新製品レビュー

SONY α7 III(実写編)

画質も良好!充実スペックの“ベーシックモデル”

35mmフルサイズセンサーを搭載したソニーα7シリーズの最新モデル。上位モデルから画素数を少なくするなどして買いやすい価格の“スタンダードモデル”となっている。機能の詳細は下記のリンクを参照されたい。(編集部)

瞳AF

第3世代となったα7シリーズおよびα9で、特徴的な機能がAF-Cでも有効となった「瞳AF」機能。被写界深度の浅い大口径レンズや望遠レンズでも人物の瞳を的確に捕捉しつづけてくれるという、実に使える機能である。

その実力は先行するα9やα7R IIIですでに実証されており、前回の「新製品レビュー SONY α7 III(外観・機能編)」では液晶モニター上での動作状況を動画でお伝えした。今回は実際の撮影でも「α7 IIIは本当に瞳にピントを合わせつづけてくれるのか?」を確認した次第。

結果は、人物が写真の中央付近にいるときはもちろん(これは合焦して当然だろう)……

α7 III / FE 70-200mm F4 G OSS / 1/125秒 / F4 / 0EV / ISO 400 / マニュアル露出 / 200mm

人物が動いて画面周辺部に移動しても……

α7 III / FE 70-200mm F4 G OSS / 1/80秒 / F4 / +1EV / ISO 400 / 絞り優先AE / 200mm

ふいに横を向いたとしても(しかも瞳の位置は画面のかなり上方である)……

α7 III / FE 70-200mm F4 G OSS / 1/100秒 / F4 / +1EV / ISO 400 / 絞り優先AE / 200mm

途中でうつむいてしまっても……

α7 III / FE 70-200mm F4 G OSS / 1/80秒 / F4 / +1EV / ISO 400 / 絞り優先AE / 200mm

全てのシーンで素早く瞳を追いつづけ的確に合焦していることが確認できた。作例では横移動をしているだけのように見えるが、実際には前後にも撮影距離は変化しており、そちらもあわせてピントを合わせているのだから本当にすごい。

α7 IIに搭載されていたAF-Sのみに対応した瞳AFとは、利便性も、検出能力も、その性能差は圧倒的に異なる。これらは刷新された画像処理システムと、広範囲・高密度に配置されたAFセンサーによるもの。α9やα7R IIIで話題となった瞳AFは、無事α7 IIIにも引き継がれているというわけだ。

手ブレ補正

α7 II登場時の目玉の1つとなっていたのが5軸ボディ内手ブレ補正機構の搭載であったが、この機能はα7 IIIでも健在。α7 IIでは最高約4.5段分の手ブレ補正効果であったが、α7 IIIは最高約5.0段分に進化した。

下の作例は焦点距離200mmで撮影しているが、一般的に言われる「焦点距離分の1秒」(35mmフルサイズの場合)の手持ちシャッター速度限界を大きく超えた1/13秒でもブレることなく撮れているのだから、α7 IIIのボディ内手ブレ補正効果はホンモノである。

α7 III / FE 70-200mm F4 G OSS / 1/13秒 / F5.6 / 0EV / ISO 100 / 絞り優先AE / 200mm

望遠レンズでの撮影としてはかなりの低速シャッターとなったため、さすがに息を殺しての慎重な撮影となったが、この場合でもピント合わせの方は前述の瞳AFに安心して任せることができるため、手ブレへの対応に集中できるたこともα7 IIIの優れどころだと感じた。

連写

さて、α7 IIIの大きな特長のまた1つが最高約10コマ/秒に大きく引き上げられた高速連写機能である。前モデルのα7 IIは最高約5コマ/秒だったので、「このカメラは連写性能を期待するカメラではないな」というのがα7 IIのユーザーでもある筆者の正直な感想だった。

しかし、α7 IIIは約10コマ/秒! 同じく第3世代にあたるα9の約20コマ/秒には叶わないし、高画素機ながら約10コマ/秒で撮れるα7R IIIと数値としては同じであるが、それでも「約10コマ/秒」といえば、これはもう立派な高速連写機といって差し支えない。

実際にα7 IIIのドライブモードを約10コマ/秒(連続撮影:H+)に設定して撮影したのが以下の作例。

連写した中の1枚。α7 III / FE 70-200mm F4 G OSS、1.4X テレコンバーター / 1/2,000秒 / F8 / 0EV / ISO 400 / Manual / 363mm

手前に向かってくる新幹線を連写したものであるが、いずれの写真でも正確にピントが合い、短い間隔での連続撮影によって後からベストショットを選びやすくなっていることがわかっていただけると思う。

連写速度だけでなく、進化したAF性能との合わせ技と言ってよいだろう。速く優れた追従性能と、ベーシックを超えた連写性能は、間違いなくα7 IIIの持ち味となっている。

解像力

画素数自体は前モデルα7 IIと大きな違いはないのであるが、α7 IIIに搭載された撮像センサーは、α7 IIと違い、ソニーお得意の裏面照射型CMOSセンサーである。

集光効率に優れた裏面照射型センサーに加え、画像処理性能が格段に高くなったおかげで、画素数に大差はなくとも「おっ!」と思えるほどの画質向上がα7 IIIにはある。

α7 III / FE 24-105mm F4 G OSS / 1/250秒 / F8 / -0.3EV / ISO 100 / 絞り優先AE / 56mm

ここまでの作例で、モデルの肌や新幹線のハイライトが絶妙な粘りを見せてくれていることに気づいている方もいるだろう。α7 IIIはダイナミックレンジが広く、暗部から明部までの階調表現が非常に豊かである。

加えて、人物撮影における肌の色や、風景の鮮やかな色などを自然な印象で描写してくれる。

解像感も明らかに高くなっており、2,400万画素クラスの描写能力として現状これ以上ないと言っていいほどの高画質を実現している。

高感度

常用ISO感度の上限は、α7 IIのISO25600より1段、α7R IIIのISO32000より0.6段広い、ISO51200となっている。下の写真を見てみればISO12800でも余裕で実用範囲内であることが十分に理解してもらえることと思う。

α7 III / FE 24-105mm F4 G OSS / 1/125秒 / F5.6 / -0.7EV / ISO 12800 / 絞り優先AE / 38mm

画素ピッチがα7R IIIより広い分、高感度性能に対して有利と言うこともあるだろうが、何よりもやはり画像処理能力の進化がモノを言っているに違いない。

チルト液晶モニター

α7 IIIは他のα7シリーズおよびα9と同じく3型チルト可動式の液晶モニターを備えている。と言うことで、液晶モニターを引き出し、地面に着けるくらいのローアングルで撮影したのが下の写真だ。

α7 III / FE 24-105mm F4 G OSS / 1/1,600秒 / F4 / +0.3EV / ISO 100 / 絞り優先AE / 36mm

タッチパネルにも対応してくれたことで、α7 IIよりも断然ロー/ハイアングルでの撮影がしやすくなった。光軸線上に位置することで横位置での撮影がしやすいのが上下チルト式の利点であるが、バリアングル式とどちらが良いかは好みの分かれるところ。

ただ、ここまで高性能なカメラになると、α99 IIやα77 IIのような3軸チルト液晶モニターが欲しいと思ってしまうのはわがままと言うものだろうか?

液晶モニターは、123万ドットのα7 IIに比べ92万ドットと低下しているが、懸念する程、実際の使用に対して違いを感じることはなかった。現代のデジタルカメラとしては十分な表示品質を備えていると言って良い。

ただし、144万ドットのα7R IIIやα9の液晶モニターに比べると精細感に不満を感じるのは仕方のないところ。ここはそのまま価格差、つまりは、プロ用途との差別化なのだろうかと想像したくなる。

動画

4K動画機能も試してみた。画素加算のない全画素読み出しにより、必要な画素数の約2.4倍の情報量を凝縮して4K映像を出力しているというだけに、非常に高い動画画質である。

まとめ

上記で述べたこと以外に、試用させてもらって特に感じたことは、電源ONからの起動やAF、その他さまざまな操作上の挙動が非常にスムーズであるということだった。

これまで「小さな(でもフルサイズセンサーの)ミラーレスカメラ」だから、半ば仕方がないと思っていた甘えが見事に解消されている。もはやミラーレスカメラはカメラの本流になろうとしている。そう思わせたのが本機α7 IIIだ。

事実上の上位機種である、α7R IIIやα9に比べると、画素数や連写性能などで歴然とした差があるのは確か。しかしながら、プロを含め多くの人にとっては、有効約2,420万画素で必要なスペックをそなえたα7 IIIは、十分、いや、それ以上のモデルとなっているのではないだろうか。

画素数や連写性能、堅牢性、バッテリーチャージャーやシンクロターミナルの有無など、細かく見れば差はあるものの、一般的で現実的な撮影においてはほとんど問題にならないことばかりなのは、今回の実写でもハッキリと実感した。

“α”のカメラはミノルタ時代の頃から、中級機で革新性を提示し、上級機でプロ機の資質を確立するのが通例であり、それはソニーになっても変わらなかった。

ところが、α7シリーズ第3世代になって初めてその前提が崩れ、上級機で培った技術を中級機に取り入れるという工程に変わったのである。

ソニーがα7 IIIを高らかに“ベーシックモデル”と位置付けた理由はここにあるのかもしれない。間違いなく、誰が使っても安心して撮影できる、フルサイズミラーレスカメラの基礎が確立されたのである。

モデル:いのうえのぞみ

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。