ライカレンズの美学
APO-SUMMICRON-SL F2/75mm ASPH.
意外にオールマイティな狭角標準レンズ
2018年3月30日 12:00
ライカレンズの魅力を探る本連載。今回はライカSL用APO-SUMMICRON-SL F2/75mm ASPH.(以下、APOズミクロン75mm)を取り上げたい。前回ご紹介したAPOズミクロン90mmと同時に発表され、イベントレポートや開発者インタビューで既報の通り、ライカSL用の新レンズである。
外観については簡単に言うと「(前回紹介した)APOズミクロン90mmとほぼ同じ」。特に横から見たところは大きさを含めてそっくりで、焦点距離を示す黄色い「75」の数字を隠してしまえば見分けが付かない。さすがに前から見ると前玉の大きさや位置などが異なるので見分けは付くが、鏡胴は大部分が両レンズで共通化されており、フィルター径もE67で同じ。付属するフードも共通だ。
似ているのは外観だけでない。実はレンズ構成もAPOズミクロン90mmと非常に共通項が多く、9群11枚という構成枚数から、主だったレンズエレメントのパワー配置、並ばせ方まで非常によく似ている。もちろん、焦点距離の違いに応じてレンズエレメントの厚みや径などは微妙に異なっているのだけど、両レンズは見た目だけでなく光学的にも同じ設計思想で作られているには明らかだ。2枚のレンズを2個のモーターでそれぞれ独立駆動することで、高速AFとフローティングを実現するデュアルシンクロドライブももちろん採用されている。
こうしたハードウェアの共通化から想像できるとおり、APOズミクロン75mmの描写傾向はAPOズミクロン90mmと限りなく類似しており、まさに「違うのは画角だけ」である。絞り開放から合焦部は高い解像度があり、最短まで寄った時でも解像低下は少ないし、前ボケと後ボケの両方ともクセが少ないといったところまで、APOズミクロン90mmと非常に似ている。
同じAPOズミクロンでもM型ライカ用の場合は75mmと90mmでは描写テイストが異なる傾向があって(設計年次が違うというのもあるけれど)、それが趣味的には面白かったりするのだけど、ライカSLレンズの場合は逆にそういうレンズごとの差違は少ない傾向のようだ。まあ、現代のプロカメラ用レンズとしては当然な思想であろう。
75mmという他ではあまりない焦点距離については、M型ライカ用の75mmレンズを取り上げた時にも持論を少し書かせてもらったが、50mmとも90mmとも異なる画角が新鮮だ。50mm標準レンズよりは明らかに狭角だけど、望遠というほど長くない不思議な使い心地で、あえて名付けるなら「狭角標準レンズ」みたいな印象。人によっては中途半端に感じるかも知れないけれど、意外に何でも撮れるオールマイティなところもある。ポートレートにも向くだろうけれど、スナップにもすごく使いやすい。
協力:ライカカメラジャパン