交換レンズレビュー

“小さくて軽い” 35mmAF単焦点レンズを一挙紹介【第12回】

タムロン「35mm F/2.8 Di III OSD M1:2」

“小さくて軽い” 35mmAF単焦点レンズを一挙に紹介していこうという本連載。第12回となる今回はタムロン「35mm F/2.8 Di III OSD M1:2」のレビューをお届けします。

いまとなっては特徴が薄くなんの変哲もないデザインに感じられますが、その実、意外なほど良く写る描写性能と、最大撮影倍率0.5倍という優れた近接撮影性能をもったレンズです。コストパフォーマンスが良く、これ以上ないくらいに気軽に使えてしまうところも大きな魅力です。

外観・仕様

「35mm F/2.8 Di III OSD M1:2」は、2019年12月に発売された、35mmフルサイズ(ソニーEマウント)対応の35mm単焦点レンズです。第1の特徴は、気軽にスナップ撮影が楽しめる焦点距離35mmのレンズを、できる限り身近な存在としたところ(これは実売3万円台という価格にも反映されています)。そして、レンズ名称に「M1:2」の表記がある通り、最大撮影倍率0.5倍のハーフマクロであるところです。

最大径×長さはφ73×64mmで質量は210g。小型・軽量を徹底したサイズ感もさることながら、210gという軽さは驚異的です。開放絞り値がF2.8と控えめなこともありますが、フルサイズミラーレスカメラ用の35mmAF単焦点レンズとしては、軽量な部類のレンズであります。

ただし、コストパフォーマンスを優先しているだけあって、お世辞にも高級感があるとはいえない外観。外装のほぼすべてに樹脂製の部材が採用されており、エッジを効かせた精悍さがあるわけでもなければ、優雅な曲線美をまとっているというわけでもありません。しかしながら、特に目につくようなデザイン上の瑕疵があるわけでもありませんので、低価格なりに無難な見た目によくまとめているといったところでしょうか。

操作性

コストパフォーマンス重視の本レンズだけに、スイッチやボタンなどの類は装備されていません。リング類も「フォーカスリング」だけという、実にシンプルな操作系です。

ちょっと面白いのは、フォーカス位置によって前群が大きく前後して動くこと。近距離撮影位置では鏡筒の先端部とほぼ同面ですが、無限遠では鏡筒内部に大きく引っ込んだ状態となります。つまり、無限遠方向では鏡筒自体がレンズフードの役割を期待できるというわけです。

さらに「HF053」というキャップタイプのレンズフードも付属しますので、有害光の抑制にかんしては万全の布陣といったところでしょうか。こちらのレンズフードには、スクリュータイプのフィルターやレンズキャップの取り付けも可能となっています。

作例

カメラに装着して写真を撮り歩いていると、本レンズの軽快感をとてもよく実感することができます。ただ軽いと言うだけでなく、日常使いで親しみやすいモノとしての軽さ。そんな気軽さがありながら、描写性能は意外なほど良好で、シャープネスやコントラストの高さ、素直で自然なボケ味など、コスト比を考えれば、きっと満足できるのではないかと思います。

ソニー α7C II/35mm F/2.8 Di III/絞り優先AE(1/80秒、F2.8、+0.3EV)/ISO 800

最大撮影倍率0.5倍のハーフマクロ撮影が可能なのは、本レンズの真骨頂といえましょう。ハーフマクロまでいかずとも、どこまでも自由に寄れる使い勝手の良さは、まさに本レンズの長所のひとつ。LDレンズの採用で軸上色収差などもなく美しい画質です。ただし、最大撮影倍率付近でのAF性能は正直言って心もとないものがありましたので、マクロ域ではMFで臨んだ方が確実性が高いと感じました。

ソニー α7C II/35mm F/2.8 Di III/絞り優先AE(1/1,600秒、F4.0、±0.0EV)/ISO 400

AF駆動ユニットには、タムロン独自の「OSD (Optimized Silent Drive)」が採用されています。これはいわゆるDCモーターなのですが、一般的にイメージされるDCモーターより駆動音が抑制され静かなのが優れどころ。とはいっても、DCモーターであることに変わりはなく、近頃主流のステッピングモーターやリニアモーターに比べると、合焦にワンテンポ遅れる印象でした。ただし、仕様上のクセを理解すれば、それほどの問題はないとも思います。

ソニー α7C II/35mm F/2.8 Di III/絞り優先AE(1/80秒、F4.0、+0.3EV)/ISO 4000

まとめ

なによりコストパフォーマンスの高さに注目したいのが、本レンズ「35mm F/2.8 Di III OSD M1:2」です。特に目を引くところもなく、プラスチック感が溢れる外観なのは確かですが、実用的な写りの良さや使い勝手の良さは、それらを大きく上回る実力があると見ました。

8群9枚のレンズ構成には、LD (Low Dispersion:異常低分散)レンズやGM (ガラスモールド非球面)レンズといった特殊硝材が適切に配置された本格的なもので、実写においてもその描写性能の高さは直ぐに感じることができます。この若干チープな見た目(失礼!)から、意外なほどの高画質が飛び出てくるのだから、ある種の快感を覚えてしまうというもの。しかも最大撮影倍率は0.5倍のハーフマクロです。

近頃は海外勢の単焦点レンズも活況ですが、そうした状況のなかで信頼ある日本のメーカーが、本レンズのような製品を出してくれていること希少と言えるかもしれません。2019年発売と言うことで、今となっては話題にならないかもしれませんが、実は隠れたコスパ優秀な35mm単焦点レンズなのであります。

【2024年8月18日】「フルサイズミラーレスカメラ用の35mmAF単焦点レンズとしては、最も軽量なレンズであります」との記述を、「フルサイズミラーレスカメラ用の35mmAF単焦点レンズとしては、軽量な部類のレンズであります」に修正しました。同じく35mmフルサイズ用35mmAFレンズとしては、ソニー「Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZA」が120gとより軽量であることをご教示いただいたためです。お詫びして訂正いたします。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。