ソニー フルサイズミラーレスα7 IIIの実力をジャンル別に検証

【鉄道編】FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS × α7 III

最新ズーム+フルサイズミラーレスが実現する鉄道写真の世界

撮影:山下大祐
α7 III / FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS / 600mm / マニュアル露出(1/2,000秒・F8) / ISO 200

デビュー依頼“規格外のベーシックモデル”として評価の高いソニーのフルサイズミラーレス「α7 III」。そして今年6月の発表以来、望遠域での撮影を必要とするユーザーから熱い視線を浴びている交換レンズ、ソニーEマウントの超望遠ズームレンズ「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」。

飛行機撮影を通じてこの2つの組み合わせを紹介した前回の記事に続き、今回は鉄道写真家の山下大祐さんに作品を撮ってもらった。600mmという焦点距離とフルサイズミラーレスの性能は、鉄道写真にどのようなインパクトを与えるのだろうか。(編集部)

山下大祐

1987年兵庫県出身。日本大学芸術学部写真学科卒業後、フリーランスのカメラマンとして活動する傍らロケアシスタントで多様な撮影現場を経験。2014年からレイルマンフォトオフィス所属。鉄道会社の広告・カレンダーや車両カタログ、カメラ広告、鉄道誌のグラフ等で独創性の高いビジュアルを発表している。日本鉄道写真作家協会(JRPS)会員。αプラザ写真展「鉄路の瞬(またたき)」札幌・大阪・名古屋、個展「SL保存場」富士フォトギャラリー銀座(ともに2018年)、αプラザ写真展「鉄道+α」福岡、αプラザ巡回展「鉄道の美しいところ」大阪・福岡・札幌・名古屋(ともに2019年)※名前の「祐」は示に右


FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS
α7 III

鉄道写真における「600mm」の必要性とは

車両全体の色や形を伝えるための写真であれば、300mm程度までで撮ることが望ましいとされるが、ではなぜそれ以上の焦点距離が必要になるのだろう。近づけない被写体を遠くから大きく捉えるため? ――確かにそれもひとつある。でもそれだけではない。

鉄道を題材に作品をつくる時の、伝統的な鉄道写真のセオリーやルールはひとまず置いておこう。連なる車両をギューッと圧縮し編成のうねりを表現するにはより長い焦点距離のほうが迫力が増すだろうし、世界観を崩さないよう背景を限定した画づくりをするためにはより狭い画角の方がいいだろう。というように、伝えるべきことが被写体の色形だけにあるわけではないからだ。

FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSは取り回ししやすいコンパクトな大きさのズームレンズでありながら、焦点距離600mmを実現してくれる。この600mmという焦点距離により300mm程度のズームレンズでは得られない、別次元の表現が可能になるのだ。

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最初の写真は、貨車を牽く機関車の前面部にフォーカスした作品。4つのライトと車両ナンバーが印象的に見えるよう輪郭はフレームアウトする大きさで捉えることと、背景に見える貨車の面積を増やすことを念頭に、被写体との撮影距離・レンズ焦点距離を選択している。

焦点距離の短いレンズで撮ったとしたら、背景の貨車が小さくなり、必要以上に空や建物が見えてくるので好ましくなかったためだ。

α7 IIIが描く車両のディテールと階調は、さすがフルサイズといえるクオリティ。掲載した作品はすべてα7 IIIで撮影したものなので、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSの描写とあわせ、その実力をじっくり見てほしい。

撮影:山下大祐
α7 III / FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS / 500mm / マニュアル露出(1/500秒・F10) / ISO 400

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次の写真はなんとなくイラストのような不思議な印象を受けるのではないだろうか。グレーのバック紙の前でブツ撮りされているかのような車両の描写である。しかしこれは紛れもなく高速走行する新幹線の先頭部をベストタイミングで写し止めた写真なのだ。写し止めること自体は、α7 IIIの高精度なAF性能とボディ、レンズの双方に搭載された手ブレ補正の賜物でもある。

さらにこの写真を不思議に見せているのは、車両自体の露出と背景の空の露出が大きく異なっていることにある。本来は曇り空の明るさより反射光でみる物体の明るさの方が暗いはずなのに、遠方の厚く暗い雲だけを背景に限定することでそれが逆転しているのである。600mmまでの焦点距離と「α7Ⅲ」のクロップ撮影を駆使すれば、そんな緻密に意図した表現も実現可能だ。

撮影:山下大祐
α7 III / FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS / 900mm相当(クロップ) / マニュアル露出(1/5,000秒・F6.3) / ISO 3200

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今度はディフューズされた光ではなく、よく晴れた早朝に半逆光の条件で撮影した。光沢のある車両に写り込む光を印象的に捉えるため、光の当たらない山を背景に選択して超望遠で切り取っている。鉄道写真ではメインの被写体の状態ももちろんだが、このような背景の限定が、写真の印象を大きく左右すると考えている。

撮影:山下大祐
α7 III / FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS / 600mm / マニュアル露出(1/2,000秒・F8) / ISO 200

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ズームレンズであることの利便性

鉄道写真のフィールドにおいては立ち位置の制約は必至。離れたら余計なものが入り、近付こうにも限りがある。そのことから、ズームレンズの優位性が求められる撮影ジャンルでもある。

FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSは、フルサイズEマウント用としてこれまでなかった望遠〜超望遠域を無限遠にカバーするレンズだ。決められた立ち位置から欲しい風景だけを目一杯切り取るなど、広いズーム幅を使って自分の意図を作品により強く反映できるのだ。

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山の上の展望施設から屋並みが広がる眼下の風景を切り取った。住宅の瓦屋根がたくさんあるように見せたいので、極力引いて列車を小さくしつつ、雰囲気を崩すような背の高い建造物は画面から外している。見せたいものと見せたくないものの最大公約数的フレームングである。600mmの超望遠撮影だけでなく、広角側200mmまでをカバーするズームレンズであることがこういうところに生かされる。

撮影:山下大祐
α7 III / FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS / 220mm / マニュアル露出(1/1,000秒・F8.0) / ISO 200

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とある駅舎、私の好きな改札口に正対したアングルを狙った。目いっぱい駅舎から距離を置き、収まり良くなるようズームで画角を調整した。改札を通る乗客に目線が行くように絞りは開放近くに設定、光が差し込む時間の列車を待つ。そして思い描いた情景が訪れたときにシャッターを切る。α7 IIIの高速なAFで捉えたピントは、シャープな女性のシルエットを描写していた。

撮影:山下大祐
α7 III / FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS / 234mm / マニュアル露出(1/1,000秒・F6.3) / ISO 400

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FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSはインナーズーム方式を採用している。つまりズーミングによる全長の変位がない。コンパクトなサイズながら安定した重心のバランスで取り回せることもメリットではあるが、さらに言えばズーム操作が指先だけで扱えてスムースに調整できることが嬉しい。おかげで露光間ズームと流し撮りを組み合わせた「ズーム流し」にも最適なレンズになっているのだ。動画撮影にも向いている。

撮影:山下大祐
α7 III / FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS / 415mm / マニュアル露出(1/40秒・F16) / ISO 100

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圧縮効果・ボケ

圧縮効果と大きなボケは望遠レンズがもたらす重要な効果だ。鉄道写真では車両の編成美を表現するのに圧縮効果を用いたり、線路端のスナップで車両をアウトフォーカスにしたりと、望遠レンズで工夫できる表現は無数にあると言っていい。焦点距離200〜600mmでの撮影が可能なFE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSは、こうした表現を得意とするレンズといえる。

また、今回はレンズの開放絞りを用いて被写界深度の浅い状況を多く試したが、クセのないボケ味は明暗を綺麗なグラデーションで描写しており十分満足のいく結果だった。11枚の絞り羽根による円形絞りにより、玉ボケも自然な描写だ。フルサイズセンサーならではのボケの大きさ、諧調表現の豊かさも底力としてそれらを増長する役割を果たしている。

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昇りはじめた朝日が徐々に地面を照らしていく。背景は山影の闇の中、普段は排除してしまいがちな架線柱に役割をもたせて新幹線は控えめに捉えてみた。肉眼で見るとわずかな曲線でも、こうして柱の連続を圧縮すると急曲線のように見えてくるからおもしろい。

撮影:山下大祐
α7 III / FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS / 576mm / マニュアル露出(1/1,250秒・F8.0) / ISO 400

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開放絞りで手間から2両目の貨車の車体表記にピントを合わせた。こうして奥行きの面をナメるように狙うことで、ピント位置以外は大きくボカすことができる。わずかにカーブを切るような線形でも動きや躍動感が出るのでオススメだ。決して大口径と呼べない開放値でも、工夫次第で大きなボケを楽しむことができる。

撮影:山下大祐
α7 III / FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS / 600mm / マニュアル露出(1/500秒・F6.3) / ISO 320

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うっすら白いベールがかかったような描写はソバの花畑をつかった前ボケ。地面伝いにカメラから離れるほどボケ量の小さな花びらが写っている。

このようにボケの中にボケが重なるような幻想的なボケ描写もFE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSの開放絞りで十分可能だ。

撮影:山下大祐
α7 III / FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS / 571mm / マニュアル露出(1/2,500秒・F6.3) / ISO 1600

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描写力・逆光耐性

EDレンズと非球面レンズが各収差の補正に使われていることもあってか、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSの解像感はズーム全域でまったく不安なしだ。陽炎下でもその描写の良さは感じることができたし、ソニー自慢のナノARコーティングの採用もあってか、逆光での描写もクリアそのものであった。

レンズ内光学式手ぶれ補正機構の搭載や、1.4倍・2.0倍の2種類のテレコンバーターにも対応と、必要と思われる性能は揃っていながら描写性能もズーム全域でレベルが高いとなったら、これは随分とリーズナブルに思えてならない。

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セメント運搬用貨車の鋼の車体をクローズアップした。長き使用と経年が鉄板にちいさな凹凸をつけ、一朝一夕ではつくり出せない質感を擁している。ちょうど降ってきた雨粒とともに、車体の質感を伝えるに十分な解像感が得られた。近距離とはいえ手持ちでの撮影なので手ぶれには気を使うところだが、そこは手ぶれ補正がバッチリ働いてくれたようだ。

撮影:山下大祐
α7 III / FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS / 275mm / マニュアル露出(1/160秒・F11) / ISO 800

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翌日が快晴という夕刻、瀬戸大橋を真横から非常に遠景に見ることができる場所に来た。予想通り夕日が綺麗に光の道をつくっていた。テレでアップか、引いて風景を生かすか。ズームを右に左に回しながら思案した挙句、引きを選んで撮った一枚だ。その時は夢中で気がつかなかったが、きびしい逆光の状況でも乱反射の少ないクリアな画を残してくれている。

撮影:山下大祐
α7 III / FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS / 264mm / マニュアル露出(1/3,200秒・F11) / ISO 100

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AF・連写

α7 IIIの連写は最高10コマ/秒で、α9系を除くフルサイズEマウントαでは最速タイの数字である。しかもAF/AE追従させながらの連写が可能だ。鉄道を撮りなれている方なら、それがどれほど頼もしい数字か察しがつくだろう。私も連写「H +」が基本設定である。AFの方はというと、測距点の多さと密度、そのエリアの広さが効いているのか上位モデルと比べても勝るとも劣らない正確性だった。

FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSのレンズ駆動もほぼ無音でリアクションのいいもの。GマスターレンズのFE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSSと比べても、AFスピード・精度の違いをそれほど感じずに使用することができた。

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少数派となってきた白い700系新幹線。「ひかり」号として白い700系が走るのは早朝と夜間の2列車だけである。そんなレア度の高い列車をAF-CのロックオンAFで追従。ピントを追いながら連写で撮った。ロックさせるのは運転席の窓枠がいいだろう。

高速で迫り来る被写体を大きく捉えるとなると、AFにとってかなり酷な状況と思えたが、期待以上の能力を見せてくれた。

撮影:山下大祐
α7 III / FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS / 600mm / マニュアル露出(1/2,000秒・F7.1) / ISO 250

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高感度性能

今回は全ての写真をα7 IIIで撮りおろした。ソニー曰く、フルサイズEマウントαにおけるベーシックモデルであるが、画質、スピード、機動性、スタミナにおいてベーシックの枠を上回る高水準なスペックをもっている。そしてそれらは鉄道写真にとって力強い味方になる。車体を美しく滑らかに描き出す描写性能、迫りくる被写体を撮影するのに不可欠な高精度なAF性能、撮影地を移動する時や撮影ポイントに制約がある場合に差が出るシステムの大きさや重さ、一日中撮影をする中で必須になるバッテリー性能。ミラーレス専用設計のFE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSとの相性も、作品作りに必要な描写力やAF性能だけでなく、システムとしての大きさと重量についても非常に好印象だった。

ベーシックモデルのα7 IIIだが、高画素モデルのα7R系列に比べて優位な点もある。像面位相差測距点が多いほか、高感度性能が良い点だ。私の主観ではISO 12800程度までは十分に常用として使用できるレベル。高速シャッターを最優先せねばならない鉄道撮影らしいシーンでも、日没時間まで粘って撮影することができた。

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このページ冒頭の作例を撮影したあと、背景の空の変化に期待して日没時間まで撮影。高速シャッターは妥協できないため露出の低下に伴って感度を上げていきながら列車を待った。列車を切り取る位置が偶然に左右される撮影だが、造形によるトーン変化がおもしろい部分を切り取れた。高感度でもこの質感を表現できるかぎり使用に躊躇はない。

撮影:山下大祐
α7 III / FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS / 600mm / マニュアル露出(1/4,000秒・F6.3) / ISO 6400

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まとめ

FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSはまさに「鉄道レンズ」であると思う。というのも鉄道写真は立ち位置の制約から逃れられないジャンル。ここ、と決められた場所からフレーミングを調整しなければならないことが多いからだ。だからこそ、焦点域の広いズームレンズだとうれしい。その上で描写性能や大きさ・重さも納得のいくレンズなら文句ない。

そうした考え方で選ぶレンズの代表格が、例えば100-400mmクラスのレンズがだが、さらに長いレンズが欲しくなるのが鉄道写真。そのニーズにピタリとくる「鉄道レンズ」というわけだ。描写力も操作感もこの価格からは信じられないほど高水準である。果して本当にこの性能でGレンズにしておいて良いのだろうか。

組み合わせて使用したα7 IIIの実力も十分。フルサイズらしい階調性は、様々な光の表現を伴う鉄道写真のニーズに応えてくれるし、AFや連写性能についても十分なものだ。α7 IIIとFE 200-600mm F4 GM OSSは、鉄道写真を手軽に、それでいて本格的に楽しみたい人におすすめできる組み合わせだ。

制作協力:ソニーマーケティング株式会社

山下大祐