新製品レビュー
Nikon D850(実写編)
高画素と高速連写が融合 写真表現を追求したモデル
2017年10月5日 08:02
有効4,575万画素で最高約9コマ/秒。ニコンD850の圧倒的な性能は“高画素で高速連写”というカメラの新しいジャンルを作り出した。
フラッグシップ機D5の動体追尾性能を持ち、D810を超える解像力。D800シリーズを使ってきた風景写真やポートレートフォトグラファーはもちろん、野鳥、飛行機、鉄道、スポーツといった動きのある被写体を撮影するフォトグラファーにも積極的に使ってもらいたいカメラに仕上がっている。
前回、「外観・機能編」ではスペック等を詳しく紹介したが、今回実写編では最も気になる“写り”の部分を詳しく検証していきたい。
ダイナミックレンジ
35mmフルサイズセンサーのメリットは多くあるが、その中でもダイナミックレンジの広さは作品制作において多きなポイントになる。
センサーサイズが大きければ1画素がおのずと大きくなり、受光効率が高くなるからだ。しかし、前モデルD810から画素数を約1,000万画素も多くしたD850は1画素のサイズが小さくなるため階調面で不安もあった。
だが、D850ではニコンのデジタル一眼レフカメラで初めて裏面照射型CMOSセンサーを採用し、1画素ごとの受光効率を高めたことによって、低感度から高感度まで広いダイナミックレンジを確保することに成功している。
また、ニコン独自の画像の階調を整える画像処理「アクティブD-ライティング」も効果的。画面内の輝度差の大きい場面では活用したい機能だ。光の状況に応じて適度に階調補正を行ってくれる「オート」がおすすめだ。なお、撮影時にOFFにしているとRAW現像でもONにできないため、そうした意味でも「オート」、または「弱」に設定しておくことが無難だ。
高感度画質
前述したが、D850では高画素化によって1画素あたりの面積がD810よりも狭くなっているため高感度化は難しいかと思ったが、裏面照射型CMOSセンサーの受光効率の高さと、D5と同じ画像処理エンジンEXPEED 5の高精度なノイズ低減処理によって、D810より1段分高感度化した常用感度ISO64~25600を実現。さらなる撮影領域の拡大を図った。
200mmで夏の大三角わし座α星アルタイルを撮影した。望遠撮影で星を止めるためにISO6400まで感度を上げたが、非常に高画質だった。
カラーノイズはやや見られるが、完全に許容範囲内といえる。また、200mmでスローシャッター撮影なのでカメラブレが一番怖いシーンだが、D850は完全電子シャッターモードを搭載しているので機構ブレは発生せず、安心して撮影できた。
次は、長野市の夜景を横手山から200mmで撮影したもの。街の上を龍のような細長い薄雲が流れていた。雲の形を見せたかったので、スローシャッターになりすぎないようにISO1600で撮影している。
D850の高感度テストをしていて少し不思議だったのが、ISO1600~6400あたりまで粒状感、ノイズ感がほとんど変化がないこと。ISO1600にしてはやや粒状感があるし、ISO6400にしてはノイズが少ない、といった感がある。
とはいえ、いずれもよく高感度ノイズは抑えられている印象。ISO12800に上げると多少カラーノイズが目につくようになるが、動物写真やスポーツ写真においてはまったく問題なく使用できるだろう。
連写
オオルリボシヤンマが対峙した瞬間を約9コマ/秒の高速連写が捉えた。D850は有効4,575万画素で約9コマ/秒の高速連写ができる世界で唯一のカメラだ。
AFもD5とまったく同じ153点の位相差AFシステムを搭載している。D810よりも130%も高密度なAFはAFの抜けも少なく、まさに“高画素版D5”と言える性能だ。
だたし、ボディ単体での高速連写は約7コマ/秒で、約9コマ/秒にするためにはマルチパワーバッテリーパックMB-D18、Li-ionリチャージャブルバッテリーEN-EL18b、バッテリー室カバーBL-5、MH-26aアダプターキットMH-26aAK(充電器)の4アイテム、合計約10万円(都内量販店価格、税込)の追加装備が必要となる。
約7コマ/秒でも十分に速い。だが、約9コマ/秒はやはり別次元である。高速連写を必要とするフォトグラファーはぜひとも併せて揃えたいところだ。
DXクロップ(APS-Cサイズ)に設定しても1,946万画素もあるため解像感は十分。DXクロップ撮影は焦点距離1.5倍の望遠撮影が手軽に楽しむことができ、機材軽量化にもつながる。高画素モデルならではの撮影方法と言える。
またDXクロップに設定すると、AFゾーンが画面の横幅いっぱいまで広がるため、動体追尾AFがさらに使用しやすくなる。なお、D810はDXクロップで連写速度が上がる仕様だったがD850では採用されていない。
ホワイトバランス「自然光オート」
画像の白色を光源の色味に左右されず正しく白色として補正するのがオートホワイトバランス機能。これまでも晴天や室内などではオートは便利に問題なく使用できていたが、朝日や夕日など、大きく色温度が変化したときには色補正機能が働きすぎてやや青白くなってしまいその場の雰囲気が残りにくかった。
D850に新しく搭載されたホワイトバランスのモード「自然光オート」では、補正する範囲を自然光の色味に限定することで風景の雰囲気を残した適度な色補正を行ってくれる。朝夕の他にも、日陰などでも青白くなりすぎず使用しやすいモードだ。
まず通常のホワイトバランス「オート」。白色が正しく補正されているが、夕日の雰囲気はやや希薄に感じる。
次に「自然光オート」。温かみのある夕日の色味を多分に残しているので、臨場感のある風景写真になった。
動画
D850では4K(UHD/30p)の動画記録が可能になった。D850の4K動画は35mmフルサイズのフルフレームで記録できるのでレンズの画角をそのままに撮影できるのが大きな特徴だ。
これまでの4K動画搭載カメラでは、ドットバイドット記録で画角の狭くなるクロップ状態の機種もあり、レンズの性能が生かしきれなかったりワイド表現が苦手だったりと制限が多くあった。
D850はそうした制限なく、レンズの性能をフルに生かして撮影できるため描写力、ボケの臨場感、画角感覚などスチルのフォトグラファーでも違和感なく4K動画にチャレンジできそうだ。
ただし、4K撮影時には新搭載のフォーカスピーキング機能や、アクティブD-ライティング、電子手ブレ補正は使用できない。
作品
フルサイズは3,600万画素で十分、と思っていたが考えを改めた。4,575万画素はとにかくよく写る。雨に濡れた岩の質感、流れる水の透明感、遠景の葉の形までよく確認できる。電子シャッター搭載のお陰で、中速から低速シャッターでも機構ブレはなく高画素を活かしきった撮影が可能だ。
オオルリボシヤンマが産卵場所を探して飛び回っている後ろ姿を約9コマ/秒の高速連写で捉えた。通常は超高画素機、マルチパワーバッテリーパックを付けると高速連写機になる。本来、相反するはずのこの二面性を、ともに高次元で実現したD850は唯一無二の存在といえる。
さらに、D5と同じ153点のAFシステムは動体撮影を飛躍的に向上させた。間違いなく、これまで撮れなかった写真がD850なら撮れると確信できた。
遥か彼方の山並みと朝日に色づく雲が広がる雄大な風景に、威嚇するトラ猫のような雲が沸き立った。新しく搭載されたピクチャーコントロールの「オート」で撮影したが、色ノリやコントラストの付け方などが適度で良い。
スタンダードをもとにしたピクチャーコントロールだが、ややコントラストを強めに仕上げてくれる傾向があり、光が印象的で実にニコンらしい仕上がりと言える。このオートは使いやすく気に入ったので、「ビビッド」や「風景」をもとにした「オート」も欲しくなってしまった。
雨上がりの小さな風景。水たまりの中の小さな草をチルト式モニターを起こして水面ギリギリから手持ちで撮影した。高画素モデルは可動式モニター搭載モデルが少ない中、上下90度に動くチルト式モニターを搭載したD850はうれしい存在だ。
このシーンはライブビューでの撮影だが、非常に小さな範囲でピント合わせをするピンポイントAFに設定することで、水滴にしっかりとピントを合わせることができた。D850は像面位相差AF機能を搭載していないが、D810に比べてAFスピードはかなり改善され、シングルAFではスピード、精度ともに特に不満はない。
秋の訪れを感じさせるイメージで撮影した、夕日にきらめくススキ。目を傷めないようにライブビュー撮影を行った。
光が強い場面だが、AFは迷いなくピントを合わせてくれた。それも、画面内に強い光源を入れてもゴーストやフレアがまったく発生しないAF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VRのおかげだろう。太陽が口径食で欠けることなくしっかりと丸で描きたかったので、絞りはF4まで絞っている。
まとめ
現在のデジタル一眼レフカメラはこうあるべき、という完成形を見せつけたようなカメラだ。
D810はニコンの高画素を極めた満足度の高いカメラだが、D850はもはや“高画素モデル”という枠組みすら取り払い、写真という表現そのものを追求したカメラだと言えるのではないだろうか。
ミラーの有り無しがどうこうではなく、センサーサイズがどうこうではなく、写真を撮るための優れた1台のカメラとして多くの写真ファンに触れてほしいと思う。
「必要ない」を論じるのではなく、あること、できることを楽しく語れる。そんなカメラがD850なのだ。ニコンが100周年の年に生まれたD850は、ニコンの伝統と誇りを感じるとともに、カメラの次の時代が見えるような製品に仕上がっている。