新製品レビュー

EOS Kiss M(外観・機能編)

あの“Kiss”に初のミラーレスが登場

EOS Kiss M。これは歴史の転換期だ。あの“EOS Kiss”がついにミラーレスカメラになったのだから。

EOS Kissシリーズといえば言わずと知れたキヤノンのファミリーカメラの代表モデル。フィルム時代から小型軽量でかんたんに使える“一眼レフ”カメラとして絶大な人気があり、キヤノンカメラの中でもトップの販売台数を誇るロングセラーシリーズだ。

その売れ線モデルが誕生25周年目にして“ミラーレス化”したとなればミラーレスカメラに対するキヤノンの本気度をうかがい知ることができるだろう。

ライバル

本機のライバルといえば、ニコンD3400やD5600、FUJIFILM X-A5やX-T20、OLYMPUS PEN E-PL9やOM-D E-M10 Mark IIIなど小型軽量な機種がそうだと言えるが、あえて一番のライバルを挙げるならばキヤノンEOS Kiss X90やEOS Kiss X9など同社エントリー一眼レフカメラではないだろうか。

ボディデザイン

ボディデザインはEOS M5と瓜二つ。ダイヤルの位置や数に違いこそあれ、遠目にはかなり似て見えるだろう。390gという圧倒的な軽量さゆえに握ったときの収まりは悪くない。ただし手の大きめな男性では小指が少し余るかもしれない。

外装の質感はプラスチック感がやや強くお世辞にも上級機のような堅牢ボディには見えないが、クラスを考えるとちょうど良い仕上がりと言えるだろう。

操作部

電源レバーやモードダイヤルなどメインの操作系統はシャッターボタン周りに集められている。ほとんどのカメラ操作を右手で行えるのでストレスのない快適な撮影が楽しめそうだ。

よく使う撮影設定項目をファンクション登録できるマルチファンクションボタンもシャッターボタンの左後ろに配置され使い勝手が良い。

シャッターボタンの周りに配置された電子ダイヤルはローレット加工が施され、軽いタッチでの回転が小気味よい。また傾斜の付いたシャッターボタン面に合わせてダイヤルも斜めにカットされており指ざわりが良い。

シャッターボタンのストロークは深めで、シャッターの切れる感覚はやや分かりにくい印象だった。

背面のボタン類も上面と同じくすべて右側に配置されている。よって左側にボタンはひとつもなくスッキリとしており、全体的に操作系統はわかりやすい。

なお、EOS M5やM6で採用されているコントローラーホイール(十字ボタンの外周部分が回る電子ダイヤル)は採用されていない。

撮像素子と画像処理関連

センサーにはAPS-Cサイズ約2,410万画素CMOSセンサーを搭載。A3サイズなどの大判プリントも余裕を持ってプリントできる高画素で、日常使いを主とするKissシリーズとしては十分すぎるほどの高画質だ。

映像エンジンには新開発のDIGIC 8を採用。高感度やスチル、ムービーの画像処理、像面位相差AFの動作など非常に多くの処理を高速で高精度にこなす。

EOS Kiss Mでは、新しいRAWデータフォーマット「CR3」を導入。従来のCR2のRAWデータよりもデータ処理スピードが高速化されている。

また「C-RAW」モードが追加され最大画素数(6,000×4,000ピクセル)はそのままに、データ量を大幅に抑えることができるようになった。

ただし通常のRAW(CR3)と比べると若干画質が低下するようだ。その比較は後日掲載する「実写編」にて検証したい。

なお32GBのSDカードを入れると通常のRAWで撮影枚数は828枚、C-RAWでは1,224枚と約1.5倍の撮影枚数に増加した。

AF

AFはミラーレス化されたことで、背面モニター撮影時もファインダー撮影時でも像面位相差AFとなった。

像面位相差AFには2,410万画素すべての画素がそれぞれ独立した2つのフォトダイオードからなる、キヤノン独自のデュアルピクセルCMOS AFを採用。暗い場所や動きの速い被写体など、ミラーレスカメラに難しいとされてきたシーンでも快適なAF撮影を可能としている。

また、新映像エンジンDIGIC 8の採用により、センサー面の横方向に約88%、縦方向に約100%の最大143点の非常に広いAFエリアを実現している。なおEOS M5は49点であり、その進化具合がよくわかるだろう。

連写性能

高速連写は1枚目のAF位置で固定されるワンショットAFで最高約10コマ/秒、ピントを被写体に合わせ続けるサーボAFで最高約7.4コマ/秒と非常に速い。

EOS M5との比較ではそれぞれ約9コマ/秒と約7コマ/秒ということで微増。またEOS Kiss X9は約5コマ/秒と約3.5コマ/秒であり、実に2倍の連写速度となっている。

手ブレ補正

手ブレ補正も進化し「デュアルセンシングIS」を初めて採用した。

ジャイロセンサーによる従来の検出方法に加え、CMOSセンサーの画像情報からもブレを検出し、より高精度に手ブレ補正を抑える。細かな微振動から、揺らぐような大きめの振動まで対応する。

常時ライブビューとなるミラーレスカメラであることを最大限活用したシステムと言えるだろう。

なお、デュアルセンシングIS対応レンズはEF-M15-45mm F3.5-6.3 IS STM、EF-M18-150mm F3.5-6.3 IS STM、EF-M55-200mm F4.5-6.3 IS STMで、いずれもファームアップが必要。

ファインダー

ファインダーはミラーレスカメラになったことで当たり前だがEVF(電子ビューファインダー)となった。0.39型と236万ドットの高精細パネルを使用しコントラストも高く見えは良い。

ライブビューでのピント位置拡大機能やフォーカスピーキング、露出やホワイトバランスの反映による撮影前の仕上がり確認などEVFによるメリットは計り知れない。

またライブビュー画面上に撮影情報を載せず一眼レフカメラのように表示するEVF縮小表示など、さまざまな撮影スタイルへの対応も抜かりない。

液晶モニター

背面画像モニターにはバリアングルタイプを採用。EOS Mシリーズはチルト式を採用しているのに対し、一眼レフカメラのKissシリーズと同じバリアングル式であることからもやはり本機は「Kiss」なのだと感じられる。

タッチパネルによるタッチAF、タッチシャッターにも対応。小型軽量のカメラゆえに右手だけでカメラを保持し、左手のタッチでシャッターを切る撮影も向いている。

動画

EOS Kiss、EOS Mシリーズとしては初めてとなる4K動画(24p/25p)に対応し、高精細な動画も楽しめる。ただし4K撮影ではセンサー中央のドットバイドットのクロップ撮影で、AFはコントラストAFとなる。

フルHDのときは60pの滑らかな動画が撮影可能。フルHDではAFもデュアルピクセルCMOS AFによるサーボAFが使用でき、捕捉した被写体をスムーズで高精度にピントを合わせ続けてくれる。ピント位置の移動は速すぎず遅すぎず、動画中のAFとして極めてスムーズで心地よい。

初代EOS MのAFからすると……本当に夢のような性能の向上っぷりになぜだか涙がこぼれそうになるほど。HDでは120pの本格的なスロー動画も撮影できる。

通信機能

通信機能はBluetoothが追加された。スマートフォンなどとの常時接続も可能で、スマホでのリモコン機能も接続が極めて早くストレスがない。

Wi-Fiを利用した「撮影時スマホ自動送信」も新しく搭載され、撮影した画像をスマホに常時送り続けてくれるのもSNSユーザーには非常にうれしい機能。

また自動画像送信アプリ「Image Transfer Utility 2」にも対応。カメラをPCに近づければ自動で撮影データのPCへの保存、クラウドへのバックアップが行われる便利な機能だ。

端子類

端子はボディ右側面にUSBとHDMI、左側面に外部マイク入力端子がある。Bluetoothでスマートフォンをリモコンにする機能が採用されているからか、リモートスイッチ用のリモコン端子は省略されている。

記録メディアスロット

記録メディアはSDカード×1枚で、ボディ底面のバッテリーボックス内に差し込むタイプ。SDHC、SDXCに対応している。なお、UHS-IIには対応していない。

バッテリー

使用バッテリーはKissシリーズやMシリーズの中でも小型機(EOS Kiss X7、EOS M100など)用の小さなタイプであるLP-E12を使用。やや大きいタイプのLP-E17を使用するEOS M5の撮影可能枚数約295枚に対し、本機は約235枚とやや少ない。

また、LP-E17を使用し、一眼レフタイプのEOS Kiss X9は約2.8倍の約650枚撮影できる。同じ感覚で撮影してしまうとバッテリー切れになってしまう可能性があるため、交換バッテリーは用意しておきたいところだ。

まとめ

EOS Kiss Mは間違いなく「次世代EOS Kiss」だ。25年の歴史を持つこれまでのEOS Kissシリーズで培われた大衆性と、EOS Mシリーズで培われたミラーレス技術とダウンサイジング。

この“いいとこどり”で生まれたのが本機だ。圧倒的な先進技術であるデュアルピクセルCMOS AFはミラーレスカメラでこそ本領を発揮する。伝統ある「Kiss」の名を冠したEOS Kiss M。ここから新しい時代が始まる気がした。

次回の実写編では描写力や使用感を詳しく見ていきたい。

今浦友喜

1986年埼玉県生まれ。風景写真家。雑誌『風景写真』の編集を経てフリーランスになる。日本各地の自然風景、生き物の姿を精力的に撮影。雑誌への執筆や写真講師として活動している。