新製品レビュー
最新ペンタックスレンズを奥多摩でフィールドテスト(後編)
HD PENTAX-DA★11-18mmF2.8ED DC AW
2020年3月14日 11:45
リコーイメージングより、35mm判フルサイズ対応のズームレンズ「HD PENTAX-D FA 70-210mmF4ED SDM WR」が2月14日に発売された。HDコーティングの採用や防滴構造を備えながらも、軽量設計が採られた本レンズ。今回は写真家の瀬尾拓慶さんに、ふだんの作品づくりのスタイルで、本レンズのフィールドテストをレポートしてもらった。撮影は奥多摩の山中で実施。あわせてAPS-C用の広角ズームレンズ「HD PENTAX-DA★11-18mmF2.8ED DC AW」も同時携行してもらい、APS-Cシステムでの使い勝手についても検証している。後編となる今回はHD PENTAX-DA★11-18mmF2.8ED DC AWを中心にその使用感についてお伝えしていきたい(編集部)
前編・HD PENTAX-D FA 70-210mmF4ED SDM WRの記事はこちら
最新ペンタックスレンズを奥多摩でフィールドテスト(前編)
APS-C用最新広角ズーム11-18mm F2.8
HD PENTAX-DA★11-18mmF2.8ED DC AWは、APS-C用のスターレンズであり、PENTAXのレンズの中で上位シリーズに位置づけられている。特に新世代スターレンズということで、今回の撮影を楽しみにしていた。
ボディにはPENTAX KP J limitedを使用した。レンズとボディー共に美しいため、使用する際に高揚感を煽られるのは仕方がないことだろう。
使用感は?
まず、携行面について。こちらのレンズは大口径超広角ズームレンズではあるが、とてもコンパクトで男性であれば手に収まる程度のサイズだ。
普段私が扱っている広角ズームレンズは太くずっしりとしているので、こちらのレンズは軽く扱いやすく、普段よりもノンストレスで撮影に集中することが出来た。PENTAX KP(J limited)とのバランスも良く、重心が前に寄る事もないので、構えた際に安定しやすい。基本的に手持ちで撮影している私にとっては、とても重要なポイントだった。
次に描写面について。結論が先になるが、この「HD PENTAX-DA★11-18mmF2.8ED DC AW」は、とても優秀なレンズだ。
葉や枝のディティール、緻密な光の表現を繊細に描き出すことが出来た。シャドーからハイライトまでのつながりを見ても満足のいく描写だ。本レンズについても以下の作品を通して、その描写を感じて頂けたらと思う。
作品
ここからは、短い旅の物語のようなイメージで読んで頂けたらと思う。
私は普段撮影の際、相棒のジムニーシエラで林道を走り、森の中で寝泊まりしている。森は気象条件により、広がる光景は刻々と変化し、多くの美しい姿を見せてくれる。今回の撮影日は、深い霧に覆われた神秘的な林道だった。
始めて入る森を前に心が高鳴り、高揚感に満たされる。霧は光を乱反射するため意外と明るい。なので、白飛びにさえ気をつければ様々な奥深い表現を可能にしてくれる。こちらの写真は私の相棒のジムニーシエラだ。ボディーの曲線と硬質感がしっかりと出ている。写りがとてもクリアなため、すっきりと抜けが良い。ピント部分から背後のボケまでの繋がりもきれいで文句なしだ。
少しずつ林道を進んでゆく。冷やされた空気が心地よく、辺りからは針葉樹の独特な香りが漂ってくる。せっかくなので車を降りて進んでみることにした。
足下には杉の枝が散らばり、低い場所にもサルオガセが垂れ下がっている。しっかりと細かい部分まで描写してくれているため、後から見返して新しい多くの発見をすることが出来る。空と木の境目に目立つフリンジはなく、このレンズのコーティングの素晴らしさを垣間見た。
こちらの写真を見て頂くと分かるように、この日はとても湿度が高い。雨が降っていないのに、枝に水滴が沢山付いている。私は杉の枝と水の組み合わせがとても好きだ。こちらの写真は一部にピントを当て、ほとんどをぼかしている。ボケが自然な為、ピントを当てている部分の邪魔をすることがない。手前と奥、この関係を邪魔し合うことなく明確に描いてくれている。
本レンズとPENTAX KPの組み合わせは、描写が破綻することがなく、先述の通り目立ったフリンジが出ることもない。なので、心配せずに安心して光探しに専念することが出来る。次の2枚の写真は同じ場所を違う視点で撮影している。1枚目の中央の杉の枝を真下から撮影したのが2枚目の写真だ。
切り取る角度や大きさ、そしてその際の雰囲気に合わせてホワイトバランスを調整することにより、全く違う空気感を与えることが可能だ。
引きで撮影することにより現場の空気を伝え、細部の描写で説明をする。私はこういった組み合わせを好んで使用している。このレンズは空気を捉えてくれる、そう感じた。
先ほどの車と同様、硬質な被写体を撮影してみた。落石などで曲がってしまったであろうガードレールだが、切り取り方によってはとても面白い被写体となる。本レンズはボケも美しく、空気感をつかむのにも優れているが、硬質なものを撮影するにも適しているらしい。
シャープなものをクリアに捉え、パキッとした立体感のある存在して描き出す。ただのガードレールが美しい被写体になるのだから、様々なものに適用が可能だろう。この写真はレンズの性能をより生かす為、シャープネスを少しだけあげている。そして白は反射率が高いため、暗い周りの環境から際立たせるために、カスタムイメージのキーをしっかりと下げている。そうすることで光がより際立ってくれる。
次の2枚は細かいディティールがどれだけ出るかを試してみた作品だ。両者に共通することだが、拡大しても美しいと思えるほどにしっかりとした線が出ている。岩の濡れ感、落ち葉の細かさ、枝の集合体、何を撮っても絵になってしまう。
ここまでの広角を普段使用することがあまりないので、撮影していて楽しくて仕方がない。森の中でこのレンズをもっと使用してみたい、と高揚感を引き出してくれる。
ちなみに私が作品を撮る際に意識している点は、光の繰り返しによる「光の階段」をうまく取り入れることだ。これを意識するだけで作品に立体感が生まれるため、縦構図でどこを撮っても画になる。
少しずつ進んで行くと、私の大好きな竹を発見。湿度のためか枝が重みを増し、頭を垂らしていた。ここで捉えたかったのが、手前の竹の葉と奥の濃密な霧だ。この光景は些細なものだが、あまりにも美しく鳥肌が立った。
光が入って輝く霧に竹と木の幹が浮かんでいるのだ。普段森に入っていてもここまで心が動くことは中々ない。そう思えるほどに個人的に印象が深い光景だった。
見て頂くと分かるように、下から上までしっかりとした繊細な描写を保っている。そして手前の葉は、付いている水滴すらも美しく、奥の霧は飛ぶことなくギリギリまで粘ってくれている。不愉快なフリンジもなく、心の底から撮れて良かったと思うことが出来る一枚となった。
なんでもない普通の草と木の幹の写真。しかし、そこには多くの情報が隠れている。少し固めの葉は光をよく反射するため、暗い森の中でもハッキリとした色味を出す事が出来る。木の幹には沢山のこけが、そして細かい杉の枝が落ちている。
森はもちろん空間が美しい。今回、フィールド使用レポートとして、記事中で沢山掲出しているように、霧や木漏れ日などは、光として見つけやすく、捉えるのにも優れている。しかしこういった地面の片隅にも美しさがあり、多くの楽しみが隠れていることも忘れるわけにはいかない。
その一つ一つを持ち帰る事は出来ないので、しっかりと写してくれるレンズとカメラが必要になるのだ。そうした撮影者の想いに、本レンズの繊細な描写はその光景の情報を持ち帰る手助けをしてくれる。森の中だけでなく、日常の大切な瞬間も、このレンズはしっかりと切り取ってくれるだろう。
冬の森を歩いていると時折遭遇する氷柱。なかなか立派で美しい造形をしているため撮影。落ち葉にまみれているところがなんとも格好が良い。
氷を撮る時に重要なポイントは、なんと言っても透明感だろう。どれだけ汚れていようと、周りに何が散らばっていようと、光を際立たせてホワイトバランスを適切に調整することによって氷の透明感と冷たさを引き出すことが出来る。
今回の写真は周りの葉が演出を助けてくれている。というのは、氷の淡い光に対して、落ち葉がはっきりとした色味とコントラストを出してくれているからである。
縦構図では氷と周りの空気感を、横構図では氷と葉の質感を出す事に重点を置いた。同じ被写体であっても光により見方を変えるだけで全く違う作品として切り取ることが出来る。
少しだけ、氷に触れてみた。土の中を通って岩の間から染み出した水が凍るまでの課程を想像すると少し感動してしまう。森は止まっているように見えて常に動いている、それをこういった小さな所から感じ取れる。
まとめ
今回の撮影で出会った素晴らしい光の数々。少し湿度が多くなってしまったが、私としてはこの空気感が切り取れるのであれば大満足だ。
結局の所、それぞれ使用する人間によってレンズの善し悪しというものは変わってくる。私はポートレートを撮影していないので、このレンズでポートレートを撮影した際の評価は分かりかねるが、今回の私のフィールドである「森」においては信頼して使うに値するレンズだと判断した。フィーリングに合うレンズというのは使っていてとても楽しく、自分にとっての未知を次から次へと見せてくれる。
今回の2本のレンズとふれあった時間は決して長くはないが、それでもその素晴らしさを知ることが出来たのは私にとっても良い機会だった。いつか今回撮影した写真も私の常設ギャラリーに展示出来たらと思っている。データで見る写真と、実際にプリントした写真では見え方や捉え方が変わってくるからだ。その時は直接銀塩プリントを通して、このレンズの素晴らしさを実感して頂けたら、そして森の美しさを見て頂けたら嬉しい。