交換レンズレビュー

タムロン 28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD

意外な高画質と手頃なサイズ感 自由度の高い高倍率ズームレンズ

タムロンの「28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD(Model A074)」は、2024年8月に発売された、35mmフルサイズミラーレスカメラ対応の高倍率ズームレンズです。現在のところソニーEマウント用が発売されています。

特長は広角端28mmから、超望遠域とも言える300mmにまで望遠端を伸ばしたこと。しかも、ただズーム域を広げただけでなく、最新のレンズ設計技術によって、優れた描写性能と使い勝手の良さを両立させています。

サイズ感と使用感

本レンズをソニー「α7R V」に装着したイメージとしては、「コンパクトではないけれど大き過ぎることもない」と言った印象です。しかしこれが、フルサイズ対応で広角28mmから望遠300mmまでをカバーする、10.7倍の高倍率ズームであることを考えれば、相対的にはコンパクトに仕上がっていると言えるでしょう。

レンズの最大径×長さはφ77×126mmで、質量は610g。先の6月に発売されたばかりで、同じく300mmまでのタムロン「50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD」の最大径×長さがφ78×150mmで、質量は665gですので、比べてみればいかに本レンズが小型・軽量であるかが分かると思います。

ただし、多くの高倍率ズームレンズがそうであるように、本レンズもテレ端に向かってズーミングすれば、鏡筒は思いのほか長く繰り出されることになります。しかしこれは、高倍率ズームレンズであれば当たり前のこと。複雑な機構設計によって、長く伸びた鏡筒も精密な動きを維持しており、高い安定感を保っていることに感心するばかりです。

レンズの先端側がズームリングで、手前側がフォーカスリングになっています。その他、鏡筒左側に装備された「フォーカスセットボタン」が特徴的で、このボタンに「フォーカスモード」や「フォーカスエリア」、「ピント拡大」などの、さまざまな機能を好みに合わせて割り当てることができます。かなり便利な機能ですので、個人的にはぜひ活用してもらいたいと思っています。

鏡筒基部にはUSB Type-Cポートが搭載されています。本レンズをPCまたはスマートフォンなどとUSBケーブルで接続すると「TAMRON Lens Utility」で各種設定が可能。例えば、「フォーカスセットボタン」に任意の機能を割り当てたり、最新のファームウェアへアップデート(ファームウェアアップデートはPC版のみ対応)したりするなど、さまざまな役割を担ってくれるタムロン独自の便利機能です。

鏡筒右側には、「ズームロックスイッチ」が備えられており、ズーム位置をワイド端で固定することが可能。移動や収納時などに、意図せず鏡筒が伸長してしまうことを防げるので便利です。

花型のレンズフード「HA074」が同梱されています。

解像性能

最新の高倍率ズームレンズとあって、描写性能についても期待がもてそうです。以下で、広角端と望遠端のそれぞれについて、開放絞り値での解像性能を確認してみました。

広角端の焦点距離28mm、絞り開放F4.0で撮影したのが下の画像になります。有効約6,100万画素の「α7R V」での撮影ですが、画面の中央から周辺まで像が乱れることもなく大変素晴らしい解像感が見てとれます。高倍率ズームレンズで発生しがちな倍率色収差の発生も、まったくと言って良いほどありません。

絞り開放・広角端(全体)
ソニー α7R V/28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD/28mm/絞り優先AE(1/250秒、F4.0、+0.3EV)/ISO 100
絞り開放・広角端(中央拡大)
絞り開放・広角端(周辺拡大)

対して、望遠端の焦点距離300mm、絞り開放F7.1で撮影したのが下の画像です。画面中央付近は十分な解像感がありますが、周辺に向かって、わずかではありますが緩やかに像が甘くなっているように感じられます。とは言っても、フルサイズ対応の焦点距離300mmとしては実用上問題ない程度の鮮鋭性があり、高倍率ズームの望遠端としては上々の描写性能だと言えるでしょう。

絞り開放・望遠端(全体)
ソニー α7R V/28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD/300mm/絞り優先AE(1/125秒、F7.1、±0.0EV)/ISO 400
絞り開放・望遠端(中央拡大)
絞り開放・望遠端(周辺拡大)

300mmでの撮影となると、平面的なシーンを写す機会は少なく、画面の中心付近に被写体を配置することが多いと思いますので、上記のわずかな解像感の低下も、実際には気になるようなことは少ないのではないかと思います。

ソニー α7R V/28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD/300mm/絞り優先AE(1/320秒、F11、+0.7EV)/ISO 3200

近接撮影性能

多くのタムロンのレンズには、近接撮影性能が非常に優れているものがあります。本レンズでは、特に近接撮影性能はアピールされていないようですが、実際に試してみるとその性能はなかなかのものでした。

広角端の焦点距離28mmの最短撮影距離は19cmで、最大撮影倍率は約0.36倍となります。個人的には0.25倍以上なら「よく寄れるレンズ」だと認識していますので、それを大きく超える本レンズは、やっぱり近接撮影性能に優れたレンズだと思います。最短撮影距離なら、被写体を大きくしつつ背景を広く写した写真が撮れます。

近接撮影・広角端
ソニー α7R V/28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD/28mm/絞り優先AE(1/80秒、F7.1、+0.7EV)/ISO 400

望遠端の焦点距離300mmでの近接撮影性能はと言いますと、最短撮影距離は99cmで、最大撮影倍率は約0.26倍。広角端ほどではありませんが、それでも0.25倍を超えているという素晴らしい性能。被写体に近づけないような条件で、ワーキングディスタンスを保ちながら大きく写すことが可能です。

近接撮影・望遠端
ソニー α7R V/28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD/300mm/絞り優先AE(1/320秒、F7.1、+0.3EV)/ISO 10000

作例

焦点距離170mmで撮影。AF駆動には最新のリニアモーターが採用されています。おかげで高倍率ズームレンズらしからぬほど素早く正確にピントが決まるため、撮っていてストレスを感じることがほとんどありませんでした。ソニーのカメラボディが搭載する瞳認識などの機能にももちろん対応。静粛性も抜群ですので動画撮影にも向いています。

ソニー α7R V/28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD/170mm/絞り優先AE(1/200秒、F7.1、−0.7EV)/ISO 3200

逆光耐性にも優れていて、際どい所に強い光源が入っても作画を邪魔しないレベルでゴーストやフレアを良く抑えてくれます。ただ、まったくゴーストやフレアが発生しないかと言えば、そんなことはありません。しかし、光源の対角線上に素直に出るゴーストですので、うまく制御することで、効果として活かしたいところです。

ソニー α7R V/28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD/28mm/絞り優先AE(1/1,000秒、F5.6、−0.3EV)/ISO 100

広角端28mmでの撮影です。樹木の幹にとまるアブラゼミを、周りの背景を活かしながら撮影してみました。被写体に合わせて自由に画角を変化させられるところは高倍率ズームレンズの強味です。しかし、ボディ側の「レンズ補正」は「オート」にしていますが、周辺光量の低下は比較的多いように見えます。決してマイナス要因と言うばかりではないため、こうしたこともレンズの特性として活かしていくようにしたいところです。

ソニー α7R V/28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD/28mm/絞り優先AE(1/30秒、F5.6、+0.3EV)/ISO 400

焦点距離35mmでの撮影です。ズーム端だけでなく、ズーム全域での描写性能が良好なところも本レンズの特長。高倍率ズームレンズは画質において実用的でないと言うのは、もはや過去の話でしょう。フランジバックが短く光学設計的に有利で、ボディ側の補正機能も活用できる現代においては、リアルに10.7倍の高倍率がもたらす高性能を、ユーザーは存分に享受できると思います。

ソニー α7R V/28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD/35mm/絞り優先AE(1/160秒、F8.0、+0.3EV)/ISO 800

300mmまで届くとなると勢い、望遠側でのネイチャー写真的な使い方が増えてしまうかも知れませんが、当然のことながら広角~標準域を使ったスナップ撮影でも威力を発揮してくれます。試用していて感じたのは、使い道を限定せず、自分が撮りたいものに臨機応変に対応してくれるのが本レンズだということでした。

ソニー α7R V/28-300mm F/4-7.1 Di III VC VXD/35mm/絞り優先AE(1/30秒、F4.0、±0.0EV)/ISO 500

まとめ

高倍率ズームレンズのタムロンらしく、望遠端を焦点距離300mmまで伸ばしながら、最新のレンズ設計技術によって、本気で使える実用性能を実現したのが本レンズだと思います。

その本気度は外観デザインにも良く現れていて、ここ数年でタムロンがラインナップした高性能レンズと同等とも言える高い品質と、優れた使用感が本レンズには詰め込まれています。もちろん、描写性能も優秀で、300mmまで届く高倍率ズームレンズとは思えないほどの高画質を、ズーム全域で実感することが可能です。

いろいろな意味で被写体が遠いと感じることのある現在の撮影シーンでは、焦点距離300mmまで届く高倍率ズームはとてもありがたい存在と言えましょう。「もう少し遠くまで」と感じていた人にとっては最良の選択肢になるかも知れません。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。