新製品レビュー
監修者が自ら語るEndurance シューティングマルチカメラバッグのコダワリポイント
リュックと組み合わせて使う小型バッグの理想形とは
2020年12月21日 06:00
写真好きにとって、カメラやレンズといった機材選びと同じくらい頭を悩ませるのがバッグ選びではないでしょうか。大事な機材を安全に収納しつつ、現場では素早く取り出すことができ、軽量で、デザイン性も欲しい。撮影スタイルやシーンによって中に入れたいアイテムも大きく変わります。カメラやレンズ選びに正解がないようにカメラバッグ選びにも正解はないのです。そこには広大なカメラバッグ沼が広がっています。
理想のバッグを求めて
ひろくひろく広がるカメラバッグ沼。ここから抜け出すために私がとった手段は「自分でカメラバッグを作っちゃおう」という方法でした。
自分の理想のバッグを作ればバッグ選びの悩みから抜け出せますよね。そして、私と同じ悩みを抱える写真好きの方々もきっといるはず! と考え、販売したのがEndurance カメラバッグです。2016年からこれまでに4つのカメラバッグと2つのアクセサリーポーチをリリースしていますが、今年の5月にレンズ交換に特化した「Endurance シューティングマルチカメラバッグ」を発売しました。
そこで今回は“カメラマンが監修するカメラバッグはどのように作られたのか”という視点から、開発の裏側の様子を交えながら「Endurance シューティングマルチカメラバッグ」のレビューをお伝えしていきたいと思います。
開発の出発点
腰痛持ちの私が好きなカメラバッグは、身体への負担が小さく両手がフリーになるリュックタイプです。
ただ、リュックにはカメラバッグとして致命的な欠点があります。それはレンズ交換がしにくいこと。この欠点を軽減するために、多くのカメラバッグがEnduranceでも採用しているサイドアクセスや、背面側からのアクセスを設けるなど様々な工夫をしています。しかし、どれほど工夫してもショルダータイプの機材アクセスのしやすさには敵いません。私もいままでずっとレンズ交換を快適にできるような市販アイテムを組み合わせて使ってきたのですが、これだ! という答えにたどり着けずにいました。
リュックの利点を活かしながらレンズ交換しやすい運用をし、撮影をより快適にするためにはどのようなアイテムが必要なのか? ここがEndurance シューティングマルチカメラバッグ開発の出発点でした。
開発が具体的に始まったのは2019年10月のことでした。9月にEnduranceとして初めてリコーイメージングスクエア大阪の一角をお借りして展示会をさせていただいた時にユーザーの皆様と直接意見交換をする中で、リュックと組み合わせて使う小型バッグのニーズは確実にあると確信して開発がスタートします。
私がカメラバッグの開発をする時は、デザインより先に欲しい機能を洗い出します。今回は「82mm径の大きめなレンズ2~3本に加えて、バッテリーなどの小物類が入る」「70-200mm F2.8クラスの長いレンズが入る」「現場ですぐ取り出せる」「リュックと併用しても邪魔にならないサイズ」「ユーザーが使い方を選べる多様性」といった要件を並べ、これを実現するためのデザインをざっくり考えます。
初期に私が書いたスケッチは以下のようなイメージです
これを持ってカメラバッグの製造メーカーに「こんなの作れませんか?」と相談しに行きます。Enduranceのバッグを作っていただいているメーカーは世界規模で多くのカメラバッグを生産している百戦錬磨の人たちなのですが、いつも私が無理難題を持って行くので、毎回困らせてしまいます。打ち合わせでは毎回「出来ると思うけど、一度サンプルを作ってみないとわからないですね」となります(笑)
特にEndurance シューティングマルチカメラバッグの一番の特徴である「コンパクトだけど70-200mm F2.8クラスの長いレンズが入る」という機能に関しては、どうやってバッグを拡張させるかが焦点に。当初はペラペラの布を折りたたんで下部に収納する案やベルトを使って荷物を保持する案など、色々アイデアを出し合いながら試作を行っています。
この結果生まれたのが、「ぐるっとファスナーを回したら下が飛び出す機構」です。当然ながら製造メーカーの人も初めての試みでした。
試作と改良
どんなに最初の設計が良くても、実際に使ってみると「もっとこうしたい!」という点が出てくるもので、今回も試作とテストを繰り返して細かな点を改良しています。今回だと下部の拡張部分はファスナーの開く方向や開始位置を変えたり、拡張部の開口サイズを3パターンほど実際に作ってレンズフードや三脚座が付いていても出し入れできるかなどを検討しています。
試作と改良を繰り返しながら最終仕様がFIXしたのが2020年の3月のこと。開発スタートから半年かかってようやく完成です。ここからよし量産、販売だ! といきたいところですが、今年はご存じの通り新型コロナウイルスの影響もあり、少し遅れてようやく販売開始に漕ぎ着けました。実際に動き出してから発売まで、実に9カ月かかりました。
と、このような流れがEndurance シューティングマルチカメラバッグの開発の流れです。他のカメラバッグがどのような開発スパンとなるのかは分かりませんが、Enduranceの場合はだいたい6~12カ月くらいかけて仕様をつめていく感じです。カメラバッグ作りをはじめる前は、もっと簡単にサクッと作れるんじゃないか? と思っていたのですが、実際に作ってテストして販売するとなるとこのくらいの時間がかかります。
おすすめの使い方
前置きが長くなってしまいましたがここからはEndurance シューティングマルチカメラバッグのおすすめの使い方を紹介していきましょう。
おすすめはなんといっても冒頭で説明したとおり、リュックとの組み合わせて使う事です。現場までは重い機材はリュック側に収納して、シューティングマルチカメラバッグには財布やスマホなど普段使う小物類を入れておき身軽に移動。現場に着いたらそこで使うレンズ数本をリュックから移し替えて機動的に撮影するスタイルです。
見た目はそれほど大きくありませんが、F2.8通しズームのような82mm径の大きなレンズも問題なく収まり、ちょっとパツパツにはなりますが70-200mm F4クラスのレンズも上部に収納可能なサイズ感です。先日発売されたタムロンの70-180mm F/2.8 Di III VXD(長さ149mm)も上部に収納できますので、タムロンの新しい大三元(17-28mm F/2.8 Di III RXD、28-75mm F/2.8 Di III RXD)なら荷室を拡張せずにすべて納められます。
さすがに70-200mm F2.8や100-400mmクラスの望遠レンズの多くは上部に立てて収納はできません。その場合は下部の拡張スペースを開放して納めます。約290×100×210mmの小さなバッグですが、拡張することで大三元+1~2本のレンズを収納可能になります。クリップオンストロボも立てて収納可能なため、様々な現場でワンマン撮影を楽に進められるはず。ちょっとパツパツですが10.2インチiPadも収納できるので、撮影から編集、共有までをこのバッグ一つで完遂できます。
Endurance シューティングマルチカメラバッグの開発では「ユーザーが使い方を選べる多様性」というテーマも重視しており、リュックのサブバッグ以外の使い方も可能です。
例えば、幅広のカメラマンベルトを通してウェストバッグ、ヒップバッグとして使ったり、背面4つのDカンを使い、トレッキング時のトップローダーとして使う事もできます。
バッグ単体でカメラ本体を収納出来るサイズ感にもしていますので、旅行で大きなキャリーバッグのサブバッグとして使い、飛行機や新幹線移動時の手荷物バッグとしたり、宿に着いた後の身軽な行動用バッグとして使うのも結構便利です。
注意すべき点は?
自分で作ったバッグなので良いところばかり紹介したいところですが、一応レビューということもありますので、使用する時に注意すべき点も正直にご紹介します。
まず、このバックの出発点はリュックを使いながらショルダーバッグの利便性を手に入れるにはどうすれば良いか? というところなので、普段大きめのショルダーバッグを使っていて全然不便を感じない人にはあまり向いていないかもしれません。
それと関連して、70-200mm F2.8や100-400mmクラスの望遠レンズを常用する人にも向いていないと思います。シューティングマルチカメラバッグは荷室拡張により大きなレンズも問題無く収納出来ますが、常に拡張して使用することは想定していないため緩衝材の厚みや剛性、アクセスのしやすさは上部荷室にくらべれば劣ります。普段は広角~中望遠のレンズをメインに使っていて、たまに大きなレンズを使いたいという人にピッタリです。
また、付属のショルダーベルトがペラペラで安っぽいと感じる方もいるかもしれません。これはリュックとの併用を考えてベルト同士が干渉してゴワゴワしないようにできる限り薄くてシンプルなものにしているからです。もし、もっとしっかりしたショルダーベルトが欲しい方は、着脱も容易ですので別にお気に入りのベルトを見つけて使っていただければと思います。
それと、このバックにはレインカバーが付属していません。生地は撥水性を持っているので定期的に撥水スプレーでお手入れしていただければ短時間の小雨なら問題なく使えますが、心配な方はシャワーキャップを中に忍ばせておくと現場で慌てません。
まとめ
私自身が監修したEndurance シューティングマルチカメラバッグの紹介をしてきました。撮影スタイルは人それぞれなので、“すべての人にフィットするバッグ”ではありませんが、私が長年あれこれ悩みながら考えてきた機能を全部入れて仕上げています。工夫次第で様々な使い方ができるカメラバッグに仕上がっていますので、普段の撮影ワークフローに不満がある方は、ぜひ検討していただけますと嬉しいです。