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コシナ・フォクトレンダー:Xマウント用「NOKTON 35mm F1.2」

X-Pro3とのマッチングはどうなる? 設定時のお作法も確認

レンズの最大径×全長は59.6×39.8mm。X-Pro3に装着した状態の重量は、ボディ約497g(バッテリー・SDカード込み)+レンズ約196gで、約693gとなる

株式会社コシナが手がけるVoigtländer(フォクトレンダー)シリーズに富士フイルムXマウント用が、この8月に新たに加わる。第1弾となる「NOKTON 35mm F1.2」の実機を確認することができたので、速報としてX-Pro3に装着した姿を交えつつ、独特の撮影前設定を含めて、どのような使用感になっているのかをお伝えしていきたい。

情報開示を受けて電気通信まわりを設計

本製品はAPS-Cセンサーを採用する富士フイルムのXシリーズ専用に設計されたレンズだ。同社が手掛けているマイクロフォーサーズやソニーEマウント用フォクトレンダーシリーズ同様電子接点を備えており、Exif情報の記録等ボディ側との電気通信に対応している。

とりわけ特徴的な点は、富士フイルムからの情報公開を受けて電気通信系を開発しているということ。このメリットを最大限に発揮させるためには、いくつかのお作法が必要となってはいるものの、フォーカスチェックや撮影距離の連動表示への対応など、得られるメリットが多いことがポイントのひとつとなっている。

また、現状ではX-Pro3のみとなるものの、OVFとEVFのハイブリッドファインダーを特徴とする同機でのOVF使用時におけるパララックス補正にも対応。X-T4およびX-S10のボディ内手ブレ補正にも対応するなど、情報開示を受けているからこそ可能になっているのだろう、様々なメリットが得られる点も注目点となっている。

情報開示を受けているからこその信頼性は同社でも強調しているポイントだが、そこからくる安心感とボディに直で装着されていることからくる剛性感やコンパクトなスタイリングからくるメリットは、やはり大きいと感じる。

X-Pro3への装着感

それではレンズの外観をじっくりと観察していこう。まず手にした際の感触は、まさにVMマウント版のNOKTON classicシリーズを思い起こさせるものだった。本レンズの開発に際してNOKTON classic 35mm F1.4 IIのサイズ感にF値を半段明るくしたスペックで凝縮することをコンセプトのひとつとしたという同社の説明を、まさに手で実感することができたことになる。

操作系はマウント側にフォーカスリングを、レンズ先端側に絞りリングを配したデザイン。フォーカスリングから絞りリングにかけては、緩やかな段差が設けられており、ブラインドでも操作部が把握しやすくなっている。

絞りリングに2カ所の指掛け部が設けられているVM版のNOKTON classic両レンズに対して、本レンズはボディ上面からみて135度あたりから315度あたりまで、およそレンズ半周分に相当する範囲で絞りリングの指掛かりが設けられている。ローレットの刻みは他のフォクトレンダーシリーズ同様、指に痛すぎないピッチと深さだと感じる。

フードはねじ込み式(46mm)を採用している。バヨネット式ではないため、先端部にフード取りつけ用の切り欠きなどは設けられておらず、すっきりとした形状デザインとなっている。距離や絞り指標文字は別にして、黒一色の鏡筒とパーツ割りの美しさも、よりすっきりとした印象につながっているのだろう。

また、フード自体にもスレッドが切られているため、フィルターの装着に対応できるほか、レンズキャップもそのまま装着できるなど細かな配慮が嬉しい。

なお、フード先端のネジ切りはあくまでもキャップ用のものとのことで、フィルターによってはケラレが発生する場合があるため、メーカーとしてはフードへのフィルター装着は推奨していないとのことでした。
[2021.7.21追記]メーカーからの連絡を受け、フードへのフィルター装着に関して注意事項を追記いたしました。

電気通信対応ボディで推奨されている事前設定を確認

電気通信に対応しているボディは、本稿執筆時点でX-H1、X-T4、X-T3、X-T2、X-T30、X-S10、X-Pro3、X-E4の8機種となっている。第3世代センサー+画像処理エンジンのX-H1とX-T2の2機種を除き、ほかは全て第4世代(X-Trans CMOS 4+X-Processor 4)のセンサーと画像処理エンジンを搭載するモデルとなっている。第3世代モデルが対応するのであれば、X-Pro2なども対応できる可能性はありそうだが、どうだろうか。このあたりは改めてメーカー側へ聞いてみたいと思う。

さて、コシナによれば電気通信に対応するボディに装着して使用する場合、2つの設定項目の変更を推奨するとしている。変更する機会はあまり多いとは言えない項目とみられるため、以下、どこのどの項目をどのように変更するのかを紹介したい。購入または導入時の参考にしていただければ幸いだ。

なお、設定内容の確認はX-Pro3(ファームウェアバージョンVer.1.22:2021年7月8日公開分を適用した状態)を使用している。

設定項目1:絞り値の表示をT値からF値にする

設定の手順は、スパナのアイコンが目印の「セットアップメニュー」内にある「表示設定」を選択し、「シネマレンズ使用時の絞り単位」を「T値」から「F値」に変更する流れ。

デフォルトの状態はT値となっており、何もせずに本レンズを装着すると絞りの数値がT値で表示される。

レンズを装着してカメラの電源を入れた直後の状態。絞りは開放側のF1.2にセットしているが、「T1.3」と表示された

この仕様の背景について、同社担当者によれば本レンズの対応カメラとの連携は、富士フイルムの映像撮影用MFズームレンズ「MK」シリーズとの通信をベースに開発されているからだという。

設定項目2:被写界深度表示をフィルム基準にする

絞りの表示設定が変更できたら、次に撮影距離表示に関する設定を変更しよう。項目は「AFMF」メニューの2ページ目の中にある「被写界深度スケール」を「ピクセル基準」から「フィルム基準」に変更すればOKだ。

被写界深度表示でピクセル基準とフィルム基準が選べるようになったのはX-Pro2から。両者の違いおよび使い分けについて、富士フイルムは「被写界深度考察」(2016年4月21日公開。記事URLは後掲)と題した記事で説明している。

要約すれば、等倍拡大レベルで被写界深度におけるピント位置およびピント範囲を厳密に追い込む使い方ではピクセル基準が有効であり、あらかじめ定めた絞りが有するピント範囲にピント位置を置く場合(同社ではこれの一例としてストリートスナップを例に挙げて説明している)では、フィルム基準のほうが使い勝手の面でマッチするだろうとしている。

鏡筒に被写界深度スケールが刻まれているレンズでは、この「フィルム基準」をベースに目盛りが刻まれていることから、こちらの設定を選択することが推奨されている、ということのようだ。つまり、目盛りをたよりにした目測撮影やX-Pro3でOVFで撮影したい場合などで、より肌感覚になじんだ撮影スタイルで使っていく上で、より勝手が良くなる、と理解しておけばよさそうだ。

2点の変更を加えた状態

以上2点の変更点を反映した状態は以下のようになる。お作法というと身構えてしまうところがあるが、実際にはただ2項目の設定を変更するだけなので、上記のとおり、どこの何を変えればいいのかだけ覚えておけば、特に問題はないだろう。

また、X-Pro3のOVF時のファインダーは次のように表示された。ケラレも気にするほど大きくないことが見て取れることと思う。

ハンドリング雑感

レンズ外観やX-Pro3への装着感、撮影前のお作法を中心にお伝えしてきた。数日手にして撮り歩いてみた段階での感触は、やはり軽量かつコンパクトであることは正義だということ。重すぎず軽すぎない、フォーカスリングの重みは指先での微調整にもしっかりと応えてくれるため、F1.2の被写界深度の薄さをデメリットとしない合焦精度が得られている(当社比)。

筆者個人の感覚ではあるものの、以前NOKTON classic 35mm F1.4をマウントアダプターを介して、X-T系およびX-E系のボディで使用していた際は、開放側の独特の甘さもあってか、そこまで高い歩留まりは得られなかった記憶があるが、今回のレンズはかなりの歩留まりの高さが得られている。これはX-Pro3を使用しているからということもあるのかもしれないが、F1.2のピント面の薄さを、掴むことができているように感じている。確かに、ピントの立ち上がりが見えるのだ。

またMマウントレンズに限らずマウントアダプターを介して異なるマウントのレンズを装着したカメラは、一部例外はあるものの、どうしても間延びしたような見た目になってしまい、美しくないと感じざるを得ない面があることも、また事実。このあたりの問題はマウントアダプターの進化がきっと変えていく面があるだろうが、マッチングの美観という観点では、まだ途上にあると見ざるを得ないと感じている。もちろん、それ以上にボディ・レンズともに設計者が本来意図していたであろう描写とは異なる世界観で使用することに対する後ろめたさと言えばいいのか、少しばかりの気持ち悪さを抱えている、という側面もあるように思う。「オールドレンズを楽しむ」ということを否定するわけではないけれども、やはりそれとこれとは全く別の次元での話なのではないか、とも考えている。

何が言いたいのか、というと、富士フイルムの情報開示を受けて開発された本レンズは、そうした負のスパイラルに陥りがちな思考をあっさりと吹き飛ばしてくれたということだ。実写編の前に結論が出てしまうような面があるけれども、“アダプターを介さずにレンズが装着できる”という事実は、その事実以上に精神的な安心感や信頼感を与えてくれる。そして対応ボディではExif情報もしっかりと記録されるため、撮影後の振り返りや試行錯誤のフローも、より構築しやすくなるし、メモや記憶を頼りに振り返らなくて良いというのは、それだけでも撮影のテンポを良くしてくれる。

本レンズに対する意見としてマニュアルフォーカスであることをデメリットに挙げる声を目にすることがあるが、その論旨はよく理解できることだし、オートフォーカスの利便性は確かに高い。絶対的な生産性で言えばオートフォーカスを選択すべきだろう。でも、だからこそマニュアルフォーカスでしか撮影できない、または撮影アプローチをかけたいシーンもまた確実に存在する。実写を通じて、今回それがよく実感された。次回の実写編では、今回お伝えできなかったパララックス補正の検証も交えながら、実写カットをご紹介していきたい。

本誌:宮澤孝周