新製品レビュー

OLYMPUS OM-D E-M1X(実写編)

先進の「手持ちハイレゾショット」「ライブND」を実写で検証

オリンパスがマイクロフォーサーズにこだわり見いだした極致「OM-D E-M1X」。小センサーだからこそたどり着いた撮影領域がこのカメラの中にある。小型軽量なシステムと圧倒的な高速性、高い質感再現と革新的なスローシャッター表現。そこから吐き出される描写は今後の試金石となるものだ。今回はその可能性を突き詰めたE-M1Xの表現力を検証しよう。

解像感・手ブレ補正

搭載するイメージセンサーは、E-M1Xと同じくオリンパスのフラッグシップ機である「E-M1 Mark II」と同じ2,037万画素のLive MOSセンサー。高画素ではないものの高い解像力が特長で、長辺1mほどの大伸ばしプリントにも十分に対応できる。20Mセンサーはデータが軽めであり、RAW現像などでもPCに対しハイスペックを求めすぎないのもよい。

少し話は逸れるが、E-M1Xと同時に発表された画像編集ソフトウェア「Olympus Workspace」は、以前の「Olympus Viewer 3」よりも処理スピードが格段に向上しており、PC処理が快適になった。また明瞭度やかすみ除去などの新機能も追加されている。もちろんOlympus Workspaceは既存のカメラでも使用できるので、オリンパスユーザーは試してみてほしい。

E-M1Xに搭載されたボディ内手ブレ補正の効果は、驚異のシャッタースピード7.0段分。M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROとの組み合わせでは7.5段まで効果が拡大する。7.5段といえば、例えば手ブレ補正オフの状態で1/160秒のシャッタースピードで手持ちのカメラブレが起きない状況だとすると、E-M1Xは約1秒までシャッタースピードを遅くしても同じ解像力を保てる計算になる。実際、カメラを持ってファインダーを覗いてみると「あれ?三脚にセットしてたっけ?」と思うくらいだ。

M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO / 100mm / 1/80秒 / F4 / −0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / ピクチャーモード:Vivid / WB:5600K / ハイライト&シャドウコントロール:Highlight +4, Midtone 0, Shadow -2

インテリジェント被写体認識AF

画像処理エンジンをダブルで搭載したことによりE-M1Xで実現した「インテリジェント被写体認識AF」。ディープラーニング技術を活用したAFということで、期待とともに、本当に使えるレベルなのか不安もあった。しかし使ってみるとそんな不安は一瞬でなくなった。認識する被写体の3種モータースポーツ、飛行機、鉄道のうち、動体撮影専門でない筆者にとって一番身近を思われる鉄道モードで新幹線を撮影してみた。

駅のホームの安全な位置でカメラを構え、新幹線を待つ。新幹線がカーブを曲がりフレームインした直後にファインダーには白い枠が表示され、向かってくる先頭車両付近を囲む。それから程なく緑の小さな枠が表示され、運転席を認識した。あとはレンズを上下左右に振っても、フレーム内に被写体がある限りピントを合わせ続けてくれた。もちろん被写体が近づいてきても離れていっても、画面に適度なサイズで収まっていれば難なく認識し、C-AFで捉え続けた。さらには横向きや連結部分などでも適切に認識していたのには驚いた。

E-M1Xにはフォーカス位置をクイックに移動できるマルチセレクターが採用されているが、正直なところ、このインテリジェント被写体認識AFに対応している被写体に限っては使うことがなさそうだなと感じた。

M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO+MC-14 / 210mm / 1/1,000秒 / F5.6 / ±0EV / ISO500 / マニュアル / ピクチャーモード:Vivid / WB:5300K / ハイライト&シャドウコントロール:Highlight 0, Midtone -2, Shadow 0

「ハイレゾショット」が手持ち撮影に対応

マイクロフォーサーズからさらなる高解像力を描き出すハイレゾショット。風景系フォトグラファー注目の機能だが、従来機では三脚の使用が必須だった。しかしE-M1Xに搭載された「手持ちハイレゾショット」では、その名の通り手持ち撮影に対応したことで撮影領域が格段に広がった。従来のハイレゾショットは「三脚ハイレゾショット」と名前を変えて搭載されている。

三脚および手持ちハイレゾショットは、どちらもカメラ内で8,160×6,120ピクセルの約5,000万画素の画像が生成される。数値としては同じだが、三脚モードのほうがほんの少しだが先鋭さがあるように感じる。さらに三脚ハイレゾショットのRAWデータは10,368×7,776ピクセルで、RAW現像では約8,000万画素の超解像度データを描き出せる。

手持ちハイレゾショットでは、画面の広い面積が水面などの動く被写体だった場合、合成処理が失敗して処理がキャンセルされることもある。合成処理自体が成功したとしても水面の描写はガサガサとして美しくない。よって、三脚が立てられる状況や、水面などを画面に入れる際は従来どおり三脚ハイレゾショットが最良と言える。とはいえ手持ちでハイレゾショットが撮影できる手軽さは快感だ。手持ちでブレない光量があり、被写体に動きがない状況では積極的に利用していきたい。

ちなみに手ブレ補正7.5段分となるM.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROとの組み合わせで、薄暗い室内の約4m先にある被写体に対し、1/10秒という低速シャッターで手持ちハイレゾショットが7割程度成功したことには本当に驚いた。なお同じ状況で通常の1枚撮影を行うと、1/2秒の撮影が同じぐらい成功した。

なお処理スピードはE-M1Xの三脚ハイレゾショットとE-M1 Mark IIのハイレゾショットでほぼ同じ。E-M1Xの手持ちハイレゾショットは、それらの約2倍程度の時間を要する。

手持ちハイレゾショットの例
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO / 80mm / 1/320秒 / F5.6 / ±0EV / ISO200 / 絞り優先AE / ピクチャーモード:Vivid / WB:5300K / ハイライト&シャドウコントロール:Highlight -2, Midtone -3, Shadow 0
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シングルショット20M
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三脚ハイレゾショット50M
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三脚ハイレゾショット80M
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フィルター不要、だけじゃない「ライブND」撮影

E-M1Xに新搭載されたライブND撮影は革新的だ。画像合成によってND2から1段ごとにND32までのND効果を擬似的に付与できるうえ、設定した秒数のスローシャッター描写をライブビューでシミュレートできるのだ。シャッタースピードは1/30(ND2設定)〜60秒(全ND設定共通)まで設定できる。

ファンクションボタンのいずれかにライブNDを登録すれば瞬時に機能をオンにできるため、実際にレンズフィルターを装着する手間と比べたら天と地の差だ。ましてやND2からND32までのNDフィルター5枚全種を持ち歩くような人はまずいないだろうし、いたとしてもそれだけで結構な荷物だ。

さらにライブNDをテストしてみて、これまで気付いていなかった、いや気付かないようにしていたことを改めて突きつけられてしまった。ライブND機能はスローシャッター表現を手軽にするだけではなく、スローシャッター撮影時の画質向上にもつながるのだ。最近のNDフィルターは高画質化が進んでいるとはいえ、黒っぽい半透明のフィルターのため画質への影響がゼロということはない。それに対しライブNDはレンズ自体は素のままであるため、画質への影響がまったくないのだ。試しに所有するND8フィルターとライブND8で画質比較してみたが、解像力やカラーバランス、さらには同ISO感度ながらノイズ量などに明確な差を確認できた。

オリンパスのカメラは常用最低感度がISO200とやや高く、これまでスローシャッター表現はあまり得意とは言えなかったが、このライブND機能によってスローシャッター最強カメラに生まれ変わったといえよう。

ライブND16で撮影。M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO / 86mm / 1/2秒 / F11 / ±0EV / ISO200 / シャッター優先 / ピクチャーモード:Vivid / WB:5300K / ハイライト&シャドウコントロール:Highlight -2, Midtone -3, Shadow 0
ライブNDなし・1/50秒
ライブND2・1/25秒
ライブND4・1/13秒
ライブND8・1/6秒
ライブND16・1/2秒(上のND16写真と同じ)
ライブND32・1秒
レンズにND8フィルターを装着
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「ライブND」機能のND8で撮影
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高速性・耐環境性能

E-M1Xは高速性にも優れる。AF/AE追従最高18コマ/秒やAF/AE固定最高60コマ/秒の電子シャッターによる超高速連写、それにて加えシャッター全押しから最大35コマを遡って記録できるプロキャプチャーモードなど、E-M1 Mark IIで実現した圧倒的な連写機能を同じく有する。

これら連写関連の性能はE-M1 Mark IIと同等ではあるが、縦位置グリップ一体型のボディ構造により望遠レンズ装着時の安定性が増しているため、連写機能との相性も良いと感じた。またプロキャプチャーモードを使用してみて気がついたのだが、書き込み時間が短縮されている。E-M1XとE-M1 Mark IIでRAW+JPEG画質、プロキャプチャーH(60コマ/秒)でプリ連写35コマ、フォーカスリミッター40コマの設定にして、全く同じUHS-IIのSDカードを入れ替えてテストしたところ、保存が完了するまでの時間がE-M1Xで約11秒、E-M1 Mark IIで約17秒だった。この差はかなり大きく、現場での書き込み待ちのストレスはまったく違うものだった。こうした細かな部分でもダブルTruePic VIIIの威力が発揮されているようだ。

下の写真は中禅寺湖でしぶき氷を撮ったものだが、プロキャプチャーモードで水の跳ねた瞬間をさかのぼって撮影できた。何度も何度もしぶきを撮影しているうちにカメラもレンズもびしょ濡れになっていたが、E-M1XとPROレンズの強靭な防塵防滴・耐低温性能はびくともせず撮影を続けられた。

プロキャプチャーLで撮影。M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO / 12mm / 1/640秒 / F5.6 / ±0EV / ISO200 / 絞り優先 / ピクチャーモード:Vivid / WB:5200K / ハイライト&シャドウコントロール:Highlight -1, Midtone -1, Shadow +1

作品

川のしぶきからできた薄氷。妖しく独特の模様となっていた。通常撮影モードの約2,000万画素だが質感再現は非常に良い。またハイライト&シャドウコントロールは現場で作品イメージを突き詰められるので重宝する。ここではハイライトを立ててメリハリを出している。

M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO / 125mm / 1/250秒 / F4.0 / ±0EV / ISO200 / 絞り優先 / ピクチャーモード:Vivid / WB:5300K / ハイライト&シャドウコントロール:Highlight +3, Midtone -2, Shadow -2

流れ落ちる滝と凍る川。モコモコとリズム感のある氷が面白く、水の流れとの対比で描いた。勢いよく流れる小さな滝だったが、午後で光も当たっていなかったためライブNDによるスローシャッターで寒々しい表現とした。ここではライブND16にして1/4秒を選択。ライブビューで流れ具合を確認しながらシャッタースピードを決められるので、一度撮ってみてから再調整する作業が少なくて済む。

M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO / 29mm / 1/4秒 / F8 / ±0EV / ISO200 / シャッター優先 / ピクチャーモード:Vivid / WB:5200K / ハイライト&シャドウコントロール:Highlight +4, Midtone -2, Shadow -2 / ライブND16

凛々しい顔で駅に入ってくる秋田新幹線こまち。縦位置グリップ一体型のため、安定した構えでフレーミングを決められた。インテリジェント被写体認識AFは認識被写体が画面内に収まっていれば、かなり大きくてもしっかりと認識しつづける。

M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO+MC-14 / 210mm / 1/2,000秒 / F4.5 / -0.7EV / ISO200 / マニュアル / ピクチャーモード:Vivid / WB:5300K / ハイライト&シャドウコントロール:Highlight 0, Midtone -2, Shadow 0

見頃が過ぎてだんだんと花びらが変色し始めているツバキの儚げな横顔を写した。マクロ的な表現だが7.5段分の手ブレ補正によって手持ちハイレゾショットで撮影することができた。5,000万画素の解像力は花びら表面の質感を見事に捉えている。小雨の降る日で三脚のセットも面倒な状況だったが手持ちに対応したハイレゾショットのおかげで手軽に手持ち撮影ができた。

M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO / 100mm / 1/160秒 / F4.0 / -1.0EV / ISO400 / 絞り優先AE / ピクチャーモード:Vivid / WB:5600K / ハイライト&シャドウコントロール:Highlight +2, Midtone -2, Shadow -1 / 手持ちハイレゾショット

まとめ

シャッタースピード7.5段分という強力な手ブレ補正と、それを利用した手持ちハイレゾショット。被写体を自動で認識してC-AFでピントを合わせ続けるインテリジェント被写体認識と、AF/AE追従18コマ/秒の超高速連写。さらに、スローシャッター表現の常識を覆すライブND撮影。オリンパスの先進性すべてを注ぎ込んだ革新的なカメラが出来上がった。

2012年のOM-D E-M5からスタートしたOM-Dシリーズ。当時もすごいカメラが世に出たなと驚いたものだが、誰がここまでの進化を予想できただろうか。オリンパス100周年の年に生まれたOM-D E-M1Xが、これからどんな写真表現を生み出していくのか楽しみだ。

今浦友喜

1986年埼玉県生まれ。風景写真家。雑誌『風景写真』の編集を経てフリーランスになる。日本各地の自然風景、生き物の姿を精力的に撮影。雑誌への執筆や写真講師として活動している。