新製品レビュー
TAMRON 17-28mm F/2.8 Di III RXD
小型軽量で近接にも強い 撮影意欲を駆り立てる超広角ズームレンズ
2019年7月29日 12:00
株式会社タムロンは、ソニーEマウントレンズ「17-28mm F/2.8 Di III RXD」(Model A046)を2019年7月25日に発売する。本レンズは、35mm判フルサイズセンサー搭載カメラに対応する、大口径超広角ズームレンズ。フィルター径は、超広角ズームレンズとしては驚きの67mm。さらに長さ99mm、重量は420gと、F2.8クラスの超広角ズームレンズとして、いまだかつてない軽量・コンパクトさが最大の特徴だ。
基本性能
タムロンの先端技術が詰め込まれた当レンズは、コンパクトながらも、ズーム全域でF2.8と明るく、画面中心から周辺部まで高い解像力とコントラストを体感できる。
レンズ構成は11群13枚(非球面3枚を含む)。光に対する異常分散性をもつ特殊硝材LDレンズと、蛍石に近い特性のXLDレンズを贅沢に使用し、色収差をはじめとした諸収差を徹底的に抑制している。また、レンズ表面に施した反射防止効果の高いBBAR(Broad-Band Anti-Reflection)コーティングにより、逆光時に発生しやすいフレアやゴーストを大幅に軽減している。
最短撮影距離は、広角端(17mm)で0.19m、望遠端(28mm)で0.26mだ。最大撮影倍率は1:6。被写体にぐっと近寄り、パースペクティブを活かした超広角撮影を楽しめる。
鏡筒は簡易防滴構造となっている。レンズ最前面にはメンテナンス性の高い防汚コートが施され、アウトドアの撮影にも気軽に持ち出せる。
レンズ内手ブレ補正は搭載されていないが、ソニーEマウントカメラとの連携により、カメラ側の手ブレ補正機構やレンズ補正機能を利用可能だ。また、「ファストハイブリッドAF」「瞳AF」など各種カメラ機能にも対応している。
タムロンは「TAP-in Console」というアクセサリーを用意しており、これをつかうことで、ユーザー自身が同社製レンズのファームウェアアップデートやカスタマイズを可能としているが、本レンズは、Eマウントカメラ本体からファームウェアアップデートできるようになっている点もポイントだ。
今回は、当レンズを用いてスナップ撮影を行なった。ソニーα7R IIIに装着して撮影した作例を見ながら、本レンズの魅力を体感していただければと思う。
28-75mm F/2.8 Di III RXDとの比較
同社のフルサイズEマウントレンズとしては、2018年5月に発売され、いまだ人気の続く「28-75mm F/2.8 Di III RXD」(Model A036)がある。このレンズに惹かれたため、17-28mm F/2.8 Di III RXDの購入を検討する、あるいはしているという方も多いことだろう。筆者もその一人だ。
17-28mm F/2.8 Di III RXDは、前述の28-75mm F/2.8の「使用頻度の高いズームレンズだからこそコンパクトに」というコンセプトを引き継ぎ開発されており、セットで使用しやすいように工夫されている。
まず、2本はデザインと操作性が統一されている。ズームリングは前方、フォーカスリングは後方に配置。ズーミングやフォーカス時の方向も同じに設計されている。これにより、レンズを交換した際も操作に気を取られず撮影に集中できる。
また、両レンズのフィルター径は67mmと共通しており、PLフィルターをはじめとした各種フィルター、レンズキャップなどの共用ができる。さらに、17-28mm F/2.8 Di III RXD (420g)と28-75mm F/2.8 Di III RXD(550g)の2本を合わせても約1kgと非常に軽量なので、荷物の負担を減らしたい撮影にも躊躇なく両方持ち出せる。
以上のように、セットで使いやすいように設計してあるので、やはり両レンズは併せて使用したいところだ。2本があれば、開放F/2.8通しの明るさを確保しながら17mmから75mmという使用頻度の高い焦点距離をカバーでき、スナップだけではなく、ポートレートやテーブルフォト、ネイチャー写真など、撮影の幅を一段と広げることができる。
デザイン
当レンズは、柔らかな人間味を大切にした「ヒューマンタッチ」というタムロンレンズの新しいコンセプトのもとにデザインされている。余計なものを一切排除した、すっきりとシンプルな鏡筒デザインは飽きがこず、αボディとの相性も良い。TAMRONブランドらしさを感じられるルミナスゴールドリングや、精度と剛性にすぐれた金属製マウント部からは、細部まで丁寧につくりこまれている印象を受ける。
鏡筒のマットな質感は触ったときにあたたかさと柔らかさを感じる。付属の花形フードも、使い勝手が良い控えめなサイズ感だ。
最大径×全長は73mm×99mm、重量は420g、フィルター径は67mmと、超広角ズームレンズとしては驚異的にコンパクトなので、小ぶりなαシリーズのボディとのバランスはすこぶる良い。小さな女性の手にも馴染みやすい。
α7R III(約657g)に装着すると、総重量は1,077gとなる。今回の撮影では、加えて28-75mm F/2.8 Di III RXD(550g)も一緒に持ち歩いた。それでも合計1,627gと、ふだん使用しているノートパソコン(MacBook Pro13インチ、1.58kg)くらいの重量で済む。これらをリュックに入れて山登りをしたり海辺を散策したりしたが、機材の重さで疲れることはなかった。
操作性(フォーカスリング、ズームの操作感)
フォーカスリング、ズームリングは心地よいトルク感があり、微妙なズーミングやピント合わせがしやすい。
また、28-75mmと違ってズーミング時に全長が変化しないため、撮影時の操作が安定する。
AF
AF駆動には高速・高精度かつ静粛性に優れたステッピングモーターユニットRXD(Rapid eXtra-silent stepping Drive)を搭載。レンズの駆動音が記録されにくく、動画撮影にも適している。
RXDはAF駆動系の構成をコンパクトにできるため、レンズ全体の小型軽量化にも寄与している。
近接撮影
当レンズの高い近接撮影能力があれば、草むらに隠れていた3cmほどの小さな虫もこの大きさで捉えられる。背景の玉ボケはきれいな円形だ。雨が降った直後だったので、草についていた水滴でレンズの前面も濡れてしまったが、防汚コートのおかげでサッと拭き取れば元通りになった。
パース表現
最短撮影距離まで猫に寄ってみた。レンズは猫の顔スレスレだ。超広角の効果で、パースのついた不思議な絵に仕上がった。動物瞳AFを使用すると、絞り開放でも動き回る猫の瞳にきちんとフォーカスできる。また、サイレント撮影を入にしたので、シャッター音で驚かすことなく撮影を続行できた。
広角側で、狭いケージの中で眠っている猫に近づいてみた。肉眼で見たよりも猫の足がぐんと長く、ダイナミックな絵に仕上がった。ピント合焦部の、猫の毛の硬すぎない質感が好みだ。撫でたときのあの感覚が蘇る。
ボケ味
食事処で、部屋の奥行き感が良いなと感じたので、手前のさくらんぼにピントを合わせて部屋の向こう側が写るように撮影をした。被写体の存在感をほどほどに強調し、背景が認識できる程度のボケはナチュラルで好印象だ。
作品
霧に包まれた道路が神秘的だったので思わず車を降りて撮影した。タムロンらしい、レンズのナチュラルな発色と鋭利すぎない描写が、雨に濡れた木々や道のしっとりとした質感を伝えてくれる。あとで見返してみても、このときの空気をまるごと封じ込められたな、と思う。小雨がぱらついていたが、簡易防滴構造のおかげで撮影に集中できた。
船に乗り、岸から離れていく様子を広角側で撮影した。F8まで絞ると、キリっとヌケのよい描写となる。17mmゆえに、空も波立つ海面もすべて収められ、その場で感じた自然の雄大さへの感動をまるまる写しとれたように思う。
左手にエサを乗せ、それをついばみに来たカモメを、右手で持ったカメラで撮影した。小型軽量なカメラシステムのおかげで、カモメがエサを持ち去る瞬間を捉えられた。
工場内で、使い込まれたパイプにピントを合わせて撮影をした。鉄錆びた金属の感じが伝わってくるようだ。このレンズは質感の描写が本当に得意だと思う。
まとめ
レンズの製品情報ページに「いつもと違う、道を歩こう。」というキャッチコピーがついている。
超広角ズームレンズでありながら、高い解像力と小型・軽量さ、さらに高い近接撮影能力を備えた当レンズは、シャッターを押すたびに新鮮な発見があり、写真を撮る喜びを感じられる。ゆえに、このレンズを手にしていると、自然とフットワークが軽くなり、新しい場所で新しい景色を見たい、という想いが強くなる。
今回は、いままで一度も訪れたことのない場所ばかりで撮影を行った。私は普段動物も撮らないし、そこまで遠方にも行かない。しかし、このレンズを手にしてからは、動物も撮りたいし、遠方にも行ってみたくなった。編集さんに言われたわけでもない。すべて自発的な行動だ。
いつもと違う、道を歩きたくなる。その衝動こそが、このレンズの魅力を物語っているように思う。
撮影にマンネリを感じている方にも、是非手にしてほしい1本だ。写真を撮る楽しさを思い出せるはずだ。
撮影協力:猫の居る休憩所299