新製品レビュー
富士フイルム XF33mmF1.4 R LM WR
XF35mmF1.4 Rとの違いも描写チェック。新旧標準レンズの特徴とは
2021年9月29日 00:00
富士フイルムから、APS-Cサイズセンサーを搭載するXシリーズカメラ用のレンズとして、「XF33mmF1.4 R LM WR」が9月29日、ついに発売となりました。焦点距離33mmは、35mmフルサイズに換算すると50mmに相当しますから、いわゆる“標準レンズ”として慣れ親しんだ画角となります。今回はX-T4とともに気になるXF35mmF1.4 Rとの違いに注目しながら、本レンズの特徴をお伝えしていきたいと思います。
なぜ今あらためて「標準レンズ」なのか
Xシリーズには「XF35mmF1.4 R」(換算53mm相当。以下35mm F1.4と表記)という立派な標準単焦点レンズがすでにラインナップされています。そのため「XF33mmF1.4 R LM WR」(以下33mm F1.4と表記)の登場について、なぜまた標準レンズ? 2mmの焦点距離の差は何なの? 性能に違いはあるの? 買い換えなきゃいけないの? などなど、Xシリーズユーザーの方々はきっと様々な疑問を抱かれているものと思います。今回はそうした疑問をできるだけ解消できるように話を進めていきたいと思います。
レンズの概要
冒頭でも取りあげたように、なぜまた同じようなスペックの単焦点レンズが出るのだろう? と思われるだろうことは、富士フイルムも承知していたようで、該当レンズのWebサイトでは「神話は第二章へ」というキャッチコピーで、Xシリーズにおける新世代のレンズであることが謳われています。
そしてこちらが、その先駆的存在となった35mmF1.4 RをX-T4に装着した勇姿。ちなみに筆者個人所有のレンズだったりします。キャッチコピーは「始まりの一本は、かけがえのない一本になる」となっています。確かに筆者にとってもかけがえのない1本となっており、実際に愛用しています。
公開されているレンズ構成図をみると分かりますが、35mm F1.4は6群8枚とダブルガウスを現代的に発展させたような感じで(違っていたらごめんなさい)、標準レンズとしては比較的オーソドックスで馴染み深い構成となっています。非球面レンズを1枚入れて頑張っていますね。
一方で33mm F1.4では10群15枚とレンズ枚数が激増しており、構成にしても、もはや基本的な類型にあてはめられないほど複雑になっています。非球面レンズは2枚に増え、色収差補正を主な目的としたEDレンズが新たに3枚使われているなど、かなり贅沢な構成となっていることがわかります。
標準レンズといえばダブルガウス型が当たり前だった時代の人である筆者としては、35mm F1.4に“らしさ”を感じてしまうところですが、昨今各社から発売される標準レンズといえば、33mm F1.4のような複雑なレンズ構成を採用している製品がほとんどです。やや寂しさも感じますが、後述する描写性能の進化とは、“こういうこと”なのかもしれません。
外観と操作性
ここで一度外観や操作性の印象をお伝えしたいと思います。まずは大きさと重さの違いを整理してみました。
最大径 | 全長 | 質量 | フィルター径 | |
---|---|---|---|---|
XF35mmF1.4 R | 65.4mm | 50.4mm | 187g | 52mm |
XF33mmF1.4 R LM WR | 67mm | 73.5mm | 360g | 58mm |
「第二章」を謳う33mm F1.4の方が、大幅に大きく、そして重くなっていることが分かります。なんだか「描写性能を求めるということはこういうことなのだよ」という富士フイルムからの声が聞こえてきそうです。
ただ、実際に使ってみると、F1.4の大口径レンズを使っているという意識のもとでは、それほど持ち重り感はなく、疲労を感じることはありませんでした。同じく筆者が所有する標準ズーム「XF16-55mmF2.8 R LM WR」に比べれば、はるかに取り回しがよく、とても気軽に扱えます。こうしたところに大口径でもフルサイズに比べて軽く小さくできる、というAPS-Cサイズ用レンズの良さがあると思います。
操作面で特筆したいのは、33mm F1.4の方がAF性能は圧倒的に高いぞ、ということ。近年の高性能レンズの例に漏れずリニアモーターを採用しており、動作は静かで俊足。それでいて正確になっています。ちなみに、DCモーターを採用している35mm F1.4は、持ち替えて比べてしまうと音がジージーと煩わしく、全群繰り出し式ということもあるのでしょうが、お世辞にも速い動作感とは言えません。
F1.4の浅い被写界深度ではピント精度も少し気になるところです。35mm F1.4だけを使っていたときはそれほど気にしていませんでしたが、33mm F1.4のAFを知ってしまうと、「ああ、負けたな」と正直に思ってしまいます。
ほかにも33mm F1.4は絞りリングにAポジションロック機構が装備され、なおかつ絞り値を設定する際のクリックストップが35mm F1.4よりもクリッ! クリッ! と明解で設定しやすくなっています。軽すぎず、重すぎもしないリングの動作感改善は、実に嬉しいポイントです。
それと、WRの名称が示す通り防塵・防滴構造であるところもポイントです。-10度の耐低温構造も採用していたりと、初期Xシリーズレンズとの違いは様々なところに確認できます。35mm F1.4は残念ながらこの仕様ではないのだと、改めて感じさせられます。
付属品であるレンズフードを見てみましょう。33mm F1.4には樹脂製の丸型フードが付属します。ごく普通の見慣れたレンズフードですね。一般的な樹脂製丸型フードには、コストパフォーマンスが高く割れても比較的低価格で購入できる、何かにぶつけても靭性があるので割れにくい、といったメリットがあります。一方で、見た目が安っぽくモチベーションが上がらないといったデメリットもあります。
対して35mm F1.4には金属製の角型フードが付属します。それも、汎用でなく35mm F1.4専用で。形状も複雑でなかなか萌えます。ただ、金属製フードのカッコよさはモチベーションを上げるという強烈なメリットがある反面、何かにぶつけると変形しやすく復元しにくい、買い直し時のコストパフォーマンスがよろしくない、そもそも買い直しがしにくい、といったデメリットもまた覚悟しなければなりません。もちろん、傷つき、変形した姿に美しさを見出すことを否定しているわけではありません。
遮光効果はプラスチック製も金属製も大差はないと思われますので、最終的には好みの問題ということになってきます。こうしたワガママな要望が挙がることも見越していたのでしょう。どうしても金属製のフードを組み合わせたい! といったユーザーのために、別売ではありますが、金属製の角型フードも用意されています。XF23mmF1.4 R LM WRと共用できるのも嬉しいところ。実用性と趣味性でどちらを優先するのか。こうした選択肢を用意してくれているのは、メーカーの心意気でしょう。
2本のレンズを撮り比べてみる:遠景の場合
さて、ここからが本題。おそらく最も気になっているだろう33mm F1.4と35mm F1.4の具体的な描写の違いをチェックしていきました。
まずは遠景の描写です。絞り値は両レンズとも開放のF1.4で、シャッター速度は最高速の1/8,000秒になりました。
中心付近は両レンズともそれほど変わりないように見えますが、周辺にいくにしたがって明らかに33mm F1.4の方が高い解像感を示していることが見てとれます。さらに、拡大してみると中心付近も33mm F1.4の方がクッキリシャープです。つまり33mm F1.4の方が、解像性能を重視したというメーカーの言葉どおり、画面全体で安定した描写となっていることが確認できる結果となりました。
絞り開放付近での遠景描写は圧倒的に33mm F1.4の方が高性能であることが分かりました。APS-Cサイズ用のレンズであることを考慮しても、ここまで隅々まで高い解像性能があるのは驚異的だと思います。似たような焦点距離ながら、さすが最新の設計技術のもとで生まれたレンズだと言えるでしょう。
2本のレンズを撮り比べてみる:近接側の場合
距離の近い被写体でボケ味などを見てみましょう。遠景と同じく両レンズとも絞り値は開放のF1.4になります。この条件だと2mmの違いとはいえ、画角の違いが結構シッカリでることが分かります。
解像感はこの撮影距離でも、やはり33mm F1.4の方が明らかに高いことがわかります。しかしながらボケ味を見ると旧型の35mm F1.4の方が、いわゆる「やわらかく溶け込むような美しいボケ」を演出できているように見えます。
33mm F1.4も決して悪くありませんが、35mm F1.4の方が中心から四隅にかけて、なだらかに自然にボケています。また、ピント面で被写体の周りにまとわりつく滲みも良い仕事をしてくれています。もし女性ポートレート撮影に使いたいというのであれば、35mm F1.4の方が適任ではないでしょうか? そんな芯のある優しさを感じさせてくれています。
XF33mm F1.4の描写を様々なシーンでチェック
標準レンズをスナップ撮影で使う時、絞り値はだいたいF2.8~F5.6くらいにしておくことが多いのではないかと思います。こちらの写真はF2.8で撮ったもの。ほどよく自然にボケが効いていながらも全体的に抜群の安定感を醸し出す描写は堪らなく良いものがあります。
比較的平坦な被写体ですが、猫や木柱がイメージに埋もれることなく立体的かつ精密に描き出されました。明暗差の大きいシーンでしたが、微妙なトーンを的確に捉えてくれていることが分かります。33mm F1.4の自然なボケ味も、これはこれで好ましいと感じた1枚です。
画面右下に熊笹が入ったのはご愛敬。画面全体を無限遠にできる条件です。絞り値はF8にセット。やはりこのレンズは全体的に均質性が優れた高い解像性能が一番の長所だと思います。樹々や草の繊細な描き分け、岩が露出している部分の力強い質感描写などは実に秀逸。もしこのレンズを手に入れたら、スナップやポートレートだけに使うのはもったいと感じます。単焦点レンズながら撮影ポジションを自分で調整することで望遠のようにも広角のようにも使い分けることができる、標準レンズの万能な特徴を活かせます。
逆光での撮影です。耐逆光性能の高さは始めに申し上げておきたいです。しかし、よく見ると画面下のクレーン付近にモヤモヤとしたフレアとも取れないゴーストがあることに気づきます。もう少しアンダー気味に撮れば、はっきりとゴーストであることが分かるでしょう。
ただ誤解しないで欲しいのは、これは決して悪いことでない、ということです。もっと逆光耐性を高めることも実際には可能だと思いますが、そうしたレンズは逆光の閾値を超えると非常に不自然で目立つゴーストがポコッと出現しがちです。出るレンズでは、どうしても出ますから、逆光耐性に配慮しつつ、自然なゴーストの出方を模索しているように見えるXシリーズのレンズには、明確な設計者の思想が宿っているように思えてなりません。
遊歩道の照明に絡みついたツタです。注目したいのは絞り開放でもピント面の解像感がシッカリしているところ。キッチリした描写が好まれる都市スナップでは、暗いシーンであっても大変心強い相棒となってくれることでしょう。
周辺にはレモン型になった点光源のボケが見て取れます。口径食ですね。通常なら口径食の影響で周辺光量が低下するはずですが、あまりその影響が見られないのはカメラ内部でのデジタル的な補正の結果でしょう。歓迎すべき部分ですが、周辺光量低下は時としてイメージの効果を上げてくれるので、レンズ本来の写りを意図的に再現できるかどうかを選べる仕様があってもいいかもしれませんね。
硫黄鉱山の跡だそうです。ある意味、被写体を見たままに写し撮る、標準レンズの真骨頂を発揮できる被写体かも知れません。絞り値はF5.6で、こちらもスナップ撮影ではお馴染みの設定。同じ画角でもフルサイズに比べて被写界深度が深くなるのでF5.6でもキリッ! と写ってくれます。
解像感やコントラスト性能、微妙な雲のトーンまで表現してくれるトーンの再現性はもちろん言うことなし。光学性能を研ぎ澄ましたレンズは、こういった廃墟的空間や都市スナップ、風景写真などで抜群に相性が良さそうです。
今回は公平を期すために、全ての作例を「フィルムシミュレーション」の「スタンダード/PROVIA」で撮影していますが、あるいは被写体ごとに最適なフィルムシミュレーションを選んで撮ったりしたら、まさに痺れる感じです。
まとめ
XF35mmF1.4 Rは、Xシリーズがレンズ交換式カメラとしてスタートすることになったX-Pro1まで遡ります。実に発売から9年以上の時が経過していますから、XF33mmF1.4 R LM WRの解像性能の高さは、単純に設計・製造技術が進歩したということも、きっと背景にあるのでしょう。しかし、両レンズの描写性能の違いは、あらかじめ狙って設計されたものだろうと考えます。写真用レンズの開発はわれわれが思っているよりも、はるかに高度で計画的な思想に基づいて設計されているものだからです。
つまり、両者はもともと異なる性格のレンズだということ。35mm F1.4は絞りを開けて写せば柔らかく、絞り込むほどにシャープになっていくといった写りの変化を楽しむことのできるオーソドックスな標準レンズ。33mm F1.4は、特殊硝材をふんだんに使った最新設計によって一般的に理想とされる高い光学性能を手に入れたレンズだと表現できます。
ほぼ同じスペックのレンズなのに、それぞれ楽しみ方が違うってなんだか嬉しいですね。どちらか一方だけを選ぶというのなら、自分が何をどのように写したいか、目標としているイメージをよく考えてみるといいと思います。
ちなみに、35mm F1.4はカタログから落ちることなく併売されるとのことなので、新型が出るからといって慌てて手に入れる必要はないようです。また、すでに35mm F1.4を持っているという方なら、それは手放さずに33mm F1.4を買い足した方がいいですよ。どちらも本当によいレンズです。