ソニー フルサイズミラーレスα7 IIIの実力をジャンル別に検証

【スナップ編】Distagon T* FE 35mm F1.4 ZA × α7 III

その時感じた思いを切り取る最高のコンビネーション

α7 III / Distagon T* FE 35mm F1.4 ZA / マニュアル露出(1/800秒・F1.4) / ISO 250

フルサイズミラーレスカメラ「α7 III」の実力を、ソニー製Eマウントレンズの画質と合わせて紹介する本連載。

今回はwacameraさんに、主に街角でのスナップ撮影で作品をお願いした。使用レンズは、「Distagon T* FE 35mm F1.4 ZA」だ。鮮鋭な描写とボケを両立したこのレンズで、wacameraさんは何を描いてくれるのか。ベーシックモデルに位置付けられるα7 IIIが、このレンズの力をどこまで引き出すのか。作品をご覧いただきながら是非実感していただきたい。(編集部)

wacamera

東京生まれ、大阪在住のフォトグラファー。金環日食を指輪に見立てた写真がSNSやテレビで反響を呼んだ。現在インスタグラムのフォロワー数は14万人を超え、世界各国の企業とのコラボレーション企画やマスコミの取材などを受け、国内だけでなく海外での撮影も行なっている。2015年に写真集「今宵、空で会いましょう〜Shall we jump〜」出版。プライベートでは1児の母。

Distagon T* FE 35mm F1.4 ZA
α7 III

大口径F1.4レンズの魅力

私にとってのスナップとは、日常の切り取りであり、記憶の付箋であり、そして好きなもののコレクションでもある。

いいなと思ったものを瞬間的に直感で残す。後で見返した時に私の乏しい記憶力を補完して、あの時の景色はこんな色だったのかと、感動を蘇らせてくれる。そのためのカメラ・レンズとして、α7 IIIとDistagon T* FE 35mm F1.4 ZAは私にとって欠かせない組み合わせだ。

今や手軽に撮れるスマホのカメラがある中で、わざわざDistagon T* FE 35mm F1.4 ZAを使う理由は何と言っても開放F値がF1.4であること。その大きなぼけにより、ともすれば目で見ている以上に美しく写ってしまうほど。

ぼけが驚くほど滑らかで、雰囲気のある店の中など、ちょっと暗いロケーションでの撮影でも、しばしばこのレンズの明るさに助けられる。

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ふらりと立ち寄ったカフェであまりにも美しい器具に思わず見とれ、撮影させてもらった。ガラスにピントを合わせるのは難しいのだが、すっと迷わずに合うのはやはり純正のレンズならでは。この撮影ではクリアなガラスの滑らかさや細かいディティールがはっきり写る様に少し絞った。

コーヒーを愛する店主の道具をきりりとした美しく切り取った。ガラスの透明感も失っていない。おかげで店主が道具に込めた思いまでおさめることができた。

α7 III / Distagon T* FE 35mm F1.4 ZA / マニュアル露出(1/1,000秒・F6.3) / ISO 800

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同じカフェでいただいたコーヒーのデザート。ビスケットの上のマシュマロがふわふわと柔らかかったのでその質感を表現しようと、絞りは開放のF1.4に。

そのぶんぼけも盛大に出たのだが、それもまたこのデザートの甘くて柔らかい印象を表現できたのではないかと思う。

α7 III / Distagon T* FE 35mm F1.4 ZA / マニュアル露出(1/60秒・F1.4) / ISO 800

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紅葉の中に別の紅葉の影を載せて写そうと試みた。片手で葉を持ち、もう片方の手でカメラ。これができるのは、いつも思うことだが、カメラが軽いからである。

仮にも私は女性なので、腕力はそれほどない。もしボディとレンズを合わせて2kg近い機材を片手で持とうものなら1分ホールドすることも至難の技だろう。しかしα7 IIIはフルサイズセンサー搭載のカメラとしては小型軽量。Distagon T* FE 35mm F1.4 ZAをつけても私は片手で操作できるため、この撮影手法が実現した。

そしてDistagon T* FE 35mm F1.4 ZAの最短撮影距離は30cm。カメラを持たない方の手を目一杯伸ばせば、手の先にピントを合わせることができる。この、手を伸ばせば撮りたいものが手持ちで撮れてしまうことがどれだけ大きくスナップ撮影の出来栄えを左右するかは日々の撮影で身を以て実感している。

また、奥に見える美しい丸ボケもこのレンズならではである。心惹かれた光を思い通りに残せることは大きな喜びだ。

α7 III / Distagon T* FE 35mm F1.4 ZA / マニュアル露出(1/1,250秒・F1.4) / ISO 100

35mmという画角・高速なオートフォーカス

私はソニーの純正レンズを6本所持しており、その内単焦点が4本。その中でもダントツで出番が多いのがDistagon T* FE 35mm F1.4 ZAである。恐らく9割以上の出勤率ではないだろうか。

その理由は標準よりも少し広角であるがゆえに、撮り回しが非常に楽だということ。50mm、55mmが使えないわけではない。しかしながら自分が下がれないシチュエーションはよくあり、そんなときに50mmより画角を広く取りやすい。そしてこのレンズは近づいて画角を狭めることもできる。便利すぎる焦点距離なのである。

自分にとって扱いやすい焦点距離であるDistagon T* FE 35mm F1.4 ZAと、α7 IIIの高速なオートフォーカス。スナップ撮影においてもっとも大切な「瞬間を逃さない」という点において、不満のかけらもない。

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この時も遠くで女の子が急に駆け出した。しかし私はその時別のものを撮影していて、気が付いた時には彼女がすでに走り出していた。

すかさずファインダーを覗きシャッターを切った。カメラの迅速な動作と操作性に助けられた1枚だ。

α7 III / Distagon T* FE 35mm F1.4 ZA / マニュアル露出(1/2,500秒・F1.4) / ISO 640

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長野県妻籠宿での1枚。前を歩くおじいさんたち、お揃いの帽子をかぶっていてなんとも微笑ましい光景で目で追いかけていると、タイミング良くフラフラと1人ずつ店舗を覗き始めた。

これは! と思い、近づいてみるとまさに私が思い描いていた理想のフォーメーション。歩きながらサッと撮った。シャッターチャンスを逃さなかったのは、思い立った瞬間に構えられるα7Ⅲのポータビリティとこのレンズの万能な画角のおかげである。

α7 III / Distagon T* FE 35mm F1.4 ZA / マニュアル露出(1/2,500秒・F1.4) / ISO 160

フルサイズならではの階調・色再現

小型軽量ボディなのにもかかわらず、フルサイズであること。これは私がα7Ⅲを購入した最大のポイントである。写真を生業にしているため、納品する作品は美しく高画質で階調が豊かなものでならなければならない。

α7 IIIは言わずもがな発色が美しく、階調も非常に豊かである。ラインアップ中ではベーシックモデルとされているが、上位機種に遜色ない画質である。

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私の前に座る男性の帽子が、私がインドにはるばる来たことを象徴してくれていると思い、何気なく撮影した。ボディ内のサイレントシャッターを使ったため、シャッターを切った音は聞こえていないはずだ。手作業と思われる帽子の細かな網目も、絞り開放でもしっかりと残してくれている。

画像の明暗を補正する機能「Dレンジオプティマイザー」をレベル5に設定し、車内と車外の明暗差を抑え、帽子のテクスチャーを忠実に表現することができた。

α7 III / Distagon T* FE 35mm F1.4 ZA / マニュアル露出(1/400秒・F1.4) / ISO 500

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先日、京都で友人と散歩をした。まだ午前中で、日が斜めに入る時間帯の冬の寒い空気。それが伝わるように撮りたかった。そして彼女の横顔の美しさをシルエットで表現した。

日が強く当たるハイライト部分、影になっている木目の壁。階調が広い分、写真におさめようとした空気感が思い通りに仕上がる。

α7 III / Distagon T* FE 35mm F1.4 ZA / マニュアル露出(1/2,500秒・F1.4) / ISO 125

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最高に美味しいクレープに出会った。しっかりと胃に収めたので断言できる。最高に美味しいクレープを最高に美味しそうに、そして最高に可愛く残したかった。

クレープに添えられた赤いイチゴにピントを合わせ、そこに視線を集めるために開放でぼけを大きく取ったが、知人の指先に可愛らしいネイルが施されていたので、ネイルのデザインの繊細さが伝わるよう少しだけ絞った。背景のボケは美しく嫌味がない。このレンズならではのボケ方だと思う。瑞々しいイチゴの色も、見たままの色で表現されている。

α7 III / Distagon T* FE 35mm F1.4 ZA / マニュアル露出(1/100秒・F3.2) / ISO 100

高感度

これまでに少し触れたが、α7 IIIの高感度耐性には驚くものがある。それを実感してからISO 1000程度までは気軽に常用できる。

さらに「自分の腕が上がったのではないか」と勘違いさせてくれる強力なボディ内手ぶれ補正が搭載されている。この性能には数え切れないほど助けられてきた。

高感度耐性と5軸の強力なボディ内手ぶれ補正のコンビのおかげで、夜間撮影など、通常なら手持ちで撮れなかったシチュエーションでも三脚を使わずに作品が残せるようになった。三脚を持ち歩かなくなったおかげで私の疲労もグッと軽減され、フットワークが軽快なおかげで撮影意欲も湧いてくる。

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北海道、ルスツにあるこのメリーゴーランドはマイケル・ジャクソン氏が所有していたネバーランドにあるメリーゴーランドの作者が手がけたもの。なんともレトロで可愛らしいのだが、それだけでなく細部への強烈なこだわりが伝わってきたのでそれを残したくて撮影した。

実はこの写真、薄暗い館内にあるメリーゴーランドを縦位置で撮影したものを横にトリミングしている。ISO 800での撮影ながら、ここまでしっかり描写してくれることに毎回感心している。ノイズも目立たず、ディティールもしっかり残している。

α7 III / Distagon T* FE 35mm F1.4 ZA / マニュアル露出(1/60秒・F1.4) / ISO 800

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同じくルスツの館外でプロジェクションマッピングが行われており、ふと振り返ると投影機の前に降り注ぐ雪が虹色に彩られていて美しかった。その場の全員が壁を見ているのに、私だけが振り返って撮影していたのがなんともおかしな状況だ。

しかし真っ暗な状況で三脚も持ち合わせていない。ISO 2500まであげてみた。ピントは投影機の柵のところ。本当は雪に当てたかったがシャッター速度1/40秒ではブレると思い、感度を上げた。

結果、流れ落ちる雪にライトが放射状に当たり、見ていた美しさを残せたし、ISO 2500にしては高感度ノイズが驚くほど少ない。レンズの明るさにも助けられ、手持ち撮影でここまで撮れるのはα7 Ⅲとこのレンズの組み合わせならではだ。

α7 III / Distagon T* FE 35mm F1.4 ZA / マニュアル露出(1/40秒・F1.4) / ISO 2500

まとめ

実のところ、私が初めて手にしたαシリーズのカメラは、「α7S II」である。その後継機を待っていたのだがα7 IIIが発売され、思わず買ってしまっていた。高感度に強いα7S系に慣れていた私にとって、α7 IIIは高感度性能に不安がなかったわけではない。

しかしα7 Ⅲには良い意味で裏切られた。撮影感度を上げることを極端に嫌っていた私が、どうしても感度を上げざるを得ない状況でISO 1000で撮影してみたところ、作品として十分に許容範囲だったからだ。

バッテリーの持ちや細かな操作性にも満足している。私の撮影スタイルなら終日の撮影でもバッテリー1個で十分持ってくれる。操作系のボタンの位置ひとつとっても、ユーザーの希望がぎゅっと詰まったカメラだと感じている。

制作協力:ソニーマーケティング株式会社

wacamera