新製品レビュー

DJI Mavic Air

機能と持ち運びやすさを両立 最新ドローンの進化をチェック

ドローンは大きく3つのカテゴリーに分けられる。大型で測量や農薬散布、本格的な映画撮影など業務用途に用いられる産業用ドローン、ほとんどがカメラを搭載し一般ユーザー向けとする民生用ドローン、重量が200g以下で航空法の適用から除外されるトイドローンである。

写真や動画を楽しみたければ価格や扱いやすさなどから民生用ドローンの選択が一般的である。その民生用ドローンにはいくつかのメーカーが存在するが、知名度と市場シェアの高さから言えばDJIが圧倒的である。中国のメーカーであるが、北米や日本にも開発拠点を置くグローバルカンパニーだ。

今回、ピックアップした「Mavic Air」は、DJIのドローンのなかで、カメラで言うところのミドルレンジの「Mavic Pro」と、エントリーの「Spark」の間に位置付けされるモデルである。

デザイン

まずその機体の大きさだが、アームを折り畳むと横に倒したミドルレンジクラスのデジタル一眼レフカメラほどのサイズ。一般的な大人の手のひらにちょうど収まるサイズ感である。アームを開いても民生用ドローンとして考えれば、コンパクトな部類だ。

DJI直販での価格は、基本セットが10万4,000円、予備のバッテリーなどが付属するFly More Comboが12万9,000円(いずれも税込)。

今回試用したカラーはフレイムレッド。ほかに黒(オニキスブラック)と白(アーバンホワイト)が選択できる。

重量はバッテリー、記録メディアを含めると約435g。プロペラガードを装着しても約476gと軽量である(いずれも実測値)。

参考までに近い重量のカメラを探してみたが、キヤノンEOS Kiss M(バッテリー、メディア含む)にEF-M22mmF2 STMを装着したときの重量が約492g。それよりもMavic Airは軽いのである。民生用ドローンとしては軽量な部類に入る。

4本のアームを折りたたむと標準的な男性の手のひらほどの大きさとなる。

付属するケースにMavic Airを入れると、このままバッグやバックパックへ入れることができる。プロポと予備バッテリーの入るケースも欲しいところ。

ボディのつくりについては、精度が高くデザインもセンスあるもの。他社の一部の民生用ドローンのなかには仕上げも荒く、玩具っぽいつくりのものも見受けられるが、そのようなものとは一線を画す。

特にトップカバーのシェイプは巧みで、上からみるとボディ中央付近から後ろは次第に絞り込まれていき、代わってその下の部分が現れ視覚的にもこだわりを感じさせる。ティーザー広告でもビジュアルとして使われていたように、ボディの真横から見てもカッコいいシェイプである。

内部の熱を排出するベントをボディ上部後端に装備する。水など入りやすいので、注意しておきたい部分である。

プロペラの装着も簡単

アームは前述しているとおり折り畳み式。Mavic Proと同じく、リアのアームはひねったうえで、プロペラ側が下方になるように折り畳む。アームの引き出しも含め若干コツを必要とするが、すぐに慣れるはずだ。

また、プロペラはMavic ProもSparkも折り畳み式だが、Mavic Airでは固定式。これはたぶん折り畳まなくても、アーム収納時にボディからプロペラがさほどはみ出さないからだと思われる。

プロペラの全長は約13.5cm。クイックリリースタイプで、工具無しで着脱が可能。右回転用と左回転用を間違って装着しようとしてもできないようになっている。

プロペラのモーターシャフトからの着脱は、現行の他の DJI製民生用ドローンと同様モーター側に押し込んで回転させて行う。工具など不要なので、現場ですぐにプロペラの交換が可能だ。

なお、プロペラは民生用ドローンとしては短いほうであるが、それでも高速で回転するので、万が一を考えるとプロペラガードはマスト。

プロペラガードを装着した状態では風の抵抗を受けやすくなるが、安全のためには必ず装着しておきたいアクセサリーだ。プロペラガードの重量は約41g。

バッテリーへの負担などから、外しているドローンパイロットも見かけるが、必ず装着しておきたいアクセサリーの1つである。

充実の安全装備

ドローンといえば安全に関する機能にも注目しておきたい。

ボディの前と後ろ、そして下に障害物センサーを、さらにボディの下にはポジショニングセンサーを配置する。それらビジョンシステムにより極めて安全な飛行を実現する。

さらに同機能を応用した高度操縦支援システムにより飛行中の障害物を自動的に回避することもできる。

また、DJIのどのドローンにも搭載されているものだが、バッテリーの残量がリアルタイムにプロポ(送信機)に装着したスマホやタブレットに常時表示され、残量が25%を切るとアラートが鳴り早期のホームポイントへの帰還を促す。

フライト中、近くに携帯電話のアンテナ(基地局)がある場合など画面に電波干渉の危険を知らせる表示や、強風の場合注意を喚起する表示も出るなど安全には極めて高い注意が払われている。

ドローンというとその危険性が問われることが多いが、DJIのドローンに限って言えば、安全に留意し、正しい使い方、正しい飛行を行えば、まず間違いはないと言っても過言ではないだろう。

RAW記録にも対応

気になるカメラの性能については、イメージセンサーは1/2.3型CMOSで有効1,200万画素。レンズは固定式で、35mm判換算で24mm相当の単焦点レンズを備える。

開放絞りはF2.8だが、絞り機構は持たない。つまり、常に開放絞りでの撮影となる。そのため別売のNDフィルターセットを購入しておくのがオススメ。ND4、ND8、ND16がセットになっており、動画撮影でも重宝する。

フォーカスについても固定で、操作はできない。もっともドローンの場合、中景あるいは遠景が被写体だし、短い実焦点距離のレンズを搭載していることを考えると不足を感じることはないかと思う。

実際撮影した画像を見てもフォーカスの緩さのようなものはない。ベース感度はISO100、最高感度はISO3200だ。

静止画撮影に関しては、記録形式はJPEGとRAWで同時記録も可能。RAWはDNGフォーマットなので、Photoshopなどで現像が可能だ。

撮影モードはフルオートとマニュアルを搭載。連続撮影やAEB撮影などにも対応する。仕上がり設定機能として「ピクチャースタイル」を備え、「標準」「ランドスケープ」「ソフト」のほかシャープネス、彩度、コントラストのパラメータが調整可能な「カスタム」から選択ができる。

アスペクト比も選ぶことができ、デフォルトの4:3のほか16:9の選択が可能など、ちょっとしたコンパクトデジタルカメラ並みの機能を有する。

Mavic Airでは同社のドローンとしてはじめてストレージを内蔵する。容量は8GBで、メモリーカードの残り容量が心細いときやメモリーカード自体を忘れてしまったときなどありがたく思えるはずだ。メモリーカードについては、他のモデル同様MicroSDカードを使用する。ボディの後ろにはUSB-Cポートも装備している。

動画は4K記録に対応

動画機能に関しては4K(3,840×2,160、30p)での撮影が可能。格下のSparkはフルHD止まりなので、それに不満のあるユーザーはMavic Airに乗り換えるべきだろう。

しかも同じ4K 30pの撮れる上位モデルMavic Proの場合ビットレートが60Mbpsであるのに対し、Mavic Airは100Mbpsと高く、結果精細感や階調再現性など凌駕する。悔しがっているMavic Proユーザーもいるのではないだろうか。

ただし、DCI 4K(4,096×2,160、24pに関してはMavic Air は非対応なので、その画質モードで撮影したければMavic Proを選ぶべきだろう。

動画のピクチャースタイルは、静止画の場合と同じ。さらに「カラー」(カラーグレーディング)では「標準」のほか「D-Cinelike」の選択を可能とし、その名のとおりシネフィルムをシミュレートした絵づくりが楽しめる。こちらは残念ながらD-logは未搭載。

安定性の高いジンバル

カメラを懸架するジンバルは、パン(水平・左右)、ティルト(垂直・上下)、ロール(回転)に対応する3軸タイプで、飛行中のカメラの安定度は極めて高い。

裏側にするとジンバルの様子がよく分かる。ジンバルのすぐ後方にある楕円状のものは機体の電源ボタン。起動は電源ボタンを1回押し、次に長押しする。

元々DJIは優れたジンバル技術を持っており、現在プロの映像制作向けのカメラスタビライザーRoninシリーズや、ハンドグリップタイプのスタビライザーOsmoシリーズも積極的に展開している。

本モデルに搭載されたジンバルもそのような技術力によるもので、高い精度を誇る。小さな機体ゆえに風の影響などにより挙動が大きくなりがちだが、3軸ジンバルの採用はたいへん心強く感じられる。

ジンバルプロテクターも用意され、ワンタッチで着脱が可能だ。ジンバルはドローンの機構のなかでもデリケートな部分のひとつ。移動のときなど必ず装着するようにしたい。

収納しやすくなったプロポ

プロポの特徴といえば、コントロールスティックが着脱式になったことだろう。バッグなどへの収納時、邪魔に感じることが多かっただけに嬉しい配慮である。しかも取り外したコントロールスティックは、プロポ内に収納できるのも便利に思える部分だ。

収納状態では、アンテナとモバイル端末用クランプを折り畳める。上面には電源ボタンのほか、RTH(リターン・トゥ・ホーム)ボタンやファンクションボタンなど備わる。

コントロールスティックは着脱が可能。取り外したコントロールスティックはプロポ本体に収納できる。

フライト時は、スマートフォンをモバイル端末用クランプで挟んで使用する。プロポの起動も機体同様、電源ボタンを1回押し、続けて長押しする。ストラップが装着できるホール(穴)が欲しい。

中央にフライトモードスイッチがある。フライトモードには、GPSとセンサーにより安全に飛行できるP(ポジショニング)モードのほか、より機動性を優先したS(スポーツ)モードの選択が可能。

専用のアプリ「DJI GO 4」が用意される。他のDJI製ドローンにも対応している。

動画撮影時
静止画撮影時
オートモードの設定
マニュアルモードの設定
静止画の撮影設定
動画の撮影設定
機能設定メニュー
スティックモードの設定

操作感については、コントロールスティックによる機体への反応がややシビアに感じられる。ゆっくり機体を動かしたいときなど、わずかなコントロールスティックの動きに敏感に反応してしまい、思った以上の動きをしてしまう。

静止画の撮影ではさほど影響はないが、動画の撮影ではちょっと気になることが多かった。私がこのプロポの操作に慣れてないこともあるが、撮影の際は留意しておきたい部分だ。

飛行時間は13分程度

バッテリーのフル充電からの持ちはメーカー発表で21分。ただし風の影響やフライトによって大きく変化する。実際にフライトさせた結果では、残量25%を残してアラートが鳴るまで13分前後といったところ。

本機はリチウムポリマー(Li-Po)バッテリーを採用する。メーカー発表のフル充電からの持ちは約21分。実際は風の影響などあるため、その2/3程度の持ちと考えておくとよい。

バッテリー残量のまったくなくなるギリギリまでフライトするわけにはいかないし、さらにアラートが五月蝿く鳴り響くことを考えると、実質この時間がバッテリーの持ちと考えてよい。予備の電池はなるべく多めに持っていくようにしたい。

なお、バッテリーはリチウムポリマー(Li-Po)タイプであるため、落下などショックを与えたりしないよう取り扱いには注意。

バッテリーとプロポを充電するには付属の充電器を使用する。残量がほとんど残ってない状態からフル充電までの時間はメーカー発表値で、バッテリーが1時間40分、プロポが2時間30分。

独自の撮影機能も満載

今回も“飛び道具”としていくつかユニークな機能が搭載されている。

スマートキャプチャーでは、機体から最大6m離れた位置から手の動きに合わせて(ジェスチャー)で離陸、追尾、写真もしくは動画の撮影、機体の前後移動などが行える。

Sparkでは手のひらを使った離着陸ができ、足元が不安定な場所やぬかるんだ場所での飛行を可能としていたが、Mavic Airではその機能は残念ながら省略されている。

そのため実用というよりは、このドローンの可能性を知ることのできる遊びとして楽しむとよい。

また、クイックショットにも触れないわけにはいかないだろう。これは、自撮りを行いながら自動的にフライトするもので、短編の動きある自撮り動画が得られる。

そのクイックショットだが、Mavic Airでは従来からのRocket、Dronieなどに加え、新たにAsteroid(=小惑星)、Boomerang(=ブーメラン)を搭載。Asteroidは被写体の真上に上昇し、最後にパノラマ撮影を行う。

Boomerangは被写体から一旦離れた機体が再び戻ってくる。こちらも実用というよりSNSへのアップや、このドローンのスゴさを知る遊びと考えてよい。

静止画作品

ちょっと意地悪に逆光で撮影を行ってみた。フレアが発生しているが、仮に他のレンズで撮影したとしても同様の結果となりそうに思えるので、ガッカリする必要はないだろう。

Mavic Air / 1/2,944秒 / F2.8 / +0.3EV / ISO 102 / プログラム / 4.5mm

フォーカスは固定、絞りは開放F2.8であるが、十分な解像感といえるだろう。ただし、そのスペックから静止画よりも動画を意識したものであることは言うまでもない。

Mavic Air / 1/347秒 / F2.8 / -0.3EV / ISO 100 / プログラム / 4.5mm

ゴツゴツとした岩の質感がよく表現されている。解像感も高く、イメージセンサーのサイズやフォーカスが固定であることを考えると上々の結果と言えるだろう。

Mavic Air / 1/137秒 / F2.8 / -1.3EV / ISO 100 / プログラム / 4.5mm

25枚の写真を自動的に撮影しボディ内で合成したパノラマ写真。DJIの他のモデルにも搭載されているが、合成の精度が飛躍的に向上しているように思える。

Mavic Air / 1/1,069秒 / F2.8 / -0.3EV / ISO 100 / プログラム / 4.5mm

動画作品

4K30pで撮影。逆光で撮影しているが、ビットレート100Mbpsの恩恵もあってか階調再現性や細部の描写は不足を感じない。チリチリっとした圧縮ノイズもさほど感じられず、1/2.3インチセンサーながら、高品位な動画が得られる。

以下はクイックショットの作品だ。

まとめ

Mavic Airは、写真愛好家が初めて触れるドローンとしても、すでにドローンを嗜むユーザーのサブ機としても、強くオススメできるモデルである。

ちょっと前までコンパクトといわれたMavic Proが大きく見えてしまう小型軽量の機体はいつでもどこへでも連れていくことができるし、精巧な3軸ジンバルのおかげで安定した4K動画撮影が楽しめる。

もちろん、静止画撮影でも不足のないものだ。徹底して空撮を極めるのもよし、これまで不可能だったアングルに静止画で挑戦するのもよし。動画をここから本格的に始めるのもよしだ。

Mavic Airは、これまでの写真ライフを激変させること受け合いの魅力ある空飛ぶデジタルカメラである。

大浦タケシ

(おおうら・たけし)1965年宮崎県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、二輪雑誌編集部、デザイン企画会社を経てフリーに。コマーシャル撮影の現場でデジタルカメラに接した経験を活かし主に写真雑誌等の記事を執筆する。プライベートでは写真を見ることも好きでギャラリー巡りは大切な日課となっている。カメラグランプリ選考委員。