ライカレンズの美学

APO-SUMMICRON-SL F2/75mm ASPH.

意外にオールマイティな狭角標準レンズ

APO-SUMMICRON-SL F2/75mm ASPH.

ライカレンズの魅力を探る本連載。今回はライカSL用APO-SUMMICRON-SL F2/75mm ASPH.(以下、APOズミクロン75mm)を取り上げたい。前回ご紹介したAPOズミクロン90mmと同時に発表され、イベントレポート開発者インタビューで既報の通り、ライカSL用の新レンズである。

外観については簡単に言うと「(前回紹介した)APOズミクロン90mmとほぼ同じ」。特に横から見たところは大きさを含めてそっくりで、焦点距離を示す黄色い「75」の数字を隠してしまえば見分けが付かない。さすがに前から見ると前玉の大きさや位置などが異なるので見分けは付くが、鏡胴は大部分が両レンズで共通化されており、フィルター径もE67で同じ。付属するフードも共通だ。

前回紹介したAPOズミクロン90mmと並べてみた。サイドビューは焦点距離表示以外は瓜二つ。全長と径のカタログスペックもまったく同じだ。
前玉は径と位置が少し異なる。重さは意外にも75mmの方が20gほど重い。
絞り羽根枚数もAPOズミクロン90mmと同じく9枚。

似ているのは外観だけでない。実はレンズ構成もAPOズミクロン90mmと非常に共通項が多く、9群11枚という構成枚数から、主だったレンズエレメントのパワー配置、並ばせ方まで非常によく似ている。もちろん、焦点距離の違いに応じてレンズエレメントの厚みや径などは微妙に異なっているのだけど、両レンズは見た目だけでなく光学的にも同じ設計思想で作られているには明らかだ。2枚のレンズを2個のモーターでそれぞれ独立駆動することで、高速AFとフローティングを実現するデュアルシンクロドライブももちろん採用されている。

描写傾向はAPOズミクロン90mmと同じくヌケがよく、ピントのキレも素晴らしい。ライカSL / ISO100 / F5.6 / 1/640秒 / WB:オート
ボディ側の補正もあるだろうが、周辺光量落ちは少ない。ライカSL / ISO100 / F2 / 1/1,000秒 / WB:オート
深度が欲しかったのでF8まで絞って撮影。絞り開放でも十分に均質な画質だが、絞ると周辺部の画質がさらに上積みされる。ライカSL / ISO100 / F8 / 1/160秒 / WB:オート
画角的にはスナップでも使いやすい。ライカSL / ISO100 / F9 / 1/125秒 / WB:オート
口径食は少しだけある。光点ボケの様子もAPOズミクロン90mmによく似た感じだ。ライカSL / ISO200 / F2 / 1/160秒 / WB:4,000K
75mmは画角的に構成的なフレーミングがやりやすいように感じた。ライカSL / ISO100 / F2.2 / 1/640秒 / WB:オート

こうしたハードウェアの共通化から想像できるとおり、APOズミクロン75mmの描写傾向はAPOズミクロン90mmと限りなく類似しており、まさに「違うのは画角だけ」である。絞り開放から合焦部は高い解像度があり、最短まで寄った時でも解像低下は少ないし、前ボケと後ボケの両方ともクセが少ないといったところまで、APOズミクロン90mmと非常に似ている。

同じAPOズミクロンでもM型ライカ用の場合は75mmと90mmでは描写テイストが異なる傾向があって(設計年次が違うというのもあるけれど)、それが趣味的には面白かったりするのだけど、ライカSLレンズの場合は逆にそういうレンズごとの差違は少ない傾向のようだ。まあ、現代のプロカメラ用レンズとしては当然な思想であろう。

重さは720g。ライカSLとのバランスは良好で、タテでもヨコでもホールディングはしやすい。ライカSL / ISO200 / F2 / 1/3,200秒 / WB:オート
ライカらしい立体感のある写り方をする。ライカSL / ISO400 / F5.6 / 1/320秒 / -0.6EV / WB:オート
こういう少し前後にある被写体でも90mmほど深度が浅くないので標準的に使える。ライカSL / ISO800 / F2 / 1/1,250秒 / -0.6EV / WB:オート

75mmという他ではあまりない焦点距離については、M型ライカ用の75mmレンズを取り上げた時にも持論を少し書かせてもらったが、50mmとも90mmとも異なる画角が新鮮だ。50mm標準レンズよりは明らかに狭角だけど、望遠というほど長くない不思議な使い心地で、あえて名付けるなら「狭角標準レンズ」みたいな印象。人によっては中途半端に感じるかも知れないけれど、意外に何でも撮れるオールマイティなところもある。ポートレートにも向くだろうけれど、スナップにもすごく使いやすい。

最短撮影距離は50cm。デュアルシンクロドライブによるフローティングのおかげか、近接でも解像性能は落ちない。ライカSL / ISO100 / F2 / 1/800秒 / WB:オート
標準レンズ的にも使えるけれど、深度は50mmより浅いのでメリハリが付けられる。ライカSL / ISO100 / F2 / 1/4,000秒 / WB:晴天
ボケが煩雑になりやすいシーンでも、アウトフォーカス描写は美しい。ライカSL / ISO100 / F2 / 1/5,000秒 / WB:晴天
ハイキー気味にしても解像はしっかりと残る。ライカSL / ISO400 / F2 / 1/16,000秒 / WB:オート
デュアルシンクロドライブということもあり、コントラストAFオンリーでもピントは高速で快適だ。ライカSL / ISO400 / F2 / 1/400秒 / WB:オート
歪曲はごく弱いタル型が少しだけあるけれど、直線的な被写体でもほとんど気にならない程度。ライカSL / ISO400 / F2 / 1/160秒 / WB:オート

協力:ライカカメラジャパン

河田一規

(かわだ かずのり)1961年、神奈川県横浜市生まれ。結婚式場のスタッフカメラマン、写真家助手を経て1997年よりフリー。雑誌等での人物撮影の他、写真雑誌にハウツー記事、カメラ・レンズのレビュー記事を執筆中。クラカメからデジタルまでカメラなら何でも好き。ライカは80年代後半から愛用し、現在も銀塩・デジタルを問わず撮影に持ち出している。