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アドビが目指す「コンピューテーショナルフォトグラフィー」とは


ケビン・コナー氏
 米Adobe Systems社は、デジタル写真関連ソフトの雄だ。デジタルカメラ全盛の世の中にあって、同社の重要性は一段と高まっている。そのアドビが目指す「未来の写真」とは何か。プロフェッショナル デジタルイメージングプロダクト プロダクトマネージメント担当バイスプレジデントのケビン・コナー氏が来日し、同社の目指す方向性について話した。

 今回のコナー氏の話は、その大きな変化をもたらすためにAdobeが進んでいく方向性の「ヒント」(コナー氏、以下同)であり、Photoshopなどの同社製品に組み込まれるかは、現時点ではまだ分からない。

 なお、同様の話は、2007年にデイブ・ストーリー氏がインタビューで語っており、今回はそのアップデートも含んでいる。


まったく新しい“写真”へのアプローチ

 コナー氏は、写真業界にとって「これからの10年の変化に比べれば、これまでの10年の変化は小さい」と指摘する。写真のデジタル化が進んだこの10年だが、今後10年はさらに大きな変化が訪れるというわけだ。

 未来の写真についてはまず、「これまでの(カメラという概念を)すべて忘れて、まったく新しい写真を始めたらどうなるか」というコンセプトを提示。

 そもそもデジカメが中心となった現在、「フィルムのころと写真の仕組み自体が違う」。カメラが必要な点は変わらないが、デジカメは写真を撮るだけでなく、メタデータを記録するという役割も担うようになった。カメラのモデルやレンズ、焦点距離などに加え、GPSによる位置情報も記録されるようになってきている。さらに、PCを使って画像を「発展的に処理する」ことも可能になり、PCを使った場合はキーワードやキャプションなど、さらに多くの情報が使われるようになった。


デジカメの写真は、センサーとカラーフィルタの組み合わせで、さらに色を補完して生成している

 PCだけでなく、Webで画像を活用することで写真の共有や編集も行なえるようになっている。Webにはたくさんの画像が存在し、写真の情報だけでなく、「自分と他人の画像の関連性も収集できる」など、より多くの情報を集められるようになった。

「Webには膨大な(写真の)データベースが構築できている」とコナー氏。こうした画像を認識して識別し、特定の画像の共通項を見つけてそれだけを修正するといったことができるようになるとコナー氏はいう。

 こうしたたくさんの画像を使ったものとして同社は、同じ場所で撮られたさまざまな画像を組み合わせて「無限のパノラマのようなもの」を作る研究を行なっている。MicrosoftのPhotosynthに似た機能で、同じ場所で撮った画像を何枚も組み合わせることで、ある1点から自由にズーム、パンが行なえるようになる。コナー氏はPhotosynthとは「異なるが関連したテクノロジー」と言い、同社の技術は視覚的に関連のある画像を認識してつなぎ合わせているとする。とはいえ、具体的な技術に関しては明らかにしなかった。


1枚の写真に見えるが、たくさんの写真が組み合わさってできており、無段階で次々とズームやパンが行なえる


 コナー氏は、写真には撮影者の意図が入り込んで「現実とは少し違った写真ができる」ことに加え、デジカメではさらに撮像素子や画像処理エンジンなどによって「何らかの操作を行って」写真が生成されるため、より現実とは異なった写真ができる、と指摘する。

 これは意図しないものが生まれるという意味ではなく、現実と異なった写真が撮れる、ということだ。こうした点からコナー氏は、富士フイルムの「FinePix F200EXR」や3D撮影可能なデジカメ、ソニーのCMOSセンサー搭載「サイバーショットDSC-HX1」を例として挙げる。特にFinePix F200EXRに搭載された新しいスーパーCCDハニカムEXRについて「人がPC画面上で見ることができる解像度には限界があることを認めたセンサー」と表現。解像度を半減させて高感度・低ノイズ、ダイナミックレンジの拡大を実現するというアプローチにコナー氏は強い関心を示した。


コナー氏が例示したカメラ

 DSC-HX1も、高速連写やカメラを振るだけでパノラマ写真が撮れる機能などを備え、このカメラが登場したことが、「コンシューマーの行動が変わってきていることを意味している」と指摘する。

「過去の(写真を撮るという)流れが大きく変わった。変革に向かう転換点」が現在だという。これは同社が目指す方向性と一致し、特に富士フイルムは同社の考えにヒットしているそうで、コナー氏は「デジタルフォトの準備が整ってきている」と指摘する。


“コンピューテーショナルフォトグラフィー”とは

 同社の研究の1つに「Plenoptics」がある。これは2007年にもストーリー氏が紹介していたが、昆虫の複眼のように19個の外付けレンズで少しずつ異なる画像を一度に撮影するというものだが、今回コナー氏は外付けのレンズではなくマイクロレンズとして、撮像素子の手前に設置したものを紹介した。


左が初期のプロトタイプ。これをカメラのレンズの前面に付ける。右が新しく開発したもので、センサーの前面に設置する

 同じシーンでもそれぞれのレンズが少しずつ違う角度で撮影されているので、ピント位置を自由に変更したり、被写界深度を変えて背景のボケを操作したり、多少ながら構図すらも変更することができる。


実際に撮影されたものはそれぞれのマイクロレンズが得た画像の集合(左)。拡大すると、それぞれが少しずつ異なる画像を記録している


 撮影時にはうまくいったと思っていても、画像の隅に余計なものが移っていた、ピントが別のところに合っていた、などといったミスも、これならば後処理で補正できる、というわけだ。


テストアプリケーションで、撮影した画像を修正しているところ。フォーカスや絞りなどが操作できる。左と中央の画像では少し構図が変わっているのが分かるだろうか。一番右はピントが背景に合っている


 これまではこうした画像の編集には多大なマシンパワーが必要だったが、今回のデモではGPUを活用することで処理速度が改善されたという。また、19個の外付けレンズを使っていたときは、解像度が犠牲になっていたため商用化はできなかった。今回のマイクロレンズ方式では、解像度が「何倍にもなった」こと、GPU利用により処理速度が向上したことから、現実的なレベルになってきているという。もっとも、同社はコナ―氏曰く「カメラメーカーではない」ことから、あくまで研究としてのデモということになる。

 さて、こうした技術は「より多くの情報を撮影して合成する」というコンセプトだ。すでにこうした技術の一部は実用化されており、パノラマ写真やHDRがそうだし、Photoshop CS4に搭載された「シームカービング」もその1つだ。


画像を組み合わせて合成する手法

 むしろシームカービングは「減らす」という技術だが、方向性は似ているということで、たとえば1枚の横長の写真の横幅を縮めようとすると、従来は単純に横幅が詰まって被写体が細長くなるだけだった。シームカービングは「コンテンツ認識型の拡大縮小機能」と表現され、画像を解析して視覚的にどこが大事か認識し、大事な部分は変更せず、いらない部分の情報を捨てて写真全体のサイズを変更するのだという。このシームカービング自体は「シンプルな技術」を使っており、マシンパワーはそれほど必要ないという。


たとえばこの横長の画像を、雑誌の表紙として使うため、「GOLFING」の文字と同じサイズまで縮小しようとする 単に縮小しただけだと、人が細長くなってしまう

シームカービングを使うと、人のサイズは変わらない。背景の部分で似通った部分を間引いている、という

 画像の大事な部分を認識するという技術で、広角レンズの歪みを解消する手法も研究されている。一般的に広角レンズを使って撮影された画像には歪みが発生してしまう。これは3Dの現実を2Dの写真に収めるためで、ちょうど世界地図と同じようなものだ。これを解消するために透視図法、メルカトル図法、立体画法といった手法があるが、「それぞれ問題を抱えている」。同社は重要性の低い部分を特定し、そこに「歪みを集約する」ことで、逆に写真全体の歪みを解消した。


広角レンズの歪み補正。一番右が同社の技術で、必要な部分は直線になり、人の歪みもなくなる

 写真の重要ではない領域は現実的ではない歪み方をしており、「数学的に現実性は低い」状況だが、重要な部分の歪みはなくなり、「視覚的には快適になる」のだという。

 これを動画の手ブレ補正に応用した技術も研究されている。被写体と一緒に歩きながら撮影すると、どうしても映像はブレてしまう。機械的、ソフトウェア的にこれを解消する仕組みも存在しているが、同社では映像の重要性を特定、人の目が注目する部分の手ブレを押さえる代わりに、重要ではない部分にブレを集める形で、見た目の快適性を優先している。


普通、人の動きと一緒にカメラを動かそうとすると、こうした大々的な準備が必要だった 今回の技術を使うと、目立つ部分のブレを、目立たない部分に集めて、見た目には快適にする。実際、動く人はほとんどブレがなくなっている

 画像をそれぞれの固まりとして分析し、取り出すという技術も開発されている。これを使うと、画像の一部を簡単にコピーして合成することもできる。これによって、現実ではあり得ない写真が簡単に作成できるようになる。


この建物の写真では、塔の部分が認識されている この部分は動かすことができる

そのまま別の部分にコピーされた


 コナー氏は、「3Dを使って(写真の)状況を理解する」と表現する。2Dである写真を3Dとして再構築するという仕組みによって、コンテンツの認識を行い、処理を行なっている。「初期のPhotoshop(での処理)はシンプルな数式で作られていた」が、より複雑な技術を使うことで、より高度な処理が可能になったという。

 同社が狙うのは、現実をそのまま写真として記録するのではなく、「従来はできなかった画像を作ること」だ。これをコナー氏は「コンピューテーショナルフォトグラフィー」という。より多くの情報を集めて、より大きなマシンパワーを使い、従来の写真の概念にはない画像を生み出す。それが同社の目指す方向性だ。


Lightroomが目指す方向性

 今回の話は、基本的にはPhotoshop CSへの搭載を見据えた研究だ。より高機能化を進めるPhotoshopに対して、フォトグラファーのワークフローに着目したPhotoshop Lightroom(以下Lightroom)も存在しており、コナー氏は「Lightroomでやりたいことはある」と話す。


Photoshop Lightroom 2

 Photoshopが画像編集に焦点を当てたのに対し、Lightroomはたくさんの画像を同時に扱うワークフローを機能強化の中心においている。Photoshopが使い方を理解するのに相対的に時間がかかるのに対し、効率的に使いこなせるLightroomという位置づけだ。

 こうした点から、Lightroomではもともと扱える画像形式を限定していたが、コナー氏は「状況が変わってきているのは興味深い」という。これは特にデジカメの動画対応が急速に進んでいる点だ。デジタル一眼レフでもHD動画の撮影機能を搭載したカメラが多くなり、同社では動画対応の検討も行なわれているようだ。

 とはいえ、「高機能な動画編集機能の搭載には抵抗がある」とコナー氏。しかし、ファイル整理の機能向上に関しては前向きで、「フォトグラファーがビデオを扱うようになったら、新たなワークフローが発生することになる」ので、Lightroomにも「新たな機能(動画対応)の追加も検討しなければならない」としている。

 ところで、同社の研究は、CPUパワーの増大、GPUの利用といったマシンパワーをふんだんに活用することで実現している。

 現在、低スペックだが低価格なネットブックが世界的に人気となっている。デジカメの液晶モニターよりも大きな画面で撮影画像を確認できるため、フォトストレージ・フォトビューワー代わりにネットブックを持ち出す例もあり、こうした低スペックマシンでは、同社の目指すコンピューテーショナルフォトグラフィーの実現は難しい。

 この点についてコナー氏は、「特にネットブック向けのプランはない」としつつ、Lightroomをネットブックで使いたいという要望は把握しているという。

 コナー氏はWebサービスの「Photoshop.com」を1つの回答として、より幅広いエリアでの展開を強化していく方針を示すが、ネットブック人気をはじめとした状況の変化に対し、今後の対応は否定しなかった。



URL
  アドビ
  http://www.adobe.com/jp/

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( 小山 安博 )
2009/03/31 13:01
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