特別企画
人気の写真ジャンル “旅客機×野鳥” 写真家対談!
井上浩輝さん・中村利和さんが「α7 III」で撮りおろし作品を語る!!
2020年9月30日 12:00
8月21日に公開した「人気の写真ジャンル “星景×鉄道” 写真家対談!」は、星景写真家の北山輝泰さんと、鉄道写真家の山下大祐さんがフルサイズミラーレスカメラ「α7 III」で撮りおろしを披露し、それぞれ作品を解説をするという企画でした。
その続編となる今回は、井上浩輝さんと中村利和さんにご参加いただき、旅客機撮影・野鳥撮影について語ってもらいます。
井上浩輝
1979年、北海道札幌市生まれ。キタキツネを中心に、動物がいる美しい風景を追いかけるようになり、2016年に米誌「National Geographic」の『TRAVEL PHOTOGRAPHER OF THE YEAR 2016』ネイチャー部門において、日本人初の1位を獲得。精力的に北海道の自然風景や生き物たちを撮影している。航空会社AIRDOとも提携関係があり、同社の航空写真も担当する。
中村利和
神奈川県生まれ。日本大学芸術学部写真学科を卒業後、アシスタントを経てフリーランスのフォトグラファーとして活動。高校生の頃、友人の影響で野鳥の観察を始めて以来、身近な野鳥を中心にその自然な表情、仕草を記録している。「光」にこだわり、鳥たちの暮らす環境、その空気感を大切に撮影を続けている。2017年、初めての写真集「BIRD CALL」出版。日本野鳥の会、日本自然科学写真協会(SSP)会員。
旅客機・野鳥、それぞれに必要な性能とは?
——井上さんは北海道の野生動物の作品で知られていますが、旅客機も撮るのですか?
井上:もともとカメラを買ったきっかけが飛行機を撮ることだったのです。その後、野生動物を撮るようになりましたが、今でもAIRDOの広告や広報などの写真などを撮影しています。
——中村さんはいつくらいから野鳥を撮影されているのでしょう。
中村:野鳥は高校生の頃から好きで、写真は雑誌の「BIRDER」などに掲載いただいています。野鳥の写真の他にはファッションなど様々な仕事もしています。
——αを使い始めたきっかけを教えてください。
井上:実は初めてのレンズ交換式カメラがソニーのミラーレスカメラ「NEX-5」でした。最初のフルサイズαは「α7R II」です。今回使用した「α7 III」は、僕の事務所で購入してアシスタントの方に使ってもらっています。もちろん仕事で使うこともあります。
中村:僕は最近αを使い始めました。2018年に野鳥の会さんから紹介をいただいて、「α9」「FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS」「1.4Xテレコンバーター」をお借りすることになりました。その時の使用感がすごく良かったので、2019年春に「α9」を導入。さらに「FE 600mm F4 GM OSS」が出た時点で思い切ってフルサイズ機の機材をソニーにすべて切り替えました。普段は「α9」を使っているので、「α7 III」で撮影するのは今回が初めてです。
——旅客機・野鳥それぞれで、お二人がカメラに重視するスペックはなんでしょう。
井上:まず重要なのはAFの正確さと速さ、写りの良さですね。撮影機材選びで大切なのは、いかにAFと画質をバランスよく両立しているかだと思います。その上で連写も重要です。
中村:素早く動いている野鳥の場合、動く速度に合わせてくれるAFの追随性能、つまり正確さでしょうか。止まってる野鳥の場合は逆光でもAFが合うこと。個人的に好きなシーンなので、逆光でよく撮るのです。あとはファインダーの見易さですね。画素数は2,400万あれば雑誌の見開きに対応できるので私の仕事では十分です。
——お使いのレンズは?
井上:旅客機を撮る時は「FE 600mm F4 GM OSS」「FE 400mm F2.8 GM OSS」がメインです。「FE 70-200mm F2.8 GM OSS」もよく使います。
中村:手持ち撮影やロケハンで使うのが「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」、三脚を使う時は「FE 600mm F4 GM OSS」。野鳥の撮影では、この2本を使います。「FE 600mm F4 GM OSS」には「1.4Xテレコンバーター」を装着して焦点距離をさらに詰める時もあります。
井上浩輝さんの作品
——では、二人に撮影いただいた作品を観ていきましょう。まずは井上さんの作品からです。
——向かってくるボーイング787ですね。どこの空港ですか?
井上:新千歳空港です。拡張フレキシブルスポットAFをコクピットの窓に合わせて追随させました。さらに約10コマ/秒の連写も使用しています。連写が速いと機体下部の衝突防止灯を写し止めやすいですね。ボーイング787はLEDなので点滅ではなく、1秒近く点灯しているのですが、AF性能と連写性能のおかげで一番発光の良いタイミングを切り取ることが出来ました。
——白い機体カラーで白飛びが発生しそうなシチュエーションですが、露出設定はどうしているのですか?
井上:薄曇りでしたが機体には比較的強い光が当たっていました。おっしゃる通り白飛びする恐れがあったので、測光モードの中でハイライト重点測光を選んで使っています。それでも機体背面も過度に暗くなることなく、影になっているエンジンのファンブレードも描けていますね。フルサイズだけにダイナミックレンジが広く、光と影のグラデーションも豊かです。
——きれいな流し撮りです。拡大するとリベット(機体にみられる金属同士を留める部品)もブレずに写っているのがわかりました。
井上:日没時刻間際の薄暗くなってきた時間です。「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」の光学式手ブレ補正MODE3をONにして撮影しました。レンズが軽くてボディとのバランスが良く、流し撮りがやりやすかったですね。機体前方にあるL1ドアの周りにボーディングブリッジのゴムの跡が残っているのがわかります。コクピットの周りのリベット痕も見えていたり、そんな生生しい姿も収められるので、解像力は十分だと思います。
——普段、旅客機は単焦点レンズで撮影されていますよね。ズームレンズの「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」を使ってみてどうでした?
この撮影の時、手前にも滑走路があったのです。そこを通る旅客機を撮る場合、600mmでは画角が狭すぎる。そこで瞬時に画角を変えられるズームの便利さを感じました。指先で操作ができるズームリングの操作感も軽快でとても良かったです。全長が変わらないのも気に入りました。
——普段から「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」をお使いの中村さんは、操作感をどう感じられていますか?
中村:実は僕はズームリングをほとんど使わないんです。野鳥の場合、旅客機よりも被写体が小さくて遠いので、ほぼ600mmのテレ端オンリーですね(笑)。ただ、やはり600mmクラスの単焦点レンズより軽く、取りまわしがしやすい「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」は、ロケハンか手持ち用のレンズという位置付けで活用しています。
——旅客機と風景。地方空港ならではの作品ですね。どこで撮影されたのですか?
井上:そうですね、この近さで撮影できるのは地方空港ならではでして、ここは旭川空港です。
——旅客機の撮影でも、こういう穏やかなシーンなら連写は必要ないですか?
井上:いえ、思いっきり使ってます。バシッと真横で撮りたい場合、左右のエンジンやメインギアのタイヤがきっちり揃うタイミングで撮りたくなるものです。そうすると成功率を増やせる連写が重要になります。近くにいる機体は同じ速度でタキシング(地上移動)しても、遠くをタキシングする機体よりも大きく移動するので見え方がどんどん変わっていきますから。
——なるほど。このときAFが手前の花に合ったりしました?
井上:胴体横に大きく描かれたAIRDOのロゴをつかんでいたのでしょう。しっかり機体に合い続けてくれました。
——夜の空港ですね。これまで明るい順光の作品でしたが、暗いシーンや雨でも旅客機を撮るのですか?
井上:航空会社が広告に使いたいと思われるのは、晴れやかな空の下の機体の写真です。もっとも、“雪に強い!”みたいに、航空会社の特殊な企画の場合や個人的な撮影の場合、雨や雪の中でも撮影しますね。それもかっこいいですから。水や雪は気にせず撮っていますが、それが原因でαが壊れたことはありません。北海道にいるので高温多湿の影響だけはわからないのですが……
——感度はISO 6400ですか。高感度ノイズが少なくて驚きました。
井上:「α7 III」は高感度ノイズ耐性がかなり高い機種だと思います。それに、この暗さでもAFが機体に合い続けてくれました。価格と画質、AFのバランスがとても良いカメラだと思います。
——離陸して雲間に向かう機体がかっこよく決まってます。AIRDOの機体カラーがきれいに再現されていますね。
井上:機体カラーは航空会社や機体のアイデンティティでもあるので、正確に再現したいものです。「α7 III」に限らず、最近のαは色再現性が良いですね。ホワイトバランスを太陽光にしていますが、以前は色味に若干不満でした。でもモデル毎にアップデートを重ねるうちにすごく良くなっています。
——中村さんはホワイトバランスの設定をどうしていますか?
中村:朝夕で赤みを強調したいときは太陽光、昼間はオートです。それでほとんどのシーンをカバーしています。
井上:この作品は「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」の解像感がよく出た1枚だと思います。AFもしっかり追いかけてくれました。これもハイライト重点測光でさらに露出補正でマイナスにしています。
——マニュアル露出ですよね? 露出補正もできるのですか?
井上:マニュアル露出であっても、ISOオートにするとマイナス補正のダイヤルが使えるようになります。これにハイライト重点測光を併用すると、経験上白とびがない写真になりますので良く使っています。
中村利和さんの作品
——それではお待たせしました。中村さんに作品を解説いただきます。
——水しぶきを上げた瞬間ですが、拡大すると目にもしっかりとピントが合っていますね。
中村:富士山麓の水場で水浴びをしているヤマガラです。岩の黒バックに水しぶきが映えるよう撮影してみました。
——どのくらいの大きさの被写体なのでしょうか。
中村:スズメと同じくらいですね。撮影用のブラインド(テント)に入って目立たないようにして撮っています。
井上:かわいいですね。ヤマガラは。チーチーと鳴いてきますよね。
中村:ひとなつっこいですよね。
——ISO 2000の割に高感度ノイズが少なくて驚きました。明るいところの描写もすごいです。
中村:個人的にはISO 3200も許容範囲だと思います。ISO 6400になるとこれまでの経験上迷いますが、それでなければ撮れない場合は上げます。といっても以前のデジタルカメラに比べると夢のようなカメラです。羽の描写も十分ですし、色再現も問題ありません。野鳥の場合、色がしっかり再現されるとうれしいですね。
——並んで飛んだところをきれいに撮影されています。結構速そうですが……
中村:九十九里の海岸でシギチドリの仲間、8羽のオバシギが群れでいました。観察していますとサーファーが近づくとこちらに飛んでくる。その8羽のうち6羽をフレームに捉えた作品です。奥から飛んでくるのを狙って連写しています。追随性能が弱いカメラだと奥から手前に飛んでくるものにAFを合わせ続けるのが難しいのですが、「α7 III」はしっかりと追いかけてくれます。
——「α7 III」のAFは高速で動く被写体に対応できるのでしょうか。
中村:この撮影の前、普段使っている「α9」と比べて、「α7 III」のAFはどうなのだろうと思っていました。結果、ぴっちり追随してくれたし、今回の撮影においては遜色ありませんでした。よく見ると6羽のうちの手前側の3羽にしっかりピントが合っています。今まで使っていたカメラだとキラキラ光る波頭の方にピントがいくことがあったのですが、ちゃんと被写体を捉えてくれました。
——「FE 600mm F4 GM OSS」に1.4倍のテレコンバーターですね。この被写体も小さいのですか?
中村:鳩より少し小さいくらいです。海辺での撮影なので、もっと小さく感じると思いますが、高い追随性能とAF速度で捉えることができました。
——雲をバックに何ともダイナミックな構図ですね。翼を上げた姿も美しいです。
中村:撮影中、「ここを飛ばないかなあ」とたまに見上げていたら、ちょうどダイサギが飛んできてくれました。相手が野鳥ですのでこういう風に思ったところに飛んでくれないものですが、このときは良い構図になってくれました。連写で良い瞬間が撮れたのもあります。
井上:ダイサギの首がくいっと曲がっているのがいいですね。羽の下のシャドウも潰れてないし、やはりダイナミックレンジが広いですね。
——AF設定はどうされているのでしょうか。
中村:フレキシブルスポットAFとワイドの切り替えをレンズのボタンに割り当てています。目当ての野鳥を撮っている時、急に他の鳥が飛んでくる場合がありますが、そんなときすぐにワイドに変えて撮影するのです。
——逆光ですね。羽が透けてきれいです。
中村:僕は逆光が大好きで、逆光側に回り込む癖があります(笑)。逆光なので黒い顔が影になっていますが、ちゃんと細部が描写されていました。
——こういう瞬間は予想して撮るものなのでしょうか。
羽繕いをしたら伸びをする、と予想してそのタイミングを捉えています。野鳥を注意深く観ていると「水浴びをした後は羽ばたいて飛び立つ」など、なんとなく次の動作がわかります。それを見逃さないようにしていますね。
——緑が印象的で優しい雰囲気の作品です。かなり低いアングルでは?
中村:休耕田にいたオオハシシギです。カメラを地面すれすれにまで下げて、チルト式液晶モニターを見ながら撮影しました。上から撮ると白い水面が目立つだけになったと思います。
井上:このシギ、いいところにいたなあ。横の草が最高にいいなあ。
中村:そうなんですよ。休耕田でしたが、ここだけ草が植わっていたのです。そこの脇で休んでいたのですね。
——野鳥を撮る時、どの程度背景を意識するのですか?
中村:とても気にします。良い背景・良い光に出会ったら、極端にいうと鳥の種類はなんでもいいので何か来てほしい、何来てもいいという感じですね(笑)野鳥ももちろん重要ですが、その場の雰囲気も重視しています。
「α7 III」ってどう?
——というわけで、「α7 III」で撮影されたお二人の作品を見せていただきました。フルサイズミラーレスαの数あるラインアップの中、ベーシックモデルともいえる「α7 III」ですが、使ってみていかがでしたか?
井上:とにかく価格との関係で見てもAFと画質がバランスが取れている。高い次元でまとまっている印象です。ベーシックモデルといってもハイレベルなレンズ、例えば「FE 600mm F4 GM OSS」「FE 400mm F2.8 GM OSS」の描写性能も生かしてくれるので、長く幅広く使えると思います。初めてのフルサイズミラーレスカメラとして良いのではないでしょうか。
中村:普段「α9」を使ってるので、使う前はどうなのかな? という印象でした。結局、遜色なく使えました。撮影にあたって特に苦労はしていません。「α9」も画素数は同じですし、連写も「α9」では約20コマ/秒を使うことは少なく、基本は約10コマ/秒にしています。AFに関しても、今回はそれほど速く飛ぶ鳥を撮っていないこともあり、まったく問題ない印象でした。
井上:レンズも豊富で、システム全体で小さく軽量にまとまるので、いろんな撮影地に持っていける。オールマイティなフルサイズミラーレスカメラだと思います。
αシリーズに期待すること
——お二人がαシリーズに今後期待することは?
井上:秒30コマを超えるような自由な連写性能が欲しいですね。それとAFにAIを入れてほしい、みんなが撮っているものを学習・フィードバックする仕組みがあるとすごいと思います。最終的にはピントを合わせるのに労力を使わないようなカメラが理想なのではないでしょうか。我々の仕事がピンチになるかもしれませんが……あと、長時間露光をシミュレートして表示する機能がほしいですね。
中村;過去に戻ってシャッターが切れる、全押しから0.5秒前から取り出せるといった機能があればと思います。レンズのラインナップとしては、300mm F2.8や500mm F4 をみてみたいですね。これだけ高感度撮影での画質がよくなったいま、開放F値がF5.6のような超望遠レンズがあっても良いかもしれません。
提供:ソニーマーケティング株式会社