ。本レンズでは、そうした微調整もズームリングのトルク量が適切であるため、スムーズに行えた。本レンズはLUMIX S PROラインのレンズへの熱い想いとこだわりを感じさせる1本であった。
モデル:日向恵理