新製品レビュー

【ファーストインプレッション】FUJIFILM GFX50S II+GF35-70mmF4.5-5.6 WR

GFX100Sの魅力が凝縮。50MPセンサーのポテンシャルに驚く

富士フイルムからGFX 50Sの後継モデルであるGFX50S II(以下、本機)が登場しました。詳細は公式ページ等を確認して頂くとして、豊田的にザックリ紹介するなら、50MPセンサーを採用した像面位相差AFを持たないGFX100S、もしくはGFX100SにGFX 50Sのセンサーをドッキングしたカメラ、という事になります。

センサーはこれまでと「全く同じ」ではない

撮影性能に関する部分はGFX 50S/Rシリーズと同じ有効約5,140万画素のCMOSセンサーですが、オンチップマイクロレンズの設計変更と製造工程での工夫によって、解像感とS/N比が改善しているとのこと。これにGFX100Sなどと同じ画像処理エンジンX-Processor 4を組み合わせています。

AFは引き続きコントラスト式ではありますが、より高速なエンジンと最新のアルゴリズムによってAF性能は向上しているというので、GFX 50Rユーザーとしては気になります。

X-Processor4搭載によって、従来機と比べグレイン・エフェクトの粒度選択、連写設定時のカラークロームエフェクト対応、フィルムシミュレーション「ETERNAブリーチバイパス」や「ノスタルジックネガ」等の最新世代フィルムシミュレーションが選択出来るようになっている他、処理能力の向上に関わる部分が進化改善点としては分かりやすいところ。

ETERNAブリーチバイパスをハイキー気味で扱う事にハマってしまった。手元にあるカメラではこの設定がないのでもどかしい。奥側にAFさせたが、GFX 50Rと比べてこうしたシーンで狙い通りにAFしてくれるようになった。
GFX50S II / GF63mmF2.8 R WR / 絞り優先AE(F3.2・1/120秒・+2.0EV) / ISO 400 / フィルムシミュレーション:ETERNAブリーチバイパス

たとえばGFX100Sと同じく16bit TIFFの書き出しやX RAW STUDIOとの親和性も高まっていて、こうした使い勝手の向上は歓迎したい部分です。実用的には8bit TIFFでも全くもって必要十分ではありますが、筆者は精神的には満足出来ないポイントだと感じるようになってきていました。

実写を通じてわかったこと

筆者はGFX 50Rユーザーなのですが、普段から同機を使用しているユーザーの目線から本機を観察していきました。

まず違いとしてすぐに感じられるのが、スムーズになったAF動作です。GFX 50Rと比べて至近側での撮影や小さな被写体に対するAFの“掴み”が向上しているように感じられたほか、顔・瞳認識は明らかに検出速度と精度の改善を実感出来ました。

スナップ撮影における合焦時間の差をあえて言葉で表現するなら「AFが合焦するまでが少し速くなったかな?」くらいの差、というのが正直な感想です。しかし、GFX 50Rでは工夫してAFさせていたシーンであっても本機は苦もなくスコッと合焦してくれるので、トータルで見てみるとAFにまつわるストレスが確実に軽減されていました。

撮影距離や絞りに応じて色々な表情を見せてくれる、言わばオールドスクールな側面も持つレンズ。撮影距離が目測で80cm程度までであれば絞り開放でもキレの良い写り。
GFX50S II / GF35-70mmF4.5-5.6 WR(35mm:28mm相当) / 絞り優先AE(F5.6・1/350秒・±0EV) / ISO 1000 / フィルムシミュレーション:クラシッククローム

念のためGFX 50RのAFについて触れておくと、リニアモーターを搭載するレンズ(レンズ名に「LM」がつく製品)との組み合わせだとAFの速度は結構速いです。もちろんコントラストAFなので動体撮影には向かないなど、得手不得手があることに変わりはありません。

GFX 50Rとの最も大きな差だと感じたのは、ボディ内手ブレ補正機構(IBIS)と大きなアイカップを持つセンター配置されたEVFの覗き心地でした。接眼部の遮光性がGFX 50Rよりも高く、また覗きやすいこともあり、よりリラックスしてファインダーで構図を決めることができました。

またIBISの効果でファインダー像が安定するのもGoodポイント。実際にはあまり意識するシーンは少ないだろうと思いますが、構図が安定するのでAFにもポジティブな効果を発揮するなど、IBISが縁の下の力持ちとしてあらゆるシーンで効いていることがわかります。

GFX 50Rだと少し神経質になる1/200秒を下回るシャッター速度のシーンだが、本機ではIBISのおかげで安心して撮影することが出来た。AWBのせいかベルビアの再現が50R世代と少し違うように見える。GF63mmの描写性能も素晴らしい。
GFX50S II / GF63mmF2.8 R WR / プログラムAE(F3.6・1/110秒・+1.3EV) / ISO 800 / フィルムシミュレーション:Velvia/ビビッド

レンジファインダースタイルのGFX 50Rとセンターファインダースタイルの本機とでは、コンセプト自体が異なっていますから直接どちらに優劣があるのかを語ることは出来ません。が、記憶の中のGFX 50Sと比べても、本機はより低負荷で今までよりも深く撮影に集中出来るカメラになっているという印象を抱きました。

操作性についてはGFX100Sと同じです。同機のファーストインプレッションでも言及していますが、左肩のモードダイヤルにカスタム設定が割り当てられるのは、GFX 50Rユーザーとして本当に羨ましく思いました。

キットレンズの印象

ボディと同時に発表された新レンズ「GF35-70mmF4.5-5.6 WR」(以下、GF35-70mm)はスペック的には明るさが少し物足りないというか、普通という印象。内容的には防塵・防滴と-10度の耐低温構造なので、ボディと合わせて高いタフネス性が期待出来ますし、沈胴機構の採用で携行時の全長が約74mm(撮影状態では約96mm)となり、まずまずコンパクトな組み合わせとなります。

GF35-70mmの重量は約390g。かなり軽量ですから、GFX50S IIとセットで1.3kg未満に収まってくれます。筆者の考える丸1日スナップ撮影を実施しても、サイズ感や重量を意識しないギリギリ上限の枠内に収まっていることになります。

このサイズ感はキヤノンのEOS 5D Mark IVやニコンのD850といったハイクラスの35mm判フルサイズ一眼レフ機に標準レンズやF2クラスの単焦点レンズ、またはコンパクトなズームレンズを装着した時とほぼ同程度のサイズ感です。

遠景では非常にシャープに結像している。新しいチューニングが施されたセンサー由来かレンズの特性かは不明だが、周波数の高い領域の解像感が高まった一方で、若干リンギングが生じているようにも感じるので、この組み合わせで撮影する時にはシャープネスの調整をしたい気がした。
GFX50S II / GF35-70mmF4.5-5.6 WR(40mm前後:32mm相当) / 絞り優先AE(F5.6・1/450秒・±0EV) / ISO 200 / フィルムシミュレーション:ACROS

描写は?

画角に対して実焦点距離が長いという特性上「寄れないレンズが多い」という印象の強かったGFXシリーズに待望の寄れるレンズが!! と思っているGFXユーザーは、一定数おられるだろうと思います。

本機やGFX100Sとの組み合わせでは本当に中判クラスを使っているという感覚が希薄でした。

写りに関しては、これまでに登場しているGFレンズはどれも「トンデモナイ」高性能レンズばかりでしたから、それらと比べるなら「フツー」となります。絞り開放時の周辺部や至近側ではホワッとする場合があり、特に至近端&開放ではベス単のようにソフトに写る場合がありました。総合的な印象としては、ちょうど良い表現がコレしか思いつかなかったのですが、「13年ほど前の高性能ズームレンズみたいな写り」という感想。こんな風に表現すると怒られそうですが、ともかくそういった印象でした。

望遠端かつ至近端で絞り開放という条件では、まるでベス単のようにソフトな描写。随分思い切った設計だと思ったが、これがナカナカ楽しい。2段以上絞るとキリッと写る。
GFX50S II / GF35-70mmF4.5-5.6 WR(70mm:55mm相当) / 絞り優先AE(F5.6・1/100秒・+0.3EV) / ISO 640 / フィルムシミュレーション:Velvia/ビビッド

「普通」とあえて表現しましたが、ネガティブに捉えて欲しくないですし、もちろん当時のそれよりも解像性能は明らかに上です。好みの話で言えば、結構好きですし、どこかホッとする写りに思います。

望遠端で至近端まであとわずかという距離で撮影。気持ち絞っているとこのくらいの描写になる。クリアな写りも良いけれど、こうした少し曖昧な感じもなんだか楽しい。最近のレンズは優等生過ぎると感じている人には心地良いと思います。
GFX50S II / GF35-70mmF4.5-5.6 WR(70mm:55mm相当) / 絞り優先AE(F6.4・1/50秒・+0.3EV) / ISO 320 / フィルムシミュレーション:クラシッククローム

こうした絞りや撮影距離によって色々な表情を見せてくれるレンズは、個人的には楽しいと思っていますが、その一方で安定して性能を発揮するレンズに慣れた人は特性変化に戸惑うかもしれません。

富士フイルムっぽさのある曇天時のAWB。これまでのGFレンズとは異なりワイド端の絞り開放ではフリンジが出るし、そこまで綺麗なボケでもない、ごくごくフツーの描写。だけど、写真っぽい描写がなんだか憎めない。
GFX50S II / GF35-70mmF4.5-5.6 WR(35mm:28mm相当) / プログラムAE(F4.5・1/60秒・+0.7EV) / ISO 200 / フィルムシミュレーション:Provia/スタンダード

“周辺部までカリカリ”な描写が好みなのであれば、F8くらいまで絞る必要がありそうです。レンズの特性を少し理解すれば「流石GFX!」という描写を楽しめるはずです。

ISO 2000で少しザラッとした感じを演出したかったが、そうは問屋がおろさなかった様子。硬めの調整にしているものの、それでもトーンが潤沢なあたりは流石は中判デジタル。余裕が違う。撮影時に色々な表現の選択がとれるところが面白い。
GFX50S II / GF35-70mmF4.5-5.6 WR(70mm:55mm相当) / 絞り優先AE(F8・1/300秒・+0.7EV) / ISO 2000 / フィルムシミュレーション:クラシッククローム

良かったところは?

いつものように4時間程度握りっぱなしでスナップ撮影を行いました。GF35-70mmと本機を組み合わせた際のサイズ・重量感は、例えるならD500などの大柄なAPS-C一眼レフ機にF2.8-4クラスの標準ズームレンズを組み合わせて持ち歩くのと遜色ない感覚です。もちろんGFレンズは太いので、35mm判フルサイズ以下のセンサーフォーマットを採用するカメラと比べれば、当然バッグへの収納性などでは劣ります。

ちなみに今回の撮影はGF63mmF2.8 R WRやGF50mmF3.5 R LM WRも組み合わせて試用していきました。GFX100Sと同様にグリップ形状とラバーの質感の良さは好感触。グリップしやすくバランスの良いボディなので、GF50mmとの組み合わせでコンパクトに持ち歩くも良し、重量級のズームレンズでも安定した使い心地が期待出来る握り心地でした。

撮影時に「あれ?従来機からちょっと写りが変わったかも??」と思った1枚。ピント位置のシャープネスが今までより高いように見える。AWBも今までより賢い感じ。
GFX50S II / GF63mmF2.8 R WR / 絞り優先AE(F2.8・1/100秒・+2.0EV) / ISO 200 / フィルムシミュレーション:Provia/スタンダード

IBISの効果も高く、スペック通りの実力であると評価出来ますし、上述の通り構図が安定するのでAFやAE/AWBの安定性も得られます。

いわゆるCIPA規格ではピクセル単位でブレに対する補正量を算出していますが、この測定術では像面上でのブレの量に対して画素数で基準が変動する特徴がありますので、スペックによっては数字から期待するほどの効果を体感出来ないカメラもあります。

しかし、本機は期待を裏切らない性能です。もちろん画素数が50MPもありますから、それなりにシビアなところはあります。が、それでもなお驚くほど気軽に扱えるというのは素晴らしいポイントです。

クラシッククロームの再現は従来機とほぼ近似しているように思う。露出によって表情が変わるフィルムシミュレーションがあるので、難しさはあるけれど狙い通りに撮れた時の喜びも大きい。
GFX50S II / GF63mmF2.8 R WR / プログラムAE(F2.8・1/55秒・+1.7EV) / ISO 400 / フィルムシミュレーション:クラシッククローム

そして背面モニターの3軸チルトはやはり正義。コレなしではやっていけない身体に調教されてしまいそうです。

EVFの覗きやすさや操作性、強力なIBISなど、本機のあらゆる点が撮影に集中出来る環境を構築してくれます。

気になったところ

撮影性能が着実に改善された本機ではありますが、撮影の楽しさという点では少し物足りない気持ちがありました。ワガママな意見ではありますが、筆者の個人的な感覚ですと軽いタッチの静音・低振動シャッターよりも、GFX 50Rのハッキリとしたシャッターの方が撮影していて心地良いです。

本機が感心するほどの使い心地を提供してくれていることに疑いの余地はありません。が、例えて言うなら本機は“優れたビジネスパートナー”ということになるでしょうか。対するGFX 50Rは能力はともかく、“気心の知れた相棒”なので、カメラに少しでも情緒を求めるなら本機ではない選択を検討するのも賢明な判断となることでしょう。

また、AFはあくまでもコントラスト式ですから、GFX100や同100S、フルサイズミラーレス機のように動体まで撮れちゃうAFではありません。

まとめ

総合的に判断すると、本機は「ベストバランス中判デジタルカメラ」というのが筆者のファーストインプレ段階での結論です。前記したようなGFX 50Rの趣き深さがあるモデルではありませんが、GFX100Sと同様にコンパクトなサイズとIBISの効果によって、誰でも気軽に中判デジタルの世界を楽しめるよう企画されたカメラなのだと思いました。

35mm判フルサイズミラーレス機のように、マルチロールファイターという性格ではありませんが、EOS R5やZ7 II、α7R IV、LUMIX S1Rと同程度の予算で、よりセンサーメリットが得られるシステムが手に入るという点は魅力的です。

自身の撮りたいものや表現したいものとGFXシリーズが同じ方向を向いていると感じたなら、検討リストに加えてみることをオススメします。何でもは撮れませんが、守備範囲内のものであれば他と比較することが馬鹿らしくなるような圧倒的な描写力を堪能出来ると思います。

具体的に検討をはじめた段階で気になってくるだろうポイントは、やはり50MPに据え置かれたセンサーの素性でしょう。オンチップマイクロレンズ等の変更による写りの違いですが、今回撮影してみた感触から言うと、明確に違いを感じる、ということはありませんでした。時々「あれ? こんなにキレよく写ったかな??」と思ったシーンは確かにありましたが、その違いが写真を左右することはない(撮った本人の気持ち良さは別)ので、筆者的には撮影誤差の範囲だと考えています。ただ1点だけ特筆しておきたいのが、個人的な意見ではありますがGFX100系で撮影したものに比べて、本機で撮影した分は写真に余裕を感じます。

こうしたシーンではIBISのおかげでEVFが安定するので構図もビシッと決めやすくなった。手ブレだけではないIBISの威力を痛感するシーンの1つ。想像以上にIBISは効果的です。
GFX50S II / GF63mmF2.8 R WR / プログラムAE(F5・1/170秒・+0.3EV) / ISO 200 / フィルムシミュレーション:Velvia/ビビッド

本機で撮影した写真を見ていて登場から5年経つセンサーにまだコレほどのポテンシャルがあったのか! という、同スペックのセンサーを搭載するカメラを使う身として誇らしく思う気持ちと、時々感じる進化に少し不思議な感情を抱かされます。

ちなみに高感度特性については、エンジンの違いもありますから直接比較できるものではありませんが、0.5段くらい本機の方が綺麗になっている気がしています。好みで言えば高感度設定時の黒白写真はGFX 50Rが、カラー写真は本機の方が好みでした。

ISO 6400時の画質チェックとIBISの具合を見るために撮影したカット。GFX 50Rと比べて少し綺麗に見えるカラーの高感度画質。1/15秒以下で10ショットしてみたが微ブレが2カット、使用に堪えないブレが1カットで残り7カットはしっかり止まっていた。
GFX50S II / GF35-70mmF4.5-5.6 WR(70mm:55mm相当) / 絞り優先AE(F5.6・1/13秒・-0.3EV) / ISO 6400 / フィルムシミュレーション:Provia/スタンダード
ACROSで高感度設定時の再現性をチェックするために撮影。GFX 50Rと比べてこちらも少しスッキリ写っている。個人的にはモノクロで高感度を使うなら50R世代の方が好み。
GFX50S II / GF35-70mmF4.5-5.6 WR(70mm:55mm相当) / 絞り優先AE(F5.6・1/17秒・-1.0EV) / ISO 6400 / フィルムシミュレーション:ACROS

最後にバッテリー消費について。EVFと背面モニターをおおよそ7:3の割合で使用し、単写のみでコマメに電源操作をしながらの撮影では、平均して約5.2コマ/%でした。GFX100Sのファーストインプレッション時は同様のスタイルで約4.5コマ/%でしたので、本機は少し燃費が良いように思います。もちろん、GFX100Sの試用時は外気温が8度以下で、今回の撮影は32度以上と、時期と気温の影響は無視できないように思います。

ともあれ、筆者的には「いつかは買わねばなるまい」と思うカメラが登場してしまい戦々恐々としています。GFレンズのロードマップが更新されたことやXシリーズからも33mm F1.4や第2世代の23mm F1.4の発売がアナウンスされたこと。でも9月はコシナが……、と欲しい機材が突然続々と登場してきたことで、予算繰りと購入計画に頭を悩ませることになりそうです。

1981年広島県生まれ。メカに興味があり内燃機関のエンジニアを目指していたが、植田正治・緑川洋一・メイプルソープの写真に感銘を受け写真家を志す。日本大学芸術学部写真学科卒業後スタジオマンを経てデジタル一眼レフ等の開発に携わり、その後フリーランスに。黒白写真が好き。