特別企画

今勢いのあるフルサイズミラーレスと、その専用設計レンズを徹底検証!(標準ズーム・旅スナップ編)

フルサイズセンサーを搭載するミラーレスカメラとして随一の性能を持つ「α9」が、カメラグランプリ2018大賞にこの春選出された。その「α9」を兄に持ち、「α9」の技術を落とし込んだベーシックモデルが「α7 III」だ。ベーシックモデルといえども一眼レフカメラや既存ミラーレスカメラのそれと比べると、各スペックの水準の高さから“規格外のベーシックモデル”とも評されている。

α7 III

この連載では3名の写真家に対し、「α7 III」とマッチングの良いレンズについてジャンル別に検証を依頼。ソニーの光学技術を惜しみなく投入した上位クラスのレンズ「G MASTER」と、その技術を生かした比較的入手しやすいレンズについてのインプレッションをお送りする。

前回の望遠・ポートレート編では、望遠系のレンズを宇佐見健さんが試用。モデル撮影における実力をみてもらった。

そして今回は、標準ズームレンズ3本と「α7 III」の組み合わせを中原一雄さんに検証してもらった。テーマは旅スナップだ。

「α7 III」は、フルサイズイメージセンサーによる高画質に加え、これまでミラーレスカメラのウィークポイントとされてきた点を解消した第3世代フルサイズEマウントαのベーシックモデルだ。

旅スナップ撮影における「α7 III」の利点を3つだけ挙げてみよう

裏面照射型CMOSセンサーによる低ノイズ・高品位な描写性能
→屋内・夜間での手持ち撮影で高い描写性能を実現。

広範囲なエリアを誇るAF
→撮像エリアの約93%をカバーするAFエリアで、画面の隅にある被写体にもピントを合わせやすい。「瞳AF」を使えば、動き回る人物の表情を捉えるのも簡単。

第2世代からおよそ2倍の容量になったバッテリー
→約710枚の撮影が可能。長時間にわたる撮影でも安心。

その他、動く被写体を前にした時に役立つ最高約10コマ/秒の連写性能や、旅の記録を美しく残す4K動画など、旅・スナップにおける利点は多い。

加えてお伝えしたいのは、フルサイズミラーレスカメラ専用設計となる、ソニーFEレンズ群の存在だ。すでに29本のラインナップを持ち、標準ズームレンズだけで3本が用意されている。

今回は気ままなスナップ旅行に出かけたイメージで、中原さんに、海沿いの街を撮影してもらった。G MASTERをはじめとした標準ズームレンズ3本と「α7 III」とのマッチングを見る上で、有益な作例になっているので参考にしてほしい。(編集部)

今回使用した標準ズームレンズ。左からFE 24-70mm F2.8 GM、FE 24-105mm F4 G OSS、Vario-Tessar T* FE 24-70mm F4 ZA OSS。

中原一雄

1982年北海道生まれ。化学メーカー勤務を経て写真の道へ。バンタンデザイン研究所フォトグラフィ専攻卒業。広告写真撮影の傍ら写真ワークショップやセミナー講師として活動。写真情報サイトstudio9を主催。


文句なしに高性能。これがG MASTERの実力だ……FE 24-70mm F2.8 GM

FE 24-70mm F2.8 GM


特徴

「FE 24-70mm F2.8 GM」は、ズーム全域で開放F値F2.8を実現した標準ズームレンズ、通称大三元レンズの中で標準域を担うレンズだ。ソニーのレンズ技術の粋を集めた「G MASTER」シリーズに属する1本でもあり、ズーム全域、絞り開放から安心して使えるプロカメラマン御用達のレンズともいえる。

レンズ構成は超高度非球面XAレンズを含む3枚の非球面レンズのほか、スーパーED、EDレンズを使った13群18枚であり、フレアやゴーストを抑制するナノARコーティングが施されている。これらの贅沢な設計により高い解像性能はもちろん、自然でなめらかなボケも実現するレンズだ。レンズ設計においてはカリッとした高い解像度とフワッとした柔らかいボケ味の両立は難しいとされるが、本レンズはこれら2つの要素を高次元でバランスしている。

さらに本レンズは、AFが非常に速いのもポイント。フォーカス駆動にはダイレクトドライブSSM(DDSSM)が用いられており、狙ったポイントにほとんど一瞬といっていいスピードに合焦する。ベーシックモデルのα7 IIIでもそれは同様だ。速度だけでなく非常に静かに、滑らかに合焦するため動画撮影にも効果的。

最大撮影倍率0.24倍と小さな被写体にもしっかり寄って撮影できる点も嬉しい。

ズームリングやフォーカスリングの操作性も良く、任意の機能を割り当て可能なフォーカスホールドボタンが付き、防塵防滴にも配慮された設計のためスナップ、風景、ポートレートとシーンを問わず幅広く使えるレンズだ。

α7 IIIにFE 24-70mm F2.8 GMを装着


作例

青々と茂る木の葉の細部までしっかりと浮き立つように解像されている。背景にかけてわずかにボケていっているため立体感を感じる写真となった。発色もスッキリとしている。

α7 III / FE 24-70mm F2.8 GM / 41mm / 絞り優先AE(1/500秒・F5.6・+0.7EV) / ISO 200

70mm、絞り開放で撮影。このような細かな花の前ボケはうるさくなりがちだが、非常に柔らかく滑らかで、左奥の花に効果的に視線誘導させることができた。さすがG Masterと言うべき描写だ。

α7 III / FE 24-70mm F2.8 GM / 70mm / 絞り優先AE(1/500秒・F2.8・+0.7EV) / ISO 100

広角端24mmで撮影。水平線付近の小さな船や白波、波打ち際の漂着物までしっかりと解像しているのが分かる。広角端で水平線が画面端に来るような構図ではやや歪曲が気になるが、カメラ内あるいはRAW現像時で歪曲補正を入れればほとんど気にならないレベルに補正可能だ(作品は歪曲収差を補正済み)。

α7 III / FE 24-70mm F2.8 GM / 24mm / 絞り優先AE(1/160秒・F11・+0.3EV) / ISO 200

波打ち際のローポジションから空を大きく入れるように24mmで撮影。ちょうど人が通りがかったため素早くピント合わせしてシャッターを押した。AFが速いのでここぞと思った時に逃さず撮影できるのが嬉しい。また、ボディがコンパクトで背面モニターを見ながらの撮影も容易なため、フットワークを軽くして様々なアングルで撮影が楽しめるのもEマウントシステムの強みだろう。

α7 III / FE 24-70mm F2.8 GM / 24mm / 絞り優先AE(1/100秒・F8・±0.0EV) / ISO 100

夜の街角に咲いていた花を主題に背景に信号やビル明かり、車のライトからなる玉ボケを散りばめてみた。開放F2.8の明るさは手持ちの夜景スナップでは非常に心強い。また、このような暗い背景に強い光源でできる玉ボケは年輪ボケが出やすいが、本レンズは玉ボケの内部も均一でキレイだ。超高度非球面XAレンズなど高い光学精度で作られていることが分かる。開放F2.8というレンズの明るさに加えて、α7 IIIの良好な高感度画質とボディ内手ぶれ補正のおかげで、こうしたシーンもきれいに残せる。

α7 III / FE 24-70mm F2.8 GM / 24mm / 絞り優先AE(1/40秒・F2.8・+0.3EV) / ISO 6400


インプレッション

1日を通して旅スナップに使ってみたがどのシーンでも期待通りに快適に働いてくれた。解像力を重視しすぎるとどうしてもボケがうるさくなりがちだが、本レンズは冒頭にも書いたとおり解像性能とボケ味の両立を重視した設計がなされており、柔らかなボケの中に合焦面はキリッと解像しているメリハリのある結果を得ることができた。

唯一の弱点は豪華なレンズ構成のため重量が886gとボディよりも大幅に重くなり、長時間撮影を続けると持ち疲れしてしまう恐れがあることだ。このような場合はグリップエクステンションGP-X1EMを使う事でホールディング性を大きく向上させることができる。今回の撮影でもグリップエクステンションを付けて撮影を行ったが、持ち疲れのない快適な撮影をすることができた。

◇   ◇   ◇

バランスに秀でたもう一つの選択肢……Vario-Tesser T* FE 24-70mm F4 ZA OSS

Vario-Tesser T* FE 24-70mm F4 ZA OSS


特徴

「Vario-Tesser T* FE 24-70mm F4 ZA OSS」は、「FE 24-70mm F2.8 GM」と同じ焦点距離をカバーしながらズーム全域で開放F4に抑えたことで小型軽量化を実現しているレンズだ。重量は426gであり、650gの「α7 III」とのバランスも非常に良い。

10群12枚のレンズ構成のうち非球面レンズが5枚、EDガラスが1枚と全レンズの半分が特殊レンズという贅沢な作りで、Carl Zeissの「T*コーティング」により逆光にも強い設計だ。本レンズは鏡筒だけでなくズームリングやフォーカスリングも金属製で全体にシャープでスッキリしたデザインも個人的には好きなポイントだ。

防塵、防滴にも配慮された設計のため、コンパクトながら多くのシーンで活躍が期待できるレンズとなっている。

α7 IIIにVario-Tesser T* FE 24-70mm F4 ZA OSSを装着


作例

開放F4とはいえ70mm付近で撮影すればこのように大きなボケを楽しめる。看板にピントを合わせ、背景に人が通りかかるタイミングを待って撮影。場の状況が分かる程よいボケ感になった。望遠端では「FE 24-70mm F2.8 GM」よりも少し緩さが見える描写ではあるが、より小型軽量で廉価なことを考えると、十分に高品位な画質であり、「α7 III」の性能を引き出せている。

α7 III / Vario-Tesser T* FE 24-70mm F4 ZA OSS / 49mm / 絞り優先AE(1/160秒・F4.0・+1.3EV) / ISO 100

夕暮れの波打ち際ではしゃぐ若者をシルエットにして撮影。T*コーティングのおかげもあり、逆光でもコントラストを落とすことなくメリハリが付いた絵が得られた。

α7 III / Vario-Tesser T* FE 24-70mm F4 ZA OSS / 24mm / 絞り優先AE(1/50秒・F8.0・+0.3EV) / ISO 100

本レンズは小さめのバッグにもボディとともにスッと収まるサイズ感が素晴らしい。カメラの他に着替えやおやつなど持ち歩く荷物が多くなる子供とのお出掛けなどにも重宝する。

特筆すべきなのはレンズのAF性能。じっとしていない子どもを撮影したが、α7 IIIの瞳AFが精度高く瞳に食いつき、レンズ側もその処理に対しストレスを全く感じさせないスピード性能と正確さで応えてくれる。ボディが進化すると、必然的にレンズも高い能力が求められる。センサ―側から送られてくる膨大な指示を高速で処理する必要があるからだ。その点、今回の結果はさすがフルサイズミラーレス専用設計といえるマッチングの良さだろう。

α7 III / Vario-Tesser T* FE 24-70mm F4 ZA OSS / 70mm / 絞り優先AE(1/1,000秒・F4.0・+0.7EV) / ISO 320


インプレッション

「FE 24-70mm F2.8 GM」と比べて、重量が約半分という軽量なレンズ。とにかく気軽にスナップするにはもってこいのレンズだ。画質も広角側は絞り開放からしっかりと描写してくれ、被写体にしっかりと寄って撮影すれば大きなボケも楽しめる汎用性の高いレンズと言える。

望遠側や画面の四隅に関して若干の甘さが感じられるのが玉に瑕ではあるが、ここはレンズのコンパクトさと天秤にかけて考える必要があろう。特に移動が多い、荷物が多いといったシーンでは非常に心強い1本になるはずだ。

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より広いシーンをカバーするもう一つの選択肢……FE 24-105mm F4 G OSS

FE 24-105mm F4 G OSS


特徴

「FE 24-105mm F4 G OSS」は広角24mmから望遠105mmまで1本で幅広い範囲をカバーする非常に便利なズームレンズだ。昨年11月に発売された新しい設計のレンズであり、α7 IIIの人気に連動するように今でも品薄が続く人気のレンズだ。

高性能レンズの証である「G」が冠され(GMはさらにその上だ)、高度非球面AAレンズ2枚を含む非球面レンズ4枚とEDレンズ2枚を使った14群17枚のレンズ構成。高倍率でありながらズーム全域で高い描写性を誇っている。

また、本レンズは幅広いズーム域と高い描写性を確保しながら、最短撮影距離は0.38m、最大撮影倍率は0.31と同クラスのレンズとしてはかなり「寄れる」レンズである所がこのレンズの価値を高めている。

α7 IIIにFE 24-105mm F4 G OSSを装着


作例

望遠端105mmまでズームすると70mmでは得にくいしっかりした圧縮効果を感じることができる。まっすぐに続く道を左右対称を意識して撮影することで奥行き感をギュッと凝縮して表現することができた。

α7 III / FE 24-105mm F4 G OSS / 105mm / 絞り優先AE(1/250秒・F5.6・+0.7EV) / ISO 125

望遠側が105mmまであると、ゴチャッとした街の中でも気になったところをスッと切り取ることが楽にできる。窓に下がる風鈴を手前に咲いていた向日葵越しに撮影することで夏らしい季節感にすることができた。望遠が効くのでF4でも前ボケを生かしての撮影が可能だ。

α7 III / FE 24-105mm F4 G OSS / 105mm / 絞り優先AE(1/320秒・F4.0・+0.7EV) / ISO 100

開放F4となると夜景など暗いシーンでの撮影が心配になるかも知れないが、α7 IIIの5段5軸手ブレ補正や高い高感度性能と組み合わせれば手持ちでもしっかり撮影が可能だ。この写真は1/8秒のスローシャッターで撮影したが目立つ手ブレは発生していない。また、街灯から光条を出すためF8まで絞り感度をISO4000まで上げているが、大きなノイズは発生せずキリッとした夜景写真を撮ることができた。

α7 III / FE 24-105mm F4 G OSS / 24mm / 絞り優先AE(1/8秒・F8.0・+0.3EV) / ISO 4000


インプレッション

ズーム範囲が広く寄れて、重量も663gと比較的軽量に仕上がっている非常に汎用性の高いレンズだ。描写性能も周辺の描写や解像とボケのバランスは「FE 24-70mm F2.8 GM」に譲るものの、中央部分はGMに迫るものがあり、ボケ味も悪くない。AF駆動もFE 24-70mm F2.8 GMと同じく高速かつ静かなダイレクトドライブSSMが採用されており、いいとこ取りしたレンズといえよう。

「G」の名を冠するだけあって、フォーカスホールドボタンや手ブレ補正、フォーカスモードスイッチも搭載。ナノARコーティングやフッ素ーティングも施され、防塵防滴に配慮された設計で上位レンズの機能を一通り有しているのもポイント。

レンズ交換がしにくいシーンなどでは、本レンズ1本だけをつけて1日を撮りきる、というのも十分に可能。1本手元にあると大変心強いレンズだ。


α7 IIIのボディ性能を活かしきる、充実のフルサイズミラーレス“専用設計”レンズ

世界初のフルサイズミラーレスとしてα7が発売されたころにはレンズのラインナップが少ないと言われていたαだが、気がつけばフルサイズミラーレス専用設計として29本ものラインアップを誇り、標準域レンズだけでも今回紹介した3本のほかに「FE 28-70mm F3.5-5.6 OSS」も含めて4本ものレンズが選択できる盤石の体制となっている。これからフルサイズミラーレスを検討する方にとっては、用途に合わせて選択できるシステムがすでに整っているということは大きな利点になるだろう。

今回紹介した3本の特徴をおさらいすると、G MASTER「FE 24-70mm F2.8 GM」は妥協を許さずソニーの持つ技術をすべて注ぎ込んだ描写力重視のレンズ、その技術が活かされた「Vario-Tesser T* FE 24-70mm F4 ZA OSS」はαのボディにマッチする小型軽量を重視しながら画質とのバランスをとったレンズ、「FE 24-105mm F4 G OSS」は幅広いズーム域を有しながら最新の設計で描写力とコンパクトさのバランスがよいレンズといえるだろう。

描写性能を見ればやはりG MASTERは頭ひとつ抜けており、他のレンズで撮影したものに比べてどこか色っぽさを感じる仕上がりになると感じている。単に解像度だけでなくボケ味や色乗りとのバランスが良く仕上がっているからだろう。小さなαのボディと比べると重くバランスが悪く感じる事もあるが、ここぞという撮影では必ず持ち出す信頼の置けるレンズだ。

一方で、これから本格的なカメラを検討している方にとっては、α7 IIIと「Vario-Tesser T* FE 24-70mm F4 ZA OSS」や「FE 24-105mm F4 G OSS」を付けて軽快な撮影を楽しむというスタイルもアリだろう。2本とも、α7 Ⅲのボディ性能を十分に引き出す解像感、AF性能を持ち、コンパクトでコストパフォーマンスも高い。

1本ですべての要求を満たすような魔法のレンズは残念ながら存在しないが、今のソニーには撮影者の用途によって最適なものが選べる。フルサイズミラーレス専用設計のレンズが豊富に揃っているので、自分がレンズに必要としている性能をよく見極めたうえで最適な1本を選んでもらえればと思う。

制作協力:ソニーマーケティング株式会社

中原一雄

1982年北海道生まれ。化学メーカー勤務を経て写真の道へ。バンタンデザイン研究所フォトグラフィ専攻卒業。広告写真撮影の傍ら写真ワーク ショップやセミナー講師として活動。写真情報サイトstudio9を主催 。