特別企画
新時代突入!今一番「勢いのあるカメラ」を徹底討論
カメラグランプリ2018の傾向からみる、カメラの今
2018年5月22日 12:38
ミラーレスカメラの躍進が止まらない。2017年度に発売されたカメラのうち、最も優れたカメラを選出する「カメラグランプリ2018」において、ソニーのミラーレスカメラ「α9」が大賞を受賞した。ミラーレスカメラが一眼レフカメラを抑えて大賞に選出されるのは、2016年の「α7R Ⅱ」から、これで3年連続となる。
ミラーレス機のプロ・ハイアマチュア市場への浸透がここ数年、目覚ましい。それらをけん引しているのが、独自開発の35mmフルサイズセンサーを採用する、ソニーのα9・α7シリーズだ。
本稿では、フォトグラファーの立場から、カメラの歴史に造詣が深い、塙真一さんと桃井一至さんに、ミラーレスカメラの今と、αの実力を語ってもらった。(聞き手:折本幸治)
当初からミラーレスに可能性を感じていた
——お二人ともミラーレスカメラを初期からお使いですよね。黎明期の頃、ミラーレスカメラに触れてどんな印象を持たれました?
塙真一(以下塙):登場した当時はEVFに違和感を覚えていましたが、小さくて軽く、それでいて本格的な撮影ができるようになるだろうと感じていました。
桃井一至(以下桃井):当時からミラーレスは「来る!」と確信していました。技術的なのびしろがあり、イノベーションが期待できましたから。ただしばらくはコンパクト以上、一眼レフ未満という存在感が続きました。イメージセンサーは徐々に小さくなると思っていましたが、市場のフルサイズ願望は想像以上でした。
——どのタイミングでソニーαを使い始めました?
塙:NEX-5(2010年)に興味を持ち購入したのが最初かな。でもJPEGの画質が写真らしくなく感じたこともあり、フルサイズのα7が出た時も食指が動かず。その後購入したRX1の写真的な絵作りが気に入ったことで、レンズ交換式カメラの方もα7R(2013年)にしました。
桃井:αという意味だとフィルムのミノルタからの付き合いだから古いよ(笑) ソニーブランドになってからのαは、α100(2006年・Aマウント機)から触っています。
——Eマウントは?
桃井:α7系は第2世代のα7 II(2014年)から。その頃はAマウントのレンズをたくさん持っていたので、メインはAマウントのαでした。Eマウントαはレンズがまだ潤沢でなかったし……Aマウントレンズをアダプターで使うことはありました。
高いAF精度とフルサイズセンサーの魅力
——ミラーレスカメラにフルサイズセンサーが搭載され(α7・2013年)、α9・α7R III・α7 IIIへと代が続きます。お二人にとってフルサイズセンサーの特徴・意義はどんなものですか?
桃井:階調と高感度で有利。それはもちろんだけど、小さいセンサーのカメラと使い分けながら、フィルムに例えると中判カメラに近い感覚で使っています。画質にゆとりがあるのと、被写界深度表現が得られるのは大きいですね。
塙:センサーサイズの大きさは、写真の立体感につながる感じ。昔で言えばシノゴで撮ったポートレートに35mmと違う価値を感じたのと同じように、空気感・立体感が違う。そういうのが必要な時は、フルサイズの方がより適していると思う。フランジバックが短いので、マウントアダプター経由で他社のレンズを使えるのも大きいね。ライカレンズが好きでよく使っています。
——αのイメージセンサーには、位相差AF画素など撮像以外の役割が搭載されています。AFで一眼レフカメラとの違いを実感されています?
塙:使っている上では、ミラーレスカメラと一眼レフカメラで区別はしていない。位相差AFが画素に入って最初は「画質的にどうなの?」と思ったけど、撮ってみたらまったく気にする必要はなかったです。
桃井:フルサイズの一眼レフカメラだと、望遠レンズで絞り開放のポートレート・縦位置で測距点がモデルの顔にかからないとか、画面端のAF精度が落ちて歩留まりが悪くなったりとか、レンズによってマッチングを気にしなくてはならなかったりとか……そういうシーンではミラーレスカメラでないとやってられない感じですね。
塙:AFはもう、ダントツでミラーレスの方が確実だね。
桃井:外す場所がないくらいAFエリアが端まであるし(笑)
塙:ミラーレスならではのAFといえば、自動で瞳にピントを合わせてくれる機能が使えますね。ポートレートはもちろんだけど、実はスナップでも向かってくる人を追いかけてくれて意外に便利。基本はONのままですね。
桃井:瞳AFは第3世代から結構使っています。このあいだ、登壇している人物を撮ったとき、プロンプターがどうしても被写体の顔にかかる。いままでならフレキシブルスポットAFで測距点を動かして撮っていたけど、瞳AFならそのままでピントが合う。
塙:ミラーレスの瞳AFは、瞳を捕捉したら絶対に合う。でも一眼レフだと、瞳にAFを合わせたつもりでもピントがきていなかったりする。打率は全然違うよね。
桃井:レンズによる個体差もないに等しくて、AF方式が違うので前ピン・後ピンを微調整をする必要がない。精度は圧倒的にミラーレスが有利でしょう。レンズのマッチングも考えなくていいし。
塙:ポートレートだとAFエリアを顔に合わせてから撮るより、顔認識で自動で合う方が速い。測距そのものの速度はもしかしたら一眼レフの方が速いかもしれないけど、ピントを合わせて撮るまでをトータルで考えると、むしろミラーレスの方が速くなっているのではと思います。
——光学ファインダーの見え方の方がよく官能的だとかいわれます。電子ビューファインダー(EVF)はそれに迫ってきているのでしょうか。
塙:細かい部分まで十分に高精細で違和感ない絵が見えるようになった。ただ、一眼レフの光学ファインダーには、何か独特の感じるものがあります。ファインダーをのぞいている楽しさは一眼レフにあると思う。
桃井:光学的なものと電気的なものが違うのは当然だけど、それは一眼レフをバリバリ使っていた世代だから感じるのでは?(笑) ミラーレスから始める世代だと気にならないんじゃないかな。
——他にミラーレスならではの長所はありますか?
塙:シャッターを切る前に色や露出がわかるところ。デジタルカメラになって撮ったその場で絵がわかるようになったけど、ミラーレスは撮る前に仕上がりがわかる。最初は違和感があったけど、慣れるとこれが最大のメリットかな。
桃井:接写やブツ撮りなどで、一部分だけ拡大してフォーカスを合わせられることかな。一眼レフだとライブビューで背面モニターに出せるけど、ファインダー内で拡大画像を見れない。あとは天気の良い日に外で再生ボタンを押しても見えない画像が、EVFをのぞくと確認できるとか。
——ミラーレスの小型軽量なシステムについて、どんなメリットを感じていますか?
塙:(Eマウントαだと)小さすぎて持ちにくいということはないし、それなら小さくて軽い方がいいんじゃないかなと思う。
桃井:昔は重いボディが安定するとか言われてたけどね。もう手ブレ補正がこんなに効くと、そういう時代でもないし(笑)
塙:α7 IIIを持っていったパリでは、純正レンズ数本に加えて、マウントアダプターとライカレンズも用意してスナップしていた。そういう楽しみもあるよね。手ブレ補正も効きますしね。
着々と弱点を克服
——ここからはミラーレスの弱点を振り返ります。連写もミラーレスの弱点でしたが、それもα9が飛び越えました。α9だけでなく、α7R III、α7 IIIの連写スペックもかなりのものですよね。
塙:α7 III(約10コマ/秒)でも十分ですね。
桃井:(α7 IIIで)誰が困る?みたいな感じ。むしろα9の秒20コマはあとで選ぶ時大変(笑)
——バッテリーの持ちもミラーレスの弱点と言われていましたが。
塙:第3世代になって大きくなったじゃないですか。そのおかげで1日1個プラス予備1個でほぼ心配ない。
桃井:案外知られていないのがUSBでの充電と給電。クルマで移動中にシガーライターから充電するとか、試していないけど、寒いところでモバイルバッテリーを繋いだまま撮影するとかできそう。
α7 IIIは充分すぎるスペックのベーシック機
——CP+ではα7 IIIが会場での一番人気でした。α9のスペックをうまく引き継ぎバランスが良い下位機種です。
塙:いまα欲しい人に勧めるのは、間違いなくα7 IIIでしょう。一番下のクラスというとなんとなく買いづらいかもしれないけど、αのベースとなるカメラなので、α7R IIIで駅貼りのポスターを撮影するとか、α9でスポーツを撮るとかの用途でなければα7 IIIで十分。
桃井:乱暴な言い方だけど、プロカメラマンの7割はα7 IIIで仕事がカバー出来るんじゃないですか? α9やα7R IIIは一芸に秀でたカメラで、α7 IIIはノーマルな性格。ほとんどの方はこれでいけるんじゃないですかね。
——そのノーマルの基準が高いんですよね。
塙:あとはボディ内手ブレ補正が入ってフルサイズ、この小ささというのは他にないカメラ。
桃井:(無印α7の)ベーシックモデルで初めて裏面照射型センサーに。その時の一番進んだ仕様がてんこ盛りだと思うので、超お買い得品ではないですかね。
進化し続けるミラーレスに期待
——お二人にとってαとはどんなカメラですか?
塙:どんな球が来てもヒットを打つ万能選手。もう一眼レフかミラーレスかという話じゃないよね。
桃井:AFが実用化したりフィルムからデジタルになったり、今までいろんな過渡期があり移り変わったものがあるけど、その中で一眼レフも進化してきた。ただ正直のびしろが少なくなって来たかなと僕は思う。
塙:ミラーレスに対して一眼レフは完成されているということね。
桃井:正直ミラーレスにも不十分なところはまだある。でものびしろがありソニーも新しいことをやってくる。超高感度域、像面位相差AF、連写とか、ドラスティックに変わって来てるじゃないですか。それはミラーレスでないとできないことだし、ソニーはデバイスから内製しているメリットもある。そういうカメラファンをわくわくさせてくれるところかな。
——それを手にできるのがαということですね。
制作協力:ソニーマーケティング株式会社
現場撮影:曽根原昇
動画撮影:鹿野宏
撮影協力:CHICAMA