ソニー フルサイズミラーレスα7 IIIの実力をジャンル別に検証
【飛行機編】FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS × α7 III
超望遠ズーム & “規格外のベーシックモデル” α7 Ⅲの実力は?
2019年10月10日 12:00
「α7 Ⅲとこの超望遠レンズは、これから飛行機撮影を本格的に始めたい人におすすめしたい組み合わせ」……航空写真家の佐々木豊さんは語る。
デビュー依頼“規格外のベーシックモデル”として評価の高いソニーのフルサイズミラーレス「α7 III」。そして今年6月の発表以来、望遠域での撮影を必要とするユーザーから熱い視線を浴びている交換レンズが、ソニーEマウントの超望遠ズームレンズ「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」だ。取り回しやすい焦点域・サイズでありながら、このクラスにしては珍しく、ズーミング時に全長が変化しないインナーズームである点も見逃せない。
この両機の組み合わせの画質や使い勝手はいかに?佐々木さんに旅客機を撮影してもらった。(編集部)
佐々木豊
1966年京都府生まれ。これまでモータースポーツや様々なスポーツ競技を撮影。雑誌などに作品を発表。その経験を活かし、現在は航空機撮影を主に行う。月刊エアライン、ヒコーキ写真テクニック(イカロス出版)や同社カレンダーなどにも作品を提供。どんなシーンでも自分独自の視点とエッセンスをちりばめることに主眼を置いて撮影に挑む。伊丹空港を中心に全国各地の空港で活動。日本航空写真家協会(JAAP)準会員。
600mmならではの迫力を手軽に
普段、飛行機を撮影する場合、私は600mm F4の単焦点レンズを使用している。なぜ600mmかと聞かれると、実質これ以上の焦点距離で高画質なレンズがないからと言うのがその理由。600mmの画角が身についてしまっているため、どこの空港でも600mmの視点で見る癖がついている。600mmで撮影できればより被写体を引き寄せることができ、迫力ある絵につながる。日常の世界ではなく、600mmで非日常の世界を作り出す。撮影するのは難しいこともあるが、工夫を凝らす分、普段とはまた違った世界観が広がる。
600mmのレンズというと一般的に大きくて重く、さらに高価で手が出ない、と思われる方も多いと思う。しかし今回使用したFE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSは、それを全て良い意味で裏切ってくれた。
例えばレンズの全長は31.8cm、重量が2㎏と少し。これは画期的なサイズだと思う。ちょっとした遠出の際に持って行こうかと思うくらいのサイズに収まっている。普段超望遠の単焦点レンズを使いこなしている方なら拍子抜けするほどコンパクトに感じるだろう。100-400mmクラスのレンズに対しては、一回り大きくしたサイズと思っていただいて良い。しかも画質は素晴らしく良く、機材を減らしたい遠征などでは、メインレンズとしてこれ1本で十分に撮り切れてしまうほど性能が良い。
この日は成田空港さくらの山公園からの撮影であるが、この空港は被写体から撮影ポイントまでの距離が遠く、大きく写そうとするとどうしても超望遠レンズが必要になってくる。
そうしたシチュエーションで、アンカレッジ行きの貨物機を望遠端600mmで狙った。ヨーロッパ便やアンカレッジ行きの貨物便は燃料を多く積んでいるため重く、滑走路を使用可能な距離のいっぱいまで使って離陸する。そのため、低い高度でこちらに近づいてくることが多い。
600mmの焦点距離のおかげで、地面や背景の建物を取り入れつつ、遠くで離陸する貨物機を画面いっぱいに捉えることができた。また、600mmともなると手ブレが心配だが、レンズ自体が軽いことに加えてレンズ内手ブレ補正機構もあるため、ブレを気にせず手持ちで撮影できた。
次に伊丹空港の千里川土手での撮影。この着陸するシーンが好きでよく撮影している。
注目したいのは解像感。着陸時は飛行機のメカニカルな部分が強調されるシーンでもあり、レンズの描写性能が問われる。機体のコックピット窓やノーズギアの解像感、下から照らされた機体の金属感がうまく表現できているかが肝となる。それらをFE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSがどこまで描写するかに興味があったが、見事に描写されており、納得いく仕上がりとなった。
今度は伊丹空港を離陸する飛行機。上空は雲に覆われていたが、下からの反射で機体下部が光っていた。飛行機の翼を広げた姿は美しく好きなシーンであるが、機体が大きいので、超望遠域レンズでなくとも正直こういうシーンは撮てしまう。ただ今回は600mmで撮影したところ、その場の空気感までも感じられるシーンが撮影できた。
別のシーンを撮影しているとき、台北→アンカレッジのキャセイパシフィックのB747が高度3,3000フィート(約1万m)上空を通過した。航路を見たところ、こちらから見て月の付近を通ることを確信したため、飛行機と後ろに来る月を大きく写すべく、クロップ機能を設定してその時を待つ。無事、青空と月、B747のシーンを撮影できた。ここでもFE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSの描写力によりクロップによる描写の低下は感じられず、月のクレーターもしっかり描写していたのには驚いた。
ズームだからできること
200-600mmというズーム域は飛行機撮影にとって非常に有効で助けにもなる。個人的にはこれ1本あればほぼ全ての飛行機撮影が可能になると感じる。近づいてくる飛行機を広角200mm寄りに引きながらも撮れるし、遠ざかっていく飛行機を600mmまでズームして追いかけることもできる。
単焦点は焦点距離が決め打ちで、実際の撮影シーンで画角という面で妥協するところがあるが、ズームレンズならそれが少ない。思う画角にして撮影できるところが最大の利点だと感じる。単焦点レンズを複数持ち歩くことを考えれば、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSの軽量でコンパクトな鏡筒もありがたい。
伊丹空港での撮影。この日は南東の風が強く、いつもとは逆方向の離着陸で運用されていた。そんなときはチャンスでもある。空港西側に併設されているスカイパークから迫力ある離陸のシーンが撮影できるからだ。ただ、機体が空に上がる離陸のポイントはその便ごとに異なり、思い通りの絵にするにはなかなか難しい。
このときもラインナップしたところから、まずは最大の600mmで追いながら飛行機の状態を確認しつつ、広角側に向かってズームアウトしながら撮影した。その場を動かずにフレキシブルに画角を変えて思い通りのシーンを撮影できるところに、ズームレンズの良さを実感する。
伊丹空港千里川土手での撮影。バックに積乱雲が発生し、夕方になって夕陽がその積乱雲に反射し色づいていた。この場所・この方向にしては珍しいシーンだ。
着陸する飛行機に対して色づいた雲を重ねて、ズーミングしながら撮影した。ズームすることによって光の美しいポイントを探し、そのポイントで機体全体を捉えることができた。こういうときにもズームレンズならではの良さが生きる。
α7 IIIの高感度性能を活かす
FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSとともに使用したα7 IIIは、光を取り込むのに有利な裏面照射型CMOSセンサーを搭載する。ラインナップ中ではベーシックモデルに位置付けられるが、画質は問題なく、撮影した実際の写真を見て、高解像度、高ダイナミックレンジが実感できた。色再現や機体の質感表現も期待に応えてくれる実力を見せてくれる。
そしてデジタルの新たな表現領域である高感度。これも低ノイズで、高感度撮影にありがちなディティールが損なわれることもなくしっかり表現してくれた。フルサイズセンサーの余裕は、作品のこういったところに出てくる。「暗いときは明るいレンズが必要」というのは過去の話。α7 IIIの高感度性能に頼れば、様々なレンズで夜の撮影でも手軽に行うことが可能になる。高感度でも十分な質感表現が可能なのは飛行機撮影にはありがたい。それにFE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSを使えば、超望遠域での夜景撮影も実現する。
夜、伊丹空港千里川土手からの離陸機の撮影。ここでの撮影は宝塚市街の夜景をバックにして、様々な滑走路のライトの中に飛行機をどのように入れ込むかがポイントになる。
ここで飛行機が静止するか静止せずに動いたまま離陸するかは、管制官の無線を聞いていればほぼわかる。このときは静止せずに離陸するパターンだったので、ISO 5000に設定し飛行機が多少動いていてもブレない最低限のシャッタースピードに設定した。
ここでもα7 IIIの高感度性能は満足いくもので、ディティールもつぶれることなく解像感も高い状態で撮影できた。レンズに関してもズームリングを動かしながら最適の焦点距離で撮影することが可能なのはありがたい。
飛行機撮影に適したAF性能
飛行機撮影におけるα7 IIIの利点といえば、AFエリアの広さと動体追従性能が挙げられる。撮像エリアの93%をカバーするフォーカスエリアは、ほぼ全面でピントが合う印象だ。
FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSとの組み合わせでも、AFの追従精度が発揮される。AFはカメラ任せにして、撮影者はフレーミングに集中できる。撮影していて、AF性能に不足を感じることは全くなかった。
離陸する機体を後追いで撮影した。手前から奥に去っていくいわゆる追いピンで被写体を追うシーンだ。
従来のカメラのAFにとって比較的苦手なシチュエーションだが、今回のα7 Ⅲでの撮影ではマイナスに感じることは全くなかった。むしろどんなシーンでもピントが来るという印象で、その精度は高いものだった。
小型APS-Cミラーレスα6400に200-600mmを組み合わせてみた
普段、APS-Cセンサーを搭載するデジタルカメラはほとんど使わないのだが、今回は初めてα6400を使用してみた。FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSとの相性を見るためだ。α9からAF周りの技術を継承したとあって、飛行機撮影にも活かせるかもしれない。
あまりにも小さなボディに初めはちゃんと撮影できるか不安視していたが、撮影して驚いた。これは小さなα9だと。リアルタイムトラッキングAFが備わっていることも特筆すべき点。正直これでも十分飛行機撮影はこなせてしまうくらいの実力は有していると感じた。この小さなボディに最新の技術が凝縮している。
FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSもα6400のスピードにしっかりとついてきていた。AF速度、追従性、そして連写した際の合焦精度。どれもフルサイズミラーレスαに引けを取らない性能を見せてくれた。
離陸のシーンを撮影しその合焦精度を見た。連続撮影速度はH+(約11コマ/秒)に設定。離陸するB767を撮った。
α6400の撮像素子はAPS-Cセンサーなので、焦点距離は実表記に対して1.5倍相当になる。FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSだと300-900mm相当となり、超望遠域での撮影はより有利になる。
滑走路を離れてから飛び上がるまで連続47コマをリアルタイムトラッキングAFでコックピットあたりにピントを合わせ連写したが、全てのカットにピントが来ており完ぺきにとらえてくれた。連写で被写体を追った際、ファインダーの見え方にストレスがなかったことも付け加えておきたい。
まとめ
FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSを使ってみて感じたのは、とにかく焦点域が飛行機撮影に向いているということ。これ1本で様々なシーンをカバーでき、大きく重い単焦点レンズを複数本持ち歩くことから解放されるのは、何よりの利点だった。もちろん、画質も良く、機体の質感や背景の色を見事に描き出す実力を持っている。インナーズームであることから、ズーミングしても前後のバランスが変わらないところは、限られたスペースで撮影することが多いことを考えるとありがたい。
今回はα7 IIIと組み合わせてみたが、いわゆるベーシックモデルということから、物足りなさを感じるかと思いきや驚きの実力を見せてくれた。画質、連写、AF性能のどれもが高度にまとまっている。バッテリーの持ちも良く、撮影中に不安を覚えることはなくコストパフォーマンスが非常に優れている。FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSとα7 IIIは、これから飛行機撮影を本格的に始めたい人におすすめの組み合わせである。
制作協力:ソニーマーケティング株式会社