ニコン D850×NIKKORレンズ 写真家インタビュー
編成から風景まで、あらゆるシーンへの幅広い適応力が魅力/鉄道写真・助川康史さん
D850 × AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR
2018年7月27日 12:00
昨年9月に発売され、2017年のカメラシーンを席巻したニコンD850。発売当初から人気のあまり品薄状態が続き、予約から入手できるまで半年かかるという話もあったほどだ。
そんなD850を愛機とする写真家たちにインタビューを敢行。写真家になったきっかけ、写真への考え方、そしてD850の魅力などを、毎月1名ずつ登場してもらい、存分に語ってもらう。
第1回目の山村健児さんに続いて登場するのは、鉄道雑誌でおなじみの助川康史さんだ。D850で撮影したという写真展「鉄路彩々 The Gallery 2018」を開催中の助川さんに、D850とニコンの魅力、そして超望遠ズームレンズ「AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR」について聞いた。
助川康史
1975年東京生まれ。秋田経済法科大学法学部、東京ビジュアルアーツ写真学科卒業後、鉄道写真家の真島満秀氏に師事。鉄道車両が持つ魅力だけでなく、鉄道を取りまく風土やそこに生きる人々の美しさを伝えることをモットーに日本各地の線路際をカメラ片手に奮闘中。鉄道ジャーナルや鉄道ダイヤ情報などの鉄道趣味誌や旅行誌の取材、JTB時刻表(JTBパブリッシング)やJR時刻表(交通新聞社)などの表紙写真を手掛ける。またJR東日本などの鉄道会社のポスターやカレンダー撮影も精力的に行っている。日本鉄道写真作家協会(JRPS)理事。(有)マシマ・レイルウェイ・ピクチャーズ所属。
編成も風景もイメージも、鉄道写真ならなんでも好き
――まずは写真家になったきっかけをお聞かせください。
子どものころに読んだ小学館入門百科シリーズの1冊、『鉄道写真教室』ですね。著者が有名な真島光秀さんだったんです。それがきっかけで鉄道写真を撮り始めました。それまで絞りとシャッター速度の関係、高感度フィルムの役割などを、子どもにわかりやすく説明した本はなかったんです。
鉄道自体はもっと小さい頃から好きで、2歳くらいの時、泣いていても踏切のそばに連れて行くと泣き止んだそうです。その頃から「鉄ちゃん」でしたね(笑)。
――撮影場所はどのように探しているのでしょうか?
有名撮影地はだいたい知っていますが、最近はインターネットでも下調べをします。Googleマップで光の方向、位置、背景などの目安をつけてから行きます。慣れている路線ならその場でなんとかできますが、初めての路線はわかりませんから。その路線の歴史も調べます。
――歴史を調べるのはなぜでしょうか?
例えば軍用基地に駅が建てられたとすると、その面影が残っている場合があります。そういう面影が作品に行かせることがあります。
――ネットが普及する前だと、撮影地を探すのもひと苦労だったと想像しますが……
基本的に鉄道雑誌以外、方法がなかったですね。沿線を10km以上歩いて撮影ポイントを探したこともありました。自転車で60kmくらい走り、帰りにパンクして自転車屋さんまで押して歩き、ようやく着いてもお店が閉まっていて、翌日また遠く離れたその場所に取りに行くなんてこともありました。
――そんな苦労をしてたどり着いても、電車が走る時刻と夕暮れなどのタイミングが合わない、ということも多そうです。
それも当然あります。いまなら時刻表と日の出・日の入アプリを照らし合わせることで、「この時期にここに行けばこういう絵が撮れる」とシミュレーションできます。季節によって太陽の角度は違うので、夏は無理でも秋なら夕日と一緒に撮れる、という場所はあります。そこまで考えてからGoogleマップですね。ストリートビューを使えば電柱の位置や画角の想定もできます。
――とはいえ、行ってみたらイメージと少し違うことも多いのでは?
その方が多いですね。思った通りにハマる場所はなかなかありません。少し離れたらもっといい場所があったこともザラです。それでも下調べは欠かせません。
私が撮影教室などで常にいうのは、「どこで撮るかではなく、どう撮るか」ということです。誰でも行けて誰でも気軽に撮れる場所でも、その中できれいな作品に仕上げられるかどうかは違います。
――新幹線やSLなど、一口に鉄道といってもさまざまな車両があります。助川さんが好きな車両は?
新型車両が好きですね。新幹線や特急列車です。子どもの頃から変わってません。自分の鉄道写真の根幹は「列車をカッコ良く撮る」ことです。最新鋭のデザインで作られた車両をスタイリッシュに撮る。これが好きですね。
ただ、古い車両が好きではない、ということではありません。子どもの頃はローカル線や普通列車はつまらないと思っていましたが、年齢を重ねると趣向は変わってきました。
――車両によって撮り方も変わるのでしょうか。
変わりますね。私は編成写真が得意なので、会社では「編成部長」と呼ばれているんです。編成写真とは、車両の先頭から最後尾まで、すべてが収まっている写真です。鉄道写真の王道ですね。
先頭が流線型になっている車両で編成写真を撮る場合、広角レンズか標準レンズを使います。通勤電車のように頭が四角になっている車両は、中望遠から望遠で撮影します。
アングルにもこだわります。新幹線のような流線型の場合は、上方向から撮る方がかっこいいです。しかも望遠で狙うとスマートさが出ない。
また、車両の数でも焦点距離は変わります。長い列車なら200mm以上の望遠でもカッコ良く撮れますが、1両編成などの短い車両では寸詰まりになって見栄えが良くありません。2,3両の編成なら遠近感を出すために50〜70mm、1両なら80mm程度で横から狙うのがいいです。とにかく列車がかっこよくなる角度ですね。
――事前に「今日はこの撮り方をしよう」とシミュレーションするのですか?
ひとつの撮影地で撮れる写真が何パターンになるか考えます。大抵は「編成写真」「流し撮り」「鉄道風景」「イメージ写真」の4つです。「この場所で編成を抑えて、次に移動して流し撮り、ここでは風景を撮り、最後にここでイメージをおさえる」といった具合です。
天候によっても変わりますね。晴れたら風景はいいものが撮れるでしょうし、曇ったら流し撮りと編成だけにする場合もあります。
――移動も大変なのでは?
列車の運行に合わせての移動ですので、列車が来る直前、ギリギリに撮影地へ到着することもよくあります。ヘッドライトが見えている中で焦ってカメラを取り出す感じです。「落ち着け」と自分に言い聞かせながら準備しています。焦って走ってたら肉離れを起こしたこともあります(苦笑)。
――助川さんが特に好きな路線は?
大湊線ですね。あと、能線も好きです。どちらも海に夕日が沈む路線として有名です。列車を待つ時間は長いでが、波の音を聞きながら待つ時間が落ち着くんです。
シビアな性能が必要な鉄道写真
――ニコンを使うようになった理由は?
仕事で首相官邸の公式撮影を担当していたとき、用意されたカメラがニコンでした。それ以来の付き合いで、ニコンのカメラは相棒という感じがしますね。自分が撮りたい絵をそのまま表現してくれます。カメラの味付けがよく、カメラ任せの部分が多いです。特に画像処理エンジンが現在の「EXPEED 5」になってからは、さらに満足度が高まりました。エラーも出たことがありません。堅牢製も信頼できます。
――カメラに求めることを3つ挙げると?
連写性能、解像力、AF精度ですね。列車をどの位置に配置するか重要なので、連写はよく使います。AF-Cにして、フレーミングを調整しながら連写し、その中から気に入ったカットを選ぶ、という流れですね。
鉄道風景でも意外と連写します。列車を配置する微妙な位置の違いが重要で、それを数で補うのです。
――撮影枚数もすごいことになりそうですし、メモリーカードにもこだわりがあるのでは?
はい、XQDカードしか使わないです。サイズは256GBです。1枚でも多く連写したいので、XQDのように書き込みが高速なカードが理想です。D850ほどの高画素機になると、1枚あたりの容量も大きくなるので、余計に書き込み速度は大切に感じています。
――RAW現像はされているのでしょうか?
車両の暗い部分が潰れるのをきらい、コントラストを下げる方向で現像します。シャドウを上げ、ハイライトをねかせます。とはいえ、それ以外に大きく変化させることはしません。基本は撮影時に完成させるように心がけています。
シャドウは潰したくないのですが、色は鮮やかにしたい。そのため、ピクチャーコントロールは「ビビッド」にしています。鉄道写真はどこかでコントラストがきつくなる部分が出てきます。逆に言えば、RAW現像で彩度をいじることはほとんどなく、むしろ落とすこともあります。
また、撮影時には「アクティブD-ライティング」も必ず使います。最低でも「Low」にして、シャドウ部の黒つぶれを防ぐのです。
写真のイメージは現場で固めることがほとんどです。RAW現像を前提に作ることはありません。基本的には現場主義です。下調べはしっかりしつつ、現場でどこまで対応力を出せるかです。
反対に、基本に忠実な上で、少しのアレンジも加えるようにしてきました。「基本」とは編成写真のことです。何事も同じだと思いますが、基本がないのにアレンジをしようとしてもアラが出ます。編成がわかって、どの角度からどんな画角で撮ればカッコいいのかを考えた上で、風景やイメージ写真もアレンジとして加えていくのです。
――今使われているD850の感触はいかがですか?
D800以来の衝撃を受けました。久々にすごい機種がきたなと。さらにいうと、鉄道写真に向いているんです。高画素で連写ができる、これこそ鉄道写真のためにある機種ではないかと思うくらいでした。動きものを撮るには本当に向いていると思います。Li-ionリチャージャブルバッテリーEN-EL18a/b/cを装着したマルチパワーバッテリーパックMB-D18を使用すると、最高約9コマ/秒の連写ができるところも心強いです。
――D850のAF性能はいかがでしょう。
D500と同じAFシステムで、AF-Cでもしっかり追ってくれます。向かってくる車両にはヘッドマークにピントを合わせ続けるのですが、十分な性能を持っています。
――過酷な環境で撮影されることも多いので、防塵防滴仕様であることも心強いのでは?
おっしゃる通りです。海沿いで撮影すると潮風に当てられたりもしますけど、まったく問題ありません。冬の海沿いなどは本当に過酷ですからね。これだけ頑丈なのは助かります。
――撮影の設定を大まかに教えてください。
露出モードはほぼマニュアルです。シャッター速度優先を使うときは、列車の中から車窓を撮るときはシャッター速度優先AEにします。露出条件が次々と変わるからです。
ホワイトバランスは、基本的に「晴天」、夕暮れで赤を強調するときは「曇天」、空の青さを出したいときは4500Kですね。暗くなってきたときは「AUTO 0」です。D850から搭載された「自然光AUTO」も使いますよ。夕暮れを逆光で撮影するとき、空の青さと太陽の赤さのメリハリが出るんです。「曇天」だと、青い部分まで赤くなるので。
――操作性で気に入っているところはありますか?
夜間撮影が多いので、ボタンイルミネーションでダイヤルやボタンが光るのは助かります。以前はペンライトでカメラを照らしながら操作していましたから。
――ファインダーやライブビューはどうでしょうか。
基本的にはファインダーで撮影してライブビューはあまり使いません。ファインダーは見易いですね。ライブビューを使うのは三脚を使用した際、拡大してピントを合わせるときくらいです。ただ、タッチパネルはありがたいので、AFを合わせるところまで使うことはあります。
――バッテリーの持ちはいかがでしょうか?
マルチパワーバッテリーパックMB-D18を常用しているからでしょうが、まったく問題ないですね。極寒の中で撮影しても2日持ちますし、酷暑でも変に暑くなったりしないです。
――他には何かお気に入りの機能などはありますか?
AF-Cでの撮影がメインですが、AF-Sのときはサブセレクターにレリーズを割り当てて、親指AFにしています。逆に、動体撮影時にAF-Cを使う場面では、親指AFは使いません。親指を押しながら人差し指でシャッターを押すのが負担になるからです。それはデフォルトですね。こういった使い分けを現場に着いたら即座に切り替えられるよう、カスタムメニューに登録しています。
AFエリアはダイナミックを使っています。被写体によって25点と72点を使い分けています。153点やグループは使いません。広すぎるとピントを追う場所がずれてしまうので。
対応力が高く、画質も良好
――AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VRについて聞かせてください。
超望遠撮影がズームでできる。これにつきます。鉄道写真は制約が多く、自分が移動できないので単焦点レンズはあまり向きません。線路や民家・私有地には入れませんし、一歩進んだら谷になっていて、ギリギリのところから狙うことも多い。後からトリミングもしたくないので、撮影現場できっちり追い込めるズームレンズが助かります。このレンズは遠景を切り取る上での自由度がとても高く、制約を乗り越える力を貸してくれます。
画質も良く、色がニュートラルで、輪郭がシャープです。周辺画面の歪みといった収差も目立ちません。また、鉄道写真の場合、車両のヘッドライトでゴーストやフレアが出がちなのですが、このレンズで気になることはありません。すべての焦点距離で目立たないというのも助かりす。高級レンズで使われているナノクリスタルコートがないのにも関わらず、です。
唯一の難点は、大きくて重いことですが、200-500mmという焦点域を考えると仕方がない。そのデメリットを補ってあまりあるレンズです。運動会にこのレンズがあれば最高だと思いますよ。
――(写真展の会場で作品を見ながら)それにしても、とてもきれいに解像していますね。
今回の写真展ではB0サイズのプリントも展示したのですが、とてもきれいに仕上がりました。ボケも滑らかな表現にしてくれるので、他の高級レンズと比べても遜色ありません。
――開放F値がF5.6ですが、その辺りははいかがですか?
D850ならISO3200程度まで問題なく使えるので、まったく苦にならないです。ズームさせるとF値が動いてしまうレンズよりも、よほどありがたいですね。
――D850、そしてAF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VRについてお聞きしてきました。機材の進化により、助川さんの鉄道写真の作品撮りやお仕事において、より撮影に集中できる環境が整ってきた印象でしょうか。
その通りです。機材が便利になるということは、誰でもいい写真が撮れるようになることでもあります。しかし自分は「より高度な条件で撮影できるようになった」という感覚を持っています。心配が少なくなり、より表現に集中できるようになった、それがいまの装備だと思います。
助川康史さんの写真展「鉄路彩々 The Gallery 2018」が開催中
助川康史さんの写真展「鉄路彩々 The Gallery 2018」が開催中だ。本稿でも話題になったD850で撮影された作品を中心に、助川さんが魅了された四季の彩り、鉄道が織りなす光景の空気感、そして匂いまでをも写した作品が展示中。B0サイズの大迫力プリントも飾られている。
THE GALLERY 新宿2
2018年7月17日(火)〜2018年7月30日(月)日曜休館
10:30〜18:30(最終日は15:00まで)
※トークイベント:7月28日(土)
THE GALLERY 大阪
2018年10月25日(木)〜 2018年10月31日(水)日曜休館
10:30〜18:30(最終日は15:00まで)
デジタルカメラマガジン連載「ハーモニクスタイル」にも助川さんが登場
デジタルカメラマガジンの連載「ハーモニックススタイル」では、D850を愛用する写真家がテクニックを披露。デジカメ Watchとも連動し、最新の2018年8月号では、助川康史さんが執筆を担当しています。ぜひご覧ください。
制作協力:株式会社ニコンイメージングジャパン