新製品レビュー
FUJIFILM GFX100S II
1億画素をカジュアルに扱えるラージフォーマットカメラ
2024年5月22日 07:00
富士フイルムから、ラージフォーマットセンサー(44x33mm)を搭載するGFXシリーズの最新モデル「GFX100S II」が発表されました。名称や外観からも分かる通り、GFX100Sの後継モデルとなります。
従来機であるGFX100/100Sから読み出し速度を向上した、新開発の1億200万画素イメージセンサー「GFX 102MP CMOS II」と、X-T5やX-H2シリーズなどに採用されている最新の画像処理エンジン「X-Processor 5」を搭載しています。
※5月22日(水)16時50分修正:記事初出時に「GFX 102MP CMOS II HS」と記載していましたが、正しくは「GFX 102MP CMOS II」だったため該当箇所を修正しました。
基本性能
GFX100Sからの撮像センサーに関する進化として、常用最低感度となるISO 80の達成と、読み出し速度の高速化、オンチップマイクロレンズの最適化を実現しています。白飛びに対する余裕や、画面周辺部での画質・AF改善が期待されます。
X-Processor 5の採用からも分かる通り、AIによる被写体認識AFと、GFX100 IIではじめて搭載されたフイルムシミュレーション「REALA ACE」を楽しむ事ができます。
メモリーカードはSDカードのダブルスロット。そのせいもあってか、コマ速はGFX100 IIの最高8コマ/秒に対して、本機は最高7コマ/秒と若干の差が付けられています。とは言え、GFX100Sの最高5コマ/秒と比べると着実に進歩しました。また、GFX100 IIと同様に外付けSSDへの記録も可能となっています。
原稿執筆時点では詳細な情報がなく、新開発なのかは分かりませんが、ボディ内手ブレ補正(IBIS)についてもGFX100 IIと同様の最高約8.0段(GF63mmF2.8 R WR装着時)の手ブレ補正効果を発揮します。
拡張性については従来機同様にありませんので、バッテリーグリップなどが必須の場合はGFX100 IIを選ぶのが良さそうです。
動画性能については4K/30pまでとなり、8K記録に対応したGFX100 IIとの差別化が図られています。
外観と使用感
外観と外形寸法、操作部は従来機GFX100S/50S IIを踏襲しています。しかし、本体の質量が20g弱軽量化されていることと、本体ラバーにはGFX100 IIと同じBISHAMON-TEXが採用されたことが異なっています。
手の大きな(手袋のサイズはLL)筆者にとって、グリップ形状とBISHAMON-TEXの効果か、本機の握り心地は文句無く、全てのカメラの中で最も手に合う感覚でした。
好みや手のサイズ・形状によっても感じ方は様々あると思いますので、ぜひ実機に触れてみて下さい。
連続4時間ほどグリップしたままスナップ撮影した感想となりますが、GFX100 IIのレビュー時の記憶と比べて疲労感が少ないと感じました。バッテリー・メモリーカードを含む質量がGFX100 IIの約1,030gに対して、本機は約883g(GFX100Sは約900g)と約150g程度軽くできていることが効いているのだと思われます。
片手保持の場合には、グリップ形状的にも右手親指をサムレストに引っ掛けた方が安定するので、重量級の機材を長時間運用すると擦れて負担になりそうです。なので「GFX100 IIと同じで、1時間くらいで痛くなりそうだな」と予想していましたが、良い意味で予想はハズレました。
レリーズ感はGFX100S/50S IIと同様に軽く静か。ストロークは深めに感じられましたが、今回試用したのはベータ機なのでストローク調整が製品版とは異なる可能性があります。
以前のレビューでも触れていますが、GFX100 IIではレリーズボタンまわりの質感が向上していた事が実感としてありました。なので今回も期待していたのですが、本機は残念ながら従来機と同等でした。
例えばレリーズボタンと同軸にある電源スイッチを、上から観て8~10時の間辺りを押すとパコパコとチープな感触が残っています。些細な問題だ、という意見も当然あると思いますが、筆者の意見としては80万円近い製品価格でありながら、この仕上げで良いと判断した基準には疑問が残ります。
実写
本機はAF性能の向上が謳われていますが、いくらボディ側の制御が賢くとも、最終的に動作するのはレンズであるという現実があります。
Gマウントレンズは、フルサイズ用と比べてフォーカス用のレンズがどうしても大きく重くなりますので、高速・ハイレスポンス・高精度に動作させるのは難しいというのが実情です。
なので、カタログでのアピールを見てフルサイズミラーレスカメラのようなAF性能であると早合点しないようにしましょう。
実際に最新のフルサイズミラーレスカメラのAF性能を基準にしてしまうと、出来て当然の事がGFXシリーズではまだ難しいというのが本音です。
ひょっとすると、同日に発表された「GF500mmF5.6 R LM OIS WR」は本機の実力を解き放つことが出来るのかも知れませんが、試せていないので何とも言えないところです。
否定的な意見を述べていますが、従来機のGFX100Sであっても、普段使いでは不満はありませんでしたし、本機ではさらに工夫や使いこなしを意識させない実力になっており、基本的にはとても関心しています。
例えば、従来機ではAFが迷い易かった揺れる水面を安定的に合焦できるようになっているところには感激しました。総じて中判機(敢えて用いています)であることを意識させない性能だという点は素晴らしいことです。
ということで、GF32-64mmF4 R LM WRなどのLM(リニアモーター)を採用するレンズと組み合わせる場合は、以前にテストしたGFX100 IIと同様に快適なAF性能でした。
ただし、GF63mmF2.8 R WRなどのようなDCモーターを採用するレンズでは、レンズ側の性能がAFのボトルネックとなっている印象が強く、今後も画質の一本槍で勝負するのは少々分が悪いのではないでしょうか。
ここまでEVFの進化については触れていませんでしたが、GFX100S/50S IIの約369万ドットから約576万ドットのパネルに変更されています。
今回は残念ながらファームの都合でハイライト側にチラツキがあり、満足に覗き心地を確かめることが出来ず、背面モニターでの運用となってしまいました。
このあたりは製品もしくは最終版のファームウェアでもう一度試してみたいところですが、推測としては同じEVFのスペックを持つGFX100と同等以上(制御が進化しているので、きっとGFX100より良い)の覗き心地となっているハズです。
写りは相変わらず素晴らしく、1枚目から「流石GFX」と唸らされるものでした。カメラ性能の進化によって、よりカジュアルに1億画素を扱う事が出来るというのは、やはり大きな魅力です。
しかしマルチショットハイレゾ機能には、いわゆる“手持ちハイレゾ”がまだ実装されていませんし、ボディ側で結合もしてくれないなど、OM-1系などのお手軽さを知っているとまだまだ実用的な機能とはいえません。と言いつつ、そもそも論として1ショットでトンデモナイ画像が得られるので、実質的に問題とはならないのかも知れません。
手ブレ補正の効果(8段)については、ファームの問題かブレ補正との相性の問題か、結果が安定せず。1/2秒より高速なシャッター速度では結果は悪くありませんでしたが、それ以下の設定では、X-T5(補正効果は最大7段分)の方が明らかに高い効果を実感出来ました。
とは言え、テストめいた使い方をしない状況においては手ブレしているカットは無く、申し分のない実力があるように感じました。
まとめ
以上を踏まえ、GFX100S/50S IIユーザーにとって買い替えを決断させるだけの進化をしているか? という視点で考えた場合、地団駄を踏んでしまうほどの改善が本機に施されているとは、筆者には感じられませんでした。
確かに、最新エンジンによるレスポンス、強力なIBIS、BISHAMON-TEXの感触などを体験すると、従来機ユーザーはきっと悔しい思いをするだろうとは思います。しかし、システムとして見て出来ることを考えた場合に、GFX100Sで困るシーンの多くは本機でも困るシーンであり、世界が一変してしまうような改善を実感することが出来なかったからです。
とは言え、順当に完成度を高めてきたことは間違いありませんし、もちろん選べるなら新型がベターであるのは、いつの時代でもその通りです。
筆者はよくAF性能について言及します。というのもAFはもはやインフラと言っても過言ではなく、AFの賢さが使用感に無視できない影響を与えるものだと考えているからです。
昨今のフルサイズシステムは更新スピードが早く、それはレンズにも当てはまります。シグマを始めとして交換レンズの世界においても、フローティングフォーカスやリニアモーターの採用などで高速・高レスポンスを貪欲に追求しつつ、小型かつ高性能の両立を各社が模索し続けています。またソニーはさらに接写性にまで拘ったレンズを逐次投入し、撮影の可能性を広げる取り組みに尽力しています。
そうした事実を日々観察・体験し続けている筆者にとって、例えばそれがGFXシリーズ単体で見れば感激できる性能であっても、比較対象の視野を広げた瞬間には、GFXシステムで出来ることはまだまだ限定的に過ぎる、という意味で、物足りないと感じてしまうのです。
本機の性能は申し分なく、フルサイズミラーレス機のような感覚で、いわゆる中判デジタルを快適に運用出来るという点で、着実な進歩を感じました。これはGFX100 IIで感じた事がそのまま当てはまり、さらに少し軽量にできていることが要因です。
2021年2月末のGFX100S登場から3年以上が経ち、発売後すぐに手に入れたユーザーであれば「買い替え」という言葉が脳裏をかすめる頃合いでもあります。2016年よりフジ機ユーザーである筆者の率直な感想として、フジ機は3年程度で草臥れた感じが出てくるので、そろそろ買い替えの誘惑に心が揺らいでしまう頃合いである、ということがとても良くわかります。
そろそろ、というタイミングで居ても立っても居られずGFX100 IIに乗り換えたユーザーにとって、本機はちょっと悔しい存在なのかも知れません。