特別企画
屋久島——水のいのち——
LUMIX S1R+LUMIX S PRO 70-200mm F4 O.I.S.
2019年9月12日 11:17
屋久島は、僕の暮らす沖縄からみると同じ琉球弧の仲間である。そして、近くて遠い島だ。これまでは一度鹿児島に渡ってから南下するしかなかった。それが2018年から試験的に那覇からのフェリーが寄港してくれることになった。希望者があればという但し書き付きだがこれはうれしい。さっそく1週間にわたり島をめぐることにした。
水を通じて“いのち”のつながりを表現したい
僕がライフワークとしているテーマは、水を通じたいのちの繋がりと、人間をも含めた生物多様性である。沖縄ではやんばる地域をフィールドにしている。屋久島も学生の頃からかれこれ30年以上、折に触れて通ってきた。
今回の撮影には、新しく発表されたLUMIX S1Rと、これも新しく設計されたS PRO 70-200mm F4 O.I.S.のテストを兼ねて持ち込んだ。森の撮影には通常14-24mmあたりの広角レンズが使われるが、S PROシリーズの広角は未発売なので、70-200mmという森の中ではあまり使ったことのない焦点域のレンズ1本で、どれだけいのちの有り様を描ききれるか、挑戦してみることにした。なお、撮影はすべてフォトスタイル「VIVID」、WBはマニュアルの設定でおこなっている。
被写体に近づけば自ずと迫力を出してくれる広角レンズと違い、写真家が「何をみているか」をはっきりと見せてしまう望遠ズームだけを携えて森に入った今回の旅では、これまでの経験と、なにより普段からの「思想」が深く問われることになった。
高い機動力を支えるタフさが魅力
奥岳と呼ばれるこの森の奥には、雪の積もる厳冬期も含めて数十回と訪れている。そのたびに機材の故障には泣かされてきた。フィルムでは湿気でピントがずれてしまったり、雨中でのフィルム交換は至難の業だった。撮影中はカメラにレインカバーをのせ傘をさすものの、この島の豪雨の下ではカメラやレンズの濡れを完全に防ぐことは困難だ。瞬く間にしぶきがレンズとボディを水びたしにする。そして雨がやみ気温が変化すれば今度は結露が待っている。
ふだん沖縄でも海やマングローブ林などで常に天候変化の最前線にいるため、カメラには常に耐候性と耐久性が求められる。他のフルサイズミラーレスをこの1年ほど使用していたが、樹にぶつけただけでボディがゆがんだり、予期せぬフリーズでチャンスを逃したりした。
防滴性については持っている水中ハウジングに入れることも考えたが、ハンドリングが悪くなるのと、広角ではポートについた水滴の前ボケが入ってしまったりして積極的には使えなかった。その点LUMIX S1Rは徹底的にプロ向けと位置づけて設計されたフルサイズミラーレスだ。僕の過酷な撮影環境に耐えるカメラではないかと直感しての移行だった。そして今回の屋久島では、あえてレインカバーなしで数日間雨中での撮影を続けてみたのだ。だが、トラブルは一切出なかった。電池交換などの作業もあるから濡らさないに越したことはないが、機動力を最大限優先したい場合には、このタフさが大きな力になると感じた。
ありふれた対象をもつぶさに“見せられる”
今回、もうひとつチャレンジしたことがある。それは、一般の旅行者が見られる場所だけで撮るということ。人の少ないエリアを探したわけでも、許可をとった特別保護区内で撮影したわけでもない。すべて一般道からみた世界だ。それでもこれだけの世界が見られる、見せられるということへの挑戦だった。
屋久島の歩道は広いが、三脚を立てることはなるべく避けたい。また、突然の出会いも風景写真にはつきものだ。そんなときボディとレンズが協調するLUMIX S1Rの新しい手振れ補正Dual I.S.2は抜群の威力を発揮した。
70mmでシャッター速度13分の1秒でも止まるのには驚いた。この性能は撮れる世界をぐっと拡げてくれた。高感度ノイズの少なさも有効約4,730万画素のセンサーとしてはすばらしいの一言だ。他の高画素機も使用したからわかる。ありがたいことにノイズ処理の残秒数が表示されるので、その間に次の動きを決めることもできる。
描写力にも独特の味がある。LUMIX S PRO 70-200mm F4 O.I.S.は最新の設計とあって逆光にも強いが、開発チームがこだわったという「湿度感」の表現はひとつ上の高みに達している。初めて等倍で見たときには唸った。ほぼ同じ画素数のデータは他機で見慣れているが、何かが違う。解像感もありながら、どこか描写があたたかいのだ。やや半信半疑だった“Certified by Leica”に納得した瞬間だった。
フィルムの粒子が持っていた「実体感」とでもいうものが復活したような感覚だ。有機的といってもいい。レンズとのマッチングもあるだろう。僕の発表では大判のプリントも含まれるので、これはうれしい驚きだった。加えて、その気になれば1億8,000万画素のハイレゾも使える。
集中力を高める操作性
モニターが縦位置のローアングルに対応しているのもストレスを減らしてくれた。そして、これがまたなんとも頑丈。僕の場合撮影に集中するとカメラをあまり見なくなり、ボディを掴むつもりでしばしばモニターもガシッと掴んでしまう。そんなときでも液晶面を気遣う心配がなかった。
他にも、ミラーレストップレベルのレスポンスの速さ、高精細かつ高倍率のファインダー、手堅い回折補正、ノンダストシステム、ピント精度の高いAF、レンズにしっかりと刻まれたMFの距離指標、AF-MF切り替えがワンタッチであること、ホットシューのカバーにロックがついているのもよかった。こうしたことの積み重ねが、撮影への集中力と可能性を限界まで高めてくれる。
撮らされることの喜び
森にいて感じるのは、被写体に呼ばれる、撮らされることの喜びだ。なかなか前に進めない。樹や苔や水や大気や、あらゆるものが僕を呼び止める。
今回一番の収穫だったのがシャッター音と感触だ。「まるでレンジファインダー」といったら褒めすぎだろうか。耐久40万回を達成した副産物でもあるのだろうか、品のある音とショックの少なさが印象的で、静かな森に溶け込むことができた。無音シャッターやグローバルシャッターの進化も楽しみだが、撮影リズムを作れるメカシャッターとしては現状最高峰ではないだろうか。開発陣の努力と想いが伝わり、とにかく安心感があった。
フィルムカメラではファインダーが曇ると撮影が中断していたが、LUMIX S1Rでは液晶モニターで撮影を続行できた。もちろん完璧なわけではない。レンズフードのロックボタンが飛び出しているので腰に下げていると回って外れることがあった。対策としてテープで固定した。
なおRAWは文句なく素晴らしいのだが、JPEGの画質がもう一歩だ。FINEよりもう1ランク上の低圧縮モードもファームウェアアップデートで追加してほしい。プロの場合、その場でクライアントに納品しなくてはならないことがあるが、現状では暗部や波などの描写が溶けてしまっていて、不満が残る。
またこのカメラだけではないが、ボディの発熱量も気になった。温度差がある場所で使用した場合、ファインダーやレンズ後玉が結露したり、真夏の炎天下では動作停止が心配だ。強力な発熱対策を施したカメラの登場を期待していたところ、2019年9月末に発売が予定されるLUMIX S1Hには、早くもヒートシンクとクーリングファンが搭載されるという。メーカー公称で−10度から40度までの、6K24pを含む全動画撮影モードでの無制限記録を実現したという。僕が普段使っている大き目のシネマカメラには空冷ファンがついているが、それからの置き換えも検討できる時代になってきたようだ。
よいカメラを持つと、さらに次の要望を出したくなってくる。プロはどんなカメラでも使いこなせてしまう一方、自分の道具にはとことん欲深い生き物でもある。だからこそ、スマホのカメラ機能も使いこなしながら、ここぞという勝負時には「本物」のカメラを持ってフィールドに挑みたいのだ。メーカーとユーザーがお互いに妥協のない真剣勝負のやりとりをすれば、そこからまたきっと、まだ見ぬ新次元へと進めることだろう。
屋久島は世界遺産の島だ。そのフィールドでLUMIX S1Rの実力を感じることができた。僕の暮らす琉球弧には世界に誇れる風景が山ほどある。そのいのちの根源を突き詰めることで、日本という枠を超えたグローバルなレベルの作品を産み出したいと思う。
防塵・防滴性、落下試験を繰り返したという耐衝撃性、XQDを含むダブルスロット、「実体感」を持つまでに高められた描写力……。初めてLUMIX S1Rの情報を目にしたとき、初めて実機に触れたとき、そして今回と、それぞれで受ける感覚に違いはなかった。“これは自分にとって信頼できるカメラになる” その読みは間違っていなかったようだ。
写真家として一番大事なことはふたつ。「現場にいて」「撮る」こと。そのためには“故障しないカメラ”が必要だ。それは経済原理には少し反することかもしれないが、ポリシーを持ってその頂のひとつを目指した開発者の姿勢には、深い敬意を表したい。
また森や海が呼んでいる。次の挑戦にも、傍らにはLUMIXがあるだろう。