特別企画

最前線で活躍するプロスポーツ写真家3名が語り合う!〜ソニー新レンズ「FE 600mm F4 GM OSS」「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」で変わる、スポーツ写真の世界

ミラーレスの将来性は? 超望遠レンズの必要性とは?

プロスポーツ写真家のみなさん。左から小川和行さん、奥井隆史さん、赤木真二さん。

7月にソニーから発売される「FE 600mm F4 GM OSS」と「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」は、今話題のフルサイズミラーレスにおいて超望遠域の撮影をカバーする待望のレンズだ。600mmクラスの超望遠レンズといえば、自然風景や野生動物、航空機、競技中のアスリート、ニュースや報道など、様々な要因から接近が制限される被写体を大きく印象的に写す用途に使われることが多く、特に様々な場面や瞬間を印象的に切りとるスポーツ写真の世界においては欠かすことができないレンズと言えるだろう。

本誌ではプロスポーツ写真家3名をお呼びして、「FE 600mm F4 GM OSS」および「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」をα9に装着して、陸上アスリートを撮影してもらった。そのあと2つの新レンズの実力と、スポーツ報道の現場におけるαシステムの有用性や、今後の展望について、座談会形式でお話いただいた。

「FE 600mm F4 GM OSS」「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」撮影体験の模様。

スポーツ撮影とミラーレスカメラ

——まずは簡単に自己紹介をお願いします。

赤木真二さん(一般社団法人 日本スポーツプレス協会 代表理事。Numberの表紙も担当):1982年からカメラマンをやっています。サッカーとラグビーを中心に、陸上競技も時々撮影しています。屋外で、天候の関係ないスポーツを撮っているので、現場では重い機材+雨具というスタイルです。

奥井隆史さん(一般社団法人 日本スポーツプレス協会所属。ThinkTANKのアンバサダーも務める):僕はスポーツフォト・エージェンシーの「フォート・キシモト」を1996年に独立して、現在まで陸上競技をメインに撮っていますが、水泳や体操を撮ることもあります。AJPS(日本スポーツプレス協会 )では、機材の新製品が出た際に協会員へ周知する窓口のソニー担当をさせてもらっています。

小川和行さん(国際大会を含むパラスポーツを取材。ソニーαユーザー):私は2012年にフォート・キシモトに入り、昨年独立しました。主に撮影しているのは障害者スポーツです。フォート・キシモト時代からパラリンピックを取材していて、それが高じて、フリーになった今も障害者スポーツを追っています。独立を機に、ソニーαでシステムを揃えていまも活用しています。

※以下、敬称略

——現在、市場全体のトレンドとして「一眼レフからミラーレスへ」という流れがありますが、特にスポーツシーンにおけるミラーレスの立ち位置をお聞きできればと思います。

赤木:ここ2年でミラーレスのボディとレンズも整ってきた印象があります。個人的には、そろそろ一眼レフにこだわる必要もなくなってきました。ソニーに限っていえば、今回望遠側に「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」と「FE 600mm F4 GM OSS」が加わったことで、まさに独壇場だと思いますね。

では実際に仕事で望遠端600mmだけを使うかといえば、これは競技にもよると思います。僕の領分なら、ラグビーでは使わないこともありませんが、サッカーではあまり使いません。やはり600mmともなると、レンズのサイズも大きくなるので、人が密集しているようなところでは取り回しがしにくかった。その観点でいえば、今回試した新しいレンズサイズと軽さは、他社にはない長所だと感じました。

奥井:陸上の撮影シーンでは、世界陸上クラスで600mmという長玉(全長の長いレンズ、超望遠レンズ)を使う機会があります。大きな大会になるほど、競技者からカメラマンが離される事情もありますし、これはカメラマンが競技場内をどのくらい自由に動けるかによって変わってきますが、おおむね400mmがメインです。

赤木さんも仰っていましたが、僕もラグビーを撮るときは600mmを持ち出しますね。「この絵がほしい」というここ一番で出動させるイメージ。ソニーさんのフルサイズ用レンズはこれまで400mmが最長だったので、600mmの登場で選択肢が広がったというのはありがたいです。

小川:多くの障害者スポーツはそれほど広いスペースを使わないということもあって、600mmという長玉を使うことはまれです。しかし、表現上のオプションとして600mmは必要ですし、単焦点のGマスターだけでなく、ズームレンズという選択肢まであることは、かなりシステムとしてのアドバンテージがあるな、と思いました。

——いま、スポーツ報道の業界から見て、システムとしてのソニーαは、どういった印象なのでしょうか。

赤木:やはり、他社より一回りも二回りもボディが小さいという特徴が目を引きますよね。僕はちょっと小さすぎるんじゃないかと思ってるくらいで(笑)。でも一眼レフを使った後にミラーレスのグリップを握ると、取り回しやすいなと感じることは確かです。肌感覚では一般的にミラーレスって電池の持ちがあまりよくないイメージだったのですが、ソニーのαにおいてはここ数年で劇的に改善されてきました。もちろん、操作性の面で良いことばかりではないのですが、それでも機材のコンパクトさと軽さは、シャッターチャンスが増えることに直結します。

奥井:陸上の大きな大会は長丁場になることも多いので、持ち運びの事を考えると、重量が軽い、サイズが小さいというのはシンプルにメリットです。

一般的には朝9時から始まって、昼12時くらいまでが予選、そのあと17時〜18時くらいまで休憩して、その後決勝を行ないます。これは夏季の場合、最も暑くなる時間帯を避けたり、テレビ放送に合わせてナイターにしていたりという事情もあるのですが、長引くと終わりが22時とか0時近くなることもありますね。特に今年の世界陸上(カタールのドーハで開催)は後ろに伸びる傾向が強いです。暑い地域での開催ということで、マラソンが0時スタートだったりします。この場合は終わりが午前3時くらいですね。

機材のサイズ感と重量は、その日現場に持って行く気になるか、やめとくかの判断を大きく左右するので、軽いのはもちろんありがたいです。

小川:日頃、αのミラーレスをメインに使っていて感じるのは、操作ボタンのマッピング自由度が一眼レフよりも高くなっていることです。自分にとって使いやすい配置にアレンジしやすい。高機能だけで終わらないカスタマイズの幅の広さがαの魅力だと思います。

——実際のところ、フルサイズEマウントのαシステムは、スポーツ撮影のシーンで実用になるのでしょうか。

赤木:野球の撮影でバックスクリーンからバッターボックスを狙うとか、そういった一部の用途を除けば、ほぼカバーできると思います。個人的にはこれで水泳を撮ってみたいですね。9月からラグビーワールドカップの撮影があるんですが、ラグビーって遠いところだと600mmじゃ足りなかったりするので、テレコンも使います。もちろん、単に寄ればいいというものでもなくて、報道性の観点から、トライの瞬間なんかは周囲も写ってないといけない。ナイターの時に(F値が5.6以上でも)十分な画質を確保できるようであれば、しばらくはボディとこの超望遠レンズ1本で身軽に動けますので、それは試そうと思っています。

小川:システムとしての完成度はとても高いと思います。僕はすでにメイン機材としてαを使っているのでテレコンも多用しているのですが、こと現行のテレコンに関しては、一般的なイメージとして持たれている「使うと画質が大きく落ちる」ということは特に感じていなくて、個人的には許容範囲です。フォーカス速度も連写速度もテレコン不使用時と変わらないですしね。瞳AFと併用すると本当に使いやすいので、機会があれば試してほしいです。

機動力に期待の「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」

——プロの撮影シーンにおいてGマスター「FE 600mm F4 GM OSS」の関心が高いのは言うまでもないですが、「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」は、アマチュアの方々の関心も高いレンズと思いますが、使ってみてどうでした?

FE 600mm F4 GM OSS。6月18日より受注を開始。希望小売価格は税別179万5,000円。
FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS。7月26日発売。希望小売価格は税別27万8,000円。

赤木:FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSについては、「これは常用したいな」と感じさせます。インナーズームなのもいい。現場での取り回しという点では、特にカメラマンが密集している状態の撮影エリアで重宝しそうですね。ちょうど6月初頭にあった欧州チャンピオンズリーグ決勝がそんな感じでした。左右すし詰め状態の中でレンズを替えるのは不可能ですから、ワンシーンをズーミングしながら1本で追えるというのはやはり強いですよ。

奥井:僕もボディに着けたときの重量バランスはすごくいいなと思いました。ズームリングの回転角がちょうどよく、それほど回転させずに200〜600mmの焦点域をズームできるのも気に入っています。この軽さは、モータースポーツの撮影で流し撮りをする方には喜ばれるのではないでしょうか。

小川:普段は「FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS」(約1.4kg)を使っているのですが、さすがに200-600mmを使うと少しだけ重く感じました。でもこれくらいの重量なら手持ちでも普通に使えるので、現場で使ったら重宝するんじゃないかと思います。一脚を使えば安定しますしね。

——今回、体験会でα9と組み合わせて実際に撮影されました。操作性や画質はどう思われました?

赤木:200-600mmでズーミングしつつ撮影しても、ほとんどピントを外してない。これはすごいと思います。シャッター速度を速くするため高感度に設定したのですが、ノイズも感じられません。

奥井:ボディ側の歪み補正をOFFにして200-600mmの望遠端で撮ってみたところ、走り高跳びのバーを見ると歪んでない。まっすぐなんですよね。瞳AFの食いつきもいいです。連写してる途中でピントが手前のバーに持っていかれてしまうことがよくあるのですが、そうはならなかった。また、古いレンズだと画面周辺部が流れてたり滲んでたりするんですが、それも無いですよね。気持ち被写界深度が深い気がするのは、周辺まで解像してるからかもしれません。この辺は、新しいレンズなんだなあ、という感じです。

小川:リアルタイムトラッキングと瞳AFを使って、メガネを掛けている競技者を追ってみました。いつもはフォーカスエリアをフレキシブルスポットにして、フレームの中でカメラが被写体を追わないようにしているのですが、今回はせっかくなので、被写体を自動で追う設定で撮っています。被写体が1人というのもありますが、ちゃんと追ってくれているのはさすがです。

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作例:FE 600mm F4 GM OSS

G Masterらしい解像感と素直なボケ味。フルサイズミラーレス専用設計の600mm F4は唯一無二の存在だ。

撮影:井上六郎
α9 / FE 600mm F4 GM OSS / シャッター速度優先AE(1/400秒・F5.6・-0.7EV) / ISO 100
撮影:井上六郎
α9 / FE 600mm F4 GM OSS / マニュアル露出(1/4,000秒・F4.0) / ISO 250

作例:FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS

他のメーカーに無い焦点域を持つ望遠ズームレンズ。取り回しの良いサイズの鏡筒も特徴だ。

撮影:井上六郎
α9 / FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS / 353mm / シャッター速度優先AE(1/1,600秒・F6.3・-0.7EV) / ISO 640
撮影:井上六郎
α9 / FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS / 353mm / シャッター速度優先AE(1/1,000秒・F5.6・-0.7EV) / ISO 320

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奥井:どこまで自動で被写体を追えるのかも重要ですが、瞬時にフォーカスフレームを変える必要もあります。陸上競技だと、例えば選手が横並びで走ってくる中、自分が1位だと思ってた人とは違う人が1位になる。その瞬時にその人へピントを合わせられるか。そういう操作がαと、今回のレンズのように瞬時に可能であるかどうかは、カメラに求める性能として重要なポイントなんです。

小川:確かに、撮ろうと思っている人とは違う人にピントが持っていかれてしまうことは時々ありますよね。

——スポーツのシビアなタイミングについていけるかは状況によると思いますが、ファインダーを覗きながら、液晶画面上で狙った被写体に触れてピントを合わせるタッチフォーカスを使うという手もありますね。

奥井:いずれはAIによってフレーミングからピントの合焦、シャッターを切るタイミングまで、全自動で撮れてしまう時代がくるんでしょうね。違いはカメラマンの立ち位置だけ、みたいな。動画配信も自動でされちゃったりして。そうなると、僕らフリーランスは作家として、全自動とは違うものを撮らなければいけない。意図した通りに撮れる必要があるというのは、そういう考えがあってのことなんです。

単焦点、ズームそれぞれの必要性

——少し視点を変えて、「FE 600mm F4 GM OSS」のデザインや操作性について、何か気になるところはありましたか?

奥井:僕が面白いなと思ったのは、三脚座のクリックストップをON/OFFできるところですね。例えば野球は(縦位置と横位置を切り変えた際に)クリックがないとダメなんです。基本的に三脚に据えて撮りますが、縦位置と横位置を切り替えたとき、構図のセンターにかっちりと決まらないといけない。逆に陸上競技では一脚に据えて、三脚座を緩めておき回して撮ります。この場合、いいところでクリックがきてしまうと困るのです。ON/OFFできるとどちらにも対応できます。

小川:「FE 600mm F4 GM OSS」にもありますが、普段からピントリングの側にあるフォーカスホールドボタンに瞳AFのON/OFFを割り当てています。ピントを調整しながら瞳AFのON/OFFが切り替えられるので便利です。

奥井:瞳AFを使わないのって、どういうとき?

小川:瞳AFだけだと、フォーカスがほぼオートになってしまうので、自分のフォーカスポイントに関係なく、いろんな顔にピントが合ってしまうんですよね。それこそ、観客席のお客さんとか。なのでとっさに切り替えられるようにしているんです。

——みなさん(他社製を含めて)100-400mm F4.5-5.6と400mm F2.8をお持ちですよね。今回試していただいた「FE 600mm F4 GM OSS」と「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」もそうですが、望遠端が同じ焦点距離で開放F値が違うレンズの意義を教えてください。

奥井:僕はボケ感を目当てに使い分けます。陸上競技の撮影は、いつでも理想的なポジションにいられるわけではないので、400mmでちょうどよいポジションのときはボケのきれいな400mm F2.8を使って、そうでないときは100-400mm を選びます。自分が良いポジションに移動できることを状況が許すのならば、間違いなく400mm F2.8を使いますよ。「FE 600mm F4 GM OSS」と「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」でも“絵を優先した単焦点”と、“汎用性の高いズーム”という組み合わせは同じですから、ほぼ同じ使い方はできると思いますよ。

——レンズに求める画質のうち、一番重視しているところはありますか?

奥井:まず、今回のようにピントが速く正確にくることが大事ですよね。特にスポーツの場合、必ずしも解像力がすべてではありませんし。もちろん逆光に強いことも重要です。スポーツでは逆光のシーンも結構ありますから。

小川:ワイドレンズであれば解像感も重要ですが、今回試したような望遠のレンズであれば、意図したところにピントが来てくれれば特に文句はないですね。あとは丈夫なこと。大切な機材ですが、どうしても雑に扱わざるを得ない場面も出てきます。

——速い被写体を撮る際に言及されるのは光学ファインダーの優位性ですが、EVFとOVFの現状についての見解をお聞かせください。

奥井:僕はずっと一眼レフで育った身なので、正直に言えば、見え方とタイムラグという点で、EVFはまだOVFに及ばない面があると思います。露出に関しては、調整した設定がEVFに反映して、そのまま撮影できるので、それはすごく良いです。

——連写性能についてはいかがでしょう。

奥井:速い方が当たる確率は高いですよね。サッカーや陸上はまだ遅いほうで、フィギュアスケートをはじめ、バドミントンとか卓球、野球でも、ボールがバットにミートする瞬間は、60fpsで動画を回しているときでさえしっかりと映っていないときがあります。そこを写すのは、カメラの性能だけでは足りなくて、やっぱり技術が必要だと思います。選手の表情もそうで、例えばずっとすごく苦しそうな表情の選手がいれば、ほとんど目をつぶったような顔で走っている選手もいる。そういう人を撮るときは、αのような高速連写の性能がある方がいいですよね。

——瞬間を追い求める一方で、作品性を追求する方向性もありますよね。

奥井:(αシリーズは)自由にフレーミングのできるカメラなので、みんなが思っているよりも、もっといろんな絵作りはできると思いますね。

——最後に、ハイアマチュアの方に向けて、メッセージをいただければと思います。

赤木:カメラ人生の半分以上をフィルムで過ごしてきたので、感度や光源はかなり気にして育ったんですが、そのへんは機材の進歩をとても感じます。レンズの口径、F値の概念が変わってきていますね。今回試した中では「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」が特に気に入りました。ハイアマチュアの方が使うレンズとしても最適だと思います。この2年間、αの進歩にはめざましいものがあります。ボディのファームウェアアップグレードについても、皆さんがフィードバックしている内容がすぐに反映されているようで、正直驚いています。

奥井:使って見て感じたのは、昔よりもずっと、自分なりの目線で撮った写真を撮る必要性でした。今はある程度機材を揃えてしまえば、少しのコツでかなりしっかりしたものが撮れてしまう。プロもアマチュアも、今回の撮影会のようなレベルの写真が「撮れて当たり前」の時代にいるんです。自分なりの視点で見たことのないような写真を撮ることを意識してみると、もっと面白い作品になるのではないでしょうか。

小川:仕事柄、同じ会場でアマチュアの方が撮影している様子を見かけることが多いのですが、多くの方は、一度陣取った場所から動かずに、来るものを単に記録するかのように撮っている。それでは同じようなものしか撮れないですよね。せっかくですから、どこまで撮れるものの幅を拡げられるか挑戦してみると良いんじゃないかと思います。新たな視点が得られて、写真がもっと楽しくなるのではないでしょうか。

制作協力:ソニーマーケティング株式会社
状況・人物撮影:井上六郎

デジカメ Watch編集部