インタビュー
ニコンD850(後編)
AFなど基礎体力も向上 効果てきめんの「自然光オート」WB
2017年10月31日 08:00
ニコンが9月8日に発売した「D850」の開発者インタビュー後編をお届けする。前編ではD850の商品コンセプト、秒間9コマ連写の条件、サイレント撮影のメリットなどについて聞いた。今回はAF周りの機能向上や、「自然光オート」「ネガフィルムデジタイズ」といった新機能について聞く。(聞き手・本文:杉本利彦 / 写真:編集部)
AFセンサーの-4EV対応=「暗めの月明かり」で使える
——3D-トラッキングのカスタム設定で、顔認識をONにするかどうかという設定があります。顔を優先してピントを合わせたい場合はオートエリアAFがありますし、3D-トラッキング時は最初のフォーカスポイントで顔を選べば以後は自動追尾することになると思うので、特に顔認識の設定が必要とは思われないのですが、この設定がある意図は?
馬島:これはポートレートなど、あらかじめ顔が被写体だとわかっている場合に顔認識をONにしていただくと、特に測距点の開始の設定がなくても、自動的に顔を認識して追尾します。ただし、顔がたくさんある場合はOFFにすることをお勧めします。
——なるほど、3D-トラッキングで最初の測距点設定が不要になるのは便利ですね。同じく3D-トラッキングのカスタム設定で、捕捉領域を「広い」と「標準」から選択しますが、この広さは何が基準ですか?
馬島:「標準」ではフォーカスポイントのエリア内の被写体を認識して追尾しますが、「広い」に設定するとフォーカスポイントの周辺領域を含めた、より広い領域の被写体を認識するということです。
——顔認識が可能なら、瞳を狙ってピントを合わせることはできますか?
原:今は瞳検出に対応できていません。実現にはまだ技術的な課題があります。
——中央の測距点は-4EVまで測距が可能ということですが、自然界で-4EVというとどんな条件でしょうか?
原:自然界での一例としては、暗めの月明かりなどです。
——MFを助ける「フォーカスエイド」のピント精度が一段と向上したとありますが、何がどう向上したのですか?
原:F値の明るいレンズで、よりピントが合う精度が高まったということです。
——具体的には、フォーカスインジケーターが合焦を示す範囲が狭くなったと考えてよいのでしょうか?
原:そういうことです。
——古いレンズでもフォーカスエイドは機能しますか?
原:機能はしますが、非CPUレンズではレンズ情報の伝達が全くありませんので、その場合は精度がそれほど高まらないことがあります。
——ライブビューのMF時にピーキング機能が追加されたのが嬉しいですね。検出感度は3段階で調節できるとありますが、これは具体的に何を調整するのですか?
原:検出感度は、1(低感度)、2(標準)、3(高感度)の3段階から選べます。低感度というのは"ピントをしっかり合わせないとピーキング表示しにくい"という意味で用いています。また、高感度はピントが合った部分のコントラストが低い場合でもピーキング表示が出やすくなるという意味で用いています。
——ピーキングは拡大しても有効なのはいいですが、拡大率を上げるほどわかりにくくなり、最大ではほとんど消えてしまいます。大きくして見たいときに機能しないのでは、あまり意味がないのでは?
原:拡大時は拡大した画像からピーキングの検出をしています。拡大していない状態と比べると検出しにくい傾向になります。これは原理的な問題なので、もしピーキングが出にくい場合は感度を上げていただくとよいと思います。
——ピントを変えた複数枚の画像を合成してパンフォーカスを得るという「フォーカスシフト撮影」機能に対応しました。合成の後作業には他社製ソフトが必要と書いてありますが、検索しても簡単に見つかりません。オススメのソフトがありましたら教えてください。
原:弊社で特に推奨するソフトウェアがあるわけではないのですが、「Photoshop」、「Helicon Focus」、「CombineZM」をお使いの方が多いようです。
測光センサーの仕組みとは?
——撮像センサーによるライブビュー技術と同様の技術が測光センサーでも応用できると思いますが(測光センサーのさらなる高画素化、顔認識、瞳認識、被写体追従、可能なら測光画像の背面モニター表示…など)、撮像センサーの画素数や機能は常時進化するのに対して、どうして測光センサーは進化が遅いのでしょうか?測光センサーならではの難しさはどんなところにありますか?
馬島:測光センサーというのはファインダー像を横から別の光学系で覗き見ているようなところがあって、ファインダーで見ている像と測光センサーで見ている画角や倍率は微妙に違います。おそらく、測光センサーの画像を背面モニターに映すこと自体は可能だとは思いますが、撮像センサーのようにチューニングされた画像ではないので、表示してもそれを活用できるかは微妙なところです。
——今回はより低輝度対応になったためNDフィルターをつけたままでも測光可能とありますが、ファインダーのアイピースシャッターを閉めなくても大丈夫ですか?
原:後方に強い光がある場合などは、閉めていただいた方が良いです。
——ライブビュー撮影時も、NDフィルターをつけた場合はファインダーのアイピースシャッターを閉めなくてはいけませんか?
原:基本的にはミラーが上がってファインダーからの光はイメージセンサーに届きにくくなりますが、ファインダーの後方に強い光があったり、高濃度のNDフィルターをお使いの場合は閉めていただいた方がより確実だと思います。
——ミラーボックスの上部に、フォーカシングスクリーンの留め金のようなものが見えていますが、これは将来ファインダースクリーンが交換可能になるということでしょうか?
馬島:この留め金はスクリーンを保持する部品ですが、スクリーンを光学上最適な位置に配置するための重要なものですので、ユーザー自身での交換などは推奨しておりません。なお、従来機種もほとんど全ての機種が同様の構成です。
気になる新機能について
——新しく加わったWBの「自然光オート」では、どんな効果が得られますか?
段家:自然光オートは、自然風景や屋外でのスナップ・ポートレート撮影などの自然光下で、より適切なホワイトバランスが得られるようにするため開発しました。従来のオートホワイトバランスでは、結婚式場やスタジオ、スポーツシーンなどのさまざまな人工光下でホワイトバランス制御を行う必要があり、一部の自然光シーンでは適切な色味にならない場合がありました。そこで、今回の自然光オートでは、思い切って人工光の制御をやめて、自然光のみに特化した制御を行うことにより、より精度が高く自然な色再現が可能になっています。
ここに作例を用意しましたが、従来のオートホワイトバランスでは制御が難しかった紅葉や木々の緑、夕日なども、見たときの印象に近い色で制御できるようになっています。
このように、従来のオートホワイトバランスでは難しかったシーンでより自然な色で撮影できるようになったのに加え、微妙な光源の変化に対応できるようになっています。従来は撮影環境に応じてマニュアルホワイトバランスで「曇り」や「晴天日陰」などを細かく選択していたお客様でも、設定の煩わしさから解放され、より被写体に集中していただけるメリットがあるのではないかと考えています。
——製品ページに夕日の作例があって、オート1(標準)と自然光オートの比較があり、自然光オートの方が赤く写っています。他に「オート2」(電球色を残す)、「晴天」があるとすると、赤くなる順番を教えてください。
段家:夕景シーンで赤みが残る順番は、「自然光オート」、「晴天」、「オート2」(電球色を残す)、「オート1」(標準)です。
——夕陽の場合、自然光オートでは晴天よりも赤く写るのですね。
段家:これまでホワイトバランス「晴天」では、夕景のシーンで緑がかってしまうことが多かったです。自然光オートは微妙な光源の変化に対応できますので、その微妙な緑も補正して、抜けが良く、よりその場の雰囲気を残すことができるようになりました。
——色味を強調しているというよりは、より好ましい方向にホワイトバランスを制御しているということでしょうか?
段家:そうですね。ホワイトバランス制御としては、脚色や強調などは一切行っていません。見たままのイメージを表現できるようにしているということです。
同じ夕景でも、日が沈んだ後の「マジックアワー」や「トワイライト」と呼ばれる時間帯に見られる紫からブルーにかけてのグラデーションのような美しい空の色の場合は、赤を強調するのではなく、青味や紫を綺麗に残した制御になっています。
——日没後の真っ暗になる直前の青っぽい光の時間帯でも、従来のオートホワイトバランスではグレーっぽく写ったわけですが、そこも見た感じに近く写るのですね。
段家:はい。この場合にホワイトバランス「晴天」では青が強くなってしまうのですが、そこまでは行かずに、オートホワイトバランスのようにグレーがかることもなく、バランスの良い綺麗な青味が得られるようになります。
——アンバー、ブルーの自然光補正はわかりやすいと思いますが、木々の緑の補正はどうなりますか?
段家:緑の多いシーンでも自然光オートは有効にお使いいただけます。緑のシーンは特に開発に苦労したシーンで、例えば新緑の緑、森の深い緑など、シーンに応じて緑にも色々な緑があると思います。撮影者の好みもそれぞれですから、そうしたことも含めて議論を重ね、どういった色が最適かを検討しつつ、最適なアルゴリズムを開発しました。ただ、先ほども申し上げた通り、色を強調したり脚色するようなモードではありませんので、"見たものを見たまま再現できる"ということを基本にしています。
——例えば、人口光源下で「自然光オート」撮影すると、蛍光灯や白熱灯の照明下ではどうなりますか?
段家:イメージとしては、ホワイトバランス「晴天」に近い色になると思います。人工光下では、通常のオートホワイトバランスをお勧めします。
ファインダー・液晶モニター・操作系
——ボタンイルミネーション機能対応は暗い場所での撮影で助かります。構造的にはD5等と同じでしょうか?
大石:D5と同じく内部に樹脂の配光路を設けて、ボタンの内側から照明できるようにしています。
——ファインダー表示は大きくなっていますが、アイポイントは同じですか?
馬島:はい、従来機と同じ17mmです。
——内蔵フラッシュがなくなりましたが、この理由を教えてください。
大石:PCレンズ(アオリ機構を持つレンズ)を使用したいという要望があったこと、外部スピードライトを装着時に、内蔵フラッシュのポップアップボタンに触れると途中までポップアップしてしまうという指摘もあり、今回は非搭載にしました。
——内蔵フラッシュのコマンダー機能の代わりに、電波制御のコマンダー機能が入ると嬉しかったのですが。
原:D5やD500同様に外部アクセサリーでの対応とさせていただきました。内蔵するとなると、電波を送受信する機能ですから金属外装の内部ではなく、プラスチックで囲われた外部スペースを確保する必要があるなど、色々とクリアしなければならない課題があります。
——スマートフォン連携の「SnapBridge」について。カメラにとってスマートフォンがライバルとされて久しいですが、Wi-Fi機能のあるカメラが、どうしてライバルのスマートフォン経由で通信しようとするのでしょうか?カメラに直接SNSなどにアップロードできる機能をつければすごく便利だと思います。
原:ダイレクトアップロード機能についてはいくつか課題があります。現時点ではSnapBridgeを利用してアップロードする対応としました。
——バッテリーが新しくなっていますが、進化点は?旧タイプとの互換性は?
大石:EN-EL15バッテリーには2種類の特性があることをすでにアナウンスしていますが、この2種類のうち、D500以降のカメラで性能をより達成しやすい特性のものを判別できるように外観変更し、名称もEN-EL15aと改めて採用しています。従って、容量等のスペックは変更がありません。
——EN-EL15aは旧機種にも使えるし、EN-EL15はD850にも使える完全互換という理解でよろしいでしょうか?
大石:はい。D850でEN-EL15を使用された場合、スペック表に書かれている撮影可能枚数は保証できませんが、動作上の互換性はあります。
——消費電力が少なくなっているようですが、D810と比べて静止画・動画それぞれどれくらい良くなっているのですか?
大石:CIPA基準で、D810は静止画約1,200コマ、動画約40分に対して、D850では静止画約1,840コマ、動画約70分の動作が可能です。電子回路の省電力化、電源回路の高効率化など、従来機から行なっている改善努力をさらに進めて実現しました。
——ライブビュー時のバッテリーの持ちについては、動画機能に準じるイメージですか?
大石:撮影条件にもよりますが、D810に比べ長時間動作が可能です。
——SDカード+XQDカードを採用していますが、XQDカードはメモリーカードメーカーの撤退がありました。D5のように、CFバージョンまたはSDカードのダブルスロットモデルは出ないのですか?
江口:今のところ考えておりません。
注目の機能について
——8Kタイムラプス撮影が話題になりましたが、動画のタイムラプス機能で8K動画を作れるのではないのですか?
江口:8Kタイムラプス動画に使用できる素材が撮影できるという意味ですので、直接カメラ内で8Kタイムラプス動画を作成することはできません。
——インターバル撮影時にサイレント撮影が可能になり、シャッター耐久を気にせず撮影できるとありますが、これはたくさんシャッターを切るユーザーには嬉しい情報ですね。ちなみに、高速連写の多用でなくても、シャッターは確実に消耗するのでしょうか?
馬島:1枚撮影でも連続撮影でもシャッターの動作自体は同じなので、消耗という意味では同じです。ただ、高速連写を繰り返すほうが機械の動作としては負荷がかかりますので、あえてどちらが有利不利かといえば、高速連写を繰り返す方が不利ということになります。
——シャッターの耐久性を長持ちさせる秘訣はありますか?
馬島:電子シャッターでのサイレント撮影をお使いになるのがよろしいかと思います。
——そうしますとサイレントシャッターが使えるときは使い、高速連写はなるべく避けるのがいいでしょうか?
馬島:高速連写を多用されても、20万回におよぶテストをクリアしていますので、それで不具合が起きるということはありません。その先まで使っても大丈夫かというレベルの話になりますと、やはり過酷な使用がないほうが持ちは良いと思います。
——RAW画像のカメラ内一括現像機能はいいですね。選択項目に全画像選択と日付選択がありますが、フォルダ選択があると便利だと思います。
原:これはかねてよりご要望の多かった機能で、高解像度のRAWデータをパソコンで現像すると時間がかかるということで、今回導入することになりました。フォルダ選択につきましては、ご意見として今後の課題とさせていただきます。
——フィルムスキャナーが生産終了してさみしい思いをしていましたが、新機能の「ネガフィルムデジタイズ」で再び古いネガフィルムをデジタル化できるようになりました。撮影の手順を教えてください。
服部:まず、D850にマイクロレンズ、フィルムデジタイズアダプターES-2、ストリップフィルムホルダーFH-4などを介してネガフィルムをセットしていただき、ライブビューを起動します。
「i」ボタンを押して表示される設定メニューの最後にあるネガフィルムデジタイズ機能をONにすると、ネガ像が自動反転されて、背面モニターにポジ像が表示されます。あとはフィルム位置を整えてシャッターを押せば、簡単にネガフィルム像をデジタル化できます。
従来もネガの複写まではできましたが、ネガ像を反転させるアルゴリズムはカメラ内に入っていませんでしたので、パソコンでの後処理が必要でした。しかし、今回はライブビュー表示の段階でポジ像になっていますので、そのままシャッターを切っていただければこのままデジタル画像として保存できます。
原:昔に撮りためたネガフィルムをなんとかデジタル化して残したいというご要望が少なからずあります。フィルムスキャナーは販売を終了していますし、フィルムスキャナーがあったとしてもスキャン作業は大変手間と時間がかかります。そこで、カメラでネガを複写するだけでデジタル化できないかということで実現した機能です。
この機能の良さは、リアルタイムでネガ像をポジ像に変換できますので、例えばHDMIケーブルでD850をテレビにつなげば、古いネガを鑑賞しながらデジタル化するなど、楽しみながら作業できるところにもあると思います。
——これはいい機能ですね。昔のネガフィルム資産を活かせることになりますし、これからネガフィルムで撮影しても、このセットがあれば手軽にデジタル化できますね。最初の設定ですが、ライブビューからiボタンだけでなく、メニュー画面からも入れるとわかりやすいと思います。これは、ピーキングの設定と2点拡大機能も同様です。
原:当初はメニュー画面に入れることも検討したのですが、見送りました。本機能は設定後すぐに使用する時は良いものの、設定後に次の撮影まで時間が経った場合、それを忘れたころに通常撮影でライブビューを起動したときにネガポジ反転像が表示されて、使いにくいことを想定しました。その都度メニュー画面に戻って機能をOFFにする煩わしさが考えられます。また、新機能でもありライブビュー撮影時に使用可能な機能なため、今回はiボタンの機能に搭載しました。ピーキングと2点拡大機能はライブビュー画面限定のやや特殊な機能なので、iボタンの機能としています。
——ネガフィルムデジタイズは、モノクロネガフィルムやポジフィルムにも対応していますか?
原:モノクロネガフィルムにも対応しています。ポジフィルムでもフィルムデジタイズアダプターES-2は同様にお使いいただけます。ただ、ポジフィルムの場合は通常撮影でデジタル化できますので、特にネガフィルムデジタイズ機能としては搭載していません。
——これまでもスライドコピーアダプターES-1がありましたが、フィルムデジタイズアダプターES-2はどこが違いますか?
大石:スライドコピーアダプターES-1はマウント済みのスライドにのみ対応していましたが、フィルムデジタイズアダプターES-2はストリップフィルム(6コマカットのフィルム)とスライドマウントの両方に対応していて、それぞれに使えるホルダーが付属しています。
デザイン、操作レイアウト
——D850のデザインコンセプトを教えてください。
馬島:駄肉を削ぎ落として、風格あるエモーショナルな造形を追求しながら、道具としての機動力を重視したデザインというのがコンセプトです。
——D5からジウジアーロのデザインを卒業したということですが、グリップ部分に赤いアクセントを入れたデザインは今後も継承されるのですか?
馬島:いまのところは継承する方向で考えていますが、今後の製品展開によってはまた変わってくることもあると思います。
——いっぽう新機軸のスタイリングとしては、ペンタ部分の内側に反ったカーブが印象的です。この造形は、例えばステレオマイクの音響などを考えてのことなのでしょうか?
馬島:スタイリングを重視してこうしたデザインを採用しています。湾曲部のスペースが形状もステレオマイクに効果的でしたので、この場所にステレオマイクを配置しました。
——ステレオマイクはデザインが決まってからこの位置に配置されたのですか?
馬島:そうですね。デザインと協議を重ねてこの配置となりました。ステレオマイクの配置は左右対称の場所で最も効率が良いので、最適な場所を探す上で、今回のデザインに対してはこの位置が最適であったということです。
——液晶モニターの部分は良く言えば頑丈に見えますが、もう少し薄型の方がスマートかと。
馬島:このクラスのカメラですとチルト式の液晶モニターも十分な強度が必要ということで、強度を重視してこのようなデザインを採用しています。
——操作ボタン類の配置は、D810を継承するというよりD5に近くなっていますが、これはD5との操作の共通性を重視したということでしょうか?
原:そうです。D5やD500と同様、D850はプロもお使いになる機種ということで、操作性を統一する意味でボタン配置を共通化しています。
——背面液晶モニター左側のボタン配置は、以前のモデルは周りのボディから一段低いところにボタンがあって誤操作を防止していました。今回はボタンの周辺部分が平面的で低くなっていてボタンは押しやすくなっていますが、誤操作が心配です。
馬島:今回は可動式の液晶モニターを採用していますが、先ほどの通り強度面での配慮からモニター部分が少し厚めになっていますので、この部分の高さを利用して操作ボタンの誤操作を防いでいます。
——拡大ボタンの横に小さな突起がありますが、これの意味は?
馬島:手で触るだけで、操作ボタンの中央に並ぶ拡大ボタンの位置がわかるようにした指標です。暗い場所など手探りで操作するときに効果があります。
——最後にお一人ずつ、ご担当箇所で"実はこんなところにも力を入れて開発した"とか、注目してほしい部分、この製品のアピールポイント、優れていると思う部分、おすすめの使い方など、コメントをお願いします。
馬島:こだわりを持って作ったところには、グリップ部分を挙げておきたいです。D850ではモノコック構造のボディを採用していないと申し上げましたが、実はD810の時よりもグリップ部分を深く作って、握りの感触をよくしています。グリップを深くするということは、以前その場所に配置していたものを移動しなければいけませんので、何か工夫をしなければなりません。そうしたところで苦労しました。
あとは、秒間9コマ・7コマの高速性を実現したところです。秒間7コマというと現在では「普通」とも言える連写速度ですが、このクラスの高画素機に載せるミラー駆動のメカニカルな部分なども、今回の苦労点でした。
江口:D810から大幅に進化しているカメラですし、プロダクトチームメンバー全員が頑張って実現した製品ですので、私としては「全部がお勧め」と言いたいと思います。
先日のファンミーティングで実際にD850を体験されたお客様からは、「グリップのホールディングがよくなったので、D810より軽く感じられる」というお声をたくさん頂きました。実際には30gほど重くなっているので、驚いたと同時に非常に印象に残りました。
カタログスペックも重要ですが、グリップの感触などは実際に触ってみないとわからない部分でもありますので、ぜひ一度実機を手にして、その感触を確かめて頂きたいです。
大石:高画素・高速化ということで、撮像素子の高速化だけでなく、最新の画像処理エンジンであるEXPEED 5や、XQDカードとUHS-II対応SDカードの採用によるシステム全体の高速化に特に力を入れました。高速連写についてもお使いいただければと思います。
原:製品仕様担当からのオススメポイントとしましては、D850は基本性能を向上させながら、新しい機能を色々と搭載したことです。例えば、サイレント撮影やネガフィルムデジタイズ、フォーカスシフト撮影などです。このような表現領域を広げる新機能を満載しておりますので、ぜひとも手にとって、ご自分の撮影フィールドで活用いただきたいと思います。
服部:画像設計としましては、今回D850は4,575万画素ということで、D810の3,635万画素と比べると約900万画素増えているのですが、その分の"鮮鋭感の向上"をアピールしたいです。また、一般的に画素数が増えると画素ピッチが狭くなるため、高感度ではノイズと鮮鋭感のバランスが難しくなるのですが、そのあたりもバランスよくチューニングできていると考えています。ぜひ実際にお試しいただき、画質面での表現領域の拡大の効果もご確認いただけたらと思います。
新しいネガフィルムデジタイズも、まだこれから認知して頂くことから始めないといけない機能ですが、こちらもぜひお使い頂きたいなと思います。
段家:今回、ホワイトバランスの自然光オートが初搭載なのですが、ホワイトバランスについては好みの部分も大きく、最適なアルゴリズムの開発はだいぶ苦労した部分でもあります。自然光オートはサンプルで見て頂いた通り、今までのホワイトバランス設定では撮影が難しかったシーンでも、より自然な色再現で美しい自然風景を残すことができるようになっています。ファンミーティングの会場や家電量販店などは人工光なので、その効果を確かめるのは難しい場合もありますが、自信を持っておすすめできる機能ですので、お出かけの際はぜひ自然光オートの設定で、たくさん綺麗な写真を撮っていただけたらなと思います。
あとおすすめの使い方としては、特に夕景のシーンで、自然光オートとD850からは夕日の赤味を強調できるようになったピクチャーコントロール「オート」を組み合わせていただければ、夕陽の赤味が強調された印象的な写真を撮影できますので、ぜひお試しください。
インタビューを終えて(杉本利彦)
D850の発表当初、画素数とコマ速が上がった以外は、一見あまり大きな進化がないように思えたが、実際にカメラを手にして使ってみると細かな機能の随所でD810から大きな進化を遂げており、さすがによくできていると感心するとともに、名称がD820ではなくD850になった理由にもうなづけた。
そう感じさせる機能の一つは、サイレント撮影機能だ。インタビュー中で聞いた像面位相差AFと共に、近い将来電子シャッターも常識になる日は近いと考えられ、まだ発展途上の技術とはいえ電子シャッターに対応してきたのは、少しでも最新の技術を投入しておきたいとする技術者魂の表れと見る。
D850のもう一つのポイントは、本文中でも語られている光学ファインダーの充実である。D5を超えるスペックまで実現してきたのには少々驚かされたが、この機種では敢えて最高の光学ファインダーを作っておきたかったのかもしれない。
というのもニコンは近い将来、Nikon 1より大きいフォーマットのミラーレス機をリリースする方針をアナウンスしているが、もしニコンがその機種に最新のハイテク技術の集約を本気で狙うのであれば、当然ソニーのα9に並ぶかそれを上回る機能のカメラになるはずだと勝手に予想している。それをきっかけに、ユーザーは一眼レフからミラーレス機へドラスティックに移行することになるかもしれない。そうなれば、思えばD850は最後の光学ファインダー機であったと振り返る日が来るかもしれないと思うからだ。
将来の妄想はさておき。現実に戻ってニコンユーザーに「今、一番ニコンらしくて、オススメのカメラはどれか?」と聞かれたら、D850と即答するだろう。100周年のネームこそないものの、ニコンの創立以来100年間のカメラづくりの技術とノウハウを全て総括するモデルは何を隠そう、現時点でこのモデルをおいて他にないと思えるからだ。