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ライカSL、その名の由来は?

キーパーソンに現地インタビュー

左右反転の文字は、一眼レフ時代を過去のものとする意思表示にも見えた

ドイツのライカカメラ本社で「ライカSL」がお披露目された翌日、同社のキーパーソンに話を聞くチャンスがあった。テーマはライカSLの詳細から、ライカカメラ社の目指すところなど、多岐にわたった。

なお、ライカSLについて詳しくは既報記事をご覧いただきたい。

ライカSL

ユーザーの選択のためにラインナップを増やす

2015年4月に同社CEOとなったオリバー・カルトナー氏は、現在46歳。経歴はマイクロソフト、EA(エレクトロニック・アーツ)、NIKEなど幅広く、ソニーでデジタル一眼レフカメラのαシリーズやハンディカムのマーケティングを担当していたこともあったという。それらの大企業と比較して、ライカはニッチであり、製品のライフサイクルも長いと印象を語る。

ライカカメラCEOオリバー・カルトナー氏

カルトナー氏にとってライカSLの発表は、ライカのこれまでのレンズ資産(特に、現行ボディがなくなってしまったRシリーズ一眼レフ用のレンズなど)を見捨てずに繋いでいくという「コミットメントの発表の場」でもあったという。実際に氏のプレゼンテーションでは、それをライカSLの大きな特徴のひとつとしてアピールしていた。

ライカSLで使えるというレンズの数

近年ライカがラインナップを増やしているのは、クルマでいえばBMWのスタイルに近いという。昔は3、5、7と3つのシリーズのみだったのが、ユーザーの選択のためにラインナップを増やしてきた。これは市場を取るために重要なやり方だそうで、カルトナー氏が目指す方向も同じだという。

それぞれの位置付けは、ライカT(APS-Cミラーレス)とライカM(35mm判レンジファインダーカメラ)のギャップを埋めるのがライカQ(フルサイズCMOS、28mmレンズ固定)で、ライカSLはライカMとライカS(中判デジタル一眼レフカメラ)の間を埋めるという。

ライカS(中判デジタル一眼レフ)
ライカM(35mmレンジファインダー)
ライカQ(35mmフルサイズ単焦点)
ライカT(APS-Cミラーレス)

ライカMに代表されるM型ライカは「ピュアな写真体験」として好まれており、マニュアル前提のカメラゆえに自分で習得しなければいけないが、「宗教的でリスペクトを受ける製品」と認識。補助機能が一切ないスポーツカーのようなものだと表現。一方で、現代的なニーズや撮影シーンにあったパフォーマンスを追求するカメラとしてライカSLがある。

また、カメラ業界の将来については、飽和しているデジタル一眼レフカメラとコンパクトカメラが今後市場からなくなっていくと予想。カメラが世界的に不調と言われる中、しかしライカのセールスは上がっていると自信を見せる。

SLの由来はドイツ語

プロダクトマネージャーのステファン・ダニエル氏には、ライカSLや同社の製品ラインナップについてより具体的なところを聞いてみた。

ステファン・ダニエル氏

「SL」の由来は?

初めてライカ判を達成したマイルストーンといえるデジタルのレンジファインダーカメラ「ライカM9」が登場した2009年から6年の間に、ライカはS、X、T、QそしてSLと、形もそれぞれの新しいカメラを立て続けにリリースしてきた。

そのたびに「文字に具体的な意味はない」というのがダニエル氏の(というかライカの)お決まりの回答だったが、ライカSLに限っては違った。SLとはドイツ語の「Spiegellos」に由来し、鏡を意味するSpiegel(シュピーゲル)と、分離を意味するlos(ロス)から頭文字を取った。つまり、ドイツ語で「ミラーレス」というわけだ。Spiegellosで検索すると、確かにドイツ語でミラーレスカメラの話題を扱うWebサイトがヒットする。

ダニエル氏によるドイツ語講座

ちなみにライカファンが“SL”と聞いて連想した「ライカフレックスSL」(1968年登場の35mm一眼レフ)は、外部測光のライカフレックスからTTL測光に変わったのが特徴で、「Selected Light metering」が由来。その後のライカRシリーズは「Reflex」の頭文字だ。

ライカフレックスSL。ライカカメラ本社内の展示コーナーで撮影

そのほかに由来がハッキリしているのはライカMで、「Messsucher」(メスズーヒャー、ドイツ語でレンジファインダー)の頭文字である。sucherとはファインダーのこと。

「ライカLマウント」って?

これもメーカー発表で気になった方が多いと思う。ライカSLの「ライカLマウント」が、ライカスクリューマウントの通称である“Lマウント”と混同しそうという話である。

これに対するダニエル氏の回答は、「日本ではライカスクリューマウントをそう呼んでいますね」というもの。つまり“Lマウント”という呼び方は日本的なもので、古いから知らなかったわけでも、過去を切り捨てたわけでもなく、世界的に見れば「ライカLマウント」という呼称に違和感がないと判断されたと考えられる。

ちょっとややこしいが、ライカLマウントは、先に登場したライカTのライカTマウントとバヨネット形状が同じだ。今後はライカLマウントに対し、フルサイズのSLレンズと、APS-CのTLレンズが存在するという図式になる。

なお、ライカLマウントの“L”は特に意味がないという。SLの名前が決まり、中判のライカSがすでに存在するので、残ったLを使った、と考えるのが自然だろう。

一眼レフは「過渡期の技術」

さて、ライカカメラ社はライカSLにおいて、「ミラーレス」という言葉をかなり積極的にアピールしている。日本では多少イマサラな感じもあるが、海外ではミラーレスという呼称自体にまだ新しさがありそうなのと、発表イベントでもミラーレス構造の透視図を何度も見せるなど、可能性を感じていることが伝わってきた。ダニエル氏は加えて「デジタル一眼レフはフィルム時代がベースの過渡期」と語った。

振り返ればライカは小型精密なレンジファインダーカメラで世界に影響を与えたが、それに一念発起した日本メーカーが一眼レフに舵を取り、デジタルカメラが完全に主流となった現在では「日本の一眼レフ2強=世界のカメラ2強」となった。ライカはそこにいない。そんなライカがデジタル一眼レフカメラを“過渡期”とする見解は、なんとも興味深い。

「写真には光の反射が必要だが、ミラーはいらない」というアピール

同社ではライカSLをプロ向けのカメラと明言し、モータースポーツの様子を撮った作品なども示していた。それはライカSLが、ライカMのように「あなたが撮れるシーンで写してくれればよい」という神様的な扱いを受けるカメラではなく、現代の要求基準をベースに接写でも望遠でも問答無用でバリバリ働いてくれるカメラになることを期待させる。

ライカSLの作例に、望遠で撮ったモータースポーツの様子。レンジファインダーカメラのイメージからは遠い

しかし、ミラーレスでありながらボディが目立って小さくないというのは、日本のユーザーからすると不思議なところだろう。実際、ライカSLは35mmフルサイズのデジタル一眼レフカメラと背丈はそう変わらない印象を受けた。結論から言うと、これでも中判デジタル一眼レフのライカSよりはだいぶ機動性に優れるわけで、そこの棲み分けを考えればバランス的に十分ということだろう。

同社はそもそも「ミラーレス=小型化」というロジックではないようで、「みんなデジタル一眼レフカメラを持ち慣れているから、これぐらいの大きさならよいだろう」という判断と、これによって大きなグリップ部に大きなバッテリーが入り、4K動画撮影時の放熱もしやすい、という相互メリットがあったとのこと。

肉厚なグリップ部は、国産の小型一眼レフやミラーレスで小指が余ってしまう人もガッチリ持てる。わざわざ指の置き方などを意識しなくてもよい持ち心地は、ミドルクラス以上の一眼レフを手にしている安心感に近かった。

ライカSLに90-280mm F2.8-4のズームを装着
ムービー機材との組み合わせ。動画市場も狙っていることが伺える
ほかにも、Rレンズを着けたライカSLが電動スタビライザーに載っていた

このように、ミラーレス構造のメリットとして多くのメーカーがまず「小型化」を目指すところ、ライカは「撮る前にEVFで明るさや色がわかる」、「ミラー動作のノイズがない」、「動画もファインダーを見ながら撮れる」といったポイントを主に挙げていた。EVFが一眼レフのように上に飛び出ているのも、ファインダーはレンズの光軸上にあったほうが撮っていて疲れないからという、あくまで実用上の理由からだ。

発表イベントでもミラーレス構造を示した

センサーはライカQ並み

ライカSLは、有効2,400万画素の35mmフルサイズCMOSセンサーを採用している。最高設定感度はISO50000で、スペック的にはライカQに近そうに見えた。

公式回答としては、「ライカQのセンサーにとてもよく似ているけど違う」といったところで、理由はレンズ固定のライカQに対しレンズ交換式であることと、ライカM用のレンズの使用を想定して、マイクロレンズの配置を工夫している点があるからだ。

センサーのサプライヤーが非公表なのはライカQと同じ。ライカM(Typ240)用のCMOSセンサーを供給するCMOSISが作ったものではないというのも、ライカQのセンサーについて得られた回答と同じだった。

ライカMレンズにはライカMが最適

先にも述べたが、ライカSLは純正のマウントアダプターでほとんどのライカレンズが使えることをアピールしている。SL用のMやRのアダプターを使えば、Exifデータへの情報記録や、レンズに応じた補正が行なえるという。

興味深かった話として「ライカMのレンズを使うなら、ライカMが最適」というダニエル氏の言葉があった。理由を聞けば、センサーの前に存在するガラス部分の構造が違い、ライカMのほうがより“最適化”されているのだという。

ライカMレンズを取り付けた状態での解説も

具体的には、ライカSLには超音波式のセンサークリーニング機構があるため、それを持たないライカMよりガラスが1枚多くなり(もう1枚はIRカット。光学ローパスフィルターはどちらもない)、全体として厚くなるという。特に周辺部では、そのガラスの厚みで屈折の具合が変わるため、描写に差が出るというのだ。もちろん、実用面では差がないレベルの話。

それでもフィルムカメラに比べると余分なガラス面が増えているわけで、せめてそれが描写に及ぼす影響を抑えるべく、これまでライカはMデジタルにおいて、センサー前のガラスを頑なに薄く仕上げようとしてきたのだろう。

5年前からフルサイズ前提で計画

同社のレンズ開発責任者であるピーター・カルベ氏には、ライカSLレンズのコンセプトと展開について聞いた。

ライカレンズの開発責任者、ピーター・カルベ氏

同時発表の24-90mmおよび90-280mmのズームレンズが、どちらもF2.8-4というF値可変であることが気になった方も多いのではないだろうか。カルベ氏いわく、「ズームレンズであれば開放F値は変わるのが自然。EVFなのでファインダーの明るさも変わらず、撮影に不便はない」との回答。無理にどちらかのF値に固定するのも不自然なので、わざわざF2.8やF4の通しにする必要がないとの判断だそうだ。

発表済みの2本のズームレンズには手ブレ補正機構が入っているが、採用基準は「レンズのF値が暗いなど、必要なものには入れる」とのことで、今後発売予定のズミルックスSL 50mmは単焦点で開放F1.4と明るいから手ブレ補正は不要と判断された。

ライカ アポ・バリオ・エルマリートSL f2.8-4/90-280mmを装着

ちなみにライカSLレンズはあくまで“プロ向け”のターゲティングのため、APS-C用のライカTレンズに比べ、小型化より性能を重視して設計されているという。ライカTとライカSLはの計画は5年前からあり、ライカTとライカSLで共通の「ライカLマウント」は、当初から35mmフルサイズを見越した設計をしていたそうだ。

また、ライカRレンズを揃えているユーザー向けに、ライカSL用にも純正のRマウントアダプターが用意される。カルベ氏いわく、彼自身やライカには「Rを救うミッション」が以前からあり、かつてフォトキナで“ライカR10”の計画を示したこともあったとか。CEOのカルトナー氏の言葉を借りれば、ライカSLは最新鋭のカメラというだけでなく、そのネーミングも含めて“Rへのコミットメント”と受け取ってもよさそうである。

ライカSLの発表翌日、本社では早くも出荷準備が始まっていた