新製品レビュー
SONY FE 600mm F4 GM OSS(前編)
α7R IVやα9 II、2倍テレコンなど各種条件で徹底検証:ネイチャー編
2020年3月20日 12:00
FE 600mm F4 GM OSS(SEL600F40GM)は、2019年7月に発売された35mm判フルサイズEマウントカメラ用の単焦点レンズだ。同時に発表されたFE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSと共にEマウントレンズとして初めて焦点距離600mmに達したレンズである。400mmの画角でも足りず、明るさ、高速シャッターが必要とされるスポーツや野生動物、航空機などの撮影に力を発揮する。今回は前後編にわけてネイチャー、スポーツ、航空機と、被写体別に本レンズがどのような画を描き出すのかを試した。前編は各種の条件に基づいた検証作例とネイチャーでの使用を中心にお伝えしていく。
FE 600mm F4 GM OSSの位置づけ
FE 200-600mm F5.6-6.3と違い、本製品は単焦点で口径約16cmのF値が4と、約1と1/3段明るく、ミラーレスαシリーズ用の交換レンズで最長となる約45cmの長さ、そしてラインアップの中で最高額となる160万円強(実勢価格。200-600mmは約25万円)となる。
焦点距離もサイズも最大となる存在だが、2018年登場のFE 400mm F2.8 GM OSS と同様、軽量につくられ、他社同クラスのモデルに比べ最も軽い3,040g(現行製品のキヤノンEF600mm F4L IS III USMは3,050g、ニコンAF-S NIKKOR 600mm f/4E FL ED VRは3,810g。いずれもカタログ値)となる。
レンズ構成は蛍石レンズ3枚、XA(高度非球面)レンズ1枚、EDガラス2枚を含む、18群24枚(後部フィルター1枚含)構成。これら構成レンズの大半を中央から後部に配し、各光学ガラスの径を小さくすることで、構成レンズの合計質量を抑えるコンセプトを用いている。
回折光学素⼦(光を屈折ではなく回折現象によって曲げるレンズエレメント。例:キヤノンDOレンズ、ニコンPFレンズ)は採用していないため、長さはこれまでの35mm判600mm F4クラスのレンズと違わないが、キヤノンもEF600mm F4L IS III USM、EF400mm F2.8L IS III USMの2本を同コンセプトで登場させており、近年の大口径単焦点超望遠レンズには軽量化の流れがある。
ソニーの場合はフランジバック長で有利なミラーレスであり、かつ35mm判フルサイズカメラとしても小型軽量なので、無論、ボディとレンズの組み合わせにはバランスの良さがある。
外観デザイン
デザインは前記のFE 400mm F2.8 GM OSSを踏襲。筐体は白塗装されたマグネシウム合金製で、長さ約22cmの付属フードが付く。
先端部からマウント側に向かい、Gマスターレンズを表すシナバーのバッジが埋め込まれる前部、黒ラバー・プラスチックが巻かれる「フォーカスホールドボタン・ファンクションリング・フォーカスリング」の3つのリング、銘柄バッジとストラップリングが付く三脚座環、縦5段のスライドスイッチ、そしてマウントのくびれ部に差し込み式フィルターホルダーがある。後部の差込式フィルターの径は40.5mm。市販のNDフィルターのほか、純正の円偏光フィルター「VF-DCPL1」が装着可能だ。
操作部等
ソニーのレンズではおなじみの「フォーカスホールドボタン」は4つ配されている。「カスタムキー設定」でフォーカスストップ以外の割り当ても可能だ。
そこからマウント側に向けて隣り合わせで「ファンクションリング」を装備。このリングは、任意のピント位置をレンズに記憶させておける“プリセットフォーカス”動作または、動画記録時に合わせ、ゆっくり滑らかにフォーカシングできる“パワーフォーカス”動作が選べる。その直下のテーパー部分がフォーカスリングだ。幅が多めに取られ、滑らかに回転する。「DMF(ダイレクトマニュアルフォーカス)」スイッチをONにしておくことでAF設定時のリアルタイムマニュアルフォーカスも可能だ。
持ち運びの際にハンドルにもなる三脚座。座のある環にはレンズ名が刻まれたプレートがビス止めされている(※シリアル番号は画像加工により消去)。
三脚座部分には、中央に3/8インチのネジ穴、その前後に1/4インチのネジ穴が配される。座柱にはリングの回転を水平、垂直の90度きざみで区切るクリックON/OFFの切り替えレバー、盗難防止用のソケットが蓋つきで備わる。この三脚座は六角ビス4本でレンズ鏡筒に固定されており、即時の取り外しは出来ない。
軽量に仕上げられているとはいえ、三脚に装着する際は中型以上の三脚を使うことをお勧めする。写真はマンフロットのカーボン三脚「535」にフルードビデオ雲台「MVH608AH」。固定する際は雲台やシュープレートが対応していれば、三脚座面にある3つのネジ穴のうち2つは使って確実に固定し、一本ネジで起こる回転や、シーソー状のぐらつきを防ごう。ビデオ雲台の利点はレンズを保持させながらもパンやチルト動作ができるので流し撮りが楽に行える。「MVH608AH」はシュープレート式で付属する複数のネジを用いてしっかり留められる。
スイッチは上左から、AF/MF切り替えスイッチ、「DMF」のON/OFFスイッチが並ぶ。
1段下はフォーカス範囲を制限するリミッター、中段はファンクションリングを「パワーフォーカス」か「プリセットフォーカス」かを切り替えるスイッチと、プリセットさせる際に位置を記憶させるボタン。
4段目は光学式手ブレ補正「OSS」のON/OFFスイッチに、右が手ブレ補正を撮影場面で切り替えるモードスイッチ。モードスイッチは、主に静止物に向けた「MODE1」、流し撮り向けの「MODE2」、動きものに向けた「MODE3」から選択できる。
最下段はフォーカスリングを「プリセットフォーカス」で使用した際、回転時に機能が働いたことを音で知らせるBEEP音のON/OFFスイッチだ。
各種条件にもとづく作例
200-600mmと同じ600mm域でも単焦点のF4、そして価格が約160万円。このスペシャリティを画像で示すことがレビューのポイントとなるだが……その是非は読者の皆さんに判断していただこう。
使用カメラはα7R III、α7R IV、α9 IIで特に注記がなければ手持ち撮影。α7R系はメカシャッター、α9 IIは電子シャッターに設定、適宜被写体に応じて「OSS」のON/OFFを含め、各MODEを使い分けた。レンズ補正全般と階調補正の「DRO(デジタルレンジオプティマイザ)」は「オート」に、「オートHDR」は「切」。色味に関してはクリエイティブスタイル「スタンダード」として、表記がなければ各インジケーターには触れていない。ファイル形式はRAW+JPEG(Lエクストラファイン)で記録。このうちのJPEG画像を掲出している。
周辺減光
空一面が背景となるシーンで気になってくる周辺減光の出方を見る。
今やカメラ側の補正が優秀なため、「オート」にすれば開放絞りでも、α9 / 7Rシリーズのカメラ(以下、ミラーレスαと表記)の場合、周辺減光で頭を悩ませることはまずない。しかしその減光を作画の要素に求めることもあり、素性を確かめた。
条件は「周辺光量補正」に加え「倍率色収差補正」「歪み補正」と「DRO」も「切」にセット。1段ずつ絞った2段分を絞り優先AEで撮影。カメラはα7R IVを用いている。
開放絞りでは、四隅の露出不足というより中央部の露出がオーバーになる印象。機体の白に締りがないが、減光は急激なものではなくグラデーションを保っている。F5.6では、角の減光はまだまだ残るが不自然さはなく、白の締りは幾分増しており、絞った効果が表れている。F8では、中央と角の空をポインターで追うと約10ポイントの差があるものの、その減光は見逃せるほどだ。
ボケ味
ネコヤナギの花穂にフォーカスを合わせ、その背景にある落葉樹の葉が受けるハイライトのボケ具合を1段ずつ絞り、2段分の変化を見る。カメラを三脚に据え絞り優先AEでカメラが導く露出で撮影。「周辺光量補正」「倍率色収差補正」「歪み補正」とDROは「オート」に設定している。
開放絞りでは、左下の白いボケに口径食による同心円方向への潰れがあり、画面全体にあるボケが点像のものかわからない。花穂に見る結像具合から色滲みがほぼ見られないことがわかる。F5.6では、左下の玉ボケの潰れが少し残るものの、存在が曖昧だった背後のボケが円形に近づいた。F8では、玉ボケの存在が一層目立ち周辺の円の潰れはほぼなくなるが、玉ボケの周縁部に絞り羽根由来の直線辺が確認でき、太い線のフチドリも生じている。
逆光耐性
次に逆光耐性を見る。羽田空港沖の南東の空に陽が昇る。駐機場に止まる767型機のシルエットを横たわるように配置すると画面左に太陽が入った。垂直尾翼にフォーカスを合わせ、東向きに離陸する737型機を入れてシャッターを切った。絞りはF9、シャッタースピードは1/1,250秒、ISO感度はISO 100。フォーカスを合わせた尾翼にこそ、若干のコントラスト低下がみられるものの、航空会社のロゴマークも確認できる。広角レンズでよく見受けられるゴーストだが、望遠系でもこの場合に当てはめると、太陽と光軸対称の位置にゴーストが発生するモデルを時折見受けるが、本レンズでのこのシーンでは見られない。
先のカットを撮影する約5分前に2倍のテレコンバーター(SEL20TC)を装着して1200mmの画角で日の出直後の太陽をアップにした。垂直尾翼を見るとわかるが、太陽の強烈な光の影響で画面中心部にゴーストが発生している。2倍テレコン「SEL20TC」装着時のこのゴーストは、後半に掲載する画像ではあらわれておらず、この場面での光の強さが原因だと思われる。
被写体および状況別の作例:自然・動物
ここからは、本レンズが威力を発揮するシーンや被写体での作例で構成している。
ネイチャー
都心でも見かける身近な猛禽類、トビ。撮影地の相模湾岸では人が持つ食糧に狙いを定めて近づくため各所に注意看板が立つ。α9 IIのフォーカスエリアを「トラッキング:フレキシブルスポットS」に設定し、頭部の瞳近くにフォーカスエリアを定めた。飛びまわるトビにレンズを向けることを考え、1/4,000秒のシャッタースピードのシャッター優先AEにセットし、手ブレ補正はOFFにした。
獲物を探す1羽が頭上を過ぎ行く時、私が手にするものを確認するようこちらを見た。トビとの距離はおよそ5〜6m。航空機を追う要領でレンズを振ったが、トビとの距離が近いため振りの加速度は大きく、仰角も60度を越えていた。それでも被写体を追えたのは本レンズの軽さゆえだったと振り返る。
ブラックアウトのないファインダー画面は、連写中にトビの視線が来ていたことがわかり、2年強使ってきたミラーレスαのトラッキングAFをやっと使いこなせたか……と思えた。
前出の写真とほぼ同じ場所で、カメラの設定も同様。画面右側から近づく個体の瞳付近にAFをON。ヒトでいう鼻根と空との境を認識させた。
瞳AF設定は「動物」にしていたが、合焦を示すAF枠は従来の追随時の表示で瞳は認識しない。だがトラッキングは行われており、トビが画面一杯になるように嘴が横間際にくるフレーミングとした。この位置でAF合焦が得られるのは、2020年3月現在ではミラーレスαだけだろう。
カワウと思われる鵜が運河の畔で羽を乾かしていた。水辺との境の欄干に肘をつき、α7R IVで撮影。ほとんど動かない鳥に対して「OSS」はノーマルのMODE1に、AFエリアは「トラッキング:フレキシブルスポットS」に設定し、頭部へとフォーカシングした。
この角度、大きさでの瞳にはやはり反応しない。瞳にフォーカスを合わせるべく、まずは黄色い嘴の根元の黄色い模様を認識させてシャッターを切った。しかし、頭の上に入るハイライト部に合焦。何度かリフォーカスで試すがいずれも同じ結果だった。コントラスト部分に合焦する傾向があったので、「DMF」をONにしてマニュアルフォーカスで瞳に合わせた。
カワウと同じ場所、別の日の夕方にアオサギがいた。フルサイズの画角では物足りないため、APS-Cにクロップして換算で900mm相当にした。背中から北風を受け、頭部の羽が逆立ち、瞳は瞬幕が覆う。
川面をじっと見つめ動きを見せないので「OSS」はMODE1に。1段以上絞れる1/500秒のシャッタースピードとし、AFエリアは「トラッキング:フレキシブルスポットS」で頭部にフォーカスした。
北風に縮こまるサギの嘴から顔、そして全身の羽と合焦部に確実な解像が見られる。おかげか、畳んだ翼の羽模様にわずかな色モアレも発生していた。
アオサギの場所から少し離れた人工浜に浮かぶ鴨。撮影した12月は換羽時期で雄雌の差もあるため定かではないが、スズガモの雄ではないかと専門家が教えてくれた。
海面に入る高輝度の反射が背景になり、背後が一面ハイライトとなる同じようなシーンでミラーレスαのAF精度が安定しなかった経験を持つ。うっすらと見える瞳をAFでは捉えられなかったが、頭部の黒羽毛と背後との境を「トラッキング:フレキシブルスポットS」で捕まえ、脱水で羽ばたいた瞬間を捉えた。APS-Cにクロップして「OSS」はMODE1、水飛沫が止まるよう1/5,000秒のシャッタースピードを選んだ。
雑木林が点在する東京郊外、鳥たちの鳴き声に誘われ慌てて600mmを持ち出した。実のなるセンダンの木には何羽ものヒヨドリ、ムクドリが止まり、美味そうに啄ばむ。
艶のある目玉に合焦させるべく頭部にフォーカスエリアを合わせ、トラッキング機能を用いてフォーカスをロックオンしてフレーミングを決める。しかし、瞳に対してわずかに前ピンとなり翼の根本辺りの合焦となった。一眼レフに比べてフォーカスエリアの最小単位が大きいミラーレスα。さらに小さいエリアの検出が欲しいと感じさせる場面だった。
ヒヨドリが止まるセンダンの袂を流れる小川を上ると、対岸に生える枝にカワセミが止まっていた。川面を見つめ獲物を狙っていることはわかっていたが、なかなか飛ばない。左から射す西陽はいよいよ落葉樹の向こうに落ちようとしている。結局レンズを向けていた間は羽ばたかず、時折見せる嘴を突き出す仕草を撮った。カワセミまでは8〜9mほど。この距離感であれば瞳を認識せずとも、頭の天辺よりも前、嘴より後ろといった細かい部分へのAF合焦が可能だった。
暖かった1月上旬。郊外の水辺では大群で行動するユスリカが蚊柱(かばしら)を作っていた。雑木林の木々の隙間から注ぐ午後の陽に照らされ煌々と輝くその姿にレンズを向けてファインダーを覗くと、その行動パターンが見えた。
柱の中では、体を立てるようにして羽ばたき垂直上昇する個体と、羽ばたかずにうつ伏せで落下する個体が交錯。個体個体がその上昇と落下を繰り返して蚊柱を形成していた。
AFは使わずにマニュアルフォーカスでその蚊柱に近づいていく。EVFはハイライトの輝きが抑えられ、合焦していればチラチラと小さな虫ながら、エッジの立つ体がハッキリと見えた。このEVFのハイライト減光は時に被写体の質感を失わせるが、合焦具合が見やすいこともあると感じた場面だった。
センダンの木のそばではカゲロウも飛んでいた。逆光を受けた半透明の白い数匹がよわよわしくも優雅に飛ぶ。
マニュアルフォーカスで近づくが、なかなか捉えられない。被写界深度が浅くなる最短撮影距離付近を行き来する体長約2cmの虫は、フォーカスを合わせるのに難儀する。試しに設定していた「トラッキング:フレキシブルスポットM」で狙うと、エリア枠が合焦を表す緑に変わりカゲロウを追い始めた。一眼レフカメラでの撮影経験から、最至近あたりでのAFは到底無理と思い込んでいたが、ミラーレスカメラのAFが見せるトラッキング精度に、あらためて感心した。
北鎌倉駅近くにある円覚寺境内やその周辺には色とりどりのカエデ科の樹木が分布する。時期は師走。紅々と色付くヤマモミジと思われる一群の中に緑の一本があった。超望遠によるアップでもマクロレンズに劣らないレベルで被写体のディテールをキッチリ見せたい。「OSS」をMODE1でONにし、ファインダーを覗くと葉面に陽のあたる一枚を見つけた。
親指AFを多用していたため、AFエリアは「トラッキング:フレキシブルスポットS」のままのコンティニュアスAFで、合焦後に親指を離すシングルAFの要領で使う。なお、円覚寺では個人撮影は許されているが、SNSや個人サイト以外の掲載には事前に許諾申請をお願いしている、とのこと。
境内と外を隔てる壁の屋根瓦伝いにリスが走り回っていた。寺で聞くと鎌倉一円に棲息するリスは外来種のタイワンリスとのことだった。調べると江の島植物園で飼われていた個体が抜け出し広まったという。高画素で紅葉を収めていた最中だったので、カメラはα7R IV。シャッタースピードを少し上げて追うものの、暗さと身体の黒さから、メカシャッターのブラックアウトで見失うこと幾度。何とか目から鼻根にかけてをフォーカスして狙った。
東京郊外から望む富士山頂に、陽が沈む。頂きまでの距離は80kmほど。この日は北風が強く、山頂付近に降り積もった雪が舞っていた。その粉雪に紛れ太陽の姿形は失われたが、舞いあがった雪に陽があたり、富士山の両袖が浮かび円錐形の山容をみせた。稜線に鋭さが欲しく、高画素のα7R IVを用いたが、ディテールを邪魔する陽炎をも繊細に描き出した。
後編予告
後編では、スポーツ・航空機を被写体とした作例でお伝えしていきたい。なお、レビューの総括は後編にまとめている。
協力:円覚寺