特別企画
フルサイズミラーレス「ライカSL」実写レポート
写真家 斎藤巧一郎が長崎を撮った
Reported by 斎藤巧一郎(2015/11/24 11:30)
11月28日の発売が決まった、ライカ初のフルサイズミラーレスカメラ「ライカSL」。ドイツのライカカメラ本社で行われた発表イベントに立ち会った写真家の斎藤巧一郎氏が、その試作機を手に長崎を撮った。本稿ではその実写データを掲載する。
撮影に使用したレンズは、標準ズームの「ライカ バリオ・エルマリートSL f2.8-4/24-90mm ASPH.」。ライカSLでRAW+JPEG記録したJPEGデータを掲載しているが、一部画像はLightroomでRAWデータを展開し、JPEG最高画質で書き出した。近年のライカは“撮って出し”のJPEGも十分シャープになったが、RAWから起こしたJPEGはさらに高い解像感が楽しめる。ライカSLのポテンシャルを余さず引き出したいシーンでは、積極的にRAW記録を活用したい。
なお、11月20日発売のインプレス月刊誌「デジタルカメラマガジン2015年12月号」では、斎藤巧一郎氏が発表直後のライカSLでドイツを撮影した作品とともに、氏が初めて訪れた“ライカの聖地”ウェッツラーへの想いを綴っている。そちらも併せてご覧いただきたい(編集部)。
「ライカSL」ファーストインプレッション(斎藤巧一郎)
大柄な塊のボディはアルミ削り出し。エッジの立ちっぷりからして、高価であることは一目瞭然。ライカならではである。ボディ外観には、機能を示した文字がほとんどなく、ダイヤル、ボタンも極少。ほかのライカカメラ同様に“シンプルでこそ”という美意識のもと、ライカSなどと同じデザイナーが手がけたものと聞いた。
外観同様に操作も独特で、スイッチを入れるといくつかの情報が画面上に示されるが、それをどう扱うのか、初めてこのカメラを触る人には分からないだろう。説明書を手に少しずつ慣れてくると、その使い勝手のよさに気づく。撮影者が馴染んでいくというインストール作業とともに、自分の愛機になっていく1台だ。自分にだけ忠実なカメラ、それっていいカメラかもしれない。
秋の深まりを感じさせる柿を、木もれ日の落ちる日陰、至近距離で撮影。望遠端の90mmでも最短撮影距離45cmと、近接能力も高い。立体感を感じるF4開放でのボケ味、階調性、色再現を確認できる。
長崎といえば国宝の眼鏡橋。橋のたもとから見上げる角度で撮影した。広角端が24mmと広く、パースを誇張するような見せ方ができる。細部までのシャープな画質も見てとれるが、橋の裏側のシャドー部から空までの階調再現は素晴らしい。
最高感度はISO50000。このシーンで高速シャッターが切れるのは、被写体ブレに心強い。JPEG撮って出しでも、ノイジーだが写真として成立するレベルだ。手ブレ補正に頼って感度を下げればノイズは減り、スムースな絵になるだろう。
寺の山門を朝の光で撮った。ワイド側の27mmで遠近感を付けつつ、山門と平行になるように向き合わず、斜めの構図にデザインすると面白みがでる。ハイライト部とシャドー部の輝度差は大きいが再現性はいい。
教会が有名な長崎だが、国宝であるこの崇福寺の第一峰門は鮮やかな色彩で、細やかな彫刻に飾られている。その様子を確かなレンズ性能が写し取った。最小のF22まで絞り、太陽の周りに光芒をひき、朝の日射しを表現した。
長崎といえばカステラ。地元に愛される福砂屋の店構えは、まるで時代劇のセット。店の暖簾のコウモリは幸福のシンボルである。撮影時に同時記録したRAWデータからLightroomで現像し、更にシャープな写真に仕上げた。
長崎中華街、お土産屋さんの軒先にあった飾り。24mmの広角端での最短撮影距離は30cm。開放F2.8で通りを行く高校生をぼかして撮影している。この近接撮影能力はライカの代名詞であるM型を凌駕するものだ。
グラバー邸から見た長崎港。江戸時代には日本最先端の街、長崎はこの良港があってこそ。いまも世界の海を航行する船が建造されている。RAWデータからJPEG最高画質で保存したもので、造船所の隅々までが見えている。
洋館の一室に並べられた椅子。窓から入る光はやわらか。最望遠の90mmでシャッター速度は1/25秒だが、レンズ内の手ブレ補正機能により画像はシャープ。慎重に構えてはいるものの、約3.5段分という補正効果は大いに助けとなる。
庭園の小さな噴水を逆光で撮影。最高速の1/8,000秒は人の目には見えない現象をみせてくれる。ISO3200の高感度だがノイズ感はなく良好な画像。AFターゲットを選択する際は、ファインダーわきのジョイスティックで楽に設定できる。
グラバー邸の軒先を、手前の植栽と共に撮影。日陰での撮影のため、RAWデータからLightroomのWBオートで忠実な色に補正した。コントラストの低い日陰は、優しい雰囲気の写真に仕上げようと、花を手前に入れた。
洋館の窓辺に飾られた花を、木の植え込み越しに撮影。最望遠90mm、絞り開放のF4でボケ量を最大にし、手前からガラス越しの花までの奥行きを見せようとした。この写真もRAWデータからJPEG最高画質で現像した。
試写を終えて
ライカといえば、レンジファインダーカメラのM型ライカである。M型ライカは自身の手でピントや露出を合わせることを楽しむクラシカルなカメラだが、ライカSLは高速AFや近接撮影性能の高さなど、それとは全く異なる最新のシステムカメラであった。ファインダーは一眼レフカメラのものかと思うほどにクリアで広く、11コマ/秒の連写速度も、これまでのライカのイメージにはなかった。
長崎を撮り歩いた標準ズームレンズは、シャープさと良好なコントラストを持ち、これぞライカという写り。サイズは大きいが、24-90mmとワイドレンジで使い勝手はよかった。ライカSLはかつてのライカレンズも活用できる懐の深さを持ち、幅広い撮影シーンでの活躍が期待できる。
ハイスペックかつ最高画質でありながらそこに気難しさはなく、ライカクオリティーを存分に楽しめる。日本製の工業製品とひと味ちがう工芸品のような美しさは、まさにこのカメラを手にする喜びだった。