写真を巡る、今日の読書

第105回:展覧会を見に行くことから深まる写真論

写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。

注目すべき展覧会

2月から3月にかけては美術系の大学や専門学校の卒業制作展が多く、今年も現代美術の最前線を担う新たな美術家たちの視点を楽しむことができました。ほとんどのアーティストにとって、卒業制作がデビュー作であり、その後の長い作家活動の原点となるものですから、毎年その成果を眺めることは最大の楽しみでもあります。

他にも、現在都内では多くの注目すべき展覧会が行われており、東京オペラシティアートギャラリーのアルフレッド・ジャーの「あなたと私、そして世界のすべての人たち」や、畠山美術館の「圏外の眼―伊奈英次の写真世界」、国立新美術館のYBA展などは、非常に興味深い作品展でした。

『大西茂 写真と絵画』東京ステーションギャラリー 編(平凡社/2026年)

今日最初に紹介する『大西茂 写真と絵画』も、特に印象に残った展覧会のひとつです。「超無限」をキーワードに、数学、写真、絵画を縦横無尽に駆け巡りながら制作活動を行った作家で、本展覧会では多くの写真作品が展示され、図録にも掲載されています。

多重露光やソラリゼーション、フォトグラムといった技法を駆使した即興的な写真群からは、印画紙に作家の激情と躍動そのものが写し出されているかのように感じられます。

アンフォルメルやシュルレアリスム、前衛、具体といったキーワードに反応する方なら、非常に興味深く眺められるでしょう。展覧会は2026年3月29日まで東京ステーションギャラリーで開催中ですので、併せてご覧いただくと良いのではないでしょうか。

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『ベンヤミン メディア・芸術論集』ヴァルター・ベンヤミン 著(河出書房新社/2021年)

大西茂の展覧会を拝見した後、改めてシュルレアリスムの作品や論考を読み直していました。そのうちの1冊が『ベンヤミン メディア・芸術論集』で、シュルレアリスムについて書いた「夢のキッチュ」「シュルレアリスム」のほか、「写真小史」や「技術的複製可能性時代の芸術作品第二稿」なども収められており、ベンヤミンの重要な論考がまとめられています。

メディア論を読んでみようという方にはおすすめの1冊です。極めて重要な写真論のひとつである「写真小史」は、ちくま学芸文庫の久保哲司訳版が定番ですが、山口裕之訳の本書と読み比べてみても、新たな発見があるかもしれません。

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『ブラッサイパリの越境者』今橋映子 著(白水社/2007年)

最後に、シュルレアリスム期に活躍した写真家についての読み物を1つ紹介したいと思います。『ブラッサイ パリの越境者』では、「夜のパリ」(1933)を代表作とするブラッサイの生涯と作品について描かれ、さまざまな同時代人たちとの交流や関わりにも触れられています。

思想におけるベンヤミンとの共通点にも言及し、霧に包まれた夜が印象的な「夜のパリ」や、妖艶なパリのアンダーグラウンドを露わにした「秘密のパリ」などの重要作の成り立ち、戦後の活動まで網羅しており、世界中のブラッサイ研究の動向にも触れています。ブラッサイという多様な分野で活躍したアーティストを、非常に詳細に知ることができる1冊です。

大和田良

(おおわだりょう):1978年仙台市生まれ、東京在住。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業、同大学院メディアアート専攻修了。2005年、スイスエリゼ美術館による「ReGeneration.50Photographers of Tomorrow」に選出され、以降国内外で作品を多数発表。2011年日本写真協会新人賞受賞。著書に『prism』(2007年/青幻舎)、『五百羅漢』(2020年/天恩山五百羅漢寺)、『宣言下日誌』(2021年/kesa publishing)、『写真制作者のための写真技術の基礎と実践』(2022年/インプレス)等。最新刊に『Behind the Mask』(2023年/スローガン)。東京工芸大学芸術学部准教授。