新製品レビュー
SONY FE 600mm F4 GM OSS(後編)
α7R IVやα9 II、2倍テレコンなど各種条件で徹底検証:スポーツ・航空機編
2020年3月21日 12:00
FE 600mm F4 GM OSS(SEL600F40GM)は、2019年7月に発売された35mm判フルサイズEマウントカメラ用の単焦点レンズだ。同時に発表されたFE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSと共にEマウントレンズとして初めて焦点距離600mmに達したレンズである。本レビューは、前編に続いてスポーツ、航空機を後編としてこのレンズがどのような画を描き出すかをお伝えする。
被写体および状況別の作例:スポーツ
バスケットボールBリーグの試合に持ち込んだ。「横浜ビー・コルセアーズ」対「アルバルク東京」の一戦。通常はゴール下のカメラマンエリアから、長くても200mmの画角で撮るのだが、コートを見下ろす観客席から撮りたいこともある。その旨を主催者側に願い出たところ、客席より上の踊り場での撮影許可が得られた。
ゴール下のカメラマンエリアでは座って選手にレンズを向けるが、コートの中ほどを撮りたいプレーがあっても手前で交錯する選手で見えないことが多々ある。例えばこの写真のようなビー・コルセアーズのアキ・チェンバース選手(紺のユニフォーム)がインターセプトの際に交錯したクロスプレーの場面。ゴール下からのアングルでは得点に絡むシーンばかりで、コート中ほどの場面は意外と撮れないのだ。
次はゴールを狙うエドワード・モリス選手。得点が入るとその事実から敵陣は注目されないが、白のユニフォーム・アルバルクの選手がモリス選手にどのようにガードを取ったか、そんな視点も欲しい時は動きが良く見える上側からのアングルがやはり良い。
前出のカットにも当てはまるが、狙う選手の顔やシルエットを認識させれば、定まったフォーカスエリアに縛られることなく、自在に選手を追い続けるのがミラーレスカメラのメリット。特にこのような俯瞰めのアングルではコートレベルよりも、狙った選手に対して交錯する選手は少なくなるので、そんなカメラの機能も発揮できる。
Bリーグの試合では、観客の立場で客席から撮影することができる。ただ隣席への配慮から全長45cmにもなるカメラ(レンズ)の使用は遠慮してほしいとのこと。会場にもよるがコートに近づける席を確保できれば、そんな事情もあわせて焦点距離100〜400mmをカバーするレンズの使用が程よい。3月現在は新型ウイルスのために無観客試合になったり、中止や延期といった措置が取られているので、観戦の際は事前に調べて欲しい。観戦できるようになれば、試合は日本各地で行われるので、是非、駆けつけてみてはいかがだろうか。
スポーツシーンをもうひとつ、実業団選手が集まる卓球の試合だ。バックサービスを決めるのは日本製鉄大分所属の内山美紅選手。選手までの距離は10〜15mほどで、選手がこちらを向いている限り常に瞳AFが反応し、撮影者として望む通りのフォーカシングが得られていた。
バスケットボールと同様に体育館で行われるため、光源はアリーナの地灯り照明だ。激しい動きを止めるには遅くとも1/1,000秒のシャッタースピードが欲しい。さらにボールスポーツではそのボールが丸く見えるのが基本とも言われ、ボールの形が丸く見えるまでシャッタースピードを上げることもある。
本レンズはFE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSとはF値で1段以上のF4とあって、決して明るくはない環境での撮影では、やはりこの大口径が必要だと感じる。
同じ試合の対戦相手であるトプコン所属のサウスポー、古川聖奈選手がバックハンドを見せる。10〜15mほど先の選手に対しての600mm画角は実のところ、タイトだ。
本来なら左右の動きにも対応できるよう画角に余裕を持たせたアングルで、なおトリミングできるようにワイド気味に撮るシーン。しかし、せっかくの600mmなので画面一杯になるように選手の表情を狙った。気になるのは被写界深度の浅さ。ただでさえ深度の浅い超望遠で、さらに近づくとなればシビアなAF順応性が求められるが、ここでも瞳AFは選手の眼光に迫っていた。
被写体および状況別の作例:航空機
茨城県百里基地で行われた航空祭でのひとコマ。F-15戦闘機が離陸早々、観客エリアを中心に弧を描くように、高度を上げずに右旋して背面を見せた。緩やかな加速はついていたが、ほぼ等速の物体を追う要領でファインダー内に留めるが、ブラックアウトのないα9 II(α9も)との組み合わせは実に追いやすい。
同じく百里基地航空祭で飛ぶRF-4E偵察機だ。機首に付けられた約10cm辺の大判フィルムカメラで上空からの撮影任務を担う部隊が運用していたが、この3月の解散を機に退役した。当日は午後のフライトとなり機体には陽が注ぐ。F-15Jに比べ高度も距離もあるだろうと見込んで2倍のテレコンバーターを装着し撮影に臨んだ。結果、画面一杯に機体が入ったものの、陽炎や上がったISOの影響で所々の細部描写がやや足りない。しかし、AF合焦は問題なく、「OSS」もMODE3を用いて画面を安定させていたため、1200mmの狭画角であったが比較的容易に機体を追うことが出来た。
千葉県木更津駐屯地の一般開放時に撮影した、災害へも派遣されるタンデムローターのヘリコプターCH-47JA。近づく編隊を画面一杯に配置するには「OSS」が有利に働く。
その「OSS」には静物に向くノーマルのMODE1、流し撮り用のMODE2、スポーツなど激しい動き用のMODE3とあるが、どれが最適なのかを探るのもこの600mmを使いこなす上で重要だ。ヘリコプター撮影では回転翼を止めないことが作法とされるが、迫るCH-47JAを捉えるにあたり、「OSS」は動きものを追いつつも画面を安定させられるMODE3に設定。ブレが抑えられたことで、やや遅めのシャッタースピードとなる1/400秒が選べ、4機編隊をタイトな位置に収めることができた。
飛び行く航空機をどこまで高い画質で収めることができるか。α7R IVとの組み合わせ、日本で唯一就航するルフトハンザの旅客型747-8が羽田空港を離陸するシーンを撮影した。
シャッタースピード、絞り、ISO感度の三要素をどこで決着させれば高画質となるか……。手ブレ補正「OSS」に期待し、シャッタースピードを落とすことを事前の離陸機で試したが、MODE2でもMODE3でもここでの振り速度とは相性が今一つだったため、手ブレ補正はOFFにした。
補正しない場合の経験から、シャッタースピードを自身の使用で手ブレ確率が減る1/1,000秒にセットし、ISO感度は 100をベースにオートとした。機体の白がオーバーにならないよう-0.3EVの露出補正をかけ、絞り開放を覚悟して臨んだ。
「トラッキング:フレキシブルスポットM」で追随させたAFは翼の付け根辺りで難なく合焦。西陽を受ける機体の金属感や窓の表面、文字類の見映えなど、質感描写に富むカットが撮れたと思える。
高画素機α7R IVによるアップをもう1枚。
頭上を去る機体に対して構えていたレンズは天頂を過ぎ、その機体は徐々に小さくなっていく。この動体に対しファインダー内で的確に捉えることは、画面構成を定めるためにも、AFを追随させるためにも重要になる。
ブレを抑える意味でも速めのシャッタースピードを選んでいたため「OSS」は「OFF」に、AFエリアを「トラッキング:フレキシブルスポットS」にセットし機体のノーズ部分を追いかけた。輝く機体主要部がバランスよく画面を埋めるタイミングでシャッターを切った。
金属感を高めたく、鏡面になるハイライト部が目立つようにするにはやや悩ましい露出条件となるが、シャッタースピード優先で露出補正を-1.3EVとし、色のない輝きだけを出した。搭載された径の大きい、高バイパス比のエンジンが存在感を放ち、新鋭のA321NEOらしさを引き出した。
福岡空港の滑走路34へファイナルターンを行うJALのA350だ。麓の街から徒歩30〜40分ほどで市内が見下ろせる展望台に到着する。600mmでも画面中の機体サイズに満足がいかなかったので、α7R IVのAPS-Cクロップで換算900mmの画角で、背景の街なみが流れる程度の流し撮りを試みた。
被写体までの距離は2〜3km。機体は着陸のために速度を落とし、レンズの振り速度は速くはない。この機体通過前の何機かに対し、「OSS」をMODE2にセットしてファインダー像も被写体も安定させようと試みたが、そのうち数カットで流されるべく背景側を止めようとする、撮影者の意図とは逆の補正がかかっているものがあった。
MODE3を試すも似たような結果が多数ある一方で、ノーマルのMODE1で止められたカットも見うけられ、この「OSS」の使い分けがやはり本レンズの使いこなしには重要と認識した。
600mm F4としては軽量なレンズであるため、リュックタイプのバッグに収めてもなお中型三脚を加える余力もできる。そうして運んだ三脚を使い「OSS」を「OFF」にして撮影した。時折、僅かな降雨もありやや視界が良くなかったため、クリエイティブスタイルは「スタンダード」のデフォルト設定からコントラストを1段階上げ、WBは5900Kとしている。
山の中腹から撮影したA350と同じシーンを、陽が沈む間際に平地から撮影した。三脚に据えたレンズに2倍テレコンバーターを組み合わせて7R IVのAPS-Cクロップで、雲の切れ目に射すハイライトがアクセントとなる位置を狙う。機体に光は届いいてないが、そのシルエットが浮き出てフォーカシングは素早く行えた。2倍テレコンバーターを装着した際の開放F値は換算F8となるが、α9(α9 II)とともにα7R IVでも位相差AFは難なく動作する。FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSの場合は換算F13となりコントラストAFのみになるため、歴然とその差は生まれる。
充分な輝度がありながら、前の写真と違って雲の淡い模様に合焦しないことが時折あるミラーレスα。この雲模様と600mmの組み合わせでも、雲への合焦には迷いがあり至近側で停止してしまった。次に雲ではなく西へと上昇する機体へフォーカスエリア持っていき、AFをONにすることで合焦を得た。このような時のために、飛行機撮影では無限遠をフォーカスプリセットで覚えさせておくのも良いだろう。
乾燥する午後、太陽が鋭い日差しを注いだまま西に傾いていく。箱根の山に沈み掛かる頃、水面に映る反射光が一筋となってレンズに向かう。丸い太陽、山の稜線、水面の明かりをバランスよく画面に入れるため、2倍のテレコンバーター(SEL20TC)を装着して被写体を引き寄せた。
旅客機が通過することを見込んでレンズを構えてはいたものの、エンジン音も聞こえない遠さに加え、肉眼では逆光の眩しさでその存在はまったく確認できない。じっと息をひそめファインダー画面に集中して機体が横切るのを待つ。望遠レンズをつけた一眼レフカメラの光学ファインダーであれば、直接太陽を覗くべきではないが、EVFであればそれも可能だ。
陽の入から30分以上が経ちすっかり暮れたが、600mmで覗く西の地平にはまだ紅の明かりが残っていた。空港に明かりが灯されるころ、離陸する機影を追った。これまで最良の効果をなかなか見いだせなかった「OSS」だが、マンフロットのフルード三脚に載せて試したのは流し撮り用のMODE2。機体に視線が行くよう地上が少し流れるよう1/30秒のシャッタースピードで切ると、777-200のシルエットがくっきり浮かび上がった。
満月まであと2日、月齢約12の月が昇り始めて1時間20分。日の入からは5分ほどが過ぎた。僅かに残照があったが、月に露出を合わせるとそれ以外は暗転。余黒となる背景を切り取るべく、2倍テレコンバーターSEL20TCを装着しα7R IIIのAPS-Cクロップで撮影した。
同時記録するRAWファイルからの調整を前提に、白飛びを抑えるため月に対してはアンダーとなる露出に設定。三脚に載せていたレンズを、月を横切る直前の機体に向け、まずはAFで合焦させる。すかさずレンズを月に向け1/2,000秒のシャッタースピードで横切る機体を撮影した。今まで、さまざまなカメラ・レンズで撮った同種の画像に比べ、機体ディテールもフォーカスを合わせてはいないハズの月も、露出不足ではあるが鮮明に写せた1枚だった。
まとめ
このレンズを付けてファインダーを覗いた瞬間、その「特別さ」がわかった。FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSのズームに慣れた目には、これまでとは違う明らかにクリアな視界が広がったのだ。電子表示のEVFは輝度を増幅できるため、装着レンズの明るさの違いからくる明暗差は縮まる。だが、そのEVFにおいて明らかな違いを感じ取れるということは、単なる明暗だけではない所謂「ヌケ」の良さがある、とその瞬間にでさえ感じた。EVFは暗さを補えても色収差までは誤魔化せない、と。
描写性能については、最短撮影距離がもう少し縮まれば……、と思う以外に注文はない。各部の動作については、今回の作例であらわすように、例えばAFはボディ側の最適設定や癖を掴みつつあることも手伝い、追随については裏切られることはなかった。手ブレ補正の「OSS」は今回3つのMODEを多用したが、実のところ確実な正解はない、と思える。最良の結果を求めるのであれば、まずはその場面で試すことが重要と理解した。誤解されては困るが「OSS」の動きが良くないという意ではなく、その場面においての最善のMODEを選ぶ必要がある、ということだ。
α9の登場時から一眼レフカメラと併用しながらもミラーレスαを使ってきてが、そのαにおいて自身のボキャブラリーが積み上げられると思わせてくれる魅力的なレンズだと、その虜になった。でも、やはり160万円。しかし、このレンズの性能を引き出せる、画面端までのAF追随を見せる高速連写カメラもリファインされ、AF追随もあって質感を艶やかにあらわせる35mm判で最高画素を刻むカメラも、ラインナップされている。スポーツ、野生動物、航空機を狙うためのシステム構築が必要なら、金額のためにいとまを挟む必要はないのかもしれない。プロアマ問わず、最高の機材を選ぶのも写真家にとっての創作行程のひとつならば。
協力:B.LEAGUE/横浜ビー・コルセアーズ
日本卓球リーグ実業団連盟/日本製鉄大分卓球部/トプコン卓球部
航空自衛隊百里基地/陸上自衛隊木更津駐屯地