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【インタビュー】「女子カメ」EXILIM ZOOM EX-Z80はこうして生まれた

~商品企画部 岡崎愛氏に聞く

EXILIM ZOOM EX-Z80
 カシオが発売した春モデルのコンパクトデジタルカメラ「EXILIM ZOOM EX-Z80」は“女子(じょし)カメ”をキャッチフレーズに、はっきりと女性向けを打ち出した同社初のモデルだ。

 入社2年目にしてEX-Z80の企画をメインで担当したのが、開発本部QV統轄部商品企画部第2企画室の岡崎愛氏。岡崎氏は、入社するまでデジタルカメラをほとんど知らなかったというが、企画部の紅一点として、女性ならではの視点で企画を練り上げたという。

 ここでは岡崎氏に、製品のコンセプトや企画の考え方などの話を伺った。同じく第2企画室の宮田陽室長にも今後のデジタルカメラ開発の方向性などをお話しいただいた。


入社2年目でメイン担当に

開発本部QV統轄部商品企画部第2企画室の岡崎愛氏
――カシオに入社し、デジタルカメラの企画に携わることになった経緯を教えてください

岡崎 学生時代はSEを志望し、大学ではメディア学科でプログラムなどを学びましたが、なにかモノとして形に残る商品開発に関わりたいと、カシオに入社しました。ただ、はじめからデジタルカメラ部門を希望したわけではありませんでした。

 入社後は、開発本部QV統轄部 第1開発部に配属となりデジタルカメラの組み込みソフトの開発をしていました。具体的には、タイムスタンプの機種ごとの調整や色の変更、ベストショットモードのシーンごとのパラメーターの入力などです。開発部には1年ほどいました。

 その後、当時の上司から「企画部から声がかかっているんだけどどう?」と異動の話しがあり、「いやだったら、断ってもいいんだよ」と言われましたが、もともと企画にも興味があったので是非やってみたいと応じました。その後、2007年6月から企画部に移り、EX-Z80の企画を担当しました。

――これまでのカメラとの関わりはどうでしたか?

岡崎 入社するまでは、家にあった昔の大きなデジカメを借りたり、旅行に行くときはレンズ付きフィルムを沢山買って済ませたりしていて、あまり写真を撮る機会は無かったです。入社してカメラの部署に配属されてからは、いつも持ち歩いて写真を撮るようになりました。普段は、EX-Z80のビビッドピンクを持ち歩いています。

――EX-Z80の企画チームはどのような構成だったのですか?

岡崎 基本的には、私1人で担当しました。

宮田 各メンバーが担当機種を持つのですが、ほかのメンバーとも意見交換をしたりしながら進めていきます。複数機種を掛け持ちする場合もあります。

 普段は、主に機能や操作性、画面表示などを担当しますが、今回は外観デザインやソフトケースに対しても積極的に意見を出していました。

――そうするとEX-Z80は、岡崎さんが1人で最初から企画したのですか?

岡崎 実は私が企画部に来る前に、「女の子向けカメラ」というコンセプトで企画しているカメラが既にありました。そこで、「女性が企画部に入ったから担当させてみよう」ということになりました。

宮田 企画部は男性しかおらず、女性的な視点での企画検討がなかなか難しいところがありました。岡崎が来てくれてちょうど良かったんです。入社2年目でメイン担当になるのは、珍しいことなんですよ。


「女子カメ」の原型ともいえる2007年発売のEXILIM ZOOM EX-Z77(ピンク)
――女性向けを謳ったカメラはEX-Z80が最初ですか?

宮田 2007年に発売した「EXILIM ZOOM EX-Z77」から女性向けというボディカラーを出しています。ただし、売り場をポップにして女性の目を惹くといった営業サイドからのプロモーションが主で、カメラ自体を女性向けにしたわけではありませんでした。最初から女性向けとして商品化したのは、EX-Z80が最初ということになります。

――カシオのデジタルカメラは従来から薄さなどをウリにしていて、女性受けは良かったのではないですか?

宮田 これまでのものはちょっと男っぽいところもありました。また、薄型の新製品「EXILIM CARD EX-S10」は、カタログを見てもらうとキャリアウーマン風の写真があったり、スタイリッシュな感じになっています。これらとは違った20~30代の女性層を狙ったことはなかったので、広げていこうと考えました。

岡崎 デジタルカメラ全体の女性比率は2002年の26%から2007年には35%まで伸びています。これからもどんどん伸びていくと思っています。EX-Z80のターゲットはスタイリッシュというより、ズバリキュートな感じのかわいいものを好む女性です。


かわいいだけじゃだめなんです

――想定した利用シーンなどはありますか?

岡崎 特に決めているシーンなどはありませんが、日頃持ち歩いてちょっと面白いモノがあったら撮ってみる、といった感じで、いつでも使ってもらえるように意識しました。

――実際の商品検討はどのように進めましたか?

岡崎 やはり1人で考えていてはだめなので、まずいろいろな人に意見を聞いて回りました。例えば、ほかの部署の社員、服屋さん、美容院などいくつかの職業の女性などです。

 男性から、「女性にはこういうのが良いのでは?」という提案があっても、「いや、そうじゃないでしょ」と思ったことも何度かあったりしました。例えば、ハートマークのフォーカス枠は、男性から「女の子はハートが好きだから、ハートマークが良いんじゃないか?」という話しがあったんです。でも、「なんでもハートにすれば良いってものじゃない」と思って最初は反対でした。自分以外の女性からも厳しい意見がありました。

 とはいってもハートが好きな女性も多いので、ハートマークにちゃんと意味を持たせようと考えました。それで、ピントが合っていないときはハートが割れるというのを考えました。こうすれば、かわいいだけじゃなく、ちゃんと意味があってわかりやすくなります。


ピントが合うとハートマークが現れる ピントが合わない場合、割れたハートマークを表示

 また、EX-Z80ではベストショットの順番を入れ替えました。女性がよく使う、お花、食べ物、白黒、セピアなどを前に移動させています。それから、クロスフィルターやパステルといった機能も最近の機種では載せていませんでしたが、自分でも使いたいと思って搭載しました。ベストショットのアイコン写真も変更しています。例えば「コレクションを写す」は、従来ロボットのアイコンだったのですが、「アクセサリーを写す」にして写真も変えました。

 ほかには、液晶モニターが大きくなりボタンが小さくなったので、長い爪でも押しやすいように付け爪を買って試したりして、調整のリクエストも出しました。

 それと、他社でも自分撮りはあるのですが、自分に向けてシャッターを切るのがやりにくかったので、シャッターを押してから自分の側に向けるだけで自動でシャッターが切れるようにしています。


点数でいうと100……いや98点かな

――企画していく上で工夫した点、苦労した点はなんですか?

岡崎 今は、デジタルカメラが1人1台の時代になりつつあって、女性が自分用に購入するケースも増えています。買うときは、店頭で選ぶことが多いと思いますが、売り場では、似たようなカメラが並んでいてどれを選んで良いか分からないという声をよく聞きます。

 そこで、ターゲットを明確にして“これがいい”と選んでもらえるような商品として企画しようと思いました。これまでも、他社も含めて女性向けを意識したデジタルカメラはありましたが、EX-Z80のように丸みのある形や、起動したらいきなりフォーカスがハート型になっているなど、思い切り女性向けに振ったカメラは無かったと思います。

 女性って、難しい機能なんかよりもカメラの見た目がすごく大事なんです。今回は見た目でわかりやすく、愛着を持ってもらえるように機能などを検討していきました。その中で、ハート型のフォーカス枠や色の変わるメニュー画面などを取り入れました。


メニュー色が選択可能(ローズ) スカイ

 また、操作音にもこだわっています。通常は大量にストックされた音声データから選んで実装するのですが、サンプルを聞いたらひとつも良いのが無かったので、1から作り直してもらいました。音は全部で5パターン入れています。今回はかわいらしい音を多く入れていますが、5番目の音はオチというかちょっと面白い音にしました。音を作る業者さんに会話で音のイメージを伝えなければならなかったのが、大変でした。

――パステル色が目を惹きますが、色はどのように決まるのですか?

宮田 特に企画部から色を指定することはないですが、前のモデルとの兼ね合いなども考え、デザイン部門や営業部門などと意見のやりとりをしながら進めます。海外での色の動向も加味しつつ、最終的には今回の色に集約していきました。


EX-Z80(ピンク) ブルー

グリーン シルバー

ビビッドピンク 背面

――岡崎さんの気に入っている色、おすすめの色は何ですか?

岡崎 ピンクです。ボディカラーによって表面の「MEGA PIXELS」の色が違っているのですが、ピンクが一番綺麗に見えるので気に入っています。お薦めの色はグリーンやブルーです。薄い色がほかにはないし、春っぽいのでいいと思います。

――完成品は思ったとおりになりましたか?

岡崎 企画部に移ってすぐにサンプルのボディを見ましたが、角張った感じで「あまり好きじゃないな」という印象で、少し心配でした。ですが、最終的に実際にできあがったものを見ると、丸くてかわいらしくなったし、内容も新しい面白い機能を形にすることができて、思ったよりずっと良いものになりました。

――EX-Z80に点数を付けると

岡崎 100点といった方が良いのかな(笑)。でも98点くらいだと思います。足りない2点は、メニューの色やデザインをもっといろいろ変えたかったのですが、時間的に間に合わなかったからです。もう少しがんばれたのかなと思います。

――携帯電話のカメラ機能ではだめなのでしょうか?

岡崎 携帯電話のカメラだとメモ的な感じになると思います。「ずっと残したいもの」というのとはちょっと違いますね。


お話を伺ったカシオ羽村技術センター。デジタルカメラをはじめ、電子文具、時計、電子楽器などを手がける研究開発の拠点
――今後やりたいことは?

岡崎 今回のフォーカス枠などもそうなのですが、ただ綺麗に撮れるということだけではなくて使っていて楽しいと思えるような、わくわくするカメラを考えて行けたらと思います。それと、“女性向けカメラ”を極めていきたいとも考えています。

 街でデジカメを使っている人や友達などを見ても、あまり細かい調整機能などを使っている人は多くないように思います。どんどん機能を載せればいいというわけではなくて、何もしなくても楽しく綺麗に撮れるカメラが求められるのかな、と考えています。いろいろ勉強していくと細かい所を考えがちなのですが、実際は細かい機能よりも“より簡単に”という部分が重要になると思っています。

――仕事のやりがいはどんなところですか?

岡崎 EX-Z77は女性向として売り出していましたが、女性から見ると「うーん、どこが……?」みたいなところがありました。それを、ちゃんと女性に気に入ってもらえるように自分の意見を言って製品を作れるのがうれしいです。これからもずっとデジタルカメラの仕事をしていきたいです。

 開発の仕事も自分の思ったものを形にできるので楽しかったのですが、企画は1つの商品全体をプロデュースできるのが楽しいですね。

――ホワイトデーが近いですね

岡崎 そうですね。こんなデジカメがもらえたらうれしいです(笑)。


開発本部QV統轄部商品企画部第2企画室の宮田陽室長(左)

――カシオとして今後のデジタルカメラ開発の方向性は?

宮田 ワールドワイドでの出荷台数が1億台に達し、頭打ちになってきています。それを広げていくためには、もっと新しい提案をしていかなければならないと思っています。その例が3月に発売する「EXILIM EX-F1」や、女性に特化したモデルなどです。当社は今のところ、デジタル一眼レフカメラをやる予定はありません。デジタル一眼レフ以外で伸びていくためには、ユーザーセグメントをはっきりさせて、ジャンルを広げていく必要があります。

 ちなみに当社では、EX-F1を第3世代と位置づけています。第1世代は「QV-10」で、液晶付きのデジタルカメラが世の中に初めて出てきた。第2世代は2002年のカード型デジカメ「EXILIM EX-S1」です。いつでも世の中に無いものを出して市場をリードしてきました。こうした方向性は常に持っています。


趣味はパスネット集め

――パスネット収集が趣味だそうですが?

岡崎 はい(笑)。最初は意識していなかったんですが、いろいろな種類があるし自分が乗った履歴もみれるので、これは面白いと思って集め始めました。学生時代から集め始めて、今は300枚くらいあります。加盟路線の列車が沢山プリントしてあるパスネットも、路線によって微妙に違いがあるんですよ。旅行に行ったときは、売り場のパスネットを全部買っていました。

――パスネットはもう売っていないですよね?

岡崎 そうですね。珍しいパスネットがあったら募集中です。



URL
  カシオ
  http://www.casio.co.jp/
  製品情報
  http://dc.casio.jp/product/exilim/ex_z80/

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( 本誌:武石 修 )
2008/03/12 00:00
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